01 出逢い
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♪こちらのお話は、読了時間:約7分です♪
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――時間は経ち。
煌めく三日月の夜に生まれ人並みならぬ奇跡の力(能力・魔力)月の紋章を持つと言われた女の子は、のびのびと成長した。十四歳になると王国屈指の優秀な生徒が集まる魔法科のある学園へ、通うこととなった。
◇
入学後、何事もなく平和な日々を送り早一年が過ぎた、ある日のこと。
美しい桜並木道を一人、気持ち良いと歩きながら思いきり両手を広げ、空を仰ぐ。穏やかで暖かな風が桜の花びらをひらひらと躍らせ、悪戯にさらっていく。
「わぁあ、素敵!」
瞳を閉じてそよ風の音を聴く。その音色に合わせ花びらと一緒に舞う精霊たちの喜びを感じながら満面の笑み、弾む足取りで進んで行く。
「太陽の光……ぽかぽかお日様だぁ」
彼女の名は、セレネフォス=三日月。
光の森キラリの守人――望月と元王国騎士である雷伊都の目に入れても痛くない大切な、一人娘である。
「今日は、とても良い日になりそう」
そう呟くといつものお気に入りの場所へと、向かった。
◇
トタン、トン、トタン……。
階段を上る足音がなぜか今日はいつもより耳に響いて、聞こえる。そんなことを思いながら上っているといつの間にか、目的の場所へと到着した。
タンッ!
そこは屋上へ向かう階段の六階、屋上扉前。
お気に入りの場所=三日月の居場所、なのである。
「着~いたっ」
時計を確認するとちょうどお昼時。
三日月は持ってきていた少し大きめのランチバッグから花柄の可愛いシートを取り出すと、丁寧に階段へ敷く。そこにゆっくりと腰掛けちょっとだけ足を伸ばし、疲れを癒した。
「あったかぁい……」
(今日は、とても穏やかだぁ)
屋上扉から届く太陽の光は、ぽかぽか。その温もりに思わずホッと頬は緩み、表情は自然と笑顔になっていく。
「ふわぁ~、やっぱりいいところだよぉ」
落ち着くなぁとまた大きく両手を広げ、伸びをする。お昼休みや放課後の一人でいられる時間はいつもここで、のんびりと過ごしていた。
――子供の頃から一人でいることが多くて、静かなところが好きだった。
その一人時間を過ごせる場所を求め、放課後。学内の色んな所をこっそりと、散策して回っていた(ゆったり、のんびりとした時間を一人で過ごせる場所を、見つけるために)。
数日かけて探しようやく、この階段を発見!
色々と思うことはあったが、まず何と言ってもここは六階。通常使用していない階段を用もなくわざわざ屋上前まで上がって来る人はいない、恐らく誰も来ないだろうと思ったのが、決め手だった。
そしてもう一つ、三日月が一人で時間を過ごす場所に決めた理由がある。
それは――。
「なんでかな。ここに来ると」
この場所に来ると心が安らぎとても、落ち着けるのだ。
――今日のように、よく晴れた日には。
輝く太陽の光は気持ち良く心を満たし、あったかポカポカと安心させてくれる。
――暗い、曇り空の日でも。
静かで落ち着いた空気が流れていく。それは、悲しみや寂しさではない。穏やかで、優しい気持ちになり、自分自身と向き合うことができる。
――どうしようもない、雨の日も。
沈んだ気分になるかと思いきや、ここに来ると雨音は素敵な音楽に聴こえ三日月と共に過ごす精霊たちも喜び、リズムを取って踊り始める。
(そう! ここは、不思議な場所でもあって……)
「やっぱり、ここが好き」
三日月は階段のもっと先へ行きたい、その屋上に出てどんな景色があるのかを見てみたいと、内心思っていた。
しかし簡単そうに思えるその願い、叶えるのは本当に難しいことだ。
屋上扉には安全のため厳重に魔法による施錠がしてある。そのため普通の解除魔法で開錠するのはまず、不可能。
いつも目の前には屋上へ続く入り口があるというのに出られないのはとても残念だと差し込む光に、目を細めながら眺める。そして「それでも、いつかは……」とそんな叶わぬ願いを小さな声で呟きながら、クスクスと笑った。
そんな微かな希望を夢見ている、この時間。
(何気に好きだったりして!)
