60 文化交流会2日目~扉~
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♪こちらのお話は、読了時間:約6分です♪
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――『 【 開錠 】 』
≪ えぇっ? どうして?! ≫
“最高上級魔法”で、厳重に施錠されているはずの『屋上扉』。なんと! それを、いとも簡単に開けてしまうなんて!!
私は、念願の屋上へ出られる『喜び』の気持ちと、先生に“内緒”で、勝手に出てもいいのだろうか? という、『不安』な気持ちと。目の前で起こった一瞬の魔法に『驚き』の気持ちと……。
様々な『気持ち』が折り重なって、私の心は、すごく複雑な心境になっていた。どうする事が“正解”なのか? 判らなくなっていた。
「あのぉ~星様?」私は不安げな表情で聞く。
「ん? なぁに?」と、彼は笑顔で答える。
「屋上へ出たい気持ちは、山々なのですが。魔法施錠されていた場所への、侵入は……勝手に出てしまうのは、怒られるのでは?」
『はっ!! 今、気付いた!』と、言わんばかりに目を丸くして、私を見つめ返している……けれど。
星様のその表情、全く驚いているようには、見えないのですが。
「そうだね! 怒られちゃうかもしれないね!」
どうしようかぁ~? と、真面目に言っているように見える。けれども! 口元は笑っていて、今にも吹き出しそうな、そんなお顔をしています。
「え、もぉ~!!」
ずっと行きたかった『屋上』。どんな景色が見えるのだろう……と、いつも色々と想像を膨らませていた。正直な気持ち、今すぐにでも、あの扉の向こうへ……
「――出てみたいっ!!!」
◇◆
私の生まれ故郷である『“光”の森【キラリ】』。
その森の、奥深くに広がる場所……そこには{星域}と呼ばれる草原があった。幼い頃から、高い場所が大好きだった私は、その中心にある“大きな木”に登っては、精霊さんたちと魔法で絵を描いたり、お歌を歌ったり、音楽を奏で作ったりして、遊んでいた。
「あのお空に届くように、飛んでみたいの!」
いつも、そう言って両手を広げて、飛ぶ真似をしていたなぁ。
『いつか飛べるようになるっ!』って、あの時は本気で思っていましたよ~。
≪ あの時の私は『夢』を見ていた ≫
『きっと、何でも出来る!!』
そう、自分を信じて疑わなかった。
でも、あの事件が起こってしまって……。
◇◆
はぁ~。でも、本当に。
≪ “羽根”があったらいいのに ≫
なぁ~んてネ。えへへ。
そうそう! ((ふわふわり~))のラフィール先生がお得意の“飛躍魔法”♪ 本当はいつも、羨ましくてしょうがないのです。実は私も、いつかは習得したい! と思って、現実的に『夢』を見ているのです!
でも、この“飛躍魔法”。とても難しい魔法で。
一筋縄ではいかない、そうなのです。努力と技術だけでは、どうしようもない。生まれつきの【才能】と【センス】が、非常に関係するらしいので、もしかしたら……いやぁ~もしかしなくても。私には、無理かもしれませんねぇ、シュン。
一人で『ぼーっ』と頭の中で、あれやこれや考え始めると止まらない。周りの事が見えなくなってしまって。これ、私の『良くて悪い癖』ですねぇ。
それを見ていた星様が“フフッ”と小さく笑った声で、「はっ!」と我に返った。あぁー、また『ぼーっとちゃん』を、やってしまったぁ!!
「ご、ごめんなさい。考え事を……」
すると、彼は案内するように、手のひらを上にして、「どうぞ、こちらへ」と、その手を屋上扉へ向けた。
「『月、安心して』。大丈夫だよ」
≪ 不思議…… ≫
私の心に【言葉】を響かせ、伝わってくる。
( こ と ば ? )えーっと。うーん??
珍しく少し大きめの声で「ねっ♪」と、言いながら、楽しそうに、嬉しそうに、ニコニコ笑う星様。
その姿を見ていたら、何だか私まで嬉しくなってきちゃって。顔を見合わせて、一緒に声を出して笑った。
一頻り笑った後。
≪ 再度! 星様へ、確認しましょお! ≫
でも、でもね。
さっきまで感じていた“複雑な気持ち”は、どこか遠くへ飛んでいったみたいに、いつの間にか、私の心の中から“消えて”なくなっていた。これも不思議……かな?
「本当に、出てもいいの??」
笑いながら確認の言葉を発したその瞬間、ふと……気が付いた。
私は彼に、すっかり“信頼”を寄せているのだと。そして、その『笑顔』にいつも癒され、助けられて、たくさん元気をもらっている。
≪ 心の声。たくさん溢れてきちゃう ≫
星様もニッコリと笑うと、
「フフッ。月は本当に心配性だね」
と、言いながら、屋上扉の入口に手を伸ばした。
――なんだか、星様って。
私をちょっとだけ揶揄って、クスクスと笑っている所とか、とっても楽しそうにお返事して、お話をしてくれたりする時とか……あと! 手を振る時の仕草とか。
――やっぱり、誰かに似ている気がする。
でも、何だろう? 最近は……
≪ この時間が、一番『幸せ』かも? ≫
いやいや!! あの『幸せ』と言っても、楽しいなぁとか、そういう事でして。そんな深い『意味』はないのですよ!!
と、また! ひとりツッコミをしているワタシ。
そういえば、星様の表情がとても豊かになって、綻ばせて笑う、柔らかなお顔を見るようになったのは、ここ最近のような気がする。
出逢った頃の彼は、瞳の奥に何だか違う世界があって。
そこにある、他の何かを見ているみたいで……うまく表現? が、出来ないのだけれど。彼の心の中にある何かが、閉ざされているような? そんな印象だった。でも! もちろん、会話は弾んで楽しかったし♪ 人見知りな私が、彼とは自然体でいられたのは、紛れもない事実だ。
なので、初対面で“心許せる存在”と感じた事には『変わりない』。
≪ 星様も、そうだといいなぁ…… ≫
〔〔 キィー―……カチャ 〕〕
『『 開いたよ♪ 』』
ひそひそ声で、クスッと笑いながら、彼が言う。
『『 は、はぁぃ…… 』』
私まで、小さな声でお返事をしてしまった。
よく見ると……
あれれ? イタズラっ子な“表情”をしてます。
いつも違う“表情”。
一瞬だったけれど、お茶目な星様。
今の私の目には、その彼の姿が可愛いらしく見えて。まるで子供のような無邪気さをも、感じてしまった。
≪ はにゃ♡ ≫
心の奥が、ポカポカしてきた。
「さぁ、どうぞ~」
扉を開けて、星様が案内してくれる。
私の“お気に入りの場所”
屋上前の六階の階段。
そして。
ずっと行ってみたかった、もう一つの“場所”。
あの月光の先にある“七階”……屋上へ。
胸に手を置いてみると、期待で“ドキドキ”と、強く打つ鼓動。
私は、その胸の高鳴りを“ぎゅっ”とした手で抑えながら、星様の案内で、屋上【扉の向こう】にある“未知の世界”へ、ゆっくりと歩いて行った。




