40 文化交流会2日目~癒しとは~
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――あ、いい香り。
大好きなフレグランスに、三日月は心地良く目覚めた。
「あれ? ここ……」
仰向けで寝たままに見える天井は、見慣れた自分の部屋ではなかった。しかしどこかで見たことのある景色。
「ここ、どこだっけ?」
まだ少し思考は鈍く体は重い。そして頭はぼーっとしている。これが目覚めたばかりだからなのか? それとも魔力消耗のせいなのか? 三日月は今、その理由を考えることすらも億劫で、身体も動かない。
フワッ……。
――あ、私の好きな甘い香り……これ珈琲かな?
(あぁ、なんて落ち着くのだろう)
そう心地良く感じながら再び目を閉じる。このままだと、また眠ってしまいそうだな、なんて思いながら穏やかな空気にすっかりスラックスモード。
ふと、先程見えた天井が頭の中で過ぎった。
(ん? ちょっと待って。あの景色って――こ、ここって!!)
「まさかぁぁ?!」
叫び飛び起きた三日月は、大変なことに気付いたのだ。
この寝心地の良い穏やかな空気の場所が、先程お邪魔したばかりのラフィールの部屋だという事に。
「あらあら~? 月さんビックリ! お目覚めのようですねぇ」
隣の部屋からだろうか。少し遠くの方から声が聞こえた。
「あ~、ハィ……」
(大声で飛び起きてしまったぁ)
そんな自分がとても恥ずかしく、今はまた布団をかぶって顔を隠す三日月は、声が小さくなっていった。
そして思う。ここにいるということは? 寝ていたのか、気絶していたのか? いずれにせよ迷惑をかけてしまうような結果になったのだろうと悟った。
(せっかく【鍵】の使用許可も頂けて、自分の魔法を使える初めての大会だったのに……)
「いやいや! そんなことより私、どうしてここにいるの?」
ぼそぼそと独り言をいいながら、三日月は自分の行動や状況分析に入る。
――まずは思い出さなくちゃ!
布団から顔を出すと、どこかに時計はないか? と探す。そこで壁に掛けてある時計を見つけ時間を確認。あぁ~と溜息をついた。時間からすると大会があったのは、やはり少し前の出来事。忘れる方がどうかしている!! と、三日月は必至でここに来るまでの記憶を辿った。
「えーっとまずは、予定通りに大会に参加して、的の攻撃戦が終わって『成功した!』って喜んで」
――あの魔力の矢が飛んできて、ユイリア様を助けた?
頭の中が混乱していた。それでも一生懸命に思い出そうとした三日月だったが、自分がなぜ今、ここにいるのか? この大きな謎が解けない。悩み続けた結果「分からないよぅ」と、しょんぼり落ち込んでしまった。
「ふっふふ、どうしたのですかぁ? 可愛いお顔が台無しですよ~」
「わぁ!!」
突然の声に驚き、動揺する。
眉間にしわが寄るくらいの困った顔で考え込み悩んでいた三日月。部屋の前にいるラフィールの存在に全く気付いていなかった。
(いつもと変わらない、明るくて優しく透き通った声だなぁ)
「ラフィール先生……あの」
「え~? さてさて月さん。初の大会頑張ってお疲れでしょう? 今回の珈琲は、モカを入れてみましたよ。こちらのお部屋へいらっしゃいな~」
――あぁ、この独特な甘い香りの正体は、モカだったんだぁ。
(でも私が、いつも自分で入れるコーヒーとはまるで別物?! 香りが違う、全く違うのです!)
「こんなにフルーティーで、甘い香りはしないよ?」
コーヒー好きがゆえの悩み。三日月はまた、はぁ~と溜息をつく。モカと言っても色々と種類があるのだが、しかし! ここまで差が出るのだろうかと思ったのだ。やはり豆が違うのか? それとも挽き方か。
――いい香り~って、心地よ~く目が覚めたくらいだから、きっとラフィール先生の腕がいいのねぇ。
「何でも出来るラフィール先生って、本当にすごいよぉ」
と、また溜息をついてしまう。すると何やら楽しそうな声が聞こえてきた。
ガチャッ、バターン!
