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34 文化交流会2日目~声~

お読みいただきありがとうございます(*'▽')

♪こちらのお話は、読了時間:約7分です♪


(Wordcount3140)


 参加者の名が次々と順番に呼ばれていく。


 技術測定担当講師が発する声は、今までに経験したことがないほどの緊張感を放っている。そしてその声は三日月の心に、苦しく押しつぶされそうな、そんな恐怖のような感情をも与えていた。


「次、ルナガディア=唯莉愛(ユイリア)、準備」


「「「きゃー! ユイリア様~!!」」」


 ユイリアの名が、会場である訓練の森に響き渡る。その名を聞いた取り巻きお嬢様方の黄色い声援。それにユイリアはすました顔で手を振り応えていた。


 そして、そのアナウンスを聞いていた観客の一人が、急に慌て始めた。


「ん? ……ってぇ、ちょい待てーい!」


 その慌てた声の正体は、太陽である。

「聞き捨てならぬ!」と、身を乗り出してセルクに飛びつく。


「おっと、太陽! どうしたの?!」


「涼しい顔してよー! 『どうしたの?』じゃあないぜ?! おいおい、セルク! 【()()()()()()】って、まさか」


 太陽は自分の耳を疑う顔で、セルクに質問をした。すると爽やかな表情と、いつもの落ち着いた声のトーンで、セルクは答える。


「えっ? あぁ、太陽の考え通りだよ。ユイリア様はルナガディア王国、国王様の娘、()()()()ですね」


「「「えぇぇー!」」」


 太陽、ついでにメルルとティルまでビックリ仰天!


「そうか。たまげたな……あのお嬢様がねぇ」


 とてもじゃないけど、信じられないという表情で、しばらく呆然としている三人。それを見ていたセルクは、笑いをこらえられず「あははは」と笑うと、太陽の背中を軽くポンッと叩いた。


 そしてスタンバイをする会場を、真っ直ぐと見つめながら呟いた。


「頑張れ、三日月……」と――。



 会場では大会の準備が、スピーディーに進んでいた。


 そしていよいよ、挑戦へのカウントダウンが始まる。


『制限時間五分、攻撃は最高魔法レベル以外であれば他属性自由、自己発動による魔法の弓、矢を使用、自分の前にある(ターゲット)へ射た矢の点数のみ成功とする。矢は三本まで』


 参加者へ、注意事項のアナウンスが流れた。


 大会では必ず、観客の前に念の為“守りの魔法線”が引かれる。

 通常、魔法線から内側に入る事はまず不可能。万が一に何か事故等が起こった時のため、安全性を考慮し引くものである。


 アナウンスから程なくして、魔力で作られる的の作成には、魔法科の先生が三人がかりで準備に取り掛かった。


 パァンッ――!!


「「「うおおぉぉー!!」」」


「おい、あの的すごいぞ!」

「キャー! 見てぇ星型よ? 可愛い」

「素敵、お美しいですわねぇ」

「やはりこの大会を見に来て、正解でしたわぁ」


 観客たちは今年の、特別仕様である美しい的に興味津々。


「誰が勝つんだろうな?」

「そりゃ、ユイリア様だろ!」


 そしてやはり、期待の目は魔法アーチェリーを得意とするユイリアへ向けられていた。



「うぅん。観客席の声が、耳にすごく響いて」


 月の耳に響いてくる音。それはカイリとの騒動があったあの時と同じ、強い痛みとなって襲ってきた。人の大きな声が、なぜか? ()()()のである。


(いろんな声が、音が聞こえる。耳が、痛いよ)


 ふわぁ~……っ。


『だいじょうぶです、護ります。安心して集中なさい』


「エッ、だ、誰?!」


――何だろう? 今の声。



 不思議と三日月が安心できる声が、頭の中に広がった。すると、苦痛になっていた大きな音も、痛くなりかけていた耳も。薄く、軽く感じるようになっていったのだ。


(何か分らないけれど、調子良くなってきた!)


「よし……集中、集中。行こう」


 準備に入ろうと、魔力集中を始めようとした、その時!

 参加者一人一人の前に【星型の魔法の的】が現れ始める。皆の意識が一瞬で的へ集まった。が、しかし。


――ち、ちょっと……!!


