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魔女さんとの魔法な日常  作者: ゴマ麦茶柱
2/9

私、魔女の弟子になる

 思い返せば事の発端はあの噂だった。

 この街の外れに似合いもしない洋館があり、そこでお化けが出るという噂。

 お化けの一つや二つ見たいとか言う、見た瞬間の後先を全く考えていない馬鹿な思いでここにきた。

 そして、お化けに襲われて、果てには魔女まで出た。



「んぉ?君は誰かな?」

 そしてその魔女と対面。

 振り返ってこちらを見ている。しかし、その顔はよく見えない。

「え、あ、えっと…」

 目の前には魔女。僅かに見えるその先には青い半透明の球に入れられた人形。そして、今の状況。

 頭の整理が追い付かなかった。

「ゲッホゴホ…埃がすごいね。いいや、一緒に来て…あぁ…はい、どうぞ」

 何かに気づいたような声を出すと、目の前に椅子が現れた。

「ほら、早く」

 急かされ指示されるが、頭が混乱しすぎて何をすればいいのかわからなかった。

「あぁ…もう!」

 すると魔女は、杖を一振りした。

「うわっ」

 体が持ち上がって椅子に強制的に座らせられる。

「掴まっててね」

 私にやさしくそう言うと、魔女の右手に棒状の光が現れてそれが箒に変わる。

 それに跨ぐと同時に浮いて発進する。椅子もそれに釣られるように急発進した。

 階段を上ると、これまた青白い輪に魔女が吸い込まれていくように入っていく。

 私が座っている椅子も輪に突入した。

 と思えば、知らない壁。辺りを見渡すと知らない部屋だった。しかも狭い。

「あぁ、ごめん。今片づけるから」

 箒から降りた魔女はガサゴソと下で何かやっている。覗こうとするが椅子から落ちそうになってやめた。

「よっし…あ、飲み物は何が…ってその前にお風呂入りたいよね?」

 ゆっくりと椅子が下りながら着地する。

 そして、見えなかった魔女の顔が見えた。

 慎重は私より少し大きい。で、少し年上っぽい。

「ん?帽子が気になる?」

 帽子を脱ぐと現れた金髪。肩にまで伸びた髪は先っぽに少しクルクルっとパーマが掛かっている。

「あ、いえ…」

「んじゃあ…ほぃ!」

 手元に杖を引き寄せ、私に向けて振る。

 体が浮いて、靴が脱がされた。すると、服と肌の間に空間ができたように感じてそこを水流が流れる。

 全身を水で覆われその手を見つめていると、顔に水をかけられた。

「わぶぶぶ」

「あはは、これくらいかな」

 水が引いていって、替わりに全身を風が流れる。

「気持ちい?」

「えっと…はい…」

 気さくに優しく話しかけてくれるのだが、まだ慣れない。頭の整理が追い付いてないわけじゃ無い。信じられないのだ。あと単純に緊張する…。

 でも、この風は気持ち良い。体がスッキリしてサラッとしたような爽快感がする。

「ほい!綺麗になったぁ!」

 体に感じていた不快感は取れて体はお風呂で入念に洗った時よりも清潔感がした。服も新品みたいな着心地がする。

「あ、ありがとうございます」

「さて、じゃあ忘れよう!」

「え?」

「魔女に会って魔法を見て、体験した。おまけに私の黒歴史兼お化け(お人形さん)も見ちゃったわけでしょ?」

「そ、その…」

「大丈夫。ちょっと記憶をイジるだけ。ここ五分間くらいの記憶を消して、あの洋館には行こうとは思わないって言う意思を埋め込むだけだから。痛くないわよ?」

「あ、えっと…」

「いくよ?それ-」

「待ってください!」

 杖を振る手を両手で止めた。

「ど、どうしたの?」

「その…」

 記憶()をいじられるのが怖いと思った。それで衝動的に杖を止めてしまった。

 そのせいで未だ慣れていない魔女との会話に(つまづ)いてしまう。

「もしかして…怖い?」

「はぃ…」

 察してくれたようでなんとかなった。

「そっか。じゃあ、怖いのが取れるまでお姉さんとお喋りしよっか」

