必話04 不穏な空気
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『パーンッ!!!!』
「「「――うおおぉぉぉぉぉ」」」
「「「キャ〜ッ!! 頑張ってぇ!!」」
「おやおや! 随分、訓練の森で開催中の大会はぁ〜……盛り上がっていますねぇ?」
そう話すのは、この学園の最高責任者である、理事長だ。
理事長は数人の交流会担当者たちを連れて、学園内の高台にあるお洒落なカフェテリア風テラスで素敵なガーデンパラソルを差し、思い思いの飲み物を片手に皆くつろでいた。そして月の参加している魔法アーチェリー大会の盛り上がる様を見下ろし、上機嫌である。
――すると突然、理事長の目の色が変わった。
その場にいる交流会担当者たちは嫌な予感がした。良くも悪くも理事長のいつもの“癖”が出る、そう思ったからだ。
「おやっ? あの足元に浮かんで見える、丸くて〜? つよぉ〜く煌めく魔力の光がひと〜つ」
一番近くにいた一人が、その言葉にギョッとすると、目を合わせぬようにしながら後ずさり始める。
「あれはまるで……そう! 満月!! まんまるお〜つき様ぁ♪ の、ようだねぇ。う~んあぁ〜とても美しいよ」
そう言うと理事長はいきなり振り向き、後ずさっていた者の肩を掴み、強めの声で話す。
「おい、君。あのブロンドの髪色の生徒、誰だか分かるかい?」
(恐ろしい、恐ろしすぎる!!)
皆、聞こえずとも心の中は同じ気持ちであった。
「ハッ、ハイッ! えーはい、すぐにお調べします……え、え」
ここにいる者は理事長が怖いのだ。随分慌てた様子で、事務局担当者はパラパラと名簿ファイルをめくり探す。
「少々、お待ちくだ……さ……」
顔色が変わる担当者。驚き、動揺し始めた。
「んっ? 何だ、どうした?」
黙る担当者に、怪訝な表情を向ける理事長。
「あっ、いえいえいえ!! その〜……」
とても言いにくそうに、口籠っている。
「なんだ?! 気持ちの悪い態度を取るなっ! 早く言わないか」
少し怒った様子で詰め寄ると、恐ろしい形相になっていく。
はっはい! と、担当者は話し始めた。恐怖で震える手に持つ名簿を、落とさないようにと必死に抱えながら。
「こ、この生徒ですが、あの、一般クラスの……民間人の生徒です」
まさか、理事長様の興味を惹いた生徒が、民間人である『一般生徒』だとは、とても言いにくそうに伝えていた。
「ほぉ~……」
気に触ったのではないか? このまま何かが起こるのではないか? 固唾をのんで見守る交流会担当者たち。
「は、あ、理事長様!! 申し訳あ……」
とりあえず謝っておこうと口を開くが、すぐに遮られ重い空気が流れる。
「一般クラス生徒にしては、珍しい魔力? いや魔法の持ち主だ。名は?」
理事長は、詰め寄った体制を直すと、少し愉快そうに、顎に手を当てながら言葉を返す。
「はい! 名簿には――【セレネフォス=三日月】と書いてあります」
「“セレネ……”はぁ~!! なるほどねぇ、フフッ」
(((う、うわ~恐ろしい含み笑いがぁ)))
背筋が凍るほどの不気味な笑みを浮かべる理事長。そばにいた皆が恐怖を感じる。
――このままでは危険だ!
そう思った担当者の一人が、勇気を出し恐る恐る声をかけた。
「あ、あのぉ〜、理事長?」
すると一瞬で、我に返り何事もなかったかのように、いつもの余裕で品のある表情に戻る。それを見た周りにいる全員がホッと、胸を撫でおろした。
「あ~いや、気にしないでくれ。手数をかけたな、ご苦労」
薄笑いで返事をすると、手に持っていた白いティーカップをソーサーに戻した。
「い、い、いいえ!! 私にはもったいない労いのお言葉。ありがとうございます」
担当者はとても、とても丁寧に。そして深々と、お辞儀をする。
――まさか? とは思っていたが。
「ついに見つけた。私はこの未来をずっと待っていた」
理事長は口元を緩め、ニヤリ。
(まぁ、まずはユイリアに勝てるかどうか。話はそれからだが)
「お手並み拝見と、いこうじゃないか」
理事長は、小さな声でボソッと呟いた。