12 お誘い
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雨の降る日も多い六月。
この時期、学園内は皆忙しく動き、慌ただしくなってくる。
(ハイ、どうして皆がそんなにバタバタしているのかというと?)
この学園で行われる年間行事の中でも、特に重要とされている一大イベント。
「文化交流会準備のため、なのです!」
毎年七月の初め頃、二日間にわたって開催される文化交流会。中でも夜会(舞踏会)、いわゆる夜のパーティーは、学園内の中央広場で行われる。このイベントには、上流クラスも一般クラスも関係なく参加が出来るとあって、社交の場として人気の催しなのだ。
その交流会で振る舞われるお食事メニュー、披露される催し物、電飾などの飾り付けや、流す音楽までも。
全て学生たちが仕切り、こうして一ヵ月前から準備をして完成させていく。
(もちろん、先生方の協力は必須ですが)
そして今は、一部の生徒が中央広場に集まり、文化交流会に向けて最終準備の打ち合わせをしている最中だ。
そんな中、一緒に来ていた三日月は? というと。大会へは参加しない雰囲気を出しつつ、影をうすく、うすーく。なるべく目立たないようにしながら、あれ? いたっけ~ぐらいの存在感で当日を迎えられるよう、一ヵ月を過ごすつもりで裏方に回っていた。
「これが私の準備、エヘッ!」
「三日月ちゃん……」
呆れたように名前を呼んだのは、今回の文化交流会で文化担当を任され張り切っている、クラスメイトの女の子。
「いやいや! 呆れないでぇ」
そのやり取りを見ていたクラスの皆は、何言ってんだぁ~と笑い合う。おかげでその場の空気は楽しく、打ち合わせも穏やかにほんわかと進んでいった。
この学園に入って、たくさんの友達が出来た。人見知りの三日月も、さすがにクラスメイトだけは一年前より会話できるようになっていた。
(でも、まだ、ちょっと……)
こういった大勢の人が集まる場所は、あまり得意ではなく。出来れば避けたいのが本音だ。
「あ、あのね! 何か仕事(準備)を頼まれれば、喜んでお手伝い致しますのですので! うんうん」
両手をぎゅっとグーのポーズで懸命に頑張るアピールをしてみた三日月。が、しかし……。
「おっ? まだまだ緊張が抜けませんなぁ、月ちゃんよぉ♪ ははっ、言葉が変になってるぞ~」
ふと見ると、ニコニコ顔の太陽がツッコんできた。
「み、三日月ちゃん……言葉……ふふっ」
「う、はぅ! 待って、おてちゅだ……うぅ」
あっはははぁ~!!
「もぉ! 太陽君が言うからぁ、余計目立ったぁ」
「んなこたねぇだろ? んハハハ」
(いつもこうして楽しくしてくれる。緊張しちゃって話せなくなる私の間に入ってくれたりして)
太陽はクラス皆のお兄ちゃん的存在。全体の関係が悪くならないようによく周りを見ていて、いつも気付かないうちに改善してくれているのは、紛れもなく太陽なのだ。
「それでは、準備再開いっきまーす!」
打ち合わせが終わったのか、文化担当のリーダーが声を上げ、準備が再開された。
(みんな重い物を持ったり、設計したり。色々と大変みたい)
「だけど、とっても楽しそう♪」
そう思いながらクスッと微笑んだ。しかし一瞬、三日月の表情が曇る。
――でも、やっぱり。私は、人がたくさんいる場所は。
「好きになれない」
ポツリと、呟いた。
◇
「んぅー……よいしょっとッ!」
その後、三日月はひと通り頼まれた仕事を終え、ふぅ~頑張ったぁと、伸びをした。
見上げた視線の先には、気持ちの良い晴れた青空。もう一度、のびのびぃ~と空を仰いでいると、ふと考えてしまう。
「どうしたら……交流会をうまく過ごせるかなぁ」
それから一人その場で「うーん、うーん?」と、顎に手を置いて今後の立ち回りを悩んでいた。すると前から歩いてきた人に、声をかけられた。
「キミ……」
「ほぇ……」(はい?)と、ちょっと首を傾げる。
「こないだは、その……悪かったよ」
「は、はぁ」(だれ?)と、もうちょっと首を傾げる。
「き、聞いているのかッ?!」
「――?!」(きゃあ!)と、両手を上げ数歩下がった。
この時、不信感から、声を出さずに「嫌だ」という気持ちだけが顔に出てしまい、表情で答えてしまっていた。
「お、おい~! カイリッ!」
(ラウルド……えーっと、カイリ様。えぇ、覚えていますとも)
三日月は今、非常に不愉快な気分だった。滅多にない心理状態の自分。
怪訝な表情が隠せない。
(失礼だと分かっている自分のことを、今だけは許しましたよ)
その状況に気付き、慌てて走ってくる人が。
「三日月さん、だったかな? 先日からカイリが大変失礼なことを。今日も何をしているのか……本当に申し訳なかったね」
そう話したのは、あの日カイリと親し気に話し、介抱していた友人だった。
「い、いえ。もう過ぎたことですので、それでは――」
ここは早く立ち去ろうと、慌てて返事をして歩き出そうとした。するとまた、カイリに呼び止められる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「おい、カイリ! ご迷惑だろ? 行くぞ」
「待て! すぐ終わる」
「はぁ~。申し訳ない、三日月さん。少し話を聞いてやってください」
(えぇ? あぁ~うにゅー)
「はぁ……何でしょうか?」
一応、いちおう上流階級の方。無視をすることは出来ない。そのうえ、友人からお願いをされては、と。
そう思った三日月は、無の状態で立ったまま、お話を聞くことにした。
それから、一分程の沈黙の後。カイリは言いにくそうに話を切り出した。
「あぁ、その。こないだのお詫びと言ってはなんだが、舞踏会で一緒に踊らないか?」
「はっ?! カイリお前は何を言い出すのか――」
すっかり頭を抱え、呆れかえって言葉を失った友人。
(((ざわっ! ざわっ!!)))
