86 驚きと気付き
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♪こちらのお話は、読了時間:約5分です♪
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お気に入りの猫足ダイニングテーブル。星と月は向き合うかたちで座っていた。穏やかな時間の流れを感じ入る中で、二人は楽しく笑い談話をしながら、美味しいミルクティを堪能していた。
心地良い時間。少し冷めたミルクティを口にした会話の合間、月はふと気付く。隣にいるはずの、メルルとティルがいなくなっている事に。
――あれっ、いない?
月は、自分の部屋でおもてなしティータイムと、和やかリラックスモードだったせいか。いつの間に? と、メル・ティルがいなくなるのを分からなかった事に、内心驚いていた。いつも二人がいたずらでやっている、得意の足音立てない術……とはいえ、視界の中にいたはずの二人を、見失う事など今までになかった。そして今日は、外ではなく密室状態の部屋。なのに、物音ひとつたっていない。
不思議に思いながらも、部屋の中を見る。
(いない??)
仕方なく名前を呼ぼうと、ティータイムの前にも二人がいたベランダの方へ視線を向けると、メルルとティルの姿があった。
(あ、いた……でも、どうしてベランダに?)
お皿に盛られたサンドイッチやスコーン、スイーツを食べ終わっていた二人は、得意の術で音もなく場所を移動していた。その能力はまるで「瞬間移動?!」と、月はいつも思うのだった。
そんなことを考えながら二人を見つめていると、何かが違う、そう感じた。
ベランダの手すりから身を乗り出すほど、外の観察をしている二人。その可愛い双子ちゃんの、ターコイズブルー色のくるくる髪が、風に吹かれふわふわと揺れている。しかし二人に、いつもようなおどけた様子はなく、真剣な表情だった。
(さっきから、二人は何しているのかな?)
遊んでいるようには見えない二人の姿を、ずっと見ている私に気付いた星様は、仕切り直すように口を開いた。
「月、僕が渡したかったものを……。それと、良ければ今日、話しておきたい事があるのだけれど、どうかな?」
星は、柔らかい笑顔でそう話した。
「あっ、はい! もちろんお話、大丈夫です」
――何だろう? どこかで感じた事がある、この感覚。
月は、星の話す声が、自分の心の中に響いていくのが分かった。そして自然と、周りの音が聞こえなくなるくらい、その声に惹き込まれていく。
「ありがとう。では、勝手ながら、先にお話からしようと思うよ」
そう星は言うと、昨日の夜、噴水広場で起こったあの出来事。理事長に関する話を、静かに語り始めた。
「まず、僕が入り口で足止めをされてしまった事。そのきっかけになったのが受付の者だった。あの人の顔は、記憶にあって……ね」
星は、珍しく声を詰まらせる。そして一瞬、強張った表情を見せたのが、月には分かった。しかしすぐに、話の続きが再開される。
「あの受付の者、ラウルド理事長の側近なんだ」
「えっ、えっ?!」
月は、どういう事なのか? と一驚する。
「そして彼は、何らかの方法で、月が来た事を理事長に知らせたのだと思われる。文化交流会は学園主催、もちろん側近とはいえこの学園の関係者である彼が、受付にいても全く不思議ではない。しかし……いや、確証はないが、始めから月の事を狙っていたのは、恐らく間違いないだろう」
「……そうだったのですね」
月は、驚きの表情を隠せずに、星の話を聞いていた。
「あの時、君たちとはぐれてしまうよう仕向けられてしまった。危険を察知し【防衛】をしたのだが、すでに遅く。僕は微かに魔法を受けていたようだった」
ドームの中に入場してしまうと、魔法が禁止されているため処罰の対象となる。なので、その魔法が行われたのは、あの時、星が入り口をくぐる直前の事だろう。理事長の側近である、受付の者もまた強者。月を護るように一緒にいた星が邪魔になると分かり、気付かない程の一瞬技で、星に魔法をかけていたのだった。
星は、月に話をしながら、心の中で昨夜の言葉を思い返していた。
そう、あの時……あの者がふふっと笑いながら、言った言葉。
――『素敵な靴の音ですね』。
その言葉の裏には、何らかの力がかけられていたのだと、ドーム内に入った後で気付いた。そして、まんまと足止めさせられ、子供騙しのようなその言葉に、微力に引っかかってしまった自分の情けなさに失望し、その未熟さを責めていた。
「僕もまだまだ修行が足りない……あの時、気を抜きすぎていた。事前察知能力の不足によるもの。だからこれは、僕の失態である。そして、結果的に月を危険な目に合わせてしまった……本当に申し訳なかった」
星の突然の謝罪、そして頭を下げられてしまい、月はさらに驚き慌てた。
「えぇー?! い、いや! えっと星様!!! どうか頭を上げて下さい」
その言葉で頭を上げた星の表情からは、後悔している気持ちが伝わってくる。
「月、許してくれるかい?」
「そんな……許すも何も! 私のせいで大変な思いを」
――あっ……“ワタシノセイデ”。
月はこの時、思った。
いや、思ってしまった。
――また、私が原因で「大切な人」を危険に。
「……き、つき?」
「あっ、はい!」
「少し顔色が悪いようだ、すまない。僕の話で気分を悪くしてしまったのでは」
「いえいえ! 気のせいですよぉ♪ 星様! 少し気分を変えて。紅茶のおかわりはいかがですかぁ?」
(星様にこれ以上、心配かけちゃいけない!)
「えっ、あぁ。ありがとう」
星は、急に陽気になった月の様子に戸惑いながらも、返事をする。
「では、準備を」
そう言うと月は席を立ち、紅茶の準備のため台所へ向かった。
心の中では、様々な気持ちが交錯する。
その中で唯一、揺るがない思いがあった。
「もう二度と……」
――私のせいで、大切な人たちに辛い思いはさせない。
お読みいただきありがとうございます(*'▽')
あっそうそう!
メルルとティルは何をしていたのでしょうかぁ?
では、次話もおたのしみにぃ~♪




