必話05 失くした記憶 (夢)
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(Wordcount2540)
「ちょっとだけ休憩……」
消耗した身体を、ここで少し休めてから、噴水広場を出るつもりだった。
――あの“声”を聞くまでは……。
ひんやりする【氷菓子の世界】。
輝く綺麗なドームの中、温度がとても心地良く感じた。
「お外は、暑いのかなぁ?」
そう考えながら三日月は、噴水のすぐ近くにある“ガーデンベンチ”に座った。アンティーク調の白いベンチは少し変わった形をしていて、不思議な雰囲気だ。そして座る人を包み込むような、落ち着く形状。
背もたれには、お花のような可愛いハート……綺麗な葉っぱと、色々な柄が絶妙に合わさっていてとても、美しい模様を表現している。
ふと空を見上げると、やっぱり不思議な光景である。
「う~ん、傘? テント? でもなくて……」
――これは、何だろう。
(まぁ~るい、たかぁ~い屋根? のような)
その両側には綺麗なオーガンジー生地のカーテンが付いていた。
「あーっ!!」
その瞬間、気付く。
――そっか、これって!
「まるで、お姫様が眠るトコロみたい♪」
三日月は「すっごく可愛いーよぉ」とわくわくしていた。
「うふっ! これって、天蓋付きのプリンセスベッドに似てますよねぇ」
ベンチに座ってから数分。
今更気付いたとひとり、笑いながらそのカーテンにふわっと触れる。
そして幸せそうな溜息をつくと高級感溢れる座り心地に「プリンセス~、お姫様ぁ~……憧れます」と、また独り言。
可愛いだけではなく自分だけの空間を味わえる、ガーデンベンチ。揺れるカーテンはレースが付いていて周りから見えにくく、とても安心感のある場所だと感じた。
(プライベートを確保するために作られたとは、聞いていたけれど)
本当にその通りだなと納得する三日月は手を組むと、瞳をキラキラさせながら、空を仰ぐ。
「今、一人でいたい私には、ピッタリなのです!」
しかしこれは、普通のベンチ。二人掛けくらいの狭いアイアンベンチで、寝るところではない。
「はぁう~……」
(しかし、落ち着きますねぇ)
噴水のすぐ近く、優しい水の“音”に自然と目を閉じる。
――心の中が、洗われるような感覚になってくる。
その美しい水の流れはまるで「素敵な音楽みたいだなぁ」と、三日月は聴き入ってしまう。そして幼い頃に母から聞いた、ルナガディア王国の【伝説】を思い出す。
――『清らかで美しい【聖水】が湧き出る泉』
「この水……透き通っていて、とっても綺麗」
(本当に聖水なのかも? なぁ~んてねっ)
すると三日月の周りにいる精霊たちが、天井窓から降り注いできた光でキラキラ輝く水の上を歩き飛び回り、そして陽気に踊り歌い始めた。
『うぴゃぴゃ~♪』
精霊たちの奏でる音色が“美しい水の音楽”と調和し合わさって、綺麗なハーモニーになっている。そのおかげか? 今日あった色々な出来事で疲れていた三日月の心は一気に、和んでいった。
「精霊さんたち、いつもよりスゴイご機嫌だぁ」
――その時に私は、自分が思っていたよりも疲れていることに気が付いた。
昨夜は大会のことが気になり、あまり眠れなかった三日月。気を張っていたせいでずっと、緊張の時間が続いていた。それが今やっと途切れてホッと、溜息をつくと、安心しすぎたのか?
ウトウト……ウトウト……。
(あぁ~三日月! ここはベンチですよ、寝る場所じゃないですよぉ~)
そう自分に言い聞かせ分かりつつも可愛いベンチに座ったまま、いつの間にか居眠りをしてしまう。
そんな浅い眠りの中で三日月は、夢を見ていた。
そう、最近よく見る、悲しい夢を――――。
◇
『ダイジョウブ。マモルカラ』
(えっ、だれ?)
『ナニガアッテモ』
(待って! 私も行く)
――これは……いつも夢で見る、知ってる声かな?
『ずっと、まもるから』
(ま、待って!!)
――あれ? いつもより、ハッキリ声が聞こえてくるみたい。
『大丈夫、待っているよ』
(ほんとに、ホント?)
『うん、だから安心して、わすれていいんだよ』
(エッ……)
“わすれていい”って?
――いつもと違う。それって、どういう意味?
【オヤスミナサイ】
ぶわあぁぁぁー!!!!
『闇黒魔法……【忘却】』
◇
「…………」
(これは、いつもの夢? いつもなら飛び起きるのに)
――今は、少し頭が鈍いだけで。
三日月はいつもと違いゆっくりと、目が覚めた。
起きたばかりで少しだけ頭の中に残った、夢の記憶……残像。
いつもと同じ“場所”。
いつもと同じ“風景”。
(でも、いつもとは違う夢だった気がするの)
――そう、あれは違う台詞だったような。
「わすれてって、何だったのかな?」
(何か魔法のような言葉も、聞こえた気がするけれど)
三日月はこの夢を見た時、飛び起きると同時にすぐ見た夢は、どこかへ飛んで行ってしまうように、内容が頭から消える。
しかし今回は『違う夢』だったことは、微かに覚えていた。
(はぁ~……ぼーっとする)
「うっかりここで、寝ちゃったぁ」
いつも見る夢なら怖くて、苦しくて。起きた後は、涙が止まらなくなるくらい悲しい気持ちになる。
でも、今は何故か? 心は温かい感覚で三日月の中にある冷たく凍った心の部分は溶け、ゆっくりと流れていくように――そんな温もりに、包まれているみたいであった。
――そして忘れているような気がする“大切なこと”を、今なら思い出せそうな気がするのだけれど。
噴水近くのベンチで休憩をして(眠ってしまって)から、どのくらいの時間が経ったのだろうか。
ふとアイスクリーム屋さんに掛けてある時計の時間を見ると、もう午後5時を過ぎていた。
「えっ、えぇぇ?! 大変! もう行かなくちゃ!!」
ぼーっとしていた三日月の頭はバッチリ、目が覚めた。
すっかりこの場所が気に入りのんびりと落ち着いた時間を過ごしていた三日月は、なんと! いつの間にか眠ってしまうという、あり得ないことをしてしまった。
「あぁー! ベンチで寝ていたなんて……もしお母様に知れたら、きっと怒られちゃう」
長い時間くつろいでしまった場所――可愛くて、座り心地の良いプリンセスベンチから立ち上がろうとした、その時。
いつもの夢とは違う、誰かの“声”が聞こえてきた。
――――『月の加護を、持つ者よ』
「ふぇ?」
振り返った三日月だったが、そこには誰もいない。
(あれ? 気のせいかな)
しかし、その声は。
今まで夢の中で聞いてきた声にとてもよく、似ていたのであった。
次話もおたのしみに~☆