そしてその、ラウルド=カイリが口にした信じられない言葉に、偶然近くで聞いていたお嬢様方の、高い声が響き渡る。
「キャー、大問題よ!」
「えぇ~?! ラウルド様がお誘いになるなんて」
「これはちょっと……」
「なッ! どういうこと?! 私の立場はどうなるのですか」
「いえ、きっとご冗談ですわ! ねっねっ?」
あーまたかぁ、と三日月は唖然とした。この人に関わると、ろくなことにならない。どうすればそうなるの? と、理解不能すぎて涙が出そうになる。
――と、いうわけで当然ですが。
「お断りします」
「…………」
ラウルド様は、黙って固まってしまった。
「ん~?」(えっと?)
数秒、まるで時間が止まったかのように空気が止まる。そして、驚く声が上がる。
「「「えぇぇぇぇーー?!」」」
周りの悲鳴に、ビクッ。
(「えぇー?!」は、私の方ですよぉ!)
周囲の驚きの声。するとカイリお坊ちゃまは、いつもよりも低めの声で、中央広場に言葉を響かせた。
「き、キミは……僕が誰なのか、知らないというのかッ!」
少し声を震わせながら、問いかけてきた。
「い、いえ、その。お名前は存じておりますが……」
あぁ、怒っている? これはどうしたらうまく断れるのだろう? と、思い焦る。が、しかし――三日月はあることに気付く。
(あれ? そもそもこれって、おかしな話なのでは?)
なぜ? 舞踏会で一緒に踊ることが自分へのお詫びになるのだろう? 三日月には、その考えが到底理解出来なかったのだ。
続けてカイリは、先程以上に興奮気味に叫び始める。
「この僕が、エスコートをすると言っているんだ! 答えはYESしかないと思うがなッ」
シーーーーーン。
空気が止まったというよりも、今度は固まっていた。
――無言。
(ハッ! 何か言わなきゃ!!)
「あぁ、おぅ~おこ、と、わりし……」
結局、この返事しか三日月の口からは出てこなかった。気まず過ぎて、最後には言葉がフェードアウトしていった。
シーーーーーン。
――――再び、無言。
「あっはは! カイリ~これはお前の負けだ、諦めろ」
この最悪の状況から救ってくれたのは、カイリの友人。「さぁ~話は終わりだ」と、カイリお坊ちゃまを宥め、収拾をつけた。
(な、なんて良い人なの!)
恥をかいたと真っ赤な顔をして怒っているカイリから、必死に視線を逸らし、気まずさを少しでも軽減させようと、努力努力。
友人のおかげで、この場は何とか穏便に済みそうだと、安心していた。しかし最後に、カイリお坊ちゃまは悔しさを吐き捨てる様に三日月に言葉をぶつけ、それから帰り始めた。
「ぼ、僕は……僕は別に構わないさっ! 馬鹿な奴だ」
(うー、えぇー? ラウルド様って)
何とも言えない無気力な表情になってしまう。そんな顔で三日月が呆然と立ち尽くしていると、友人が小さな声で「本当にごめんね」と囁き、二人は足早に去って行った。
――この前から思っていた事がある。
カイリは黙っていたらとても好青年に見える。茶色の髪は短めで綺麗に整えられており、容姿もそこそこ良いのだ。しかしいつも上から目線なところが、良い御家のお坊ちゃまではないか? と思えてくる。
「なんだろう。言葉遣いが荒々しくて、すぐにカッとなる所とか恐いし。それに馬鹿というのは、ちょっと。どうなの?」と、独り言を小さく言っていた。
その直後、自分でも分かるくらいに三日月の表情は青ざめてきた。
サ~~……。
(な、何でしょうか?)
後ろから強い殺気を感じる。
恐らく、周りにいたお嬢様方の視線だろう。
――この一件で。
三日月は、また何かのトラブルに自分が巻き込まれてしまうような、予感がしていた。
「もう平和にいさせてぇ。勘弁してくださいー!」
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