58 文化交流会2日目~世界~
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「では月さん、くれぐれも気をつけて」
「はい! ありがとうございました」
元気いっぱい笑顔で、私は手を振った。
笑って下さったとはいえ、夜に裏道を通った事については「危ないですよ!!」 と、厳しく注意を受けた。
ラフィール先生は、とっても優しい上に、かなりの『過保護』です。
今も、よほど心配だったのか、わざわざ明るい場所まで送ってくださった。
お忙しいだろうに、本当に申し訳なかったです(反省)。
「えーっとぉ……」
ずっと賑やかだったから、一人になると寂しいかなって思ったけれど、そんな事はなくて。むしろ、“ルンルン気分♪”で、私の足取りは軽かった。
「やっぱり“ひとりの時間”も大事」
そう独りごとを言いながら、すっかり暗くなった【空】を見上げた。
――今宵の“月”はとても美しく輝くだろうね
あの時、【最高位紋章】の記章を付けた、理事様が言っていた通り。今日の月、とっても綺麗……そして、
「とてもキラキラな“三日月”だぁ」
いつも以上に輝いて見えるのは、気のせい? いや、あんな風に話題になさっておっしゃるぐらいだから、本当に“月”の、何かが違う日なのかなぁ。
「理事様は、お月様が好きなのかな♪」
【三日月】かぁ……私も、あんなにキラキラ輝く“三日月”のように、綺麗な人間に成長したいなぁ。なぁんて、心の中で呟いて、少し恥ずかしくなった。
「よしっ!!」
≪ いつもの場所へ、行こうかなっ! ≫
目指したのは、屋上扉に向かう階段。
その長い階段を上った先にある【屋上前の六階】いつもの“お気に入りの場所”。
(( タン、タン、タン…… ))
すごく、静か……。
階段の一段一段を上がる、自分の“足音”が、とても響いて返ってくる。 明るい時間に来る時とは【違う世界】にいるみたい。
灯りは、精霊さんの光で、照らしてもらっている。夜だからかな? ちょっぴり寂しい気もする。
「……よぃっしょ!」屋上扉前の、定位置に着く。
今日準備してきたシートは「夜だから♪」と、思って『お月様柄』にした。
それをいつも通り、上から三段目に敷いて、ゆっくりと座る。
――静か……だにゃ。
ふと、気分が落ちていくように感じたけれど、ついさっきの、“ルンルン”していた自分との矛盾に気付き、すぐに思い直して、
「はぁ~!! 賑やかな所は楽しいけれど、やっぱり苦手だなぁ……此処が一番、落ち着くよぉ」
寂しく感じた気持ちは、『勘違いだよ』と、自分に言い聞かせるように、小さく呟いた。そして、思いっきり羽根を広げるように(うーーん!)と、大きく伸びをした。
気持ちよく、後ろにのけぞった姿勢のままで。
【逆さの世界】を楽しむため、ゆーっくりと開けた視界。その瞳で、屋上扉を見つめる。
差し込む“月”の光から“力”を受けているかのように、温かく心に沁み込んでくる『月光』。しばらく、ぼーっと眺めていた。すると、見た事のある光景に、私は目を疑った。
「おや? 偶然だね」
月の光は、三日月とは思えないほどに、明るかった。おかげで、逆光のように、人影しか分からないけれど、よく見える。
≪ あの時みたい ≫
あの日と同じだ。
聞き覚えのある声。
落ち着いたトーンで、少し高めの『優しい声』。
≪ 私の心が、ポカポカする声 ≫
「あ、あれ……? 星様??」
まるで。
“寂しい”と思った『心の声』が聞こえたかのように、彼は目の前に現れた。
私は、星様を見た瞬間、自分でも分かるほどに顔が火照ってしまい、鼓動が聞こえるくらい“ドキッ”とした。
「ふふっ……そんなにビックリしなくても」
いつものように、彼は微笑んでくれている。
「ごめんなさい! でも、どうして此処に?」
こんな私にいつも親切にしてくれて。そして楽しくおしゃべりをしたり、仲良くして下さる【星様】だけれども『上流階級のお坊ちゃま』だという事には、変わりないのだ。
文化交流会二日目の夜、一年の中でも大きなイベントの一つである『舞踏会』。参加しない方は、きっといないのでは? と、思っていた。
だから、此処に彼がいた事が、私にとっては信じられない出来事で。
驚きと、不思議な気持ちでいっぱいだったのです。
その私の気持ちに気付いたのか、彼は真剣な表情で語ってくれた。
「僕は、賑やかな所や、人が集まるイベントは、昔からあまり得意ではなくてね。ましてやダンスなんて! 大の苦手で。よく子供の頃から叱られていたよ」
「そう、僕は……」いつもは、流暢に話す彼が一瞬、言葉に詰まった。初めての事に、少し心配になって顔を見つめると、優しく瞳を細め、お話を続けた。
「僕はずっと、幼い頃から特殊な訓練を受けてきた。だからかもしれないが――【戦い】に関連のない事には“全く興味がなかった”」
たまに感じる暗い表情が、垣間見えた。
けれども、すぐに笑いながら、いつものなめらかな口調で「それで此処に、逃げてきたよ」と、話してくれた。
「そう……だったのですね」
≪ 逃げてきたのは、一緒だけれど ≫
星様は……。
私みたいな子供っぽい理由とは、違う。
もっと【重い】【深い】、意味がある気がする。
私が珍しく、考え込むように、難しい表情になる。
急に、彼の周りから温かい“力”、{柔らかな魔法}が発動した。そして、少し重くなった空気が、一気に変わる。
「さぁ~。では、改めて……」
「ほえっ?」
この後、星様は“クスッ”と、笑いながら。私が頬を真っ赤にしてしまうような、慣れない! 恥ずかしい!! 言葉を……。
“サラッ”と、いつものようにおっしゃったのでした。




