81 文化交流会2日目~冷たい宝石~
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「うぅ……頭と、耳が痛いッ」
(また、あの時と同じだ。人の声を聞くのが辛い? というより、理事長様の声が、耳に響いてくる)。
――――キラッ。
そう思った瞬間。月は、小さな光を近くに感じた。
(あれ、何だろう? 耳が温かい)
苦痛になっていた理事長の声も、激しい痛みになりかけていた頭や耳も。不思議と和らぎ、楽になっていった。安心できる温もりの正体が知りたくて、ふと、月は自分の耳に触れた。
「……!!!」
(こ、これは一体?!)
――驚いた。耳には、身に覚えのない小さな耳飾りが付いていたからだ。どこで、どう付いたのか? 月は、今日の出来事を思い出しながら、どういう事なのか? 考えていた。
(そういえば、大会の時にも安心する声が聞こえて……)。
この状況が結論にたどり着く前に、また、理事長の話が始まった。
「さぁ! ぜひこれからお茶でもしながら、今後の話をしましょう」
ラウルド理事長は、夜空を仰ぐように両手を広げた後、右手を前に出し、三日月を夜の茶会へと誘った。
彼女の人並みならぬ【力】への関心からか? 興味津々の笑みと、躊躇う事なく近づいてくる手。それはあの日の騒動、ラウルド=カイリが、月の髪に触れようと手を伸ばした時と、今まさにそっくりな場面だった。そしてあの時、動けなくなってしまった自分の弱々しい姿が、脳裏に過ぎる。
「……ゃ、です」
(大丈夫! しっかりするのよ、月! 避けないと)
――私だって成長したよ? きっと、あの時とは違うから!
月は自分の中に眠る記憶を乗り越えるため、勇気を奮い起こそうとしていた。
「……ぃ、いやです!!」
――パンッ!!
月の否定する声と同時に、ひんやりとした冷たい空気が流れた。
理事長の伸ばしたその手は、今にも月に触れそうになっていた。しかし、寸前のところで誰かが立ちはだかり、彼女の身を護っていたのだ。
「……ぇ?」
(エッ……だ、誰?!)
突然、音もなく目の前に現れた人は、アクアマリン色の髪をなびかせた紳士。
後ろ姿から分かる、狼カットの綺麗なその髪は、煌びやかという言葉が一番ふさわしい。そして、静かに理事長の手を受け止め、月を護ったその腕は。雪のように白く、目も眩むほど美しく、立派に鍛えられている。
「三日月様、ご無事ですか?」
長い前髪からのぞく素敵な横顔を見て、私は思わず息を呑み、一驚した。そして私は高揚し、身体が熱くなっていった。
「あ、あなたは?!」
「ほぉ~私の動きを止めるとは何者でしょう? 全く気配を感じませんでしたよ。そう……そうだ! 貴方は、まるでゴーストのようだねぇ! ッフフ。面白い! ぜひとも名前をお聞きしたい」
そう言うと不気味な笑みを浮かべる理事長は、肩にかけていたロングショールを羽織りなおした。
しかし、その理事長の圧に動じる事もなく、その人は淡々と答える。
「これはこれは理事長殿、失礼致しました。お初にお目にかかります、私はイレクトルム王国騎士所属【ジーヴル=汰維十】でございます。以後、お見知りおきを」
氷のように冷たい空気感、凍るような視線。髪色と同じアクアマリン色の瞳は、まるで宝石のようだ。
――間違いない。
(お店にいる時は、帽子を被っていたから、すぐに気付かなかったけれど)
夕方に、太陽から誕生日のお祝いにごちそうしてもらった、金色の氷の粒がかけられたアイスクリーム。綺麗なデコレーションと、お祝いの言葉をくれた店員なのだと、月は確信した。
「おぉ、なんと! 異国の方だったか。なるほど……ならばその髪、その瞳の色も頷けるよ。ジーヴルさん? タイトさん? どちらでお呼びしたら? はははっ」
「タイトで構いません」
笑いながら話すラウルド理事長は、とても冷静に見える。が、その表情の奥には負の感情が迸っていた。自分に向けられるタイトの無機質な雰囲気が、気に食わなかったのだ。
「しかし、こうも居心地が悪い事もない。思えば此処は、学園の中でも唯一我々の管理外の場所。王国管理区域ですからねぇ……そこにまさか! イレクトルム王国の騎士様がいらっしゃっていたとは」
「話も良いのですが、理事長殿。兎にも角にも、これ以上は無駄に思えますゆえ。ここはひとつ、静かに引いていただけませぬか?」
「――――なっ?!」
もちろん、従う気にはなれない。理事長の怒りは、ついに表情へと現れ始める。ピリピリと切れるような沈黙の時間が流れる。
居心地の良くない時間の後、しばらくして沈黙を破ったのは、月の一言だった。
「あ、あのぉ……アイスクリーム屋さん? 助けて頂き、ありがとうございます。えっと、大丈夫……ですか?」
その言葉を聞いて、凍てつくような空間を持ち、それを展開していたタイトは、背中を向けたままフッと笑うと、声色を変えず、月に言葉をかけた。
「えぇ、三日月様。ご心配いりません」
それを聞いた理事長は溜息をつくと、呆れたような話し方で口を開く。
「はぁ~、そろそろどいてくれないかな?」
そう言うと、理事長の手の中に一瞬、小さな何かが見えた。タイトがその光を、見逃す事はない。
「ラウルド殿でしたらご存知でしょう? この噴水広場、ドーム内での魔力使用は禁止されております。使えば……解っていますね?」
「くっ……うぐぐぐ!!」
ラウルド理事長は、両手を握り締め、不服の形相と悔しさを滲ませ声を出した。
目の前で起こった一連の出来事を、月はただただ見ている事しか出来なかった。「今宵の三日月」の理事様が、実は理事長様……しかもラウルドという名を聞き、驚きがあまりにも大きすぎたのだ。
そして、タイトの放つ煌びやかなオーラと、全てを制圧するかのようなその迫力に、呆然と立ち尽くしていた。
(冷たい空間。でも、不思議と優しい)。
「三日月様。誰かを捜しておられたのでしょう? そろそろお連れ様が……」
タイトが言葉を言い終わる頃に、遠くから聞き覚えのある声がした。
「月!! 三日月?!」
「あっ、星様!!」
(やっと見つけた。やっと、会えた)。
「ごめん、捜してくれているとメルティに聞いて……」
「いえ! 無事で……会えて良かったです」
しかしこの瞬間、なぜか?
私の心の中の不安と胸騒ぎは、だんだんと増していったのだった。
次話もお楽しみにぃ~♪




