145 魔法の杖
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(Wordcount2810)
「「セリィ―ッ、待ってにゃのらぁ」」
ポフッ! パフッ! ――ギュッ!!
想起魔法の展開から今まで三日月を護りそして支えるようにずっと傍で寄り添い続ける、メルルとティル。二人はセルクが大きく振りかざした光り輝く魔法の杖――星座の光に過剰反応を起こし、突然! その小さな身体からは想像もつかないほどの大きな声で、飛びつく。
「あぁ……分かっている。大丈夫だよ、メルティ。安心して」
「ホントにぃ?」「ホントかぁ?」
「うん、だから月の傍に――」
セルクの表情を確認するとメルルとティルは顔を見合わせて、悩む。しかし数秒後「わかったの」と頷きながら三日月の元へ、戻る。
「メ……ル。……ティル?」
(急に大きな声で叫んで星様の所へ……何かあったのかな?)
すぐに自分の所へ戻ってきた二人にまた、両腕をギュッと掴まれる。その温もりにほやっと笑う、三日月。しかし何かを制止するようにセルクへかけ寄っていったメルルとティルの様子が気になり、少しだけ不安を感じ始める。
(でも、もう私……動けないみたい)
彼女は声を出すこともなかなか出来ずに眉尻を下げる。目を瞑れば視えてくる過去と現実、そして記憶の蘇りは心身ともに苦痛を与えてくる。意識を保っているだけでも精一杯な三日月は二人に慌てていた理由を聞くことも、ままならない状態であった。
「――うッ……!」
(まただ。頭が、痛いよ)
再び襲う痛みに耳を塞ぐ仕草を見せる、三日月。セルクは、目の前で息を切らし呼吸も荒く苦しむ彼女の姿に、胸を痛める。
(月、とても辛そうだ。早く終わらせてあげないと)
――君の心を元に、あるべき場所へ。
心の中で呟いたセルクの声はもちろん、誰にも聞こえていない。
「月、大丈夫。もうすぐ終わるから……頑張って」
三日月を見つめる瞳が今までにないくらいに、優しくなる。
その温かみのあるセルクの表情から読み取れるのは『【忘却】魔法は無事に解かれ、【想起】魔法による記憶の取り出しは成功間近だ』ということ。
「そろそろ、ですね」
ロイズはセルクの周りに集まる光と闇の魔力バランスを感じその時を、悟る。
キランッ……ぱぁぁ――!!
天空へ向けられていたセルクの左手にあるアステリアの先にはキラキラと星屑が、集まっていく。
「ふにゃう~……驚きのなぁ!」
おぉー!! と楽しそうに声を発したのは、大妖精ランスである。
「んッ? ランス様。そんなに嬉しそうな……驚きとは、どういうことだ?」
なぜ驚くのか? と三日月の父、ライトは不思議そうに訊ねた。
「いやいやいやいやいや~ぁあっはは! 気にしないでのぉ~ん♪」
にっかにかと笑いながらどうしてかを、教えない。そんなランスをじーっと見つめるライトであったがしかし、そこは弁えている。「左様でございますか~」と言い深くは聞かずに三日月とセルクへの守護力維持に、集中する。
――これはこれはぁ~良いモノが見れたですのなぁん♪
心躍るランスの言う“驚き”とは=期待と“喜び”でもあった。それはセルクの手に現れた奇跡に近い魔法具――『星座光』を目の前で見たランスは、興奮状態。本当は飛び上がりたいほどであったがさすがに「平常心、平常心」と思いながらもその、にんまり顔は止められない。
「まぁまぁ……ランス様があのような反応なさるのも、無理はないですねぇ」
そうボソッと小さく呟いたラフィールもまた、二人への守護魔法を続けながら【想起】の行く末を真剣な眼差しで、見守る。
(セルク坊ちゃま――そう、お呼びしていた頃が鮮明に思い出されますねぇ)
――しっかりと月さんを支えるのですよ。そして、最後まで……。
「心を乱さぬように、ですよ。セルク君」
ラフィールの鋭く光る眼差しは守護魔法に乗ってセルクの元へ、届く。
やがて最終段階に入る三日月と記憶との内なる、戦い。
「――?」
(これは? 光っている“箱”)
虚ろな目で座り込んだままの三日月の前にふと、うっすらと何かが見えてきた。それはセルクの言っていた『記憶を受け入れていた箱』――“パンドラの箱”。
思考回路がほぼ停止状態の三日月はその“箱”が持つ不思議さと瞳奪われるような妖艶な美しさに、吸い込まれてゆく。
「綺麗……ですね」
無意識に触れようと手を伸ばした、その時!
「ダメ!」「だめダメ!!」
それを必死で止めるメルルとティルの声で彼女はハッと、我に返った。
「……え、あぅ」
(触っちゃいけない? 何だろう、この綺麗な箱)
幼き日に恐怖心につぶされそうになっていた三日月が名も知らぬ出会ったばかりの“男の子”に望んだ、願い――『忘れ去らせた、辛い記憶』は悪いものとして認識され、セルクの心が受け入れ、その中に収められていた。
しかし、人の心がこうして目に見えるはずがない。
――だとすると三日月の前で光り輝く、この綺麗な箱は一体?
「それは、幻想だよ」
ふと囁くように聞こえてきたセルクの、声。
三日月の身に起こった事件を自身の中に受け入れ収めるために創り出した、幻。それが今、目の前に浮かぶ美しい“パンドラの箱”なのである。
「記憶の移行は、完了したようだね」
「え……っと。はい、記憶は、思い出し……全てを――」
「そうか、月。辛かったね……君はよく頑張ったよ、お疲れ様」
三日月は気持ちまとまらない言葉で「まだ心と身体、頭の整理も追いついていませんが」と、ゆっくり力無く話しふにゃっと笑ってセルクの問いに、答えた。
「うん、理解している。これからゆっくりと、自分の中で戻していけば良い」
セルクは柔らかな表情で「大丈夫だよ」と、言葉をかける。
その真意は最後まで無事に終わらせるため、三日月の自信を無くさせないように、不安にさせないようにするためという彼の強い思いがあった。
「はい、そう……で、すね」
「うん、そうだね。では月、そろそろ」
キラッ――。
(ふぇっ?)
一筋の光が空に向かって縦に伸びる。その瞬間、セルクの表情が一変する。
魔法杖には星たちの力が、集結。その姿は文字通り“星座”だ。
セルクは一度ゆっくり瞬きをすると優しく微笑み三日月の心に、伝える。
「確認したよ、箱の中はもう空っぽだった」
「中身? そっか、記憶……は。もう、私の」
「そう、もう君の中に戻った。だからね」
そう言うとセルクはさらに一番高くアステリアを、振りかざす。
「義務を終えたこの箱はもう、必要ないんだ」
「必要……ない、の?」
目を細め空に向かう光を見つめていた三日月は、まるで夢を見ているかのようにぼんやりと、感じていた。
『シュンッ!!!!』
その高く伸びうっすらとしか見えなかったその棒先が、姿を現す。それは夜空に輝く星屑のように広がる光を帯びそして部屋中に、降り注ぐ。
キラキラキラ――――!
そして。
『キーーーンッ」
「月……君の心が、癒えるまで」
――それまで僕は、傍で見守っているよ。
『ヒュー……ザシュッ…………!?』
一瞬で見えないセルクの動き。
素早く振り下ろされた、魔法の杖は。
――目を見張るほど麗しき、“漆黒色の槍”であった。
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