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94 変化

お読みいただきありがとうございます(◍•ᴗ•◍)

♪こちらのお話は、読了時間:約8分です♪


(Wordcount3900)


 午後からの片付けを終えて、校舎前にある門へ出てきた月たち。終わったねぇ、お疲れ様~と、皆で労い合う。


「うっはぁ~さすがに疲れたねぇ」


「れれーれたぁ」「ねぇ~れた~」


「うん? えーと??」

(メルルちゃん、ティルちゃん。なんて言っているのかが……)。


 たぶん「疲れた」って言いたいのかな? と月が考えていると、どこからか元気いっぱい、聞き覚えのある訛り口調の声が近づいてきた。


「メル・ティルよぉ、なぁんて言っとるのか分からんぞ! はっはは」

 疲れすぎたんか? と、大笑いしながら歩いてきたのは――。


「太陽君!」


「よぉ! 帰ってきたぜぃ。意外と他のクラスからも力仕事頼まれてな。おかげでいろんな生徒と話しが出来て、その~なんだな! 楽しかったなッ!」


 そう、ステキな笑顔でピースサインをする太陽。いつもよりあどけないその表情からは、心から人との出会いを喜び楽しんでいるのだろうなと、月は思った。


「ほぇ~、そうだったんだぁ……」

(楽しそうな笑顔の太陽君。どうりで、姿が見えなかったわけだネ)。


「たいよんたいよーん♪」「たぁーいよ~う♪」


 メルルとティルが、いつもの調子で飛びつこうとしていた。それに気付いた月は慌てて止めに入る。さすがの太陽も疲れているであろうと心配をしたからだった。


「あぁ、ダメだよ~!」


 しかし太陽は「大丈夫、大丈夫! 任せとけー」と言いながら、メル・ティルのキラキラおめめに答えるように、満面の笑みで自分の両腕を抱きしめ、上腕の筋肉をパンッ!! と叩き気合を入れる。そして、両腕を広げた。


「おぉーし! さぁ来いッ」


「「うわぁっは~やたぁー!!」」


 お決まりのがっちり両腕上腕筋肉ポーズで、二人を軽々ひょいっと抱える太陽。メル・ティルはいつものように、太陽の両腕にぶら下がって遊んでいる。


 見慣れたふれあいの時間。クラスの皆も兄のように慕う太陽の鍛えられた体は、見るからに力持ち。文化交流会の片付けで様々な場所にあちらやこちらで呼ばれたというのも、頷けた。しかしその後も、疲れた顔を全く見せない太陽は、底知れぬ体力の持ち主? いや、これは精神力なのだろうか? と、月は驚いていた。


「太陽君?! だ、大丈夫?」


「んー? 何がだ? はははー」

 問題ない、問題ない! と、豪快に笑っている。


 それどころか、まだまだ力が有り余っているようで、元気いっぱいだ。そして、メルルとティルの甘えっぷりにはめっぽう弱い太陽の表情は、もう年の離れた妹を可愛がる兄そのもの。顔は緩み嬉しそうにしている。当の双子ちゃんはというと。いつものぶら下がりごっこがしたいーという願いが叶い、大満足でキャッキャーとはしゃいでいた。


(す、すごい……体力レベルが違い過ぎる)。

「常人離れしているっていうのは、こういう事を言うのかな~?」


 月は、思わずボソッと呟く。すると、すかさず太陽のツッコミが入った。


「なんだ、どうした? おっ、そうかそうか! 月もやってみるか?」

 自慢の上腕に可愛い双子ちゃんを抱えたまま、そう言う。


「やーりーまーせん!!」

 と、大きな声で答えると、残念だな~と大笑いをする太陽。


(太陽君って、本当に王子様なのかな?)


 そんな事をふと考えてしまって、クスっと笑う月。しかし急に、心の奥から不安が押し寄せてきた。改まって今日これから、太陽は一体何を語るのだろうという、嫌な予感と不安。


 ポンポンッ――。ヨシヨシヨシ~♪


「ふにゃあっ! はあうーっ」


 月が何を考えているのかを察したのか、優しい目をして頭をポンポンした後に、髪がグシャグシャになるくらい撫でられる。そして太陽は、いつものように白い歯を見せてニカッと笑った。


「さぁて、そろそろ行くか~」


「「にゃ~いっ!!」」

「たいよんのおっうちぃ~♪」「るんるんおうちぃ~♪」


 メルルとティルは、両手を上げてバンザイで返事をする。二人はすっかりご機嫌で、また即興の新曲を歌いながら歩き出した。月はその後ろをついて行く。


 すると、月は遠くから聞こえてくる声に気付いた。


「三日月ちゃーん! ちょっと待ってぇ」


 振り向くと、今回の文化交流会で文化担当をしていたクラスの女の子だった。


「あ、はーい。どしたのぉ?」


 立ち止まり返事をすると、息を切らして走ってきたその子は、一度深呼吸をし、呼吸を整えた。そして、持っていた鞄から何かを取り出し、月に差し出す。


「これ! クラスの先生から預かったのよ。三日月ちゃんに渡してほしいって」


 その子から受け取ったのは、手紙のような封筒。裏を見たが送り主の名がない。しかし、小さな魔法陣のようなシーリングスタンプの刻印がされていた。


(う~ん、誰からだろう?)

「わざわざゴメンネ、ありがとう」


 あんなに急いで走ってきたのに、その子はとても笑顔だった。何だか申し訳ない気持ちになっていた月は、深々と頭を下げてお礼を言った。


「いえいえ、どういたしまして。でも、三日月ちゃん凄いね! これって上級魔法の刻印でしょ? 持ってるだけでも緊張したぁ。誰からだろうねぇ♪」


(えっ、エッ? 刻印……上級?! そうなの??)