(ハイッ! これ、どこかで聞いたことのある音ですねぇ)
「みっかっじゅきぃ~♡」
「おっはっにゃあ~ん♪」
相変わらずの双子ちゃんに、その可愛いさに。いつもながら癒されていた。
「あ、あははぁ。でも一応、おはよう……かな?」
(って! ここは私のお家じゃないのよぉー?!)
「「ねぇねぇ~ラッフィー♪」」
エッ?? “ラッフィー?!”
「メルルはオレンジジュースがいい!」
「ティルはアップルがいい~なぁ〜!」
「はいは~い♪ 分かりましたよぉ」
(何? なに? どういうコト?)
――色々と理解が追いつかないよぉ!
「太陽さんも、モカでよろしいですか?」
ふと、聞こえてきた話し声。
「いえ、先生気にしないでください! 自分の事は銅像とでも思っていただければ」
「うふふ~、太陽さんは変わらず、面白い方ですネェ♪」
ではでは、モカですねぇ~♪ と、和気あいあいな会話だ。
三日月は気付いた。「エッ、太陽くんもいたのぉ?」と。
寝かせてもらっていたベットの上から、後ろを振り返る。すると、私がいる部屋の扉前で姿勢良く立つ、まるで番人のように凛々しい顔つきの短髪赤毛、立派な体格の男の子が目に入った。
(あっ、違った? 二十二歳と知ったので、お兄様と言うべきでしょうか?)
三日月はゆっくりと起き上がり、ふわふわの絨毯に足をつけた。隣の部屋へ向かいながら、ふと皆の顔を見る。
いつもと変わらない笑顔のメルルとティル、そして太陽がいた。
(あぁ~、みんながいる……いてくれる)
自分がここにいることは、未だに驚いていた。しかし友情を確かめるように、今ここで一人じゃないことが、ちょっぴり嬉しいと思う、三日月であった。
バスティアートの案内で明るい部屋に入ると、フルーティーで甘い珈琲の良い香りが漂う。三日月はどうぞと言われ、ふかふかのソファに座った。
すると待ってましたぁ~! と言わんばかりに走ってきたメルルとティルがパフッ♡ 両側から、二人の細く小さな腕に包み込まれる。
「ん~? どうしたの二人とも」
その温かさが嬉しい三日月は、ほや~っと笑いながらメルルとティルの顔を見た。
「「みっかじゅきぃーしゅきー♡」」
ぎゅうううう♡
(あっはは~、愛の告白をされちゃったよ)
「ありがとぉね。私も、メルルとティル大好きよぉ~」
いつも二人の独特の愛情表現に、三日月は嬉しくて頬が染まり熱くなる。
そして、疲弊していた心は、ぽかぽかと温かく力が湧いてくるようだった。
「どんなに強い能力・魔力を持っていようとも、敵わない事があるものですね」
ラフィールは嬉しそうに、独り言のような小さな声で太陽に話しかけた。
すると真面目な太陽が慌ててラフィールの言葉に答える。
「ラフィール先生はこの学園――いやっ! 王国でも名高く、力のある上級魔法師様です。月も完全回復しており、その回復魔法を近くで拝見でき、自分は感銘を受けております!!」
それを聞いたラフィールは一瞬、目を丸くした後に吹き出す勢いで笑った。
「違うのですよ、フフッ。太陽さん、君も本当に素直で真面目な方です。 月さんのお友達が、あなたのような立派な騎士さんで安心ですね」
「は……あの?」
「ふふふっ♪」
「では先生。その、敵わないというのは?」
「えぇ~。あの二人をご覧なさい。力を何も使っていないのです。しかし、月さんの心は癒され、満たされている」
それを聞いた太陽はハッと、何かに気が付いた。
「力――すなわち能力や魔力では超えられない。成し得ないこと、説明しきれない何かが、この世界にはきっと……あるのでしょうね」
ラフィールはそう言うと幸せそうな表情で目を細め、三日月とメルル・ティルの三人を見つめていた。
「そう……ですね。自分もそう思います」
落ち着いた、静かな声で返事をする太陽。
この一年と少しの間、いつも学園では一緒に過ごしてきた四人。
(その力ではないメルルとティルの“力”を感じる時は、あったな)
太陽自身もまた二人に「癒されている」と感じ気付く瞬間があったのだった。
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