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30 文化交流会2日目~警告~

お読みいただきありがとうございます(*uωu*)

♪こちらのお話は、読了時間:約8分です♪


(Wordcount3900)


 セルクの話をしながら食器を片付け終えた三日月に、ラフィールは優しく(ねぎら)いの言葉をかけた。


「わあ~お。綺麗にお片付け、ありがとうございます。お疲れ様でしたね、月さんは、お利口さんですね~」


「いえ、先生がお優しいだけです。そんな風にいつも、色々と褒めて下さいますが、皆さん普通に……」


 すると三日月が言っている途中からラフィールは身を乗り出すようにし、熱く思いを語り始めた。


「いいえ! 月さんは世間を知らなさ過ぎます!」


「うー、えぇ~?」


(驚くほどにグッと力を込めた、説明が始まりました)


「多くのお坊ちゃま~やお嬢様方は、皆さん幼い頃から家には()()()()()()や、お側でお世話をする方がおりますので。お片付けなど()()()()()()()! という世界です。ですから月さんのように、何でもご自分で出来る学生は数少ない……はぁ~そうです、そうなのですッ!」


「ひょ、は、はい~」

 思わず三日月が後ずさりしてしまう程の、すごい熱意だ。


「能力も魔力も、そしてさらにお手伝いまで! まさに月さんは、オールマイティーン♪ に希少な方です。んっふふふ」


「うあ~はぁ……」


(いえ、それはさすがに言い過ぎだと思いますが)


 三日月は気の抜けた感じで「ないないない」と、首を左右に何度も振る。


――あぁ、でもなぁ。


(お手伝いさんかぁ。いいなぁ……お坊ちゃま、お嬢様って、そうだよねぇ)


 上流階級の方々は森から来た自分とはお育ちが違うんだよなぁと、ひしひし感じてしまう三日月からは小さなため息が一つ、漏れた。


(お手伝いさんとか、すごい憧れる~なぁんてね。でも、一人好きの私にはきっと……)


「うっふふ」


(お嬢様なんて呼ばれて、何でもしてもらえるのは素敵だけれど……うん、私には合わない、似合わない、そもそも向いてなぁーい!!)


 そんな憧れ()()()を想像し、妄想していた三日月は思わず吹き出し、笑ってしまった。


「おやっ? 月さん、どうかなさいましたか?」


(ハッ! いけない、一人で笑ってる私って、すごいおかしな人みたいだよぉ)


 三日月は慌てて手をブンブン振りながら、話題をそらす。


「いえいえ! 何でもありません。えーっと、あの、先生! 今日はお忙しい中、急に来てしまったにも関わらずお話を聞いて下さいまして、本当にありがとうございました。それから、こんなに素敵なティータイムまで。贅沢な時間を過ごさせていただき……とっても楽しかったです!」


 その言葉でラフィールの表情は一変する。見たこともないような満面の笑みで嬉しそうにしているのだ。


「そうですか? そうですかぁ?! そうそう、あと特製お菓子は気に入っていただけましたかッ?」


 よほど嬉しかったのか、ラフィールは前のめりになりながら三日月に顔を寄せ質問を投げかけた。


(先生! お顔が、近いです~!)


「も、もちろんです~。えっとでも大切に……あの高級すぎて、えーっと、ちょっとずつ、食べてしまいました。本当に今日は忘れられない、とても美味しいお茶の時間でしたぁ」


 恥ずかしさから頬を赤らめしどろもどろに答える三日月を見たラフィールは、さらに嬉しそうに話す。


「うふふぅ~ん、良かったです♪ またいつでも、ご馳走いたしますからねぇ~」


「う、うへぇ?!」

 いえいえいえ、申し訳ないです! と、両手を振り答える。


「ふふ~♪」


 三日月の慌てる様子にラフィールが微笑むと部屋の様子が少し変化し始め、落ち着いた雰囲気が漂い始めた。


 そして三日月の元気になった顔を確認したかのようにラフィールは、優しく質問を始める。


「さてさて、月さん。気持ちは落ち着きましたか?」


「あっ……はい! そういえば、とても穏やかな気持ちに」


 三日月の気持ちは変化していた。ここへ来た時とは雲泥の差で自然と笑顔が零れるまでに、気分は高揚していたのだった。


「ふふっ、それは良かった良かった。ところで月さんに、お聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」


 少しだけ真剣なラフィールの視線に、ドキッとした三日月。少しだけ緊張をしながら、その声を聞いた。



「この学園――特にこちらの校舎については、とても迷路のような建物構造になっているのですが。地図だけでよくここの場所へ辿り着きましたね」



 なぜかドキドキと高鳴る鼓動を何とか落ち着けながら「実は……」と、三日月は答え始める。


「迷いそうになって困っていたところ、通りがかった綺麗なお姉様方が声をかけてきて下さったのです。皆様、とても親切で優しくて……ラフィール先生のお部屋近くまで、わざわざ案内して下さいました」


