37 文化交流会2日目~光の矢~
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魔法アーチェリー大会も、攻撃残り時間一分半を切った。
訓練の森中に響き渡るほどの盛り上がりで、観客の応援する声も参加者の攻撃も、最高潮に達していく。
攻撃の終わっていない参加者たちが焦りを感じる中、三日月はまだ一本も攻撃を終えていなかった。
「ねぇ、どうしたのかしら」
「あ~あの綺麗な弓を発動した子?」
「本当、動きが無いわ」
「あれ、慣れてないんじゃないかしら?」
「だって見て! グローブも弓を持つ方に着けているわ」
「ふっふふ、それって見掛け倒し?」
ひそひそと話す周りの声に、メルルとティルが気付く。
「ねぇねぇ~めるん」「うんうん~てぃるん」
「「な~んか、やーやー! プンプンねぇ」」
勝手な想像で三日月のことを色々と言っているお嬢様方に対して、二人はぶぅー! と、ピンク色の頬を膨らまし「何にも知らないじゃん!!」と、ちょっぴりご機嫌斜めだ。
攻撃(挑戦)を終えた他の参加者たちは、さっき開始前に『頑張ろうの応援を送ってくれた子』という認識で、まだ一本も射っていない三日月のことを、遠くから心配と応援の眼差しで見守っていた。
唯一、厳しい目で見ているのは他でもない。隣にいるユイリアだけ。
そんな周りの心配やざわめきに気付くことなく、自分の世界に入り込んでいる三日月は、ゆっくりとマイペースに、矢を射る準備に集中していた。
この瞬間、魔力を使用する恐怖を上回るくらいのドキドキと、自分の魔法が試せるチャンスが出来たことに、三日月は今までにないわくわくを感じていた。
せっかくなら「素敵な魔法にしよう♪」と考え、自分にどれだけの力があるのか? 楽しみになっていた。
(そろそろ魔力、溜まったかな~)
「よしっ! いい感じ」
三日月は自分の腕や手のひらを確認し、気持ちを入れる。
しかしなぜ? 三日月の準備は、こんなに時間がかかってしまったのか。
それは大会で使用する高魔力の矢は、一本創り出すのに時間がかかる。しかし三日月にとってこの高魔力の魔法を使うこと自体が初めてのようなもので、「一本ずつでないと無理」という考えがなかった。
「左手の魔力は十分。なるべく短い間隔で三本射れば、同じ場所に当てられる気がする。最初……そう! 最初の一本目さえ高得点に当てられれば」
と、呟く三日月――そういう訳である。三本の矢を一気に飛ばすために、力を溜めていたのだった。
その表情は自信に満ち溢れ、喜んでいるようにも見える。
魔力の準備が整い、いよいよ矢を創り出すためのオリジナル魔法を唱えた。
『ライトアロー!!』
キラキラと光輝く矢が、左手に現れ三日月の手に握られた。そして一瞬でそれは消え去っていく。
「うん! イメージ通り」
――――キラッ! シュッシュッシュッ……。
誰も予想できないくらいの、早いスピード。
その矢は美しい光のラインを描きながら、ほとんど音もなく、的へ向かって真っ直ぐに【光矢】は射られた。
狙い通り、三本とも同じ場所。そして一番高い得点の的へ当たっていた。
三日月のオリジナル魔法。
【弓魔法】、そして【光矢】は、見ていた全ての観客に感動を与えていた。
「やったぁぁ!! 綺麗に飛んで行ったよぉ。成功したかな?!」
その時ふと空の上からの視線を感じた三日月。その正体は、魔力暴走の監視という名目で、上空から優しく見守っていたラフィールだった。三日月は両手を広げ、見上げる。
すると、ラフィールは「大丈夫」と言うように、そっと頷いた。
(良かった! こんなに達成感もあって、こんなにわくわくして)
「魔法ってすご~く、楽しい♪」
三日月は嬉しすぎて表現しきれないその気持ちを喜色満面、両手で自分の頬を包んで感じていた。
◇
その頃、太陽は当然のごとく驚いていた。
「あれが月なのか? 凄すぎるだろ。なぁ~セルク」
「えぇ、これは予想以上でした。正直僕もさすがに少し驚いています」
「マジか? 少しってお前」
「本当に見惚れるような、美しい光でしたね」
「あ、いやそれは分かるんだが。セルクの驚きってそっちかよ」
今日は太陽にとって、驚くことばかりが続いている。今は目の前で起こった三日月の成す魔法に、心を打たれていた。
その高揚した気分に浸っていると突然、三日月のいる会場から叫び声が聞こえてきた。
「早くッ! 避けてー!! 逃げてぇ」
「あぶない!!」
「きゃあああ……」
――「ユ、ユイリア様ぁ!!!!」
「んなっ、何だ?!」
激しい悲鳴。
太陽たちがその叫び声に気付き会場の方へ目を向けた時には、もうすでに何が起こっているのか? 全く分からない状態だった。
「セルク、何が起こった?!」
「こんなこと……いや、すまない。僕にもよく見えなかった」
セルクには何が起こったのか? 心当たりはあった。が、確実ではない情報を太陽に伝えるわけにはいかない。それはセルクが動揺するほど信じられないことだった。
(会場が少しずつパニックになりかけてきている)
このままでは危険が……そうセルクが焦り始め、三日月の元へ行こうとした、その時――。
「待ちなさい、セルク」
三日月の攻撃が終わりすぐに地上で待機していたラフィールが、険しい表情でセルクの元へ降り立ち、命じた。
「詳細は後程。君は先にロイズ先生へ報告を。場所は分かるね?」
三日月のことが気がかりで仕方がない。しかしセルクは平常心を保とうと、目を閉じた。
「……承知しました」
その返事を聞くとラフィールは、三日月のいる会場へと急いで向かった。
「おい、セルク大丈夫か?」
さっきまでとは違う“負”の様子を感じ取った太陽が、心配そうに話しかける。
すると急にセルクは、冷たい空気を身にまといながらも笑顔で答えた。
「太陽。僕がこんなことを言うのは大変おこがましいのですが。三日月のこと、頼みます」
それを聞いた太陽は、少し怒り気味。
「セルクお前、何言ってんだよ! そんな俺たちの前で、無理して笑わんでいい」
――本当に、なんて自分に正直な人なんだ。
「うん、そうだね」
そして太陽は「俺に任せとけ!」と言いながら、セルクのことも気にかけていた。
「その~何だ。よく解らんが、気を付けて行って来いっ!」
セルクはフフッと微かに笑いながら「あぁ、ありがとう」と言った。
そして同じく、心配しているメルルとティルの頭をヨシヨシと撫でると、セルクは足早にその場を立ち去ったのだった。




