89 「思い」と「想い」
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(Wordcount2460)
『星は月を、思う』
新しくいれてくれた紅茶。
強い甘みと独特の風味。
何より、個性豊かで“繊細”。
まるで、君のようだね。
◇
「今日は遅くまで、お邪魔してすまない。それから……」
ぐっすりと眠っていて起きそうにもないソファの二人を見つめながら、少し困り顔のセルク。その心配そうな表情を見て、三日月は微笑み話しかけた。
「星様、大丈夫ですよ。一年ちょっとぶりとはいえ、幼き頃からずっと暮らしていましたので。二人の事でしたら、この月ちゃんにお任せください!」
彼女は左腕を曲げ脇腹にこぶしを当てると、右手のひらを胸に当てた。そして「えっへん!」と、任せてポーズをすると、その恰好を見た彼の表情は、柔らかな顔に戻っていく。
「そうだね。ふふふっ。ありがとう月。しかし本来なら、今日メルティは、君を護るため、ここにいるはずだったのだが」
「エッ? あ、うふふ。すやすやぐっすり寝てます。メル・ティルらしいですね」
その可愛い寝顔に、二人は再び顔を見合わせ笑った。
「では、また明日」
「あ、あの、今日は本当にありがとうございました。おやすみなさいませ、星様」
三日月は少しだけ頬をピンク色に染めニコッと笑い「また明日」と、手を振りながら挨拶をする。
「あ、あぁ。こちらこそ、素敵なティータイムを過ごせて楽しかった。ご馳走様。おやすみ、月――」
そうお礼を言ったセルクは、いつもより長い時間、潤んだ蒼い瞳で三日月の顔を見つめていた。その緩んだ彼女の無邪気な笑顔に癒され、自然と見惚れていたのだ。
(んっと? えーっ、えっと? 星様の視線が……)
少しだけ赤かった三日月の頬は瞬く間に真っ赤になっていく。そして聞こえるのではないかと思う程ドキドキと、心臓の鼓動は早くなっていた。
「あ、の……星様、そのぉ……そんなに見つめられると何だか恥ずかしいのですが」
その言葉で我に返ったセルクもまた、珍しく顔が赤くなる。
「あぁ、ごめん。それでは明日の朝は、僕が迎えに来るから」
そう言うと、柄にもなく熱く火照る自分の顔を隠すように、彼女から視線を外すと左手で口を押さえながら、玄関の扉を開けた。
ガチャッ、キィー。
扉を開ける音。それは二人の間を通る空気と共に響き、外へ流れていく。
冷静さを装いしかし黙ったままでゆらゆらと、右手を振るセルクは足早に部屋を出て行った。
「ほ、星……様」
――パタンッ。
三日月はセルクの後ろ姿を少し名残惜しい気分で見送りながら、玄関の扉をゆっくりと閉めた。その後だんだんと自分の心で起こっている不思議な気持ちに気付き、戸惑い、悩み始める。
ぺたんッ――。
急に身体の力が抜け、ふにゃんと腰が抜けたように玄関で座り込んだ。
「何だったの……かな?」
(あの深くて蒼い、キラキラと潤んだ瞳に見つめられていると。いつもドキドキが止まらなくなる)
「それに――」
ぽつりと、呟く。
いつもとは違う、焦った様子のセルク。その姿はとても新鮮で見た瞬間、何だかくすぐったいような感覚とポカポカ温かい、何かが三日月の心を流れるようにドキドキしていた鼓動はキュンとした気持ちに、変化していった。
それは彼女が今までに経験したことのない、想い。
この突如、心に現れたふにゃんな気持ちが一体何なのか? 考えてみても、理解は出来なかった。
「自分の事……なのに」
◇
三日月の住む大きな学生寮を出てから、家路を急ぐセルク。
ふと立ち止まり、振り返る。
少し暗さを帯びてきた雲。そして優しい風が吹く空を仰ぐと、ついさっき自分がとった行動に、今までにない違和感と疑問を強く抱いた。この感情が何なのか? 考え込んでしまい、座り込んでしまった。
「あの時、三日月の」
(愛おしそうに、ブレスレットの蒼い石を撫