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101 【幻】(げん)の力

お読みいただきありがとうございます(◍•ᴗ•◍)

♪こちらのお話は、読了時間:約6分です♪


(Wordcount2570)


「タイト様。客間のご準備が整いました」


「――ご苦労様」


 突然聞こえてきた人の声に、月はドキッとしながら振り向いた。するとそこにはメイドが一人、笑顔でこちらを見て立っている。はたと目が合うとにこりと微笑み「いらっしゃいませ」と、美しいお辞儀で月に挨拶し笑いかけた。


「あ、えっと。こ、こんにちは!」


 そのメイドの笑顔に、人見知りの月ちゃん登場! 急に恥ずかしくなった月は、耳まで真っ赤になり、あたふたと戸惑いながらも応えると、深々とお辞儀をする。


「いえ、そんな! お客様、恐縮でございます」


 三日月の深くお辞儀をする(さま)が珍しいようで、両膝を付き必死で懇願される。


「どうか、どうか! 頭をお上げ下さいませ」


「ふ、ふぇッ?! いえいえ……あの、えーと??」


 月がメイドの慌てぶりに驚き、キョトンとしていると、そのやり取りに気付いたタイトが振り返り、話し始めた。


「気になさるな、三日月様。普段よりメイドやボーイたちは、来客者からそのように深々と頭を下げられるなど、もとより不慣れがゆえの態度にございます」


 そう月に告げると、タイトはメイドにも声をかける。


「そなたも気にするな」


 その言葉で安堵の表情を浮かべたメイドは、タイトへ「ありがとうございます」と頭を下げ、再度、月へにっこり笑顔を向けて、奥の部屋へと戻って行く。しかし月は堅い表情のまま、そんなにお辞儀が嫌だったの? と、とても不思議な感覚を覚えていた。


「不快な思いをさせて申し訳ありませぬ。()れど此処は、イレクトルム王国の王子が住まう屋敷と。ご理解下さる事をよしなに願い申す」


「いえ! 不快だなんて決してありません!! 私の方が、よく解っていなくて。なんだかすみません、ご迷惑を」


 すると、少し首を傾げ疑問な表情になるタイト。

「一つ疑問ですが。三日月様は、使用人などとの距離感は……」


(し、し、使用人?!)

 月は戸惑い焦りながらも、タイトが話を終える前に答え始めた。


「えぇ?! ちょっと待ってください、タイト様! 私は、キラリの森で生まれ、可愛い動物や木々に囲まれて、のびのび~と育った、ただの一般人です。なので、皆様のようなお坊ちゃま、お嬢様と呼ばれるような生活は、経験がないのでして」


 両手を前に出し、真っ赤な顔で恥ずかしそうに話す月の姿を、表情ひとつ変えずに聞いていたタイトが、次に口を開いた。


「それは(まこと)ですか? ()るにては気品溢れ、良き教育を受けておられる」


「え、あの。光栄です……あ、りがとう、ございます」

(両親に? 森の皆に? 感謝……でしょうかぁ)。


 その後しばらく月は、もうすぐ着くのかなぁと思いながら、ボーっと歩いていると、突然! 前を行くタイトの足が止まった。


「ふ、にゃぅッ!!――」


 それに気付かず歩き続けた月は、鍛えられたその背中に思いきり顔をぶつける。鼻を抑えながら、慌てて離れて大変な事をしてしまったと、恐る恐る顔を上げた。


(あぁ~大変! ぶつかってしまったよぉ!!)


 タイトの水宝玉のように澄んだ瞳が、こちらを見ている。雪のように白く美しいその横顔には、ため息がでるほどに見惚れてしまう。


「…………」


――ハッ! 何か言わなきゃ!


「タイト様! あの私。ちゃんと前を見ていなくて、ぶつかってしまって」


「大事ありませぬ、それよりも三日月様は」


「私は大丈夫です!!」


 本当はぶつけてしまった鼻がとても痛かったのだが、心配をかけまいと、必死に笑顔で答える月。すると「そうですか」と、タイトは言う。そして澄んだ水宝玉の瞳がゆっくりと閉じられ、沈黙した。


(ん? タイト様……どうしたのだろう?)


 その瞬間、月はふと気が付いた。周りの景色、通ってきた廊下のタイルが、元に戻っているという事に。そしてタイトは、その月の姿を確認するように、表情を(うかが)うと「歩きながらお話を」と、切り出す。


「三日月様、先日の噴水広場での一件ですが」


「ぇ……、ぃ」

 月は、かすれるような声で答えた。


 それは、月が初めてタイトに会った日――あのラウルド理事長の不気味な笑みと奇妙な姿に、恐怖を感じた日の事だった。


「お伝え申し上げたい事がございます」


 その言葉に、ゆっくりと深呼吸をすると、心の準備が出来たように返事をする。


「はいっ、お願い致します」

 両腕はおろしたまま、こぶしだけ握り締め、月は自分自身に気合を入れた。

(そうだ、頑張れ私! 全てに向き合うって決めたの!!)


 そして、客間らしき部屋の扉が見えてくる頃に。タイトは静かに穏やかに、(さと)すような口調で話し始めた。


「太陽様へは、話しておりませぬ件にて。ゆえに二人である今――」


 タイトの声は、ひんやりとした雰囲気を醸し出しながら、例のごとく冷静に、淡々とした同じトーンだ。しかし、やはりどこか安心をする、優しさを感じる声。早くなっていた月の鼓動はドクンッと、一度だけ大きく音を立て、それから不思議と(しず)まり、落ち着きを取り戻した。


「あの方、ラウルドと言われたか。あの、談ずるのがお好きな理事長殿であるが、恐らくは――【(げん)の力】を有する。貴女様が見たという“今宵の満月ではない月”。その正体は、あの者が持つ力が働き魅せた偽物、幻想。そう、考えられましょう」


――えっ。

「で、では、私は何かの術にかけられていたという事でしょうか?」


 月は、驚きとショックを隠し切れず、表情は青ざめていった。なぜなら、自分では全く気付かぬうちに何かの魔法をかけられていたのなら、気味が悪い気持ちと、改めて自分の能力の低さを情けなく感じていたからだ。


「はい。私の予想ですが、恐らくは」


「そう、そうですか」


 あんなに楽しかった月の気分は、急降下した。突き付けられた現実、自分の実力の無さに、ますます自信を喪失してしまっていた。


「三日月様、()ばかり気になさるな」


「う、ふぇ??」

(そう、言われましても……)。


 少しだけ、一瞬だけ。

 柔らかく口元を緩めたタイトが、客間と思われる部屋の扉に、手をかけた。


 ギィー―……ガチャ……。


 扉が開き、部屋の様子が目に入ってきた月の心に、衝撃が走った。


「よぉ! 遅かったなッ」

「「かったなーッ!!」」


「太陽君?! それにメルルとティルも!!」


 なぜか? 三人の姿が、そこにはあった。


「さぁどうぞ、三日月様」


「えっ、エッ?! あのぉ」


 突然の出来事に、当惑してしまっている月。しかし、タイトは何事もなかったかのように、月を客間へ案内するのであった。


いつもお読みいただきありがとぉございます♪


『 関連のあるお話 』

~☆今回はこちら☾~

 ↓ ↓

第64部分【54 文化交流会2日目~考え事~ 】


「そう……綺麗な“三日月”だそうだよ」


                 本文より♪



※ご意見・ご感想などいただけますと嬉しいです~♡

今後ともよろしくお願い致しまするなになのニャ!!


いよいよ、太陽君のお話が聞けそうですネ♪

次話もお楽しみにぃ~(*´▽`*)


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