101 【幻】(げん)の力
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「タイト様。客間のご準備が整いました」
「――ご苦労様」
突然聞こえてきた人の声に、月はドキッとしながら振り向いた。するとそこにはメイドが一人、笑顔でこちらを見て立っている。はたと目が合うとにこりと微笑み「いらっしゃいませ」と、美しいお辞儀で月に挨拶し笑いかけた。
「あ、えっと。こ、こんにちは!」
そのメイドの笑顔に、人見知りの月ちゃん登場! 急に恥ずかしくなった月は、耳まで真っ赤になり、あたふたと戸惑いながらも応えると、深々とお辞儀をする。
「いえ、そんな! お客様、恐縮でございます」
三日月の深くお辞儀をする様が珍しいようで、両膝を付き必死で懇願される。
「どうか、どうか! 頭をお上げ下さいませ」
「ふ、ふぇッ?! いえいえ……あの、えーと??」
月がメイドの慌てぶりに驚き、キョトンとしていると、そのやり取りに気付いたタイトが振り返り、話し始めた。
「気になさるな、三日月様。普段よりメイドやボーイたちは、来客者からそのように深々と頭を下げられるなど、もとより不慣れがゆえの態度にございます」
そう月に告げると、タイトはメイドにも声をかける。
「そなたも気にするな」
その言葉で安堵の表情を浮かべたメイドは、タイトへ「ありがとうございます」と頭を下げ、再度、月へにっこり笑顔を向けて、奥の部屋へと戻って行く。しかし月は堅い表情のまま、そんなにお辞儀が嫌だったの? と、とても不思議な感覚を覚えていた。
「不快な思いをさせて申し訳ありませぬ。然れど此処は、イレクトルム王国の王子が住まう屋敷と。ご理解下さる事をよしなに願い申す」
「いえ! 不快だなんて決してありません!! 私の方が、よく解っていなくて。なんだかすみません、ご迷惑を」
すると、少し首を傾げ疑問な表情になるタイト。
「一つ疑問ですが。三日月様は、使用人などとの距離感は……」
(し、し、使用人?!)
月は戸惑い焦りながらも、タイトが話を終える前に答え始めた。
「えぇ?! ちょっと待ってください、タイト様! 私は、キラリの森で生まれ、可愛い動物や木々に囲まれて、のびのび~と育った、ただの一般人です。なので、皆様のようなお坊ちゃま、お嬢様と呼ばれるような生活は、経験がないのでして」
両手を前に出し、真っ赤な顔で恥ずかしそうに話す月の姿を、表情ひとつ変えずに聞いていたタイトが、次に口を開いた。
「それは真ですか? 然るにては気品溢れ、良き教育を受けておられる」
「え、あの。光栄です……あ、りがとう、ございます」
(両親に? 森の皆に? 感謝……でしょうかぁ)。
その後しばらく月は、もうすぐ着くのかなぁと思いながら、ボーっと歩いていると、突然! 前を行くタイトの足が止まった。
「ふ、にゃぅッ!!――」
それに気付かず歩き続けた月は、鍛えられたその背中に思いきり顔をぶつける。鼻を抑えながら、慌てて離れて大変な事をしてしまったと、恐る恐る顔を上げた。
(あぁ~大変! ぶつかってしまったよぉ!!)
タイトの水宝玉のように澄んだ瞳が、こちらを見ている。雪のように白く美しいその横顔には、ため息がでるほどに見惚れてしまう。
「…………」
――ハッ! 何か言わなきゃ!
「タイト様! あの私。ちゃんと前を見ていなくて、ぶつかってしまって」
「大事ありませぬ、それよりも三日月様は」
「私は大丈夫です!!」
本当はぶつけてしまった鼻がとても痛かったのだが、心配をかけまいと、必死に笑顔で答える月。すると「そうですか」と、タイトは言う。そして澄んだ水宝玉の瞳がゆっくりと閉じられ、沈黙した。
(ん? タイト様……どうしたのだろう?)
その瞬間、月はふと気が付いた。周りの景色、通ってきた廊下のタイルが、元に戻っているという事に。そしてタイトは、その月の姿を確認するように、表情を窺うと「歩きながらお話を」と、切り出す。
「三日月様、先日の噴水広場での一件ですが」
「ぇ……、ぃ」
月は、かすれるような声で答えた。
それは、月が初めてタイトに会った日――あのラウルド理事長の不気味な笑みと奇妙な姿に、恐怖を感じた日の事だった。
「お伝え申し上げたい事がございます」
その言葉に、ゆっくりと深呼吸をすると、心の準備が出来たように返事をする。
「はいっ、お願い致します」
両腕はおろしたまま、こぶしだけ握り締め、月は自分自身に気合を入れた。
(そうだ、頑張れ私! 全てに向き合うって決めたの!!)
そして、客間らしき部屋の扉が見えてくる頃に。タイトは静かに穏やかに、諭すような口調で話し始めた。
「太陽様へは、話しておりませぬ件にて。ゆえに二人である今――」
タイトの声は、ひんやりとした雰囲気を醸し出しながら、例のごとく冷静に、淡々とした同じトーンだ。しかし、やはりどこか安心をする、優しさを感じる声。早くなっていた月の鼓動はドクンッと、一度だけ大きく音を立て、それから不思議と鎮まり、落ち着きを取り戻した。
「あの方、ラウルドと言われたか。あの、談ずるのがお好きな理事長殿であるが、恐らくは――【幻の力】を有する。貴女様が見たという“今宵の満月ではない月”。その正体は、あの者が持つ力が働き魅せた偽物、幻想。そう、考えられましょう」
――えっ。
「で、では、私は何かの術にかけられていたという事でしょうか?」
月は、驚きとショックを隠し切れず、表情は青ざめていった。なぜなら、自分では全く気付かぬうちに何かの魔法をかけられていたのなら、気味が悪い気持ちと、改めて自分の能力の低さを情けなく感じていたからだ。
「はい。私の予想ですが、恐らくは」
「そう、そうですか」
あんなに楽しかった月の気分は、急降下した。突き付けられた現実、自分の実力の無さに、ますます自信を喪失してしまっていた。
「三日月様、然ばかり気になさるな」
「う、ふぇ??」
(そう、言われましても……)。
少しだけ、一瞬だけ。
柔らかく口元を緩めたタイトが、客間と思われる部屋の扉に、手をかけた。
ギィー―……ガチャ……。
扉が開き、部屋の様子が目に入ってきた月の心に、衝撃が走った。
「よぉ! 遅かったなッ」
「「かったなーッ!!」」
「太陽君?! それにメルルとティルも!!」
なぜか? 三人の姿が、そこにはあった。
「さぁどうぞ、三日月様」
「えっ、エッ?! あのぉ」
突然の出来事に、当惑してしまっている月。しかし、タイトは何事もなかったかのように、月を客間へ案内するのであった。
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第64部分【54 文化交流会2日目~考え事~ 】
「そう……綺麗な“三日月”だそうだよ」
本文より♪
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今後ともよろしくお願い致しまするなになのニャ!!
いよいよ、太陽君のお話が聞けそうですネ♪
次話もお楽しみにぃ~(*´▽`*)