34 文化交流会2日目~声~
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参加者の名が次々と順番に呼ばれていく。
技術測定担当講師が発する声は、今までに経験したことがないほどの緊張感を放っている。そしてその声は三日月の心に、苦しく押しつぶされそうな、そんな恐怖のような感情をも与えていた。
「次、ルナガディア=唯莉愛、準備」
「「「きゃー! ユイリア様~!!」」」
ユイリアの名が、会場である訓練の森に響き渡る。その名を聞いた取り巻きお嬢様方の黄色い声援。それにユイリアはすました顔で手を振り応えていた。
そして、そのアナウンスを聞いていた観客の一人が、急に慌て始めた。
「ん? ……ってぇ、ちょい待てーい!」
その慌てた声の正体は、太陽である。
「聞き捨てならぬ!」と、身を乗り出してセルクに飛びつく。
「おっと、太陽! どうしたの?!」
「涼しい顔してよー! 『どうしたの?』じゃあないぜ?! おいおい、セルク! 【ルナガディア】って、まさか」
太陽は自分の耳を疑う顔で、セルクに質問をした。すると爽やかな表情と、いつもの落ち着いた声のトーンで、セルクは答える。
「えっ? あぁ、太陽の考え通りだよ。ユイリア様はルナガディア王国、国王様の娘、第三王女ですね」
「「「えぇぇー!」」」
太陽、ついでにメルルとティルまでビックリ仰天!
「そうか。たまげたな……あのお嬢様がねぇ」
とてもじゃないけど、信じられないという表情で、しばらく呆然としている三人。それを見ていたセルクは、笑いをこらえられず「あははは」と笑うと、太陽の背中を軽くポンッと叩いた。
そしてスタンバイをする会場を、真っ直ぐと見つめながら呟いた。
「頑張れ、三日月……」と――。
◇
会場では大会の準備が、スピーディーに進んでいた。
そしていよいよ、挑戦へのカウントダウンが始まる。
『制限時間五分、攻撃は最高魔法レベル以外であれば他属性自由、自己発動による魔法の弓、矢を使用、自分の前にある的へ射た矢の点数のみ成功とする。矢は三本まで』
参加者へ、注意事項のアナウンスが流れた。
大会では必ず、観客の前に念の為“守りの魔法線”が引かれる。
通常、魔法線から内側に入る事はまず不可能。万が一に何か事故等が起こった時のため、安全性を考慮し引くものである。
アナウンスから程なくして、魔力で作られる的の作成には、魔法科の先生が三人がかりで準備に取り掛かった。
パァンッ――!!
「「「うおおぉぉー!!」」」
「おい、あの的すごいぞ!」
「キャー! 見てぇ星型よ? 可愛い」
「素敵、お美しいですわねぇ」
「やはりこの大会を見に来て、正解でしたわぁ」
観客たちは今年の、特別仕様である美しい的に興味津々。
「誰が勝つんだろうな?」
「そりゃ、ユイリア様だろ!」
そしてやはり、期待の目は魔法アーチェリーを得意とするユイリアへ向けられていた。
「うぅん。観客席の声が、耳にすごく響いて」
月の耳に響いてくる音。それはカイリとの騒動があったあの時と同じ、強い痛みとなって襲ってきた。人の大きな声が、なぜか? ツライのである。
(いろんな声が、音が聞こえる。耳が、痛いよ)
ふわぁ~……っ。
『だいじょうぶです、護ります。安心して集中なさい』
「エッ、だ、誰?!」
――何だろう? 今の声。
不思議と三日月が安心できる声が、頭の中に広がった。すると、苦痛になっていた大きな音も、痛くなりかけていた耳も。薄く、軽く感じるようになっていったのだ。
(何か分らないけれど、調子良くなってきた!)
「よし……集中、集中。行こう」
準備に入ろうと、魔力集中を始めようとした、その時!
参加者一人一人の前に【星型の魔法の的】が現れ始める。皆の意識が一瞬で的へ集まった。が、しかし。
――ち、ちょっと……!!