もう一度ゆっくりと瞳を閉じ扉から届く今日の光を感じながら休憩をした後にふぅ~っと一回深呼吸、伸ばしていた足を元に戻した。
「そろそろ、お腹がすいてきたのです」
ランチバッグをごそごそ……ランチョンマット代わりのハンカチを敷き、持ってきたお弁当を取り出した。
「ウフフ、じゃあ~ん!」
誰もいない場所、気兼ねなく盛り上がってしまう。しかし階段に響き渡った自分の大きな声を聞いてすぐ、口に両手を当てた。少しだけ恥ずかしくなったのである。
(まぁまぁ! ここには私しかいないから~)
「大丈夫、ダイジョブ~」
ランチボックスは大好きな猫ちゃん柄、これもお気に入りだ。ルンルン気分で蓋を開ける三日月。
パカッ!
「サンドイッチィ……にゃはッ」
嬉しさで頬はピンク色に染まり、ワクワクと飲み物を準備する。三日月は毎朝その日の気分でお弁当を作ってくるのが、日課になっていた。今日は大好物のトマトレタスたまごサンドを、作ってきていた。
「せ~のぉ、いっただっきまぁ~す♪」
大きく開けたお口で「はむっ!」と一口、頬ばる。大好物というだけでもテンションは上がって、さらに美味しい! その表情はもう、笑顔にしかならない。
「ん~! 美味しい」
そして少し苦めのカフェオレを飲む瞬間、彼女は――。
「はぁぅ♡ 幸せだぁ……」
いつもこうして素直な気持ちが、言葉になって溢れ出てくる。
『美味しい』と『幸せ♡』、いつもそう言わずにはいられないのだ。
ニコニコご機嫌で一人、ランチ時間を満喫していると突然! 後ろの方から、するはずのない物音がした。
ガタンッ!
「……ふふっ」
「んっ? エッ」
(えっと、何だろう?)
物音と同時に何か(誰か)が微かに笑う声まで聞こえたような気がした。三日月は背筋がゾワッと、サンドイッチを持つ手が止まる。
「えぇ……と、気のせいだよね?」
もしも人がいるのならと聞こえるくらいの小さな声で、呟いた。「誰もいない」そう信じたい気持ちよりも人の気配がしている怖さの方が、勝っている。しかしこのままじっとしていても、何の解決にもならない。
(よ、よしっ!)
恐怖心を必死で抑えつつ三日月は勇気を振り絞ってゆっくりと、振り返った。
――そこには。
「ふ……はぁあうっ!!!!」
(誰もいないはずの屋上扉前の踊り場に! ふわっと座る人影がぁ!!)
驚きすぎて思わず、変な声を上げてしまう。
するとその人影は振り向いた三日月に気付き、話しかけてきた。
「こんにちは。それ、美味しそうだね。と、いうよりも、美味しそうに食べるね」
「えっ、あーいや。その~」
(まさか、ここに人が来るなんて)
予想だにしない出来事に動揺が、隠しきれない。そしてそれ以上に驚きで言葉が出てこなくなってしまった。その三日月が慌てる様子に謎の人影は少し笑った声で、話を続ける。
「ふふふっ。驚かせてしまったかな? ゴメンね」
「ほ……ぇ、ぃ、ぃぇ」
驚きと人見知りが重なり目が回るようだ。思わず声は小さくフェードアウトしていく。
――自分でもよく分からない、感情。
この状況が恥ずかしいのか、何なのか? 今どうしてどうなっているのか? もう何が起こっているのか訳も分からずに、止まっていた。
その沈黙を破ったのは謎の人影。三日月のことを心配したような声で、話しかけてくる。
「君、大丈夫?」
「あ、え? あの、ハ……ィ」
「そう? それなら良いんだ」
ふわぁ……!
「えっ――」
瞬間、優しい声と光。流れた風は三日月の頬に柔らかく触れるように、ふわりと通り過ぎる。
「はぁ……」
聞こえてきた声はまるでその微笑む表情が、見えてくるようだった。差し込む光を背に、輝いているその姿。
――とても不思議だったの。
そして、この人物の存在は。
三日月にとって生涯、忘れられない大切な記憶と、なるのであった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
今後ともよろしくお願いいたしまする。
「また、見に来てくださいまし~(◍•ᴗ•◍)♪」