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月世界の願いごと~奇跡の花は煌めく三日月の夜に咲いて~  作者: 菜乃ひめ可
第二・五章 文化交流会(魔法勝負後)
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76 文化交流会2日目~本当の願い~

お読みいただきありがとうございます(*ノωノ)

♪こちらのお話は、読了時間:約6分です♪


(Wordcount2560)


((ピューー…………パァーーン! パン!!))


 午後九時、文化交流会のメインイベントとなっていた、舞踏会の終了を知らせる花火が、空高く上がった。と同時に、静かに大会を見守り“応援の光”を送っていた観客たちからの、大きな拍手が巻き起こっていた。


「とても、素敵な……大会でした」


 月は、太陽とユキトナのダンスはもちろんだが、舞踏会に参加していたカイリやユイリア、他たくさんの生徒たちの努力が、見ているだけで感じられて……輝いている姿に感動をしていた。


 そして、それは星も同じ気持ちだった。

 普段から、他人の事にはあまり関心のない彼だが、今日はいつもと違い、心を揺さぶられるような感覚になっていた。


 「そうだね。今年は例年に比べると、表現・技術ともに、とてもレベルが高く、素晴らしい舞踏会だったと思うよ」


 この時“星守空(セルク)の心の中”では、少しずつ何かが変わり始めていた。それは彼自身も気付いていないであろう心境の変化。


――その真意は、月の存在が大きく影響していた。


 中央広場の舞踏会、大会の会場に集まっていた観客や生徒たちは、それぞれに散り始める。そして、近くの出店などで振る舞われている、飲み物や軽食を手に取り、皆で楽しそうに歓談していた。


 月は、皆が楽しそうにする姿を屋上からボーッと眺めていると、ふと。彼の視線を感じた。


「月、そろそろ帰ろうか? 夜も遅い、送ろう」


 星は時間を確認すると、月の安全を気遣い、家まで送る事を提案した。


「あ……いえ、一人でも大丈夫ですよ! 申し訳ないですし」

(本当はまだ、お話して、ご一緒していたかったのだけど)


「いや、月。今日は送らせてほしい。もう少し、君との時間を……同じ時間(トキ)を共有したい」


「あっ、うん……あ、り、がと……」



――『もう少しだけ一緒にいたい』


 星守空と三日月。

 二人が今、心に抱く想いは、同じだった。



「あの、お家まで、よろしくお願い致します」


 月は、少しだけうつむき加減で返事をした。理由はもちろん、りんごのように、赤く紅潮した顔を隠すためだ。しかし星は、彼女が“一人の時間が好き”な事をよく知っているため、自分が無理を言ったのではないかと、心配になり、声をかけた。


「月……無理は、しなくてもいいんだよ」


 それを聞いた彼女は、顔を上げて、満面の笑みで答えた。

「いえ、あの私……とっても嬉しいのです!」


 その頬を染めた月の表情は、キラキラと輝いていた。心配をした星の気持ちを吹き飛ばすには、十分すぎるくらいに。

 そして、星と心には、ポカポカと温かな月の喜びが伝わってきた。


 そう、星は。彼女の事となると、らしくもなく感情が表に出てしまうのだ。


「ありがとう、安心したよ。じゃあ行こうか」


「うんっ!!」



 念願だった屋上……。


 星様のお陰で、此処に来られて。見た事のない魔法展開図や、とっても可愛い、ガーデンテーブルセット。屋上の海に、音楽のように降り注ぐ水の音。それから、生まれて初めて飲んだ、ソーダのしゅわしゅわ……とか。本当に夢のような出来事が、たくさん起こった、素敵な時間だった。



 ゆっくりと扉に向かって進む星様の後ろを、月は少し離れて歩いていた。

(きっと、もう此処には入れないだろうなぁ……)


 名残惜しく、周りを見つめながら屋上の入り口前まで戻ってきた時、彼が何かを呟いた。


「『……あぁ、もう出るよ…………』」


「……???」


 んーーにゃ……?

(まただ……星様の意識が、どこかへ行っている?)


 一度目も気になった私は、思い切って聞いてみる。

「どう……したのですか?」


 すると、黙って涼しい顔で微笑み、屋上の扉を開けてくれた。そして、ど~ぞ~と、いつもの階段へ案内してくれる。


「あ、ありがとう……ございます」


「うん、さて……忘れ物はないかな?」


 持ってきていた鞄を持つと、階段を下りていく。

 五階、四階……三階……。


「おーと! んっと? 星様」

 二階に差し掛かったところで、彼が立ち止まった。


「うん、さっきの事だけれど」

 星様は、少し困った表情で私の顔を見た。


(私が聞いてしまったから気にしてるんだ……)

「あの、気にしないで」


 そう答えると「いや、言っておこう」と、続きを話し始めた。


「僕が月との話しの中で、『五つの森』について説明しようとしたと思うけれど。月になら良いかと話していたんだ。しかし、あれは他言無用だったから。僕が話し過ぎてしまいそうになると、ストップがかかる。そして、さっき屋上扉の【施錠】をするために話していたのも……あれも父との“伝心能力”を使った、連絡なんだ」


「そうだったのですね」


 星様は、言いづらそうに話してくれた。そして再び、階段を下り始めるその背中は、少し寂しそうに見えた。


 校舎を出て、月の家へ向かい歩き出す。静かな空間、沈黙の中で、二人を照らす大きくて美しい“満月”。そして輝く星空を見上げながら歩いて、しばらくすると、夜空に見惚れている月に、星が話しかけた。


「そうだ、織姫様……ではなくて、お姫様?」

 そう言うと少し笑いながら、星様はお話を始めた。


「ほ、ぇえ……?!」

 私は、またおかしな返事をしてしまった。


「今日の主役、三日月姫。七月七日という特別な日に生まれ……そして、七夕でもある今宵の星空へ。さぁ! 願いを夜空へ送ろう」


「星様……」


 にっこりと笑みを浮かべる彼から、改めて聞かれる。


「君の……願いごとは?」


 そう、今日は。

 私の十六歳のお誕生日で七夕。毎年、願いを空へ送っている。

 でも、今思う“私の願い”は。


「そうですね……えっと、毎年変わらず! なのですが。大切な人たちの……この世界の幸せを、願っています」


 私は「えへへ」と、いつもの笑顔で答えた。


「そうか……うん、素敵な願いだね」

「あ、ありがとう。星様」


 もちろん、そう願っている。みんなの幸せを、平和を。

 でも、今は。

 もうひとつだけ、夜空へ送りたい。


――芽生えた“願いごと”。



 星様のモノクロの世界を。

『くすんだ色彩の世界』を、本当の色に……。


 そして、いつか。

 真っ暗な闇夜の空に瞬く【星】だけではなくて。

 星様に本当の光を……輝きを。



「きっと、私がキラキラを……」

 ふと、私は呟いてしまった。


「んっ? 何か言ったかな?」

「あー!! いえ、何でもないです」



 三日月はもう一度、キラキラと輝く星空を見上げ、心の中で願った。


――どうか星様を、モノクロの世界から助けられますように……。


次話もお楽しみに(*'▽')!!

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