「え?」

 返ってきたのは意外な対応。なぜお喋りなのか。

「何かお話ししたい事とかある?」

「お話ししたい事…」

 必死に探すが会話できそうな話題は作れそうになかった。

「無いです」

「えぇ…魔女だよ?現代に存在する数少ない魔女だよ?本当に?」

 確かに、魔女って少し前の時代のヨーロッパとかそんなイメージだ。現代日本にいるとは考えにくい。

「あ、じゃあ…」

「なになに?」

 顔を寄せてくる。近い近い。

「魔女さんはなんでここに住んでるんですか?」

 魔女といえば洋風な建物に住んでいるイメージで、恐らく日本にあるそこそこ狭い家に現代的な暮らしをしているとは想像つかない。

「あぁ〜、まあ格好が部屋に合わないから気になるよね。

 魔女とか魔法使いって数は少ないけど世界中にいるの。そしたら、全員が同じ国の人ってわけじゃ無いじゃない?私も日本人だしね。そしたら、文化も違ってくるわけで、それぞれの魔法使いに合う暮らしをするのよ。洋風な家で紅茶を飲み、暮らすのもいれば、私みたいに現代的な暮らしをする魔法使いもいる。中には家を持たない人もいるけどね」

「へぇ…」

「そう。だから、さっきみたいな怖〜いお化けを作ったりしてる怖〜い魔女もいるんだぞぉ〜」

 からかうような口調で私には洒落にならない魔女流の洒落を飛ばしてくる。

「や、やめてくださいよ…」

「ごめんごめん。でも、あれは私が昔作っちゃったモノだよ。もう黒歴史っていうか負の創造物だけど…」

「あはは…」

 愛想笑いでやり過ごす。

「けど、ネクロマンシーとかゴーレム精製ができる魔法使いってそれほどいないんだぞっ」

 な、なに?ネクロ…ん?ゴーレム?なにそれ。

「す、すごいですね」

 またも愛想笑いでごまかす。

 そしてこのドヤ顔…。本人とその話題がわかる人からすれば盛り上がれるんだろうけど、私には理解が難しい。

 けど、さっきの風と水と椅子の魔法。少なくとも、夢みたいな力が使えるのはすごい。

「えっへん!…他に聞きたいこととかある?………って言っても記憶からは無くなっちゃうんだけどね」

「ぁぁ…」

 そうか。どれだけ魔女さんと話をしてもほんの数分の間の記憶で、ゆくゆく消されるものだと改めて思い出した。

「そんな悲しい顔しないで。どちらにしても、私と話したことは君の記憶からは無いことになるんだから。杖を一振りするだけでその悲しみもなくなるわよ」

 それが怖いのだ。一振りした後はこの悲しみも思い出すことなく終わりなのだろう。それが良いって事はわかるけど…。

「でも、少なくとも私とは話しやすくなったでしょ?」

「あぁ…たしかに」

 確かに最初ほどの緊張はほぐれた気がする。けど…。

「ん〜…それでも怖い?」

 コクりと頷く。


「…じゃあ、弟子になってみる?」


「へ?」

「魔女の弟子。しかも、私は一級魔法を操る魔法使いだ。さらに!今ならなんと!授業料が無料!」

「どこの塾ですか…」

 思わずツッコンでしまった。けど、なんで弟子なんか…。

「えへへ。でも、全部本当。君が何か差し出す必要はないし、私は、もうスーパーハイパーウルトラめちゃくちゃとんでもなく強い魔法を使えるのよ」

 なんか、魔法がとても強いのがわかった。

「しかも、君は魔法が使える人間になれるし忘れる必要もなくなる」

 そうか。そういうことか。

「魔法を使えない人が魔法を見てしまったら、その記憶は忘れてしまう。物語とかでよくある話でしょ?それと同じ。つまり、魔法を理解できる人になれば忘れる必要なんてないのよ……どう?やってみる?」

 魔女…あまりに現実離れし過ぎていてどうすればいいか分からなかったが、それは恐怖には勝らなかった。

「やります!」

「そうこなくっちゃ!それじゃあ、早速、杖を授けよう!」

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