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04 ランチ

お読みいただきありがとうございます(*ノωノ)

♪こちらのお話は、読了時間:約4分です♪


(Wordcount2030)


――『美味しそうに食べるね』


 突然目の前に現れた、不思議な雰囲気を持つ彼。そして穏やかで優しく平和な気分にさせてくれるような……心の中の氷を溶かし沁み入ってくるような。その澄んだ声が。


「どうしてだろう? 頭から離れない」



 大きな口を開け、はむっ! とサンドイッチを頬ばる瞬間を目撃されてから、早一ヵ月。


 三日月お気に入りの場所(居場所)である屋上扉前の階段に、彼は週に何度か来ていた。そしてランチ時間を一緒に過ごすようになり、いつの間にか気兼ねなく話せるまでの距離感になっていた。


(でも、やっぱり……まだまだ慣れないというのが本音なのです)


 彼の優しい気遣いは、いつも変わらない。


 初めて出逢った日の三日月の様子で、人見知りだというのが伝わっているのか? 毎回同じように少し距離を取って座ってくれる(隣なのは変わりませんが)。


 そして今日も、三日月の顔を横目で見つめながらニッコリと微笑み、楽しそうに質問を始めた。


「今日は、何を召し上がるのですか?」


「あっ、えっと今日は。か、可愛いうさぎちゃんクリームパンです!」


(はぅ~ドキドキするよぉ)


 一言一言、答えるだけでも緊張をしてしまう。しかし今日はほんの少し滑らかに話すことができ、ホッと胸を撫でおろす。


「おぉ~なんと見事なうさぎちゃん。これも自分で作っているのですか!?」


「は、はい、子供の頃からパンが大好きで。自分でも色々と作るようになりまして……」


「素晴らしい! 僕もパンは、大好きです」


 彼がいつも言うお決まりの台詞(セリフ)から始まり、このやり取りはいつものこと。毎日手作りで持ってくるお弁当に、彼はとても興味津々。毎回、何を作ってきたのか? と、聞くのがとても楽しみらしい。ランチをご一緒する時には、毎回この会話が繰り広げられるようになった。


「エッ? あ、えへへ。パン好き、一緒ですね」


 もともと、あまり趣味のない三日月。しかし、何か一つくらいは? と、色々考え「そうだ! お料理は得意かも」と、気付いた。そんな手作りランチについて色々と聞いてもらえるのは、正直嬉しかったりする。


(すごい! と言ってもらえるのは素直に嬉しいよぉ♪)


 彼と話す話題――二人の会話のほとんどが、こんな感じで食べ物のことばかりを話し、互いに「くいしんぼうだね」と、いつも笑い合っていた。


「あ……ぁ」

 

 ふと、急になぜかあの日を。

 初めて彼に会った、あの日の出来事を。


 三日月は思い出してしまった。


 自分で自分の「はむっ!」を思い出し恥ずかしくなり、燃えるようにポカポカ顔は真っ赤っかになり、だんだんと頬は熱くなってきた。


(私、人前で大きなお口、開けてたんだよねぇ)


 そう思いながら隣に座る彼の顔を、チラッと見る。そして無意識に溜息をつきながら、唇はへの字になっていく。


 するとそれに気付いた彼が、不思議そうに三日月の方へ視線を向けると、声をかけた。


「どうしたの? 何かあった?」


「えぇ?! な、何でもないですよぉ。あっはは~」


(……いけない。目が合ってしまったよ)


 ぼーっと考えながら見つめてしまい、そして逸らす間もなく彼と目が合う。それからさらに、恥ずかしさが倍増した三日月はとてもじゃないが、顔を合わせられなくなった。


 その気持ちを知ってか知らずか。彼は珍しく少し揶揄(からか)い口調で、笑いながら話しかけてくる。


「ふふっ、ねぇ」


「は……あい(はい)?」


「今日は『はむっ!』と、食べないの?」


「んにゃ?! あはぅぅ……!」

(な、な、なんでぇ!!)


 考えていたサンドイッチのことを言われ、まるで見透かしているかのような彼の表情は柔らかく、またふふっと笑い優しく、三日月と目を合わせる。


「た、食べますよぉ! お腹すいていますので」


 そう答えた三日月は慌ててペーパーナプキンでクリームパンを取り、顔の火照りを落ち着けるため少しの間、瞳を閉じ、じっとしていた。


 すると――。


「そうか、なるほど分かりました。うさぎちゃんが可愛すぎて、クリームパン、食べられなくなっちゃったのかな?」


 温かく優しい視線を感じる。

 そして彼はまた、問いかけてきたのだ。


「んんっ? あ、えっと」

(まだ、顔の火照りが落ち着いていないのにぃ!)


 またさらに! 自分の顔が赤くなっていくのを感じる。その反応を見て彼はまた悪戯な表情で、笑っていた。


(もうこれ以上、揶揄わないでぇー!)


 心の中でそう思いながらも、りんごのように赤くなった両の頬を――顔を、両手で隠す。


「そんなに笑わないで下さい!」


「ふふっ、ごめん、ごめんね? でもなんだか、可愛くて」


「か……かわっ、ぅ」


 そんな恥ずかしい言葉を、さらっと言ってしまう彼に戸惑う三日月。


 その姿を見て。


(また、ふふふっと、笑っている)


(とても楽しそうに、笑っている)


――これは、絶対に揶揄われている!!


「もぉ」


 ぷんっと呟いた後にふと、彼の言った「可愛い」の言葉を思い返す。


 男の子なのにそんな「うさぎちゃんが可愛すぎて」という表現が出来る彼の方が、うさぎちゃんクリームパンよりも可愛いのでは?


 そう思う、三日月であった。


お読みいただきありがとうございます☆


「また、見に来てくださいまし~( ꈍᴗꈍ)♪」

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