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魔女さんとの魔法な日常  作者: ゴマ麦茶柱
3/9

魔女見習い杖を振る

「じゃあ、早速杖をぉ…」

 クローゼットが開いて、杖が飛んできた。そして私に差し出すように…。

「あげません!」

 受け取ろうとした途端、スッと杖が持ち上がってかわされる。

「まずは、心得からね」

「心得?」

「そう。一つ、魔法は危ないことに使っちゃダメ。二つ、魔法は普通の人に見せない…アレは例外ね」

 ウィンクで誤魔化している。まぁ、でも私に見せてしまったのは仕方ないことなのだろう。

「そして三つ、人ということを忘れないこと。これが一番大事」

「人ということ…」

「知り合いに、悪魔と魂と肉体を結合させた人がいるの。その人はいつしか自分が人よりも高貴な何かって思い込んでた。そうはなってほしくないからね」

「わかりました」

 魔女、魔法、そして悪魔がいるということが今判明した。私が生きてる世界は思ったよりファンタジーなよう。

「よろしい!では、杖を授けます…ほら、何か言って」

「え?…えーっと…ははぁー…」

 何なんだこの茶番は。

 杖がゆっくりと私の手元に近づく。そして、私の手の平に来て、そっと握る。

 その瞬間、手から力が杖に注がれるような感覚がした。同時に、胸から力が湧き出るような感覚も。

「どう?」

「なんか、杖に向かって何か流れて行ってる気がします」

「お~素質はあるんだね。試しに振ってみて」

 軽く振ってみた。

 ブオォン

「一発目でこれか…」

 杖から、先端に行くにつれて尖っている銀色の、まるで弾丸のようなものが出てきて、浮遊している。

「えーっと、ゆっくり廊下に向けて撃って」

「撃っていいんですか?」

「いいよ」

 撃ち方ははっきりとわかんなかったけど、それっぽく念じた。

 ドォン

「ほい!」

 そして、目の前にできた青い半透明の盾に弾かれ、弾丸はその場に落ちてゆっくりと粒子になって消えた。

「何を思って振ったの?」

「普通に、何も考えずに…」

「かぁ~…素質は素質でもそっちの素質かぁ…」

「ダ、ダメでしたか?」

 魔女さんは頭を抱えている。

「いや、能力は本当に長けてると思う。けど、無意識に弾丸が作れて撃てるっていうのは一級魔法使いからしたら足下とかすね辺りに及ぶレベルなのよ」

 何だその例えは。けど…確かに弾丸なんて…。

「とりあえず、魔法を使うときは無意識に打たないようにね。そうねぇ…じゃあお水を出してみて。蛇口からちょろちょろって出てるイメージで」

「蛇口からちょろちょろ…」

 イメージがだんだんと固まってきた…蛇口はもう完成している。それに水をちょろちょろと…。

「それっ」

 杖の先端から少しずつ水が出てきた。

「おぉ、良い感じ!」

 ちょろちょ…あ、普通に出てきた。

 頭の中でイメージしていた少量の水が大量に噴き出す。それと同時に杖からもものすごい勢いで出てきた。

「ちょちょちょちょ!」

 大量の水が床に落ちるより先に夜の空のような色をした円盤が出てきて、それに水がどんどん飲み込まれていく。

「早くとめてぇ!」

「ど、どうすればいいんですかぁ!」

「杖を離して!」

 パッと手から離すと水も止まり、カランカランと床に落ちた。

 水を吸収し終わると、円盤も消えて魔女さんが軽く杖を構えていたのも元に戻っている。

 幸い、部屋には最初に出した少量の水でできた水たまりしかできなかった。

「節約して…」

「はい…」

「まぁいいや。それじゃあ、次は…日は危ないし、風は部屋がめちゃくちゃになりそうだし…」

「イメージが比較的簡単なのがいいんですか?」

「そうだね、何かあるの?」

「電気とか…ほら、ビリっとした直線とかちょっとクネクネした線をイメージすれば出るかなって」

「たしかに!やってみて!」

 イメージはパッと思いつく。線にちょっとアクセントを加えるだけだもの。

「それっ」

 白く光る線が生まれて玄関のドアノブに伸びていった。

「ちょうど良い感じに出てるね!」

 時々、線から細い線がバリバリっと出ることもあるが全然問題ない。

「おっけー」

 糸がプツンと切れるように、イメージしていた線も出ている電気も切れた。

「雷の魔女だったか~、怒らせたら雷が出そうだね~」

 おちょくられた。本当に落としてやろうか。

「でも、基礎的な魔法が扱えるだけよかった。私なんか、最初はワープしか使えなかったんだし」

「ワープ…?」

「うん、例えば…」

 目の前で魔女さんが消えた。

「お嬢さん」

 後ろから肩をポンポンとされて振り向くと、肩に乗せられた手の指でほっぺをつつかれる。

「しゅごい…」

「へっへぇ!どうだぁ!あ、そうだ。ワープついでだし、君に魔女帽子をプレゼントしよう!…ほい!」

 後ろから被されたつばが大きく、少し重い帽子。これが魔女帽子かぁとなぜか感心する。

「あ、名前もちゃんと書かないとね!…そうじゃん、君の名前まだ聞いて無かったね」

「私、『心』って言います」

「心ちゃんかぁ、かわいいね」

「もう…からかわないでくださいよ」

「ごめんごめん~ほら、後ろのつばにできたよ」

 帽子を脱がされると、つばの裏に『ココロ』と刺繍がされていた。

「ほい!これで魔女見習いだね!」

「あの…」

「ん?」

「魔女さんのお名前は…」

「私?私の名前?私の名前は、『移月』」

「移月さん…かっこかわいいですね」

 私も軽く仕返し程度に言ってみる。かっこかわいいのは本当として。

「も~心は口がうまいなぁ…えへへ」

 あ、ノーダメージですか…。

「よし!それじゃあ、これからよろしくね!心!」

 照れてるような表情から、真剣に、それでいてちょっと笑顔で手を差し伸べてきた。

「はい、魔女さん!」


 魔法を使うなんてこと、叶えたい夢でも無かったし、憧れていたわけでもない。

 始まりは恐怖から。それでも、その恐怖に少し感謝していたりもする。

 魔女の移月さん。これからよろしくお願いします。


「ん~?……ニヒッ」

 移月さんの顔を見つめていたら、無邪気に笑った。

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