90 本当の心
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今日はとても、穏やかな朝だった。
目覚まし時計の音が鳴り響くよりも、ずっと早い時間に目が覚めた。私はいつものように寝室のカーテンと窓を開けると、太陽の上がった明るい空を見上げた。
雲ひとつない青空――とても鮮やかで眩しい。
起きたばかりで狭まっている私の視界は、キラキラと綺麗な朝陽を浴びながら、だんだんと見える世界に広がっていく。ボーッとしていた私の意識へ『起きて!』と、陽の光が呼びかけてくるようだった。
その光と一緒に、窓から入ってきた優しい風に、いつもの仲良し精霊さんたちが乗って来る。そして、私の周りをふわっと楽しそうに舞う。
「うふふ、おはよう♪ 今日の風、気持ちいいネ」
とても穏やかな時間と空気に、自然と笑顔になる。それから両腕を大きく広げて伸びをした私はまるで、力をもらうかのように、陽光を身体全体で受けとめた。
そしてふと、良い事を思い立つ。
「そうだ! 今日のお弁当は――」
着替えなど、朝の支度をある程度終わらせると、メルルとティルの待つ居間へと、ウキウキした気分で向かった。
◇
月は、清々しい気分で居間に着くと、ドアの外からでも聞こえるくらいの賑やかな声に気付く。可愛い双子ちゃんは、本日も朝から元気いっぱいのようだ。
ガチャッ……――。
「にゃにゃッ!!」「みゃみゃッ!!」
「おはよう~メルル、ティル」
「にゃっほ~い♪」「おっはにゅーん♪」
「「つっきぃーちゅきぃ~♡」」
キャッキャッと、朝からパワー全開で月へ抱き着くメル・ティル。
「スゴ……げん、き、だねッ! うっわぁ~!!」
ばったーーんッ!
「ごめ~ん、つっきぃ」「ダイジョウブ? つきつきぃ」
メル・ティルの二人は、珍しく心配そうな顔で月の顔をのぞき込んでいる。
それもそのはず。
月は、後ろに倒される形で、勢いよく、豪快に尻餅をついてしまったのだ。
「イテテ~、あはは~。二人とも心配ないよぉ……だ、ダイジョブ大丈夫♪」
(飛びついてくれるのは嬉しいのだけれどぉ! ち、力が、強い強い!)
そんな愛情たっぷり? メルルとティルの挨拶がひと通り終わると、立ち直りの早い双子ちゃんは「ごはん♪ ゴッハーン!」と、嬉しそうに声を弾ませながら、テーブルについた。
――今日から二人は、しばらく此処にいてくれるのだろうか?
月は無意識に、そんな事を思った。が、しかしすぐに、ハッ! とする。
(いけない! 私ったら、何を考えているのだろう)。
「そんな訳にはいかないんだよ」と、月は自分の心に言い聞かせた。
今までずっと周りの人たちに支えてもらって、その優しさに甘えてばかりいた。
(もっと、ちゃんと。一人前になれる様に、しっかりしないと!)
でも――。
その心の支えが全てなくなってしまったら? きっと辛くて、淋しくて、悲しいだろうなぁと……月は今日、初めて思ったのだった。
その気持ちが生まれた理由のひとつ。昨夜からメル・ティルが一緒にいてくれたおかげなんじゃないか? と感じ、それは久しぶりに、“あの夢”を見る事もなく、ゆっくり、ぐっすり眠れたという事実があったからだった。
(本当は私、何かに怯えているのかな?)
――本当は?
“ひとり”が……不安なのかもしれない。
そんな事を重く考えていると、天使のようにふわふわ~とした可愛いらしい声が聴こえてきた。そう、その可愛い双子ちゃんの声は、どこかへ飛んで行ってしまいそうだった月の意識を、現実へ引き戻してくれた。
「「つっきぃ~♪♪」」
(あっ、本当、何やってるのだろう? 私……)。
「ごはんなにぃ?」「なになにぃ??」
(しっかり、しっかりしないと!)
「うふふ、何にしようか? すぐに準備しますから、少々お待ちくださいませ~」
二人とも相変わらず元気ねぇと、月は手際よく食事の準備に取り掛かる。
色々と考えながらも、テキパキと朝食を作っていく。程なくして、食事の準備が出来た。月は、メル・ティルの待つテーブルへお皿を運びながら、メニューの説明をする。
「今日はメル・ティルの大好きな、手作り苺ジャムをのせたトーストと、お野菜とソーセージを盛りつけた、目玉焼きセットにしました!」
「「はぁう~♡ やったぁー」」
(お二人さん……今日も素晴らしくハモってますね)。
そして、飲み物はもちろんお決まりのジュース。
「は~い、メルルは『オレンジ』、ティルは『アップル』ねぇ」
こんなに賑やかな朝食も久しぶりだなぁと、わくわくして嬉しかった。
メルルとティルがお迎えに来る時間は毎日きっかり決まっている。なので、月の部屋で一緒に食事をとった事は、なかったのだ。
(こうして“家族”と食卓を囲むのは、一年ちょっとぶり)。
「お客様~、どうですかぁ? お味は」
「「うまうまぁ~!!」」
二人の笑顔が、とても幸せに感じて、嬉しかった月。
いつもの朝食よりも、たくさん作って、美味しくなるようにって頑張って、彩りや盛り付けにも力が入っていた。そして今、目の前で喜んで食べてくれている。
(ずっと一緒に成長してきた。私にとって、メルルとティルは家族同然だから)。
こんな風に、何でもない日常が、
こんなにも、大切な事なんだなって。
今更、気付いた。
これが、本当の意味での。
「幸せ、なのかな?」と、小さな声で呟く。
――私は。
『ひとりが好き』、だったんじゃなくて、
『ひとりも好き』、だったのかもしれない。
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