100 薔薇の証
お読みいただきありがとうございます(*uωu*)
♪こちらのお話は、読了時間:約6分です♪
(Wordcount3000)
――「空間魔法を、ご指導いただきたく存じます」
とても穏やかな時間が流れていた。
客間へ向かうまでのこの廊下の景色が、魔法で創られたという事実を知った今も、タイトの世界や雰囲気に、心の底からホッとする月。
長年、あれだけの恐怖を感じていた空間魔法だったが、月にとってこの魔法へのイメージは、今まさに良い方向へ変わりつつあり、その理由の一つは間違いなく、タイトの能力を目の当たりにした事がきっかけだろう。
使い手が想像し、思い描くセンスや技術の高さによって、この場所のように素敵な空間を創造する事も出来る、素晴らしい魔法なのだという事を肌で感じていた。
(王妃様が使った愛の魔法。あの時もそう、私が修得できていない、知らない技術や魔法は、きっとまだまだたくさんある!!)
「知りたいッ!」
そう、強く、強く。月の心は前進への意欲で溢れていた。
タイトの「この場所は。私が創りあげた――」との一言。月が今までずっと一人で抱え込んで生きてきた恐怖心を、この短時間で期待感へと変化させてくれた言葉だった。はたまた、それは好奇心にも似たわくわくとした感情でもある。
そして月は思う。タイトの放つオーラから溢れ出る、この素敵な魔法を、心から学び習得したい! と。
――私……この決意に、迷いはない。
◇
「三日月様……」
静かに月の名を呼んだ後しばらくの間、何かを思案するかのような表情のタイトは、微動だにせず黙りこくってしまう。
「あの、タイト様。やはり、無理……でしょうか?」
今思えば、勢いで言ってしまった三日月。「失礼だったのでは?」と、だんだん不安な気持ちが押し寄せてきた。いきなりお願いしてしまった自分の突発的な行動を思い出し、後悔し始めると、申し訳なさそうに小さな声でタイトへ聞いた。
「…………」
しかしタイトは、考え込んだまま何も答えてはくれない。
――はぁ、どうしよう。
(そもそも、一般人の私がいきなりお願いできるような御方ではなかったよぉ!)
「すみません……身の程も弁えずに、言ってしまったのです」
月は、自分の考えの甘さと情けなさに、少しだけ泣きそうになりながら、思わずトホホと心の声が漏れていた。
太陽との出会いは偶然、同じクラスになった。入学の日、隣だったから話をして仲良くなった。そして今日も、メル・ティルと四人で一緒に楽しく過ごしてきた。
(そう……そうだよね)。
冷静になった月は「全ては偶然なのだから」と、納得する。
仲良くなったお友達が偶然、イレクトルムの王子様だった。そして幸運にも! こうして有名な騎士様である、タイト様にもお会いする事が出来た。それだけでも充分幸せなのだと、改めて思ったのだ。
(それに今日は、太陽君の大切なお話を聞きに来ただけ!)