「これって、この距離って? 的まで遠過ぎじゃないですかぁ?!」


 驚きすぎて、思わず心の声が口から出てしまった月三日月。すると、すぐ隣でスタンバイしていたユイリアが、こちらを見て大笑いしている。


「おーほっほっほ。や~ねぇ、月さん。今年は先生方の意気込みが違いますのよ。そーれーにっ♪ (わたくし)からも特別にお願いをしておりますの」


「それは、どういう事でしょうか?」


 月はその言葉を聞いて、珍しく厳しい表情で答えた。しかしそんなことはお構いなし。フフンッとユイリアは笑うと、続きを話し始めた。


「毎年、大会内容が一緒では面白くないでしょう? ですからあのように星型の的の提案をしたのです。ふふふ~可愛いでしょう? そして、何と言ってもこの()()!! ですわぁ」


 それを聞いた三日月は、ハッと気付く。


 改めて周りの参加者を見渡すと、皆青ざめた表情をしていた。無理もない。大会前に公開されていた、去年までの標的距離は七〇メートル。

 しかし今、目の前にある遠く離れた標的は、恐らく例年の倍以上の距離があると思われた。


(すごい権力圧ですね、ユイリア様。大会の内容を変えることなど、あなたにとっては簡単なのでしょう。しかし、参加する生徒はどうなるの? そんな勝手なわがままで変更してしまうなんて!)


――このお嬢様、信じられない!!


 とはいえこれが本当の戦いなら、予想外の出来事にも迅速に対応できないといけない。


 三日月はユイリアの顔を真っ直ぐに見つめ、宣言するように言う。


「結果が全てだ、ということですよね? ユイリア様」


 その言葉でユイリアは顔をしかめ、怒りをそのまま表情に出した。そして声を震わせながら、三日月にぶつけ返す。


「な、何よ……あなた本当に何なのよっ! 年下のくせに、本当に生意気な子だわ!!」


「えー、はぁ」


(そっか! 考えてみたら私、ユイリア様より年下だったんだぁ。って、もぉ! そんな事は、今はどうでもいいのっ!)


 この時の三日月はいつもと違った。不安などなく、とても強い気持ちで溢れていた。そして正面にある、星型の的に集中を向け直す。


「楽しんで……そうだ、可愛い星型の的に向かって」


――今日ここで、この大会を一緒に戦う皆様! こんな圧力になんて。



『負けないで!!』



 心の声など、聞こえるはずがないのは分かっている。しかしそれでも三日月は、心の中で(この言葉、心、きっと届いて!!)と、祈った。


――『聞こえていますよ』


「ふぇっ?」



『あなたを慕う精霊様たちは、可愛いですわねぇ』

『君の言葉を届いたよ、ありがとう!』

『どなたか存じませんが、勇気が出てきました!』


『『ありがとう!!』』



 三日月はその声に、左右横を見た。初めて会う生徒ばかりなのに、心の気持ちが伝わってきていた。


――そっか、私の心から溢れた言葉を、精霊さんたちが伝えまわってくれたみたい。


(ちゃんとユイリア様以外? なんて賢いのかしら♪)


 そして優秀だと感心するほどだった。三日月といつも行動を共にする精霊たちは、見えない人でも心で感じ聞こえるようにしてくれていたのだ。


 この出来事は三日月の中で何かを呼び起こし、力となり溢れていた。


『ハイッ! 頑張りましょう!!』



「いよいよ本番」ポツリと呟いた。


 三日月はふと何かを感じ、遠く観客席の方へ目をやる。


 痛みも忘れた耳に、優しい音が――“声”が聴こえたような気がしたからだった。


(あれ、もしかしたら星様たちかな?)


 こんなにたくさんの人がいる中で一瞬光って見えた場所。そこに三日月はセルクたちの存在を感じる。


「ありがとう」


 三日月は攻撃の準備に入った。


「始めるよ」

 そう、自分に言い聞かせながら。



――『【(key)】レベルⅡ、解除』



 すると三日月の周りは大きな光に包まれ、地面には丸い満月のような輝きが広がっていく。身体は熱くなり制御して眠っていた魔力が、奥から溢れ出してくるのが分かった。


 ざわざわっ!!


 全員の魔法弓の発動を確認した進行担当の先生が、大会開始の合図を叫ぶ。


 『始めっ!』



 まるで矢のように鋭く厳しい声が、訓練の森中に響き渡る。


 その後大歓声が起こり、観客の応援はすでに熱く強くなっていた。


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