「あの、ホントごめんね? 気を遣わせちゃって。ありがとう」


「あぁ~いいのいいの! でもでも今、これを三日月ちゃんに手渡すまでは、正直ドキドキしてたよぉ、責任重大だって。ふぅ~、これにて任務完了!!」


 少し興奮気味でそう言った後、じゃあまた~とその子は来た道を走って行った。そしてそのまま一般校舎へ戻って行くのを、月は遠い目で見送った。


「上級……そ、それってぇ」


――まさかぁ……。


「おーい月、大丈夫か? 行けるか?」


「あー、はぁーい! だ、だいじょうぶ~!!」


 大きく元気に手を振りながら足早に皆の元へ向かった。本当は動揺を隠しきれていない月。しかし、太陽に余計な心配をかけまいと、必死で笑って答えた。


――誰からの手紙なのか。

(すっごく気になるぅ!!)


 しかし、今ここで開ける訳にもいかず、月は失くさぬよう大切に、持っていた鞄の奥へ、しまったのだった。


 そしてこの後、太陽が此処ルナガディアに滞在している間に住んでいるという、御屋敷へと月たちは向かった。



 ざくざくざくざく――。


 タタタッタタタタ~!!

 てくてくてくてく――。


 永遠に歩き続けるのではないか? というくらい学園内にある森の中を、黙々と突き進む太陽。その後ろをついて行くメルルとティル、そして月の三人。


「たいようにゃー?」「どこまでいくのら?」


 そろそろ、疲れてきたのか? 歩くだけに飽きてきたのか……。メル・ティルは退屈そうに話しかけた。


「シーッ! お話禁止だ」

 すると後ろを向き、少しだけニマッとしながら人差し指を口に付け「静かに!」のポーズをする太陽。


「「はぁぷッ?!」」

 それを聞いて、素直過ぎるメル・ティルの二人は、お互いの口を押さえ合って、息を静める。


「ハハハ、冗談冗談。まぁでも、静かにするのに越した事はないがな」

 いつもよりも控えめな声で笑う太陽は、ちょっと真面目な雰囲気だ。


「でも、ほんと……だいぶ森の奥まで来たけれど」

 月も、どうしたのだろう? と、不思議そうに聞いた。


「あぁ、そうやな。そろそろ、ここらでいいか」


 そう言うと、あまり魔法が得意ではないはずの太陽から、強い熱を帯びた魔力が展開される。そして、一瞬で現れたのは赤茶色の扉。


「「「おぉぉぉぉ!!! カッコイイ」」」


 メル・ティルと月の三人は、同時に同じ言葉を呟いた。


「ここは訓練の森。俺くらいのヨワヨワちょっとくらいの魔法だったら、感知されにくいからなッ!」


「え、えぇ?」

(十分強かったけれど……?)


 月は、さっきから太陽の変化に驚きを隠せないでいた。

 それもそのはず。魔力を使う魔法実技の授業に、月はいつも別メニューでクラスの授業には参加していなかった。そのため一緒に野外授業を行った事はなかった。

 身体の能力を使った格闘・武術が得意で、魔法はダメだ、という太陽の言葉を、鵜呑みにしていたのだった。


「今日はお前たちも連れて帰るからな。いつもより入口を広げただけだ」

 そう言って、笑顔で扉に手を置いた。


(あの、あれかな? こないだラフィール先生が言ってた、人に見られずにお部屋へ行くための“裏扉”のお話。あれと同じ、魔法なのかな?)


――だとすれば、とても高度な魔法技術なのでは?


「ん、月よぉ? 今、頭ん中で、すげー魔法だな~! なぁんて思ったろ?」


「う、えぇ?」

(何で分かったのぉ?!)


「はははっ! やっぱりな~ほんと月ちゃんは隠し事できねぇな」


「うー! もぉすぐそうやって――」


 ポンポンッ。太陽はまぁまぁ落ち着けや~と、月の頭をヨシヨシ。


「これにはちょっとした秘密があってな! うちに来れば分かるってーもんだ」

 そう言うと、太陽は白い歯を見せてニカッと笑った。


「……ん~わかったよぅ」


 月自身は、実はこのお兄ちゃん太陽の楽しそうな笑顔に弱いのだなと、たった今改めて気が付いたのだ。


 そして、太陽の魔法で繋げられた場所に続く、赤茶色の扉へと向かった。


「ひーみつ♪ ひーみちゅ♪」「たいよん、たーいよん♪」

 

――パァァ!! ……シュゥゥー。


 光と共に、太陽の展開した魔法扉は、消え去った。


 ガサッ! ガサッ!!


 扉を出ると、ルナガディア中心の都なのか? 閑静な場所にでた。そして、ふと見上げると、ひとつの立派で大きな御屋敷が目に入る。


(こ、ここが太陽君の?!)


「とまぁこうして。我が家の前へあっという間に着くわけだが」


 魔法ってのは良いもんだよなぁと、ニコニコ満足そうに話しながら歩いて行く。そして太陽は門を開けると、すたすたと中へ入った。


「えぇ? こ、これ」

「「うっひょー!!」」


 そのあまりに大きな御屋敷に。

 月と、もちろんメル・ティルも。


 しばらく、言葉が出てこなかった。


いつもお読みいただき

ありがとうございます( *´艸`)


次話もお楽しみにッ♪

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