「あ、あの――」
月は思い直した。自分の発言が一時でも迷惑をかけたであろうタイトへ、謝罪の言葉を口にしようとした、その時。
「三日月様のお言葉、大変有難く存じます。しかしながらこのお話、私の一存では返答しかねますゆえ」
「いえいえいえ、いいのです!!」
月は、タイトが気を遣って言ってくれているのだと思い、無意識に目を閉じ両手は顔を隠すように目の前でぶんぶん。必死に申し訳ない気持ちを伝えようとした。
月の慌てる顔は、真っ赤になりながらも一生懸命だ。すると、目を瞑る真っ暗な視界の中に、タイトの声が一筋の光に見えるように聴こえ、頭の中で響き光った。あの抑揚のない冷たい話し方はどこへいったの? と思う程、聴こえてきたその声には、優しさが感じられた。
(あの時と同じ……)。
泣きそうになっていた月の気持ちは、とても落ち着き、昂っていた思考は癒されていく。そう、その声はまるで、“音色”のような心地良さだった。
――「セレネフォス=三日月様」
「ぇ……?」
呼ばれて、ゆっくりと目を開ける。そして月の瞳に映ったもの。それは、美しく可愛らしい一輪の花。
「私は、イレクトルム王国に命を捧げた身でございます。それゆえ、勝手な行動や決断は出来ませぬ。然れど、三日月様の保護方のお許しが下りますれば、すなわち承る覚悟――このジーヴル=タイト。必ずや三日月様のお力に。その思ふ心を実現いたす所存にございます」
そう言うと、タイトは片膝をつき、左手を自分の胸に当て、軽い会釈をすると、美しい花を月の前に差し出す。忠誠心を表すかの如く誓いを述べる姿は、月に驚きと緊張感を与えた。
「え……えっと」
ゆっくりと流れる時間が、感覚を鈍らせる。花など、そんなお洒落なプレゼントをもらった事のない月。しかしその手は、タイトから自然と花を受け取り、愛でるように見つめていた。なぜか? 恥ずかしい気持ちは訪れる事なく、その代わりにクスクスと幸せな気分で笑顔が零れる。
「可愛いお花ですね、丸っこくて……うふふ」
「薔薇でございます」
「このお花、薔薇なのですか?!」
月は目を丸くして再度、花を見る。その薔薇は馴染みのない形。アンティーク調の花飾りのように丸っこく、ころころん♪ としており、とても可愛らしい。
「この薔薇は“ヘリオスロマンティカ”という種でございます」
「ヘリオス……初めてお目にかかりました」
タイトは柔らかい表情のまま説明を続ける。
「花には様々な意味がありますが、私からは『親愛なる友へ』と、言葉を贈りたく存じます。その花で繋がる絆を持ってして、貴女様との“約束”を守る、証とさせて頂きたい」
「え? で、では」
(ご指導は……嫌じゃないという事? 良いって事なのかな)。
「はい。この花に、お誓い申し上げます」
「あ、ありがとうございます!!」
――フッ。
「あっ……」
(はぅ! タイト様、今、笑った気がするよ?!)
ちょうど表情を見ていて気付いた三日月が、見間違いかと思うくらいの一瞬に、タイトは口元を緩ませていた。
――まことよく、似ておられる。
ついさっき、絵を見て喜んでいた、月の姿を見た時に感じた気持ち。
「三日月様。花を」
「はい……?」
淡いピンク色をしたその花びらの中央は、品のある落ち着いたオレンジ色をしている。可愛らしいその薔薇の花をタイトは優しく受け取ると、月の美しくキラキラとしたホワイトブロンドの髪に、かんざしのように飾りつけた。
「んっと?」
「よく、お似合いです」
どんな感じになっているのでしょうか~? と、月は気になりながらも、とても幸せな気分になり少し頬をピンクに染めて、ニコニコと満面の笑みだった。
(陽向様に、まことよく……)。
ふと、三日月は視線に気付き、こちらを見るタイトと目が合った。いつも宝石のように光るアクアマリン色の瞳が、少し悲し気で、くすんで見えた。
(あれ? 気のせい……かな)。
柔らかくなっていたタイトの表情は、氷のような冷たい空気感に戻り、変わらず美しい艶髪をなびかせ向き直る。そうして、月から視線を外すと、自分の気持ちを思い返すように瞳を閉じ、また、足音を立てる事なくゆっくりと歩き始めた。
しかし、この時すでに、タイトは三日月へ心を許していたのだった。
――甚だ、不思議なお人よ。
「三日月様、もうすぐ参り着きます」
「あ、はいっ!」
明るく返事をすると、ウキウキとにっこり笑顔でついて行く。
ご機嫌な月は、珍しい可愛いお花を受け取った事よりも、空間魔法の指導を了承してくれるというタイトの言葉が心から嬉しくその事ばかり。その『花』の意味を。深く気にもしていなかったのだった。
しかし、指導を実現するのは、容易ではない。
いつもお読みいただきありがとぉございます♪
100話目デス(*´▽`*)わぁ~い
『 関連のあるお話 』
~☆今回はこちら☾~
↓ ↓
第58部分【49 文化交流会2日目~感情~ 】
“王妃様”の登場と、
ユイリアの付き人をする“メイリ”とのお話に注目です♪
※ご意見・ご感想などいただけますと嬉しいです~♡
今後ともよろしくお願い致しまするなになのニャ!!
ではぁ~次話もお楽しみにぃ~(≧▽≦)