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月世界の願いごと~奇跡の花は煌めく三日月の夜に咲いて~  作者: 菜乃ひめ可
第二・五章 文化交流会(魔法勝負後)
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81 文化交流会2日目~冷たい宝石~

お読みいただきありがとうございます(*‘ω‘ *)

♪こちらのお話は、読了時間:約5分です♪


(Wordcount2480)


「うぅ……頭と、耳が痛いッ」


(また、あの時と同じだ。人の声を聞くのが辛い? というより、理事長様の声が、耳に響いてくる)。


――――キラッ。

 そう思った瞬間。月は、小さな光を近くに感じた。


(あれ、何だろう? 耳が温かい)


 苦痛になっていた理事長の声も、激しい痛みになりかけていた頭や耳も。不思議と和らぎ、楽になっていった。安心できる温もりの正体が知りたくて、ふと、月は自分の耳に触れた。


「……!!!」


(こ、これは一体?!)


――驚いた。耳には、身に覚えのない小さな耳飾りが付いていたからだ。どこで、どう付いたのか? 月は、今日の出来事を思い出しながら、どういう事なのか? 考えていた。


(そういえば、大会の時にも安心する声が聞こえて……)。


 この状況が結論にたどり着く前に、また、理事長の話が始まった。


「さぁ! ぜひこれからお茶でもしながら、今後の話をしましょう」


 ラウルド理事長は、夜空を仰ぐように両手を広げた後、右手を前に出し、三日月を夜の茶会へと誘った。

 彼女の人並みならぬ【力】への関心からか? 興味津々の笑みと、躊躇(ためら)う事なく近づいてくる手。それはあの日の騒動、()()()()=カイリが、月の髪に触れようと手を伸ばした時と、今まさにそっくりな場面だった。そしてあの時、動けなくなってしまった自分の弱々しい姿が、脳裏に過ぎる。


「……ゃ、です」

(大丈夫! しっかりするのよ、月! 避けないと)


――私だって成長したよ? きっと、あの時とは違うから!


 月は自分の中に眠る記憶(トラウマ)を乗り越えるため、勇気を奮い起こそうとしていた。


「……ぃ、いやです!!」


――パンッ!!


 月の否定する声と同時に、ひんやりとした冷たい空気が流れた。


 理事長の伸ばしたその手は、今にも月に触れそうになっていた。しかし、寸前のところで誰かが立ちはだかり、彼女の身を護っていたのだ。


「……ぇ?」


(エッ……だ、誰?!)


 突然、音もなく目の前に現れた人は、アクアマリン色の髪をなびかせた紳士。

 後ろ姿から分かる、狼カットの綺麗なその髪は、煌びやかという言葉が一番ふさわしい。そして、静かに理事長の手を受け止め、月を護ったその腕は。雪のように白く、目も眩むほど美しく、立派に鍛えられている。


「三日月様、ご無事ですか?」


 長い前髪からのぞく素敵な横顔を見て、私は思わず息を呑み、一驚した。そして私は高揚し、身体が熱くなっていった。


「あ、あなたは?!」


「ほぉ~私の動きを止めるとは何者でしょう? 全く気配を感じませんでしたよ。そう……そうだ! 貴方(あなた)は、まるでゴーストのようだねぇ! ッフフ。面白い! ぜひとも名前をお聞きしたい」


 そう言うと不気味な笑みを浮かべる理事長は、肩にかけていたロングショールを羽織りなおした。


 しかし、その理事長の圧に動じる事もなく、その人は淡々と答える。


「これはこれは理事長殿、失礼致しました。お初にお目にかかります、私はイレクトルム王国騎士所属【ジーヴル=汰維十(タイト)】でございます。以後、お見知りおきを」


 氷のように冷たい空気感、凍るような視線。髪色と同じアクアマリン色の瞳は、まるで宝石のようだ。


――間違いない。

(お店にいる時は、帽子を被っていたから、すぐに気付かなかったけれど)


 夕方に、太陽から誕生日のお祝いにごちそうしてもらった、金色の氷の粒がかけられたアイスクリーム。綺麗なデコレーションと、お祝いの言葉をくれた店員なのだと、月は確信した。


「おぉ、なんと! 異国の方だったか。なるほど……ならばその髪、その瞳の色も頷けるよ。ジーヴルさん? タイトさん? どちらでお呼びしたら? はははっ」


「タイトで構いません」


 笑いながら話すラウルド理事長は、とても冷静に見える。が、その表情の奥には負の感情が(ほとばし)っていた。自分に向けられるタイトの無機質な雰囲気が、気に食わなかったのだ。


「しかし、こうも居心地が悪い事もない。思えば此処は、学園の中でも唯一我々の管理外の場所。王国管理区域ですからねぇ……そこにまさか! イレクトルム王国の騎士様がいらっしゃっていたとは」


「話も良いのですが、理事長殿。兎にも角にも、これ以上は無駄に思えますゆえ。ここはひとつ、静かに引いていただけませぬか?」


「――――なっ?!」


 もちろん、従う気にはなれない。理事長の怒りは、ついに表情へと現れ始める。ピリピリと切れるような沈黙の時間が流れる。


 居心地の良くない時間の後、しばらくして沈黙を破ったのは、月の一言だった。


「あ、あのぉ……アイスクリーム屋さん? 助けて頂き、ありがとうございます。えっと、大丈夫……ですか?」


 その言葉を聞いて、凍てつくような空間を持ち、それを展開していたタイトは、背中を向けたままフッと笑うと、声色を変えず、月に言葉をかけた。


「えぇ、三日月様。ご心配いりません」


 それを聞いた理事長は溜息をつくと、呆れたような話し方で口を開く。


「はぁ~、そろそろどいてくれないかな?」


 そう言うと、理事長の手の中に一瞬、小さな何かが見えた。タイトがその光を、見逃す事はない。


()()()()殿でしたらご存知でしょう? この噴水広場、ドーム内での魔力使用は禁止されております。使えば……解っていますね?」


「くっ……うぐぐぐ!!」

 ラウルド理事長は、両手を握り締め、不服の形相と悔しさを滲ませ声を出した。


 目の前で起こった一連の出来事を、月はただただ見ている事しか出来なかった。「今宵の三日月」の理事様が、実は理事長様……しかもラウルドという名を聞き、驚きがあまりにも大きすぎたのだ。


 そして、タイトの放つ煌びやかなオーラと、全てを制圧するかのようなその迫力に、呆然と立ち尽くしていた。


(冷たい空間。でも、不思議と優しい)。


「三日月様。誰かを捜しておられたのでしょう? そろそろお連れ様が……」


 タイトが言葉を言い終わる頃に、遠くから聞き覚えのある声がした。


「月!! 三日月?!」


「あっ、星様!!」


(やっと見つけた。やっと、会えた)。


「ごめん、捜してくれているとメルティに聞いて……」


「いえ! 無事で……会えて良かったです」


 しかしこの瞬間、なぜか?

 私の心の中の不安と胸騒ぎは、だんだんと増していったのだった。


次話もお楽しみにぃ~♪

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