16 ひとりでいる事
お読みいただきありがとうございます(◍•ᴗ•◍)
♪こちらのお話は、読了時間:約5分です♪
※2022/1/29 修正完了(Wordcount2300)
――あぁ、何だか今日は『一人になりたい』
ある日の放課後。急に、そんな衝動に駆られた。
「よしっ♪ 思い立ったら即行動!」
そして私は、いつもの屋上扉前の階段へと向かった。何か特別な事があったり、目的があった訳でもないのだけれど。たまに、あの心地の良い場所へ行きたくなるのだ。
【星様】と、お互いの名前を知った日から一週間。
思い返せば、あの日から。彼はよく【月】、と呼んでくれるようになった。私はというと、ちょっとまだ慣れなくて。彼を目の前にすると、なかなか名前を呼ぶ事が出来ないでいる。
お友達になり、愛称で呼んでもらえる事。嬉しいような、恥ずかしいような……自分でもよく解らない気持ちだ。
(タン、タッ、タン……)
「さぁ、今日も行きますかっ!」
六階までの階段を、いつもよりゆっくりと上がっていた。すると、いつも一緒に居てくれる仲良し精霊さんたちが、私の足音に音階をつけ、歌い踊り遊んでいる。その姿を見ていると、どんな心も不思議と安らいでくる。
そして、心地良い精霊音楽を聴きながら、少し考え事をしていた。
「今日で、六月も終わり。早いなぁ、もう七月が……」
――七月六日、七日が、来る……と。
そう、一人で呟いた私。
この二日間は、毎年恒例の文化交流会が開催される予定だ。この学園で行われている年間行事の中でも、この交流会は、一番大きなイベントと言われている。そのためか? 先生方や生徒も皆、とても楽しみにしていて、準備には、すごく気合いが入っている。
◇◆
(ハ~イッ、ではここで! 文化交流会の簡単なご説明をしたいと思いま~す♪)
【まずは、一日目】
文化祭でお茶会やお店の出店。あとは能力、魔法等を使った力を発表する大会や、様々な参加型の催し物も予定されている。
【そして、二日目】
この日は私服が許される特別な一日。もちろん制服でも良いのですが、ほとんどの方はお気に入りの服装で出てくる。特に、お坊ちゃま方、お嬢様方は、思い思いの服を着て、交流会を楽しむ。もちろん! 私は制服を着る予定だ。
(なぜかって? それは可愛いからです♪)
そして、問題は二日目の夜。一番のメインイベントである、舞踏会がある。参加をする生徒は、このダンスパーティーのグランプリを狙って、日々、練習に励んでいるらしい(すごいですねぇ)。
『なぜ、そこまで必死になって練習を?』
『このダンスパーティーが、楽しむ以外に一体何があるの?』
一年目の文化交流会で、私もどうしてだろう? と、不思議に思っていた。去年の今頃、説明を受けて「あぁ~なるほど」、そう納得した。
どのような目的で、行われているのかというと……。
舞踏会で流される曲は二曲。なんと曲名は事前に明かされない。即、対応できる能力を見る、というかなり困難で! まるで、抜き打ちのテストのような大会だ。そのダンス技術のレベルによっては、かなりの高得点を獲得する事ができる。
そして、その得点は。
そのまま、学業成績や個人評価にも繋がるというのだ!
それを聞けば、グランプリを狙う方が多いという話も、頷ける。
ちなみに審査員は、名家の中でも上位の技術を持つ、奥様方。とても厳しい目で審査される。甘さを知らない、奥様方の審査では、得点を付けても、グランプリの出ない年もあるというのは、有名な話。
◇◆
私は、出来れば舞踏会への参加を、ご遠慮させて頂きたいので。今はどうやって回避しようかな~? と、真剣に考えているのだ。
――タンッ!!!
(足音に乗せて♪♪♪)
「よーしっ! 着いたぁ~」
(静かに、本でも読んで帰ろうかな)。
今日したい事が決まった。いつもなら、屋上扉前の階段にシートを敷き、座る。
――でも今日は、なんとなく違う気がして。
私は……。最初に出逢った時に星様が座っていた場所。屋上扉の前にある踊り場まで、上がってみたくなった。
「たまには……良いよネ?」
一年以上、通っているのに。踊り場まで上がってきたのは、実は初めてだった。もし「なぜ?」と聞かれても、特別な理由はないけれど。それなのにどうして? 今日は“踊り場へ来たい”と思ったのかは、自分でもよく解らない。
「さて、と!」
屋上扉から差し込む光は、少し眩しくて。私は、目を細めながら、お気に入りのシートを敷いて座る。それから、いつも持ち歩いている本の中から一冊を、鞄から取り出した。
手に取ったお気に入りの本。挟んでいた“スイレン”の栞から、ページを開くと、続きの物語を読み始めた。
「…………」
(ふぅ~何だろう、この気持ち)。
時間を忘れるくらい大好きな読書。それなのに、今日はしばらく読んでいると、何かが足りないような。そんな気分になっていた。
(ワタシ、寂しいのかな……)
いやっ、違う違う! 思い違いだと、言い聞かせる。
「あっ……飲み物、そっか! そうだよ。持ってくればよかったなぁ」
すると、下を向いた目線の先に、本に挟んでいた栞が見えた。
「え、――不思議。な、なに?」
屋上扉から差し込む穏やかな光。横に置いていたスイレンの栞と反応し合って、キラキラと花びらを輝かせている。
その美しさと惹き込まれる感覚に、思わず固まってしまっていると、一緒に居る精霊たちが、話しかけてきた。
≪ヒトコイシイ?≫
「えぇ?! そ、そんな事ないよ!!」
(そう、いつも私の傍には精霊さんたちがいるから)。
――サミシクナンカナイ。
「よぉし! みんな~お歌うたってくれるかな?」
((う・ぴ・ゃ・う・ぴ・ゃ・))
≪♪………♪………♪≫
可愛い精霊さんたち“ありがとう”。
精霊たちの癒し音楽を聴きながら、穏やかで優しい太陽の光に、力をもらって。そしてまた、私は本の世界に戻る。
「……」
こうして今日の一人時間は、平和に過ぎていった。




