49 文化交流会2日目~感情~
お読みいただきありがとうございます(*'▽')
♪こちらのお話は、読了時間:約6分です♪
(Wordcount2960)
――王妃様の放つオーラは、とても眩しくて……。
王妃の姿を目にしたのはこの日が初めてだった三日月。
立ち姿は花のように美しく高貴さが溢れ、切れ長の目は見惚れるほど印象的。そして誰しもが憧れる、長身美人。
(お話には聞いていたけれど。オーラがすごい!)
三日月は感じたことのない感情と美しさを目にし、思わず息をのむ。
しかしその美しい顔からは想像もできないほど強く厳しい口調で、王妃は大激怒している。それはもう見ている者が震え引いてしまうくらいにものすごく響き渡る声と、迫力であった。
「一体、どういうことなのですかッ?!」
学園内にいるはずのないユキトナがなぜ? 此処に居るのかと、半ば呆れた表情で問い詰めている。
母(王妃)の怒りに「うぅ~」と泣きそうなその顔はこわばり、すっかり委縮してしまった。それから次第にユキトナは口を閉ざしてしまった
。
(でもどうして? ユキトナ様はここにいてはいけないの?)
三日月がふと、そんな疑問を考えていると王妃に負けず劣らずな強い声が響き渡る。
周囲のことなどお構い無し! 自己中心的なユイリアは「もっと大切なお話があります!」と、会話に割り込み勢いよく話し始めた。
(さすが、ユイリア様だぁ。スゴイです~)
「聞いて下さいお母様! お姉様がお外にお出になられたことなんかよりもずーっと大変なのです!! この赤毛の方が身分もわきまえずに、ユキお姉様を声をおかけになったというのです! こんなことが許されるはずないですわ!」
まるで告げ口するかのようなユイリアの発言を聞いた太陽は小さな声量でコソッと、三日月に笑顔で一言。
『(赤毛の方って)俺の事か? ははっ!』
『太陽君! 笑いごとじゃないよ』
(なんで? どうしてそんなに、笑っていられるの?)
三日月は「私はこんなにも心配しているのに!」と、太陽のその余裕の態度がどうにも理解出来ず、厳しい視線を向ける。
そんなやり取りを二人で続けているとすぐ近くで静かにヒヤッとする空気が突然、ス~っと漂い始めたのに気が付く。
(エッ? な、なに?)
三日月は恐る恐るそのヒヤッとの正体を、ゆっくりと目で辿る。
「……ユイリア」
そう、それは王妃のとてつもない負のオーラ。周囲が凍り付くような冷たい顔で第三王女、ユイリアの名を呼んでいた。
「あっ! は、い。お母さまぁ……?」
ユイリア様は「やってしまった」とお顔真っ青で、目を瞑る。
すると深く大きな溜息と、娘に言って聞かせる“母”の声が聞こえた。
「ユイリア、『なんか』とは何です。どうしてあなたは……いつも言っているでしょう? 身分など関係ありません! 皆、このルナガディア王国を一緒に支える仲間です。いい加減に考えを――改めなさい!」
噴水広場に響き渡る王妃の美しき声……しかし容赦のない徹底的な躾。
――あれ? この感覚、どこかで。
王妃の発する優しさの中にも厳しさを併せ持つその飾らない雰囲気に三日月は、急に胸が熱くなり懐かしさを覚えた。
「うぅぅ。カイリィ~!」
仲直りしたばかりの愛する婚約者に泣きつくユイリアを「はいはい、よしよーし」と、カイリは優しく受け止め慰めている。
(あぁ~本当に仲良く戻られて良かったですねぇ。あはは)
少し気が抜けてしまった三日月の表情は、不自然な笑顔に近い。
すると黙って見ていたメイリが口を開く。少しだけ震えた声で涙をこらえながらユイリアの母、王妃に話しかけた。
「恐れながら王妃様、私のような者の発言をお許しください。ユイリア様は私が付いていながら、いつもこのような状況に……王妃様が、ユイリア様のお世話役を、信頼して一任して下さっているというのに。私は、きちんと責任を果たせずに。本当に申し訳ありません」
