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魔女さんとの魔法な日常  作者: ゴマ麦茶柱
7/9

魔女さんの思い出

「懐中時計だ」

今どき珍しい。一時期かっこいいなって憧れたっけ。

「んお?あ、それ開いたらだめだよ」

「え、はい」

「その懐中時計、魔界と繋がってるから」

「…魔界?」

「うん。魔界に行く時に使う転送装置みたいな物」

「へ、へぇ」

なんかどえらい物持ってるなぁ…。

「こういうのってどこから手に入れてくるんですか?」

「大半はドイツとかイギリスに行って買うんだけれど、それは貰い物」

ドイツとかイギリスに売ってること自体驚きだけど、もらうような機会があるんだ。

「それはメルっている魔族の結構偉い人からもらった」

「ま、魔族…」

もはや人間じゃないのか…というかそんな魔族と関わり持ってるのすらちょっと驚き。

「他にも色々あるよ」

そういうと、冷蔵庫の上に置かれた四角い缶の箱を何個かこたつの上に持ってくる。

「なんですかこれ、お菓子の箱ですか?」

カパッと開かれるとそこにはまるで子供が無造作におもちゃを入れたみたいな光景が広がっていた。

けど、そこにはおもちゃっぽい物は無く、どちらかというとアンティーク系の小物みたいなものが入っていた。

「これなんですか?」

「全部、術式を埋め込んだ物。例えば…このカメラ」

インスタントカメラを取り出す。

「あぁ〜無限に撮れるとかですか?」

「ううん、壁に向かって写真を撮ると1分後の未来が見える」

「えぇ⁉︎」

「でもフィルムがもったいないから使ってないけどね」

そっちの方がもったいないような…。結局使い所が無くて使わず終わるみたいなことになりそう。

「これは不思議な硝子玉」

「えっと、どこら辺が不思議なんですか?」

「一回も使ったことないけど、商人の魔法使い曰く、時を飛ぶらしい」

「…ん?つまり…」

「この硝子玉を秒速1キロで移動させると硝子玉だけが突然消えるんだって。で、その勢いが落ちると発射した場所にまた現れるとか」

「秒速1キロって…」

「大体マッハ4くらいだね」

「速っ」

「でこれが…おっ、懐かしい!」

手に取ったのは細長い金属の板が何枚も連なっている物。

「鉄扇ですか?」

「そうそう。でしかもこれね!」

というと、杖を手元に出現させて広げた鉄扇に向け…。

「えい!」

爆発させた。

「ちょちょちょ!何やってるんですか!」

あぁ~もう鉄扇もボロボロで鉄板が何枚か剥がれ落ちちゃったし……あれ?

「ふっふっふ~見て驚くがいい!」

鉄板が徐々に復活してきてる…?

「これは鉄扇は鉄扇でも、仲間思いの鉄扇。鉄板が完全に無くなったりある程度変形するとその部分が再生し始めるの」

「びっくりした…いきなり破壊衝動に駆られたかと思いました…」

「いや、でもこれを買ったのは破壊衝動に駆られてたからだよ。これは中国で買ったんだけど、現地の人がこれなら無限に殴れるから頼むから俺達には手を出さないでくれって言ってた」

「…何やってるんですか」

その事あるごとに人を怯えさせえる癖は何なんだ。

「でも、的が小さいし壊しまくってても大してそこまで面白くなかったけどね。だから結局、そのお店で売ってた中華包丁を買い占めてそれに自我を持たせて戦ったんだ」

「……なんか危ない事ばっかしてますね」

「最近になって落ち着いたから大丈夫だよ。まぁ、たま~に出ちゃうときはあるんだけどね、えっへっへっへぐふふふ」

「ほんと、まじやめてください」

その不敵な笑いが冗談であることを祈りたい…。この人の言うこと全部誇張じゃなくてガチっぽいんだもん。

「というか、そんなに海外行ってたんですね」

「うん、楽しいからね。日本と違って魔法使いの人口も多いし、食べ物は美味しいし。あ、知ってる?イギリスの食べ物って美味しくなくないんだよ!でも、中国の屋台も格別だったなぁ」

「え~いいな~」

健全な笑顔で、楽しそうに話す移月さん久しぶりに見た。

「すっごい楽しかったな。でも最近は行ってないなぁ」

「え、どうしてですか?」

「私もそこまで若くなくなっちゃたからさ。それに…」

付け加えようとしたその時、言いかけようとした口が止まり一瞬間が開いた。

「魔法使いも減ってきたしさ…」

移月さんの目はどこか淋しそうだった。

「その中国の魔術師も出会った頃からおじいちゃんだったから亡くなったんだ。写真家だったドイツの魔法使いも旅先で亡くなったらしいし、硝子職人のイギリスの魔女は悪魔に魂を売って殺されちゃったんだ」

「そうなんですね…」

「でも、その時の思い出をこうして保管してるんだ。

人間、一期一会はあってもそうとは限らない。けれど、いつか会えなくなる日が来るからその時に後悔もなにもかもしないようにしてるんだ。私の場合はそれが思い出で形見になるのかな」

きっと魔法使いは普通の人間よりもその回りが早いんだろう。でなければ、こんなにも形見が増えるなんてことはないだろうな。

人口が少ないが故なのかその特殊さ故に身を亡ぼす人が多いからなのか。

「いつか、移月さんともそうなってしまうんですかね」

「わかんない。けど、私は詩人でもなければ写真家でもない少し生活に魔法が足された一般人だから、まぁ長い間は会えるよ」

「ですよね」

「ん~でも、百パーとは言えないかな~」

え~…。

「その場合、私が心に残す形見はその杖かなぁ」

「でも、私は形見じゃなくて思い出が欲しいです」

形見、合えなくなった人の残したもの。移月さんがその別れに耐えられても私はきっと無理だろう。だから…。

「だから形見にならないようにずっと一緒にいましょうね」

面食らったような顔をしていた。なんだ、私がこんなこと言ったらおかし―んんっ!

「も~かわいいな~私の弟子は~」

「やめてください!」

けど、この抱き着きもどこか安心した。その時ばかりは私の師匠はこうであってほしいと思った。


「そういえば、師匠の杖もそんな感じなんですか?」

「いや、違うよ。私の杖は…」

またも言葉が詰まったような様子。けれど、さっきとは違い、何か思い出したような、脳裏によぎったような、まるで嫌な予感がしたときみたいな顔をしていた。

「どうしたんですか?」

「……いや、なんでもないよ。私の杖はね…」

移月さんは諭すように私に言った。

「私の師匠がくれたものなんだ」

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