36 文化交流会2日目~約束~
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ユイリアは、釈然としない気持ちのまま最後三本目の矢を右手から発動する。そして、いつも以上に強い魔力を込め、固く握り締めていた。
その理由は、三日月への複雑な思いだった。
二本目の矢を思い通りの的に当てた後、「今年も余裕ね♪」と三日月の方を向いたユイリアは、自分の目を疑った。
目の前に広がる美しく優しい光の円。そこに映る三日月の魔力、そして魔法(三日月形の弓)を、目の当たりにしたからだ。その美しく洗練された弓魔法に、思わず心を奪われそうになる。ハッとしたその瞬間、ユイリアの表情は一変した。そして、珍しく動揺したのだった。
「な、何よ!! そんな弓……私の方がすごいんだからッ」
(ホント何なのかしら? この子!)
これまで様々な大会に参加し、優秀な成績を収めてきたユイリア。いつもなら最後の一本を射る時に、観客を楽しませるためのダンスや派手なファンサービスを披露しながら、的への攻撃をする。
拍手喝采の中、まるで「主役!」というパフォーマンスを見せるのだった。
しかし、この大会では。
ふつふつと湧きあがるライバル心、そして追いつき追い越されるのではないか? という焦る気持ち。そんな状況で気付いた自分の中にある感情。「本気で勝負をする」という三日月の姿勢を感じ、ユイリアは初心を思い出したのだ。
久しぶりに感じる緊張感。弓に力を込め引くと、的の中で一番点数の高い場所を真剣に狙う。
――ここだわっ!
思いっきり弦を放ち、三本目の矢を的へ射った。
シュパー……ンッ。
「「「キャ~♡ ユイリアさま~!!」」」
なんだかんだユイリアの技術レベルは文句なしに高い。観客皆の予想通り、射った全ての矢はもちろん高得点の的に当たっている。
そして攻撃時間を二分も残し、あっさりと攻撃を終了した。
「的を見て! あれは絶対高得点ですわ」
「やはり、ユイリア様は特別ですよ!」
「あぁ~しかし珍しいな? いつものパフォーマンスが」
「そうそう、結構楽しみにしていたのになぁ」
いつもの大会通り、華麗な弓さばきを魅せたユイリア。ファンサービスはなかったものの、観客やユイリアのファンから発せられる大歓声が、訓練の森中に響き渡っていた。
「「「ユイリアさまぁ~!!」」」
◇
「どうやら、ユイリア様の挑戦が終わったようですね」
セルクは表情ひとつ変えず、淡々と大会の状況を話していた。
「あぁ、そやなぁ」
その隣で呆気にとられたような顔で聞く太陽。返事はするが、うわの空である。そんな様子を全く気にすることなく、セルクは話し続けた。
「他の参加者は……さすがにまだ二本目準備、という感じでしょうかね。太陽はご存知かもしれませんが、魔法アーチェリーは通常魔力の持ち主が発動した場合、単発用の矢一本に込める魔力量が多い。それは一本の発動に時間がかかるということ。ましてやそれが五分間に三連続ともなれば、やはり結構な魔力と体力の消耗がある。それに」
説明を続けるセルクに対し、ぽかーんと魔法アーチェリー大会を観戦していた太陽は、ハッ!! やっと我に返りセルクに疑問を投げかけた。
「い、いや待て、待ってくれセルク。そんな悠長に……とは言わないが、魔法アーチェリーの知識……も、ありがたいことなんだがぁ――しか~しッ!! 今、説明してる場合かぁ?!」
「…………?」
セルクは何かあったかな? という不思議な顔で太陽を見ている。
その冷静さを表情から感じた太陽は、首の後ろに手を置き「まいったなぁ」の姿勢で大きな溜息をついた。そしてセルクの顔にもう一度ゆっくり目をやると再度、項垂れた様子で話す。
「やっぱよぉ……お前って、な~んかどっか皆と違うよな?」
その意味深な太陽の言葉にも、セルクは「えっ、そうかな?」と、爽やかな笑顔で答える。
まるで何事もないようなその表情に「こりゃ~まいった!」と、太陽はなぜ自分がこんなにも驚いているのか? 解説を始めた。