メイリは今にも零れそうな涙を必死でこらえ、深く頭を下げる。
突然の謝罪を聞いた王妃はとても驚いた様子でメイリを見つめた。そして、ほんの少し口元を緩め優しい声と表情に変化し、声をかけた。
「何を言うの、メイリ。あなたがいてくれるから、わがまま王女のユイリアを、安心してこの学園に通わせられるのです。この子の天真爛漫さゆえに、周りは大変苦労が多いわ。しかし、そんな中でも、学園では皆に愛され、慕われているようですし。その全てはメイリ、あなたのおかげだと。私は心から思っていますのよ」
そう話す王妃は「いつも感謝しているわ」とメイリを抱きしめ、不思議な魔法を唱えた。
「心より感謝を――【愛】」
その言葉と同時に王妃から発せられた眩い光。
先程まで感じていた冷たい怒りの感情はどこへやら。何もなかったかのように負のオーラは一瞬で消え去り、三日月たちの周りを囲むように『慈愛』の波動が展開される。
――それは尊く、見たことのない輝き。
辺りはその光と共に、『愛』が溢れていった。三日月はもちろん、王妃の周りにいる者たちは皆その深い愛情と温もりを感じ包まれ、穏やかな気持ちになり心は満たされる。
「す……すごい光」
――初めて感じる“感情”
三日月は今までに経験したことのない感情にドキドキしながら、考えていた。
(感動? とはまたちょっと、違う気がする)
これまでこんなに心が満たされたことがあっただろうか? そう思うくらいに胸は高鳴りそして、驚いていた。
普段は自分の好きなこと以外には、あまり興味を示さない。しかしたった今、目の前で起こっている魔法に心を奪われ、そして好奇心をくすぐられる三日月。
――【愛の魔法】なんて、聞いた事ない!
「お、王妃様!! 私にはもったいな……」
メイリがそう言いかけると、王妃は「いいのよ」とまるで大切な花を愛でるように優しく、彼女の頭を撫でた。
「今回も色々とあったのでしょう、こんなに疲れきってしまって。頑張ってくれたのねぇ。心の中では、あなたは私の可愛い“子ども”なのですよ。もっと……いつも甘えなさい」
そう優しく語りかけていた。
◇
メイリの周りにはいつも、数粒の守護精霊の光が浮かんでいる。警戒心がとても強い彼女は、付け入る隙がないほどにいつも気を張り巡らせている。
その真面目な性格と堅実さ、冷静な判断が出来ることから、周囲の信頼はかなり厚い。そしていつの間にかその期待という名の重圧を背負う覚悟が、メイリを難しい顔をするようにさせていたのだ。
だが今の、王妃の愛を受けるその表情は――信じられないほどに柔らかく和らぎ、まるで小さな子供のように王妃の腕の中に抱かれ安らいでいた。
――昔はもっと笑って、無邪気に走り回っていたのに。
◇
「それで、ユキトナをお誘いして下さった方とは?」
(あぁついに太陽君が! どうしよう)
「あらっ? あなたは、もしかして」
(んっ? なんだか王妃様の様子が……)
「はい、ご無沙汰しております。太陽です」
「やはり! あらあらぁ~大きくなって!」
「はは、王妃様。覚えていて下さり、大変光栄に存じます」
「皆様、お変わりありませんこと?」
「ええ、おかげさまで皆、変わりなく過ごしております」
「オホホホ、そう! よかったわ~」
「えぇっとぉ?」
この会話を聞いて驚かないはずはない。まるで以前から知っていたような話しぶりの太陽の姿に、三日月の頭の中はちょっとしたパニックを起こしていた。
(王妃様と太陽君が、なぜ?!)
――親しそうに、おしゃべりなさっているよぉ?!
一体、何が起こっているのか? その場にいた誰もが状況を飲み込めずにいたのだった。
いつもお読みくださりありがとうございまぁす♪