「そう……ですか」


 その話にますます厳しくなる、眼力。そして何かを考え込んでいるように、しばらく沈黙。


「あのぉ~……ら、ラフィールせんせ……?」


 そして五分程経過したところで、さすがに心配になった三日月が気を遣いながらラフィールに、ボソッと声をかける。


「あぁ、すみません。え~っとえっと、そうそう!! その方たちは他に、何か言っていませんでしたか?」


 部屋の特徴とか何か~とにっこり笑いながら質問を再開するラフィールだったが、その笑いに違和感たっぷりで十分すぎるくらい三日月には「何かあるな」ということが、伝わっていた。


「他に、ですか? うーん、分かりやすく案内して下さって……あっ、そうそう! こちらのお部屋前には水晶で出来た“猫の置物”があるから分かるわよ~と。そのおかげです! 迷わずに来ることが出来ました」


「――ほう~」


 なるほどと呟くラフィールの表情は険しくなり、一瞬で空気が変わってしまった。


「お名前は……おっしゃっていましたか?」


 少し怖いなとも感じつつ三日月は、そのままの出来事を話した。


「えぇ、驚いたのですが……カイリ様のお姉様で【愛衣里(アイリ)】様です。先日のカイリ様との騒動の件をご存知で、弟に代わって謝ります、と言われました。あとは、お付きの方と思われる方が【水來紅(ミラク)】様? と、他に数人いて――」


「……そうですか」


 ラフィールはまた少し考えた後、固く真剣な表情で口を開いた。


「すみません、月さん。せっかくの好印象を崩してしまうようですが。少し()()()について、大変気がかりなことがあります」


「気がかり、ですか?」


「えぇ、大会直前にするお話ではないですが。やはり注意していただきたい案件ですので、少しお話しておきましょう」



――空気が、重くなった気がする。



 ラフィールは三日月が聞きやすいようゆっくりとした口調で、話を続ける。



「まず、ユイリア様のことです。彼女はすぐに人と自分を比べてしまい、白黒はっきりつけたいという、少し自己中心的な部分があります。しかし表裏の無い、良く言えば天真爛漫(てんしんらんまん)なお方です。少々大変な性格ですが、今回のことで月さんに危害を加えるなどというのは、まずないでしょう」


「はい、承知しました」

(そっか……良かったぁ~)


 それを聞いてホッと胸を撫でおろす三日月であったが、それも束の間。別のところに問題があることを、告げられる。


「問題は、()()()のことです……」


――ん? ア・イ・リ? それってカイリ様のお姉さ……。

(ハッ! 詮索しちゃだめよ、月! 気にしない、気にしない)


 心の中で自分と会話をする三日月は、口から漏れそうになる言葉を抑えるように、両手で口を覆う。そして、焦りながらニコニコ。


「うん、そうですね。やはり出来れば【ラウルド家】とは、関わらない方がよろしいかと。それが最善策です」


「あ、えっと?」

(そうなの? 優しくて親切で、綺麗なお姉様だなって思うのだけれど)


「月さんは今『なぜ? あんなに親切で優しいのに』、そう(おっしゃ)りたいのでしょうね……申し訳ない。今はこれ以上詳細をお話しすることが出来ないのです」


――えぇッ? 私の心の声が、聞こえたの?!


そう、何かを感じ取ったかのようにラフィールは答え、そして強い口調で話を続けた。


「どうか(わたくし)からの警告、と思って聞いていただきたい」


 陽気で高めなラフィールの声がいつもと違い、低めに発せられる。その声が三日月の心奥に響いていた。心配とかそういうレベルではないことが、ひしひしと伝わってくる。


――私の知らない、()()があるんだ。


 深く語らずともそういうことなのだろうと、理解した。


「承知しました、ラフィール先生からの警告ともなるお言葉です。私、ちゃんと先生の言うことは聞きます!」



 それを聞いたラフィールは珍しく、ホッと安心したかのような表情を一瞬だけ見せた。しかしすぐにいつものゆるふわぁ~なキャラクターのラフィールに、戻りおどけ始めた。


「はぁ~月さんはやはり、お利口さんですねぇ」


 そう言うとまた、大好き得意の飛躍魔法を使い、ふわふわり~。

「いい子、いい子~♪」と可愛がるように撫でられた三日月。そしてラフィールのいつも以上に素敵な笑顔が、キラキラと向けられた。


――うにゅ~、何だか恥ずかしいのですよぉ。


 ふと感じ思い出すかのようなキュッとする、気持ち。

(あれ? この感じ、どこかであったような……)


「う~ん、思い出せない」


「どうかしましたかぁ~? うっふふ」


「いえ、何でもありませんッ!」


――何だったのか分からないけれど、まぁ~いっかな!


(こうして「お利口だ」と褒めていただけるのは、心がほんわかして嬉しいなぁ)


「でも、先生って本当にスゴイ……」

(ふわふわ~り、まだ飛んでるよぉ?)


 やっぱりラフィールには羽があるんじゃないか? と、思う三日月。羨ましいくらい楽しそうに、美しい花びらのように華麗に部屋中を光(精霊)たちと、舞っている。


(私もいつか、あんな風に飛んでみたい)


「あっ……」


 三日月は心の中にある、変化に気付く。変わっていく、変わろうとしている自分がいることに。


――何かを『()()()()()』と。


 そう思える、自分自身に。


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