「これって、この距離って? 的まで遠過ぎじゃないですかぁ?!」
驚きすぎて、思わず心の声が口から出てしまった月三日月。すると、すぐ隣でスタンバイしていたユイリアが、こちらを見て大笑いしている。
「おーほっほっほ。や~ねぇ、月さん。今年は先生方の意気込みが違いますのよ。そーれーにっ♪ 私からも特別にお願いをしておりますの」
「それは、どういう事でしょうか?」
月はその言葉を聞いて、珍しく厳しい表情で答えた。しかしそんなことはお構いなし。フフンッとユイリアは笑うと、続きを話し始めた。
「毎年、大会内容が一緒では面白くないでしょう? ですからあのように星型の的の提案をしたのです。ふふふ~可愛いでしょう? そして、何と言ってもこの距離!! ですわぁ」
それを聞いた三日月は、ハッと気付く。
改めて周りの参加者を見渡すと、皆青ざめた表情をしていた。無理もない。大会前に公開されていた、去年までの標的距離は七〇メートル。
しかし今、目の前にある遠く離れた標的は、恐らく例年の倍以上の距離があると思われた。
(すごい権力圧ですね、ユイリア様。大会の内容を変えることなど、あなたにとっては簡単なのでしょう。しかし、参加する生徒はどうなるの? そんな勝手なわがままで変更してしまうなんて!)
――このお嬢様、信じられない!!
とはいえこれが本当の戦いなら、予想外の出来事にも迅速に対応できないといけない。
三日月はユイリアの顔を真っ直ぐに見つめ、宣言するように言う。
「結果が全てだ、ということですよね? ユイリア様」
その言葉でユイリアは顔をしかめ、怒りをそのまま表情に出した。そして声を震わせながら、三日月にぶつけ返す。
「な、何よ……あなた本当に何なのよっ! 年下のくせに、本当に生意気な子だわ!!」
「えー、はぁ」
(そっか! 考えてみたら私、ユイリア様より年下だったんだぁ。って、もぉ! そんな事は、今はどうでもいいのっ!)
この時の三日月はいつもと違った。不安などなく、とても強い気持ちで溢れていた。そして正面にある、星型の的に集中を向け直す。
「楽しんで……そうだ、可愛い星型の的に向かって」
――今日ここで、この大会を一緒に戦う皆様! こんな圧力になんて。
『負けないで!!』
心の声など、聞こえるはずがないのは分かっている。しかしそれでも三日月は、心の中で(この言葉、心、きっと届いて!!)と、祈った。
――『聞こえていますよ』
「ふぇっ?」
『あなたを慕う精霊様たちは、可愛いですわねぇ』
『君の言葉を届いたよ、ありがとう!』
『どなたか存じませんが、勇気が出てきました!』
『『ありがとう!!』』
三日月はその声に、左右横を見た。初めて会う生徒ばかりなのに、心の気持ちが伝わってきていた。
――そっか、私の心から溢れた言葉を、精霊さんたちが伝えまわってくれたみたい。
(ちゃんとユイリア様以外? なんて賢いのかしら♪)
そして優秀だと感心するほどだった。三日月といつも行動を共にする精霊たちは、見えない人でも心で感じ聞こえるようにしてくれていたのだ。
この出来事は三日月の中で何かを呼び起こし、力となり溢れていた。
『ハイッ! 頑張りましょう!!』
「いよいよ本番」ポツリと呟いた。
三日月はふと何かを感じ、遠く観客席の方へ目をやる。
痛みも忘れた耳に、優しい音が――“声”が聴こえたような気がしたからだった。
(あれ、もしかしたら星様たちかな?)
こんなにたくさんの人がいる中で一瞬光って見えた場所。そこに三日月はセルクたちの存在を感じる。
「ありがとう」
三日月は攻撃の準備に入った。
「始めるよ」
そう、自分に言い聞かせながら。
――『【鍵】レベルⅡ、解除』
すると三日月の周りは大きな光に包まれ、地面には丸い満月のような輝きが広がっていく。身体は熱くなり制御して眠っていた魔力が、奥から溢れ出してくるのが分かった。
ざわざわっ!!
全員の魔法弓の発動を確認した進行担当の先生が、大会開始の合図を叫ぶ。
『始めっ!』
まるで矢のように鋭く厳しい声が、訓練の森中に響き渡る。
その後大歓声が起こり、観客の応援はすでに熱く強くなっていた。




