95 御屋敷
お読みいただきありがとうございます(◍•ᴗ•◍)
♪こちらのお話は、読了時間:約7分です♪
(Wordcount3040)
「おーどうした? 遠慮せんで入ってきていいぞ」
月たちが後ろをついてきていないのに気が付いたのか? 門を開けて先に入って行った太陽が、戻ってきた。そして、ひょこっと顔を出すと楽しそうにそう告げたのだった。
「はぁ~い♪」「行くのらぁ~♪」
ひゃっほぉ~い!!!
さすが、何でも受け入れますな双子のメル・ティル。すぐに気分が切り替わり、全く物怖じしない。いつもの二人、大きな声で返事をすると、目の前に立つ豪邸の門をルンルンとくぐり抜け、あっという間に中へと走って行ってしまった。
一人残された月は、どうしても気になって……聞いてみる。
「ね、ねぇ? 太陽君」
「おぉ? どうした月。はっ! まさか?! どっか具合でも悪くなったか?」
もしかして、さっき此処に来るために使ったあの扉? 俺の魔法のせいか?! と、慌て始める太陽。
「ち、違うよ、大丈夫! 元気元気~」
「そうか? そんならいいがな」
月は、あははと愛想笑いを浮かべ御屋敷の方へ視線を移すと、再度話を始める。
「あのぉ~すごく、すーっごく大きな御屋敷だね。えーっと、正直とても驚いているのだけれど……此処は一体?」
それを聞いた太陽は、少しだけ間が空いた後に「そやなぁ~」と一言。そして頭の後ろに手をやりながら、答えた。
「こればっかりは断れんでなぁ。うーん、イレクトルム王国の第一王子という肩書が。両親にとっては、唯一無二の存在。大切な未来の光。国の太陽だとか……」
次々に言葉を並べ始める太陽。聞き進めていくうちに、恐らく他国で学園に通うと聞いた両親が、此処ルナガディアでの長期滞在になる事を知り、太陽の身を案じ(?)準備したのだろう。この豪邸に住む事を承諾させるために、もっともーっと親からはたくさん言われたらしいという事が、太陽の言葉からひしひしと伝わり、推測ができた。
「な、なるほど……ネ」
ここまで聞いた月の表情は、力ない笑いになっていた。
「はっははは、お前が疲れてどうすんだ? 月ちゃん」
「えっへへへ、聞いたのは私なのにネ。ごめんなさい」
大きく笑いながら良い良い! と言ってくれる太陽。月はひとまず屋敷へ通される事となった。
屋敷の外側は、周りの景観を崩さぬようにするためか、何の違和感もない、ただただ大きな豪邸だった。しかし、いざ中へ入るとまるで別世界。ルナガディア王国にいるとは思えない程の情熱的な内装と香りは、まさしくイレクトルム王国、別名【太陽の国】を思わせる。そして等間隔で飾られた芸術品は、一ミリのずれもなく美しく並んでいた。月たちは、その広い玄関ホールに一歩足を踏み入れた途端! ワクワクするような気分になり、自然と笑みが零れた。
「「みゃっふぅぅう♡♡」」
新しいものが大好きなメルルとティルは、おめめキラッキラ!! いつも以上に「キャッキャッ」と、歓喜して躍り上がる。
「なんだろう♪ 元気が湧いてくるみたいな」
(他国に行ったみたいで、感動しちゃう……)。
元々、生まれ育った光の森【キラリ】からほとんど出た事がない月。学園に通い始めてから、最近やっとルナガディア王国中心の都(月の都)にも、よく出かけるようになった。そんな月にとって目の前にある物の数々は、自分の知らない景色がたくさん並んだ、小さな国に見えるのだった。
「月、そんなに珍しいのか? ははっ、そう喜ぶもんはないんだがな」
まぁ、楽しいならいいなっ! と、太陽はいつものようにニカっと笑う。
玄関ホールには、数人のメイドとボーイが太陽を出迎えていた。皆、帰ってきた太陽と嬉しそうに談笑し、また幸せそうに笑っている。その平和な笑い声と親しい距離感は、飾らない王子の姿とイレクトルム王国から来た仲間との、深い信頼関係が窺える。
月たちはその間、ホールにある絵画や置物を眺め楽しんでいた。どれも輝いて、ウキウキとするものばかり。特に月が気に入ったのは、イレクトルム王国内の市場と思われる場所、活気ある様子が描かれた絵画だった。
「はぅ~美味しそう♪ エヘッ。いつか行ってみたいなぁ……」
そんな夢見心地な願望を一人呟いていると、話が終わったのか? 太陽が誰かを呼ぶように指示をする。
「んじゃ、頼む」
「はい、かしこまりました」
一人のメイドが返事をすると、階段の先にある扉を開いた。
(うにゅん?? 急に空気が――変わった?)
