87 護るから
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とぽとぽ……トト……。
「どうぞ……」
月は、新しくいれた紅茶を星のカップに注ぎ、声をかける。その姿を見て、心なしか元気のない様子に星は気付いた。
「あぁ、ありがとう」
気になりながらも星は、月にお礼を言うと、ダージリンの香りを心から楽しむ。そして自然と、その顔には小さな笑みと言葉が溢れた。
「うん、月のいれる紅茶は、味も香りも最高だ」
「ほぇっ?!」
落ち込み気味になっていた気持ちが上昇する。自分の得意とする事が褒められ、戸惑う月。その視線を、深い蒼の美しい瞳へ向けると、その心を見透かしたように微笑み答えた星。
「えっとぉ、そうそう! 今年は良質な茶葉が手に入ったそうですので」
「そうなんだね、うん――ファーストフラッシュ、かな?」
「そ、そうです!! 星様よくお分かりになりましたね! あっ、もしかして苦手でしたか?」
月は、さっきまでの重くなっていた気分が嘘のように楽しくなり、ウキウキと話していた。
「月、君は本当に珈琲や紅茶が好きなんだね」
それを見ていた星が、ふふっと笑う。
「あっ……うぅ。えっへへ」
月は思わず、キャッキャとなってしまっていた自分が恥ずかしくなる。その顔が熱くなっていくのが自分でも分かり、そして、いつものように両頬を手で押さえ、赤くなった顔を隠す。
「ふふふっ。お顔、真っ赤だね。りんごさんだ」
星はいたずらな表情で話した。しかし、その奥には優しさの心が見えてくる。
それから、
――「でも……」と話を続けた。
「月にはやはり、笑顔が似合う。何か心配事があるのなら話すといい。僕が支えになる。だから君には“笑っていてほしい”、そう思うよ」
――ドキッ……。
「ほ、星様……」
(またぁ! そのような言葉を涼しいお顔でサラッと言うのぉ!!)
月の心は、いつも星の言葉に助けられ、支えられ、時にはこうしてドキドキさせられたり。いつの間にか、星が大きな存在となっている事に、この時の月はまだ、気付けていなかった。
「星様、いつも……ありがとう、ございます」
その緊張したような、そして恥ずかしそうで、しかし、明るくなった月の声に、星は安堵すると、優しく笑いかけながら話しを始めた。
「さて……月は今、メルティの事が気になっているのかな?」
その言葉で、ハッとする。けれど、さっきまでの暗く重たい不安は、月の心から消え去っていた。
「はい、ずーっとお外の観察を……あまり見た事のない表情だったので」
軽くなった気持ち。心配事として考えていたメルルとティルの事も、笑いながら話せている。
「なるほど、そう……きっと二人なりに、君の事を心配して『護ろうとしている』のだと思うよ。今は警備中、とでも言っておこう」
爽やかな表情で、とても重要な事を話した星。さすがの月も今の話を、サラッと流すわけにはいかなかった。
――二人が、私の事を『護る』って?
「どういう事……なのでしょうか?」
「…………」
(えっ? 星様黙ってしまって――)
「「だぁぁぁぁぁッ!!」」
「うっわぁーっ!!」
「きゃっはーん♪」「つっきぃー♪」
可愛い双子ちゃん登場。いつものイタズラ好きなメルルとティルに戻っていた。月の心にある疑問は、解決していない。しかし二人が戻ってきただけで、部屋中の雰囲気は、一気に明るく変化した。
「もぉ~また、メル・ティルったら!!」
「ふ、フフ……二人とも、すごいねぇ」
星は、メル・ティルが月に近づくのを知っていて、突然、黙っていたのだった。あまりにも上手に驚かせる事が出来た二人を褒め、今後の話を月にし始める。
「そう、さっき話していたメルティの言葉、あれは嘘ではない」
「えっ? さっき……ですか?」
月は、何の事なのか? さっぱり分からなかった。
そしていつものように、うーんうーんと考えていると、背中をツンツン。
振り返ると、可愛い双子ちゃんから思わぬ提案をされる。
「つっきぃ~」「ほらほらぁ~」
さっきのだよぉ~と言いながら、もう一度、綺麗な言葉のハーモニーを聴かせてくれた。
せ~のっ!!
「「今日から一緒に寝てあげるぅ♪」」
――エッ?
「あ、あーあれって? 冗談ではなくて……」
双子ちゃんは「えっへへ~♪」と、嬉しそうに笑っている。しかし、星は真剣な顔で、答えた。
「月、よく聞いて。君が大会で発動した魔法によって、命が救われた事は、周知の事実。そして、見ていた全ての人に、君の【力】が証明された」
「そ、そんな大きな事では……」
そう言いかけて、星の瞳が放つ視線の強さに、月は言葉をのんだ。
「間違いなく危険が迫っている。そして、力を【施錠】している今の月では、太刀打ちできないだろう」
「あっ……」
「そうなんだ。だから月、僕らがしばらくは警護する」
――『絶対に護る。君には、仲間以外は指一本触れさせない』
強い決意の言葉とともに、夕方の涼しい風が心の中に吹いてきた。
(メル・ティルが、閉め忘れたのだろうか?)
彼の、変わらない端正な顔立ちと、艶のある黒髪が、美しくなびいていた。
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