「いやぁ~だってよ? ここからでも感じた月の魔力、魔法、弓技……。どれをとってもあれは人並み以上だろ? 確かにいつも魔法の授業だけ別だったからなぁ、何かあるんだろうとは思っていたんだが。すげ~よな? あいつ」
ここまで話して、またセルクの顔色を窺う。
しかし表情は変わらず、爽やかな笑顔が太陽に向けられたままだ。
「うはぁ……」
少し困ったが、太陽は続きを話し始める。
「あいつは能力も高い。精霊様とも、話が出来るだけじゃなく、歌まで一緒に歌うお友達ときた。普通、じゃあない気がするんだが。そこんとこどう思うよ? セルクは」
「…………」――にこにこ。
涼しい顔で、受け流された。
「あぁ〜もう、分かった、分かったよ。俺が悪かったッ! もう、この話は終わりだ」
俺はびっくりしてるんだがな? とちょっぴり寂しそうな声を出す太陽。
太陽の本心を感じたセルクは、何かを確信したようだった。
そして、静かに言葉を発した。
「太陽は」
その囁くような小さな声に、んっ、どうした? とセルクを見る太陽。
「きっと太陽は、好奇心や詮索で知りたがっているのではなく、ただただ純粋に――月の身を心配している。でいいのかな?」
セルクは、三日月の戦う会場の方を眺めながら、そう言った。
すると太陽は白い歯を見せニカッと笑い、右手でグッドポーズ。大きな声でハキハキと自信満々で答える。
「そりゃあそうだろ? 大切な友達だからな!」
それを見たセルクは安心したように「フフッ」と笑った。
「勝手ながら、太陽君。君とはこれから先長い付き合いになりそうな気がするよ」
「「「エェ♡ つきあい?」」」
太陽、メルル、ティルの攻撃が開始された。
「ちょっ! 変な意味では」
「にゃあ~ん♪」「かぁわい~セリィ♪」
「「ほっぺ~、あかぁーい♡♡」」
キャッキャッと笑い転げるメルルとティル。
揶揄われ頬を赤らめて怒るセルクの姿を見て、楽しむ三人。いつもは冷静沈着な彼だが、メルルとティルにはめっぽう弱いのである。
「さ~て、冗談はこれくらいにして。長い付き合いになりそうな、セルク君」
太陽の低い声に少しだけ、場の空気が張り詰める。
「なんでしょう?」
変わらず、爽やかな笑顔。そんなセルクに太陽は、核心を突くような質問をした。
――「お前さ、何者?」
太陽の飾ることなく思ったままの言葉で言う質問にも、セルクは全く動じる様子はない。顔色一つ変えずにただ一言だけ、答える。
「信じてほしい」
「信じているさ」
考える間もなく真面目な顔で、すぐにそう答えた太陽の顔を見て、セルクは珍しく驚きで蒼い瞳を輝かせた。そして柔らかな表情で笑いながら言った。
「太陽は真っ直ぐで、正直すぎて、噓はつけなさそうだ」
「おぉ~分ってるねぇ、坊ちゃん♪ その通り! 嘘は嫌い、大嫌いだな。それこそ敵だ」
ははっと笑い合い、沈黙する二人の時間。
しかしすぐに、セルクが口を開いた。
「近々必ず、太陽には全てを話すと約束しよう」
その言葉に太陽は、何言ってんだ~と背中をポンっと叩いた。
「全てとか言わんでいい。無理に教えろとも言ってない。まぁでも、いつか気が向いて俺に話してくれるんだったら、そりゃ嬉しいってもんだ!」
いつものように白い歯を見せニカっと笑う太陽の優しさに、セルクは嬉しく温かい気持ちになっていた。
そして二人は、笑顔で話し終える。
そのすぐ後セルクの表情と雰囲気が急に変わった。
「太陽、そろそろ月が攻撃しますよ」
「やばっ! 観てなかったな~……って?! 残り一分ないぞ! 月、大丈夫なのかよ、間に合うのか」
「大丈夫ですよ、太陽。三日月を、よく見ていて下さい」
「お、おう。ていうかセルク、よくそんなに分かるもんだな!」
太陽の様々な疑問。セルクはその言葉にもフッと笑い、すぐに厳しい表情に戻る。
「……きますよ」
――――キラッ。
三日月の放ったその光は、的への攻撃は。
誰も予想できないほどのスピードと、息をのむほど美しく煌めいた。そして音もなく静かなその光は、見る者の心を奪い魅了する輝き。
それは一瞬の――奇跡であった。
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