今までの穏やかな空気は、一変して張り詰める。月がふと周りを見渡すと、玄関ホールにいる全員が、深々とお辞儀をしていた。そして、その場にいる者が一斉に出迎える程に敬われるそのお方が、月の前に姿を現す。
ギィー……バタンッ!
「おっ! 来た来た。月、メルル、ティル。紹介しよう」
――あっ……!!!
奥の扉が閉まると、玄関ホール前の大きな階段から、ものすごいオーラを放つ人が下りてきた。静かに、ゆっくり、ゆっくりと。
――そう、あの時のように。
「お初にお目にかかります。私は、イレクトルム王国騎士所属。太陽王子の護衛兼、執事をしております。ジーヴル=汰維十でございます」
(お初……えっと??)
「アイス!!」「クリーム♪」
「おっ! そうそう、さすがメル・ティルやな! アイスクリームのお兄さんだ~気付いたかっ」
そうかそうか~と、大笑いしながら、二人の頭をヨシヨシする太陽。
その様子を見ながらフッと一瞬笑い、軽くお辞儀をするタイト。そして顔を上げると、あの“水宝玉”のような澄んだ瞳が、優しく月へと笑いかけた。
「皆様の記憶にお留めくださり、ありがたく存じます」
ふわぁああ!!!
(えっ、今何か?)
目が合った瞬間、月は言葉では表現できないような感覚を、タイトの思いを感じ取った。いや、心身へ瞬時に伝わってきた、という方が正しいのかもしれない。
(そっか! ラウルド理事長様との事を、太陽君に言ってないのですね!)
だから「お初に――」なのだと、理解した。
疑問が解消された三日月は、周りの緊張感による圧よりも、タイトへ抱く敬意の気持ちの方が、はるかに勝っていった。普段見ないような凛とした表情で、そしていつもより身を低くしながら、丁寧にご挨拶の姿勢で名乗った。
「は、初めまして。私は、セレネフォス=三日月と申します」
「はい、三日月様。常々、太陽様よりお話は。よく存じ上げております」
(なんだろう。タイト様の雰囲気がこないだと違い過ぎて、緊張しちゃうし、顔を見るのが、とぉーっても恥ずかしいのです!)
月は挨拶後、急に緊張し始めた。すっかり固まってしまっている月に気が付いた太陽が、冗談交じりにタイトの事を話し始めた。
「まったくなぁ? すまんな月。タイト兄はちょっと堅苦しいとこがあってな~。しかし! こう見えて、こないだの優しい店員をしていた、そして美味しい氷菓が作れるアイスクリーム屋さんなのだがなぁ」
意外とセンスも良いしなっと、笑い始める太陽。それを黙って聞いていたタイトは、一瞬だけ眉をピクリとさせ、静かに太陽の事を諫める。
「太陽様、いくら心許せるご友人とはいえ、姿勢を崩し過ぎです」
「おふっ、すまんすまん。いや、タイト兄様、申し訳ない」
「いえ、そうではなく……太陽様!! 幾度も言っておりますが、その“兄”という敬称も、日ならずしておやめ下さらぬと……」
「わーかっとるって。しかし、もうしばらくは――」
「うっふふふふ……」
(お兄ちゃんが、お兄さんに怒られてる! なんだか新鮮?)
普段は、皆のお兄さん的な存在の強い太陽が、今は歳の離れた兄のようなタイトに怒られている。月は、その二人が言い合う仲の良い姿を見ていて、笑いを堪えられずにいたのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます♪
皆様が楽しくなるような、素敵な物語をお届けできるよう、
これからも頑張っていきます(*´▽`*)
今後ともよろしくお願いいたしまするニャ♡
次話も(太陽君のお家かな?)お楽しみにぃ☆笑