25 文化交流会2日目~優しさ~
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「そちらの角を曲がったら、お部屋の前に水晶で出来た“猫の置物”がありますの。そこがラフィール先生のお部屋ですわ」
「分かりました! 本当にありがとうございました」
「いいえ、私の方こそ。偶然とはいえお会いできて、お話が出来て良かったわ。ありがとう、月ちゃん♪ また、お会いしましょう……ネ」
優しいお姉様方は、ひらひらと手を振って、見送って下さった。
私は、深々とお辞儀をして、アイリ様に教えていただいた、お部屋の方へと向かって歩き出した。
◆
角を曲がっていく三日月の姿が、見えなくなる。それを見送ったお姉様方は、文化交流会へと向かった。
「ねぇ……ミラク」
「はい? アイリ様」
「まさか、こんなに早く会えるなんて! 私、夢のようですわ」
(しかも、今日という日にねぇ。これも“運命”かしら)
「さぁ~皆さん、行きましょう。今日は、後輩生徒を観察する日ですわよぉ♪」
「アイリ様! 観察ではなく、監視でございます!」
ミラクは、お嬢様のワザと言っている間違い発言に、毎回呆れながら注意、訂正をする。
楽しい文化交流会だが何かあってはいけないので、生徒の安全を守る見回り監視役を、アイリ達はここ三年務めているのだ。
「アイリ様ったら、嫌ですわ~ウフフ」
「本当に、ご冗談ですの? おほほほ~」
他の取り巻きの者たちは、アイリのご機嫌を損ねないよう気を配る。これがいつもの流れだ。
「あらあら、ゴメンナサイ。『人材の発掘に目を光らせている』という意味ですのよ。あぁ、たのしみだわぁ~」
「まったく……アイリ様、お気を付けください」
「はぁ~いっ♪」
(ほーんと楽しみ! 素敵な1日になりそうね。んふふ♡)
上流階級のお姉様方は、意味深い話をしながら優雅に歩き去っていった。
◆
三日月はラフィールの部屋を目指し、心の準備をしつつゆっくりと歩いていた。
(えーっと、この角を曲がって)
「ねこちゃん、ねこちゃん♪」
(今日は、良い人たちに出会えて良かったぁ)
優しくて親切で、綺麗なお姉様方。
「私もあんな風に、素敵な女性になれたらいいなぁ」
なーんて、憧れてしまう。でも、そんな急に大人にはなれないので! 私は背伸びせずに、の~んびりと色んな事をお勉強して、いつかはお姉様方みたいにと、そんな想像に浸っていた。気付けば『水晶猫さん』の置物がある、お部屋の前に辿り着いていた。
「ラフィール先生、いらっしゃるかな?」
その時、ハッ! と、三日月は気付いた。連絡もせずに、いきなり来てしまった事に。
(あーやってしまったぁ! どうしよう)
「きっと、お忙しいだろうなぁ」
でも、もう此処まで来てしまったし。うん、少しだけお時間をいただけないか、お話を聞いていただけないか、お願いしてみよう!
フゥー…………と深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。
「よしっ!」
気合を入れ、お部屋の扉を叩こうと手を前に出した瞬間、突然後ろから大きな声がッ!
「はぁーい♪ どちら様ぁ~?!」
「うっわぁー!!」
あるはずのない後ろからの声に、私は飛び上がって驚き、尻餅をついてしまった。見事なビックリ仰天の反応を見てイタズラ大成功、と言わんばかりの顔で「あっはははは♪」と大笑いしている。
そう、まさにこの方が【ラフィール先生】です。
「まだ私、コンコンってしていませんよぉ!」
心の準備も出来ていません! それなのにぃーと心臓が止まりそうな私の表情を見ている先生。とっても楽しそうですネ。まるで、メル・ティルがイタズラした時と同じお顔してますよぉーっ!
「あれれ? そうでしたか……ふぅ~ん、では! 扉コンコン。やり直しますかっ♪」
「もぉぉー先生!」
「あぁーフフっ、ごめんごめん。いやいや~あまりにも思い詰めたような表情をしているので、ついつい……」
(ついつい……の後はなんでしょう? 「揶揄いたくなって」でしょーかぁ?!)
「あの、魔法の、えーっと。ご、ご相談したい事があって、勇気を出して来たんですーっ!」
(あっ……)
私は両手で口を押さえた。順を追ってきちんと説明して、真面目にお話ししようと思っていたのに。勢いで悩みがあります! と、先に言ってしまったのだ。
すると、先生はまた楽しそうな声と表情で答える。
「まぁ! 月さんがご相談ですか~♪」
いいですねぇ~と、笑いながら寄ってきた。
「うにゅー! どうして笑うのですかぁ?!」
ぷくーっと頬を膨らましていると先生は両手のひらを合わせ、自分の左頬につけた。そしてラフィール先生の綺麗なお顔は、左斜め三十五度傾き「ゴメンネェ~」と謝っていた。
「うふふ」と言いながら。
普段はこんな感じのユルユルなキャラクター。大好きな飛躍魔法の技術を駆使し、音もなく、ふわふわりと現れます。
(もしかして背中に羽があるんじゃないか? って思う時がある)
しかしこれが授業となると。
この姿とは真逆と言っていい程、とっても厳しい上級魔法師に変身するのだ(これが泣きそうになるくらい、過酷な訓練をする時もあるのですよぉ)。
ラフィール先生、私が怒ってパタパタしている手を、はいはーい♪ と、上手くかわしていく。これは何かの練習デショウカ?
(うぅ、遊ばれているような気が)
――この時の私は、必死で。
冷静に考えたらきっと、先生は深刻な顔をして悩んでいる私の事を気遣い、話しやすいようにしてくれたのではないか? 笑って場を和ませて下さったのではないか? と後になって先生の優しさに気付いた。
私の機嫌が直る頃に「それでは、そろそろ」と言いながら、先生は水晶猫さんをヨシヨシしながら扉を開け、私はお部屋に通された。目の前には、フカフカの綺麗なソファが置いてあり、そこに座るよう言われる。
それから先生も自分の椅子に座り、真っ直ぐ私の瞳を見つめた。表情が引き締まり、ラフィール先生は【聴く】の体制に入る。
「さてさて、本題に入りましょう」
その言葉が発せられると、一気に部屋の空気が変わったのだった。




