114 五つの森
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ロイズの話はこの後も、淡々と続いていく。
「さてさて、ここまではご理解いただけたようなので、次にいきましょう」
三日月の心は思いを巡らせていた。ラフィールのこと、ルナという人物のこと。この場所でこれから何があるのか? と、不安になり考え込んでいると、ふわっと背中にぬくもりを感じ、そしてその声が心を安心させてくれる。
「良いですか、三日月。ロイズ様のお話を、お言葉は一言一句、聞き逃す事のないよう――よく聞いておくのですよ」
母、望月である。その声は優しく、しかし真剣な眼差しで三日月に伝える。
「……お母様」
三日月は、望月の思いをしっかりと受け止めるように大きく頷いた。
その母娘の様子に、父ライトは幸せな表情で微笑み涙腺を緩ませている。ロイズもまた二人を見守るように見つめ、落ち着いた声で話を切り出した。
「セルクがルナの子であるという話は、あのラウルドが言ったそうですね。セルクはさぞ驚いたことでしょう。よく気持ちを抑えたものです、彼も成長しました」
そこまで言ったところでロイズは少しふふっと笑うと、また続きを話し始める。
「セルクの母であるルナは、かつて我々と共に悪と戦った仲間なのですよ」
「星様のお母様が……戦いに、ですか?」
◆
三日月が今まで生きてきた記憶を辿ってみても、大きな戦いの話を聞いたことがなかった。そのいくつか聞いた中でも、自分が襲われた時のような悪の侵入者が出たらしい、くらいの話題である。しかしそれは何かしらの理由で、自分にはあまり多く話されてこなかったということに三日月自身、薄々感じてはいた。
ロイズの強く言った「戦った仲間」という言葉で、ふと三日月の頭を過ぎったのは、昨日太陽から聞いていた『イレクトルム王国侵略未遂事件』であった。それは最終的にルナガディア王国守護騎士である七騎士(通称【ラビット】)が、イレクトルム王国を救った――という話で、太陽が十二の頃。つまり十年前の出来事だ。
現在十六歳になったばかりの三日月が、六歳の頃にイレクトルム王国で起こった事件であった。しかし他国どころか、あまり争いごとの話を聞かされてこなかった三日月。それはなぜか? 両親やキラリの森に住む仲間たち、周囲の皆が三日月に「辛い事件を思い出させないように」と、気を遣ってきたからである。
◆
セルクの母ルナについて答えるロイズは、三日月へ説明するため落ち着いた口調でゆっくりと、言葉を選ぶように話を進めていく。
「そう、ルナは――その戦いにより致命傷を負ってしまった癒しの魔法師ルナは、戦線離脱を余儀なくされました。その後は五ヵ所のうち、静寂の森を監視する守人としてのみ過ごしているのです」
――国を護るためどの時代にも存在し続ける、七人の守護騎士。
「守護騎士……は守人? お母様はキラリの森で」
「えぇ、そうね」
横に座る母の顔を見る三日月の顔は、少し固い表情になっていた。望月はそんな三日月の頭を撫でながら、優しい声で話し始める。
「私はキラリの守人を任されています。三日月には今まであまり歴史を語ることがなかったけれど、王国のため私たちの暮らす光の森があることは、教えたわね?」
ルナガディア王国を護るように、周りを囲む星形五ヵ所の森。望月は自分がその一つ、光の森を護る守人であることからその任務がどのようなものか? 王国から任された森の入り口にある魔法扉の重要性などについては、三日月に説明していたのだが深く詳細は話しておらず、星形で王国を囲む五つの森があることなどは伝えていなかった。
だがこの時、三日月はすでに知っていたのである。ルナガディア王国の周りに広がる、星形の森を。
『五つの森』と、役目を与えられている【守人】。
(星様が教えてくれた、星形の森で王国を護っているというお話のことだ)
あの日、屋上でセルクからその話を少しだけ聞いていた三日月。しかし、なぜかセルクは急に話を終わらせてしまい、最後まで聞くことが出来なかったのだった。
三日月は久しぶりに会った母に、当然この話――自分が森の存在を知っていることは、伝えていない。他の人から森のことを聞いたとも言えなかった三日月は、母、望月が教えてくれていたことについて。それだけを答えた。
「はい、お母様。覚えています。えっと、その。他の森には?」
三日月は光の森キラリについての教育は受けていたが、セルクから聞いた話で「五つの森」ということ以外は知らない。もちろんその森の名やそれぞれの役割、そこにいる守人がどのような人物なのかも。
――三日月だけではない。ルナガディア王国の大事な機密事項として扱われる七人の守護騎士については秘密が多い。それは、ごく少数の王国関係者しか知り得ない情報ばかりである。
じっと静かに話を聞いていたロイズは懐中時計を手に時間を確認する。
(まだ、のようですね?)
そして話し合う望月と三日月に、ふわりと風のように声をかけた。
「さてさて、まだ少し時間がありそうですので。月さんにルナガディア王国を護る星形に広がる五ヵ所の森――それぞれに付けられし名称をお教えしましょう」
ロイズの甘く穏やかな声が、心に流れ込んできた。
それは温かく、ゆっくりと三日月の全身に力を与えるように、沁み入る。
(まるであの時……あの日、忘れられない記憶と感覚にも似ているの)
「望月様からお聞きしているかとは思いますが、再度お話させていただきます。王国の周りには星形の森があり、その中の一つがあなたの生まれ育った【光の森】。その他四つある森のうち、先程お伝えした癒しの魔法師ルナが、守人として護っているのは【静寂の森】です」
三日月にとって、とても興味深い話だった。母である望月以外にも森を護る守人が四人いる。そしてその内の一人は、セルクの母であるという事実を知り。
(繋がっている。きっと私が知らなかっただけ……)
――私が自分の過去の記憶と向き合わずに、皆に甘えていたからだ。
「そして残る三ヵ所は――【風の森】と【水氷の森】、最後にここはとても危険ですが【灼熱の森】と、この五つの森にルナガディア王国は護られています」
「ロイズ先生……」
突然、三日月は顔を伏せると一言、ロイズの名を呼んだ。その言葉を聞き不思議そうに皆の視線は三日月へ向いた。
「私の記憶に……忘れてしまっているような気がしている何かに、関係があるのですね」
そう、三日月は気付いたのだ。
今日なぜ、王国だけではなく世界から隠されたこの幻の場所end、このような大事な席に呼び出されたのか? なぜ、両親が一緒なのか?
「話さずとも。賢い月さんは、どうやら察しがついたようですね」
「……」
そしてこの瞬間、今まで見ないようにしてきた人並みならぬ自分の力に向き合う時だと感じていた。
「あぁ三日月。これから話されること、そして起こること全て。お前には辛いことかもしれんが」
父ライトが心配そうに、うつむいたままの三日月の姿を見て声をかけた。そしてロイズの口から、会議の始まりを思わせる言葉が発せられる。
「さてさて、出席者が揃ったようですね」
ゴゴゴォォォォオ…………。
三日月はここへ入った時と同じように、重い扉の開く音が聞こえるのに気付く。入り口へ目をやると、ハッと一驚を喫したのだった。
「え、どういうこと?」
――どうして、あなたがここに?
お読みくださりありがとぉございます♪
『 関連のあるお話 』(*´▽`*)わぁ~い
~☆今回はこちら☾~
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第71部分【61 文化交流会2日目~内緒~】
セルクと三日月が屋上で話した内緒や、
森のお話をした部分が書かれていマシュ♡
ではでは、次話もお楽しみにぃ♪