71 文化交流会2日目~魔法の眼鏡~
お読みいただきありがとうございます(*'▽')
♪こちらのお話は、読了時間:約5分です♪
(Wordcount2150)
――僕にとって“希望の光”
星様は、いつもの優しい瞳で、私を見つめている。
どのくらい、沈黙の時間が流れただろう。あまりにも目が合ったまま、見つめられすぎて、さすがにもう恥ずかしさに耐えられなくなった私は、ついに口を開き、問いかけた。
「あ、あの。ほしさまぁ~……?」
すると彼は、「あっ、ごめんね」と言いながら、クスッと笑う。そして、左手に持っていたソーダグラスをテーブルに置き、夜空を仰ぐように両手を大きく広げ、気持ちよさそうに伸びをする。
「さ~て。どこから話したらいいかな……」
そう言いながら、輝く星を見つめるその眼差しは、どこか遠い目をしているように見えた。
((シュワ……))
私が両手で抱える可愛いグラスには『お月様のソーダ』が半分ほど残っている。ずっとそのグラスの中を眺めていると、まるで本当の“満月”がそこにあるような、そんな気分になっていった。やがて、ソーダ水の泡が奏でていた美しい【和音】は、徐々に消えていく。
彼の考えがまとまるのを、心の準備が出来るのを待つように。同じ夜空を見上げながら、再び沈黙を作った。きっと……『大事なお話』なのだと解る雰囲気の中、私は静かに、星様が話し始める次の言葉を待っていた。
――「僕の視界が……」
五分くらい経っただろうか? 穏やかな、でもどこか物淋しいような彼の声が、頭の中に響くように聞こえてきた。
「“色を持たない”事。それは“光のない世界”と連動して、存在している。純粋に【光の魔法】を使う事が、生まれつき困難だという“運命”への裏付けでもあった。たとえ、どんなに厳しい訓練を続けても。血の滲むような努力をして【力】を高められても。父と母の反対を押し切り、自分の運命に逆らってまで、【光の魔力】を身につけても……。僕の見る景色は、白黒のまま。何も変わらなかった」
「そんな……」
――そんな天命を持つ方が、いたなんて。
苦しい思いをして抗っても、変えられない。
心が痛い、衝撃を受けるようなお話だった。
◇◆
〔星守空のお話〕
――白黒の世界に生きる運命。
“色”への憧れと好奇心。そして、皆と同じモノを見たいという思いの強さを知ったセルクの父は、可哀そうに思ったのか、彼の“モノクロ世界”に色彩を与えようと、試行錯誤の末……この【眼鏡】を創った。そのおかげで“色”という存在を、疑似的にだが、見る事が出来るようになった。彼が、七歳になる頃の事だ。
しかし、無理に望んだとはいえ、彼の中に認められない、反する【力】を持った瞬間。その代償はとてつもなく、大きかった。
辛くて厳しい……。
そして果てしなく続く“苦痛”。
勿論、セルクは。
何も知らずに、【眼鏡】を掛けた訳ではない。
『運命に逆らう』という事が、どういう状態を意味するのか?
成功するのかも判らない、その“未知なる方法”を試す事。そして、先の見えない状況や不安に、果たして幼いセルク自身が、最後まで耐えられるのかどうか?
事前に、何度も、何度も。関係者の間で審議が行われた。その結果、反対する者も多い中、決行する事となった。父の責任において……何より、セルクの強い決意と意志を尊重したのだ。
そして創られた、【魔法の眼鏡】――。
頭では理解をしていた。軽く考えていた訳ではないが、自分なら出来ると思っていた。しかし実際は、あまりにも過酷……その事を、セルクは身を以て思い知ったのだ。
体中を駆け巡る強い拒否反応と、何から受けているのかすら判らない、セルクの心身の中心で起こっている反動攻撃に、長い期間耐え続けた。
そしていつしか、
心から“笑う”事を、忘れてしまった。
時は経ち……彼が十五歳になる頃。
完全に安定したセルクの心身には、本当は受け入れられないはずの【光の魔力】を取り込み、成長。自由にコントロールをする事も、出来るようになっていた。
◇◆
「こんなに素晴らしい世界を、“色”を見る事の出来る眼鏡を創ってくれた父には、本当に感謝しているよ」
「そう……なのですね」
(苦しい思いが、伝わってきて)。
深く……深い蒼色の瞳は。暗い海の底にいるようだと。前にもそう感じたのは、間違いではなかった。『瞳の色は心の色』、だったのかな?
彼は、いつもの涼しい表情のまま、話し続けた。
「それでも、この【魔法の眼鏡】を以ってしても。目の前に映し出される世界に、僕が“輝き”を見る事は、叶わなかったんだ」
そして星様は、目に映る様々なモノたちが色づき、解るようになった時は、本当に嬉しかったと話した。でもそれは、光に反射しない、艶のないモノだという……いわゆる“マット”な感じというらしいと。『くすんだ色彩の世界』だと言った。
――いいんだ、それでも。色が見えるというだけで、満足だったんだ。
そう、本当の気持ちを隠すような言葉を言うと、私に優しく笑いかけた。
「無理……しないで下さい」
どう答えたらいいのか、分からなくなっていた。
「ありがとう。でも、そんな僕にも『“キラキラ”輝く』は、本物が分かるんだよ」
少しだけ嬉しそうに、星様は、明るく話した。
「…………えーと?」
「夜空に……真っ暗な闇夜の空に瞬く【星】だけは、なぜか“キラキラ”と“輝いて”見えるんだ。不思議だよね……」
それが『輝く』というのだけは知っている、と。
そして彼は、いつものようにフフッと笑った。




