70 文化交流会2日目~モノクロ~
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ピューー…………パァーン!!
突然、静かだった夜空に、数千の光が舞い散る。
午後八時。文化交流会のメインイベントとも言われる舞踏会の、開始三十分前を知らせる花火が上がったのだ。
「わぁ~……す、すごいー」
「あぁ。もうすぐ始まるようだね」
――大きな音と光。
綺麗で迫力があるけれど、音が耳に痛く響き、少しびっくりしてしまった三日月。
(やっぱり、大きな“音”は苦手だなぁ)
セルクは一緒に花火を見上げた後ユックリと眼鏡をかけ、レンズ越しに三日月の方を見た。そして手に持つソーダグラスに視線を移すと、小さな声で呟く。
「本当だ……月の色」
「えっ?」
――星様の言葉。どういう意味だろう?
花火が上がったのは時間を知らせる為の、一度きり。周りの景色は星の瞬く暗闇に戻っていく。ただひとつ変わったのは広場にいる人たちの賑わう陽気な声が、大きくなったことぐらいだ。それでも二人の間に流れる空気は、穏やかなままだった。
しかしセルクが話し始めると、その穏やかだった空気は一変する。
「今、話せることは限られているけれど。でも一つだけ。どうしても月に話しておきたいことがあるんだ。聞いてくれるかな?」
「え…………うん」
一気に緊張感が広がる。三日月はひと言、返事をするだけで精一杯だった。
それからセルクは、重い口を開く。
「以前、月が“モノクロ”の景色と、言っていたよね? あれ、間違いではないんだ。僕は……僕の視界は、生まれた時から色を持たない、“白黒の世界”なのだから」
「――?!」
(そ、そんなことって!!)
思わぬ話に心乱れる三日月は自分の耳を、疑った。そしてショックと驚きで言葉が出なくなる。
――『色を持たない』って……。
同時に不思議なことに気が付いた。いつもセルクはランチの時、三日月のお弁当を楽しみに見た瞬間に「美味しそう」と言う。そしてフラワーガーデンでは花の種類を三日月に教え色合わせについても、話していたからだ。
思いもよらない話に、口をつぐんでしまう。三日月の不安気な表情にセルクは気持ちを切り替えるように少し陽気に笑い、続きを話す。
「あはは、きっと不思議に思ったよね?」
「あ、えっと……」
その言葉にハッと、我に返る。まるで考えていることが分かっているみたいと三日月は目をぱちぱち、頬を赤らめる。
その感じた疑問に答えようと、セルクは詳細を説明し始めた。
「うん、聴いて。今こうして“色のある世界”を過ごせているのは、この眼鏡の力によるものでね。僕に【疑似的】な色――世界を見せてくれているんだよ」
「疑似的……ですか?」
三日月のきょとん顔にふふっと笑いながらセルクは、話を続けた。
「本当の色は、僕には判らないから。果たして真実の色とは? 一体、どのような色合いをしているのか? 自分自身の目で見ている訳じゃない。だから敢えて本物ではなく【疑似】と。そう、思うようにしている」
「あっ……」
(そっか、そうだったんだ)
――この時。私の頭の中で、色々な出来事が映像のように流れた。今まで星様と過ごしてきた時間が、感じてきた何かが、繋がった気がしたのだ。
◆
最初に感じたのは、カイリ様との騒動で助けてもらった日。星様が小さな声で何かを呟いた。そう……瞬きほどの一瞬だけ目の前の景色が――“モノクロ”になった気がした、あの時。
その後ラフィール先生の所へ相談にいった時の帰り、外でお待たせしていた星様が眼鏡を外していて……。少し、近寄りがたい表情で立っていた時。
そして、綺麗な“満月”の今夜。
金平糖の色を聞かれた時。暗くて見えないのかなって、思っていたけれど。
それにお月様色のソーダも「何色に……」と、確認するかのように聞かれて。私が答えると「成功した」と安心していた。その反応を見て、ちょっぴり気になっていたんだ。
それなのに、どうして私は。
◆
「ようやく……一つでも言うことが出来て、嬉しいよ」
セルクは肩の荷が下りたようにほやっと、今までにないくらいの和らいだ表情で、微笑んだ。
「……ほ」
(ずっと、言いたかったの?)
「んっ? どうしたの、月」
(ねぇ、一人で苦しんでいたの?)
三日月の心に押し寄せてくる哀情。
セルクの苦しみ、淋しさ、心細さが、伝わってきた。
「……」
冷たい氷水が胸の奥深くをツツーっと流れ凍っていくような痛みと、冷たさ。
「ほ……星様……ご、めん……ごめ……ね」
頭の中と心の中。
色々な気持ちが三日月の中で、交錯していた。そしてなぜか溢れる涙がぽろぽろと、頬を伝っていた。
「えぇ月、どうしたの?! 泣かないで」
――星様が、一番辛いはずなのに。
どうして自分は泣いてるのだろうと必死に涙を堪えようとする。
(これじゃ逆に、心配とか、迷惑とか、また気持ちの負担をかけてしまう!)
「ごめ、なさ……」
(泣いちゃだめ……なのに)
聞いたからなのか? 今になってひしひしと感じるセルクの心、恐怖、孤独、そして。
――空虚感、を。
(そうだ、今聞いたからじゃない)
今までもふとした時に思う違和感はあったのだ。セルクの能力・魔力をほとんど感じないことにも、本当は気付いていた。それを不思議に思いつつも、三日月は気にしないようにしていた。
(あの時に、もっと力を研ぎ澄まして星様の心を『聴いて』いれば……)
――側にいる人の心も、助けられないなんて。
「どうして、三日月が謝るの? 何も悪い事は」
いつものように優しく穏やかに話そうとする、セルクの声。しかし自身の苦しみを隠し抑えているのが、痛いほど感じられた。
三日月はそんなセルクに「もう正直でいてもらいたい」という気持ちから話を途中で遮り、想いをぶつける。
「星様ッ!」
その三日月の声に驚き困惑した表情の、セルク。
「星様は我慢しすぎです! 痛い冷たい……苦しみは。私が全部もらいます!!」
(どうして、いつもそんなに優しいの?)
そう言った三日月は両手のひらで顔を覆い、いっぱい零れ落ちる涙を……受け止めきれないほどの涙を、懸命に隠した。
「三日月……」
沈黙の時間が流れる。その間、セルクは穏やかな心地良い波動を放っていた。そのおかげか三日月は少しずつ、冷静さを取り戻す。
数分後、ずっと黙っていたセルクが口を開いた。
「三日月には、知っていてもらいたかったんだ」
(いつもの笑顔、優しい声。星様の変わらない空気)
「……ごめんなさい。その、私、感情的になってしまいました。あの、お話してくれて良かったです。ありがとうございます、星様」
「いや、違う逆だよ。僕が月に、ありがとうを言うべきなんだ」
珍しく強調した口調でセルクは、答えた。
そして伝えられた、言葉。
「君は……僕にとって“希望の光”なんだ」
「えっ? いえいえ、そんな」
三日月はそんなはずはないと言いながら手のひらを目の前でブンブンと振り、否定する。
それでもセルクは……。
「三日月、あの」
ゆっくりと瞳を合わせしかし、真剣な眼差しで。
三日月の気持ちがドキドキとしてしまうような言葉を囁き、話し始めた。
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