63 文化交流会2日目~宿命~
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♪こちらのお話は、読了時間:約6分です♪
(Wordcount2720)
「今更すぎて、失礼かなぁ? と思ったりもしたのですが」
「うん? 気にしなくていい。何でも聞いて」
三日月はなかなか聞くタイミングを掴めずに結局、今日まできてしまっていた。しかしそんな突然の話にもセルクは優しく微笑みかけ、受け入れる。
「実は、お名前なのですが」
「えっ、名前?」
セルクは意想外な三日月の言葉に少し、驚いた表情をした。
(うぅ、聞きづらいよぉ!)
その表情に一瞬引いた三日月であったが、せっかく作れた機会である。ゆっくり深呼吸をすると、一つ目の質問を始めた。
「えーっとですね、ずっと疑問に思っていたことがあって。【ほし】様は【セルク】様なのに、どうして愛称が【ほし】、なのですか?」
これを聞いたセルクは一瞬お目めまんまるできょとん。その深く美しい蒼色の瞳で三日月の顔を、見つめた。それから数秒後――出逢ってから今までで一番と言って良い程の、大きくて明るい声で「あはは」と顔を赤くしながらセルクは、笑った。
「あはは……あぁ、そうか。フフ……そうだよね、なるほど!」
「えぇー! そ、そんなに笑わなくてもぉ」
三日月は少し顔を赤くし頬を膨らませて、言う。
それを見たセルクは「ごめん、ごめんね? 月、ご機嫌直してね」と笑いながら詳しく説明して、質問に答えた。
「僕は今まで、自己紹介をしたことがなかったから。でも、三日月とだけは、本当の名を伝え合えたんだ」
フワッと微笑む優しいセルクの表情に、ドキッとする。恥ずかしく動揺する気持ちを落ち着けている間も話は、進んでいく。
「とても嬉しかった。しかし、どのように僕の名は付けられ、どのような意味を持っているのか? 文字をどう書くのかとかまでは頭が回らなかったよ。言ってなかったから、疑問に思って当然といえば、そうだ」
そう言うとセルクは再度、視線を夜空へ向けていた。
(私のように“みかづき”は【三日月】と、誰でも想像がつくけれど)
――“せるく”で【ほし】って?
グルグルと頭の中で名前の文字が、回る。
そうして三日月なりに色々なことを想像し、考えていた。すると視線を戻したセルクとぱっちりと、目が合ってしまう。
「――っ!!」
(なんでだろう、またドキッって!)
暗闇に静かに耀、月の光のせいだろうか? その瞳はいつも以上に輝きを増した深海の色になっていた。そして三日月はさらに恥ずかしくなり、フッと下を向く。
その視線いっぱいに映る足元の『魔法地図』を眺めているとセルクが、話し始める。
「僕はね、生まれる前から役目を与えられているんだ」
「生まれる前?」
――“役目”って、どういうこと?
その役目とはどのような意味を持つのか? 今の三日月にとっては、未知であった。そしてあまりにも、衝撃的な言葉。
それを聞いただけで心臓は、なぜか? “ドキッ”から“ドクンッ”と痛いくらいに大きく変化し身体中に、鳴り響いた。
――それは見えないものからの恐怖に鳥肌が立つような感覚。
しかしセルクはまるで自分のことではない、第三者の目線で話すかのようにスラスラといつも通り、流暢に話を続けていく。
「名前に表されている“星、守、空”。それらを併せ【セルク】――そう読む。夜の闇、星の輝き、【空の全て】を守っていくために。そのためだけに、僕は生きている。『星空を守る』宿命。そういう意味を、持っているよ」
微笑みながら三日月に話すその声は、あの日と同じ。そのセルクが話す言葉はまるで水のように、心に流れ込む。
――でも、今は。
(星様から伝わってくる気持ちが冷たくて、悲しくて、今にも泣き出しそうで)
――ツライの、かな?
「それで僕が好きな一文字を取って、君には【星】と呼んでほしい、そう言ったんだ」
「そう……だったのですね」
(言葉? なんて言ったらいいの? コトバが出てこない。でも私は、中途半端に何かを言うことなんて出来ない。そんなこと、言いたくない……だけど!!)
「星様が、夜空のお星様キラキラでいられるように守っていて。その愛称で呼ばせていただけていることが、とても、とっても嬉しいです!!」
――伝えたかった、私の気持ち。
(まとまってなくて、言っていること、めちゃくちゃだったかもしれないけれど。それでも私が想う、精一杯の言葉で!)
三日月は自分が感じたように、この心が流れ込んでくれますように……セルクの心にもどうか届いて、凍った心の部分が溶けてくれますように、と。
そう想い、そして願う。
「月……君は本当に……」
言いかけた言葉を止め、口をつぐむセルク。
「……ふぇ?」
「いや、いいんだ。ありがとう、月。僕も嬉しいよ」
「えっと、ハイ!」
元気いっぱい三日月の声にニコリと笑うとセルクは、心の中で呟く。
――僕は、言わなかった。
(いや、正確には「言えなかった」なんだ)
本当は「僕の“宿命”には、夜空に美しく煌めく月を、護ることも使命なのだ」と、セルクは伝えたかった。
「あ~……うぅーん」
(でも……よ~く考えてみたら)
三日月の口から考え込むような声が発せられる。それはセルクに「とても話しにくいことを、聞いてしまったのではないか?」と、心配になったからだ。
その三日月の表情を見たセルクは何かを察しいつも通りに優しく、話す。
「気にしないで、月」
「え、あ……」
(星様は、やっぱり。すごぉーく優しい人だよぉ)
そして満面の笑みを浮かべた三日月から零れでた感謝の気持ちは、言葉になる。
「星様、ありがとうございます」
「うん? フフッ、急にどうしたの?」
「えっへへ。何でもありません♪」
(何だろう、そばにいるだけで……落ち着く)
◇
【セレネフォス=三日月】
未知数の【力】を持つ彼女はこの世界にとって今後、おそらく重要な存在となる――月の加護と力の存在。
その意味を認識し知っている者たちは、期待と希望ある未来を今でも。
夢見ている。
◇
(でも僕は、僕自身の想いは、違うよ)
「出来ることならばこのまま平和に、そのままで……君の笑顔を護りたい」
ポツリと小さく、呟いたセルク。
――しかし。
宿命には、抗えない。
少しだけ深刻そうな表情になるセルクに三日月は、恐る恐る声をかける。
「あのぉ、星様? あともう一つだけ質問がぁ」
三日月は申し訳ない気持ちもありながら控えめに右手を挙げ、お願いアピールをしてみる。
(本当は、まだまだ聞きたいことがぁ! でもこれ以上は、さすがに)
「あはは、良いよ。月は本当に――可愛いね」
サラッとまた恥ずかしくなる言葉を言われ、頬を赤らめる三日月。
「お誕生日だし、何なりと♪」とセルクは珍しく、陽気に返事をした。
「うぅ、もぉ星様! 揶揄わないで下さいよー!!」
「あぁ、ごめん。フフ」
◆
もう二度と、あの時のような思いはさせない。
僕はあの日、そう誓った。
『この命に替えても、必ず君を護りぬく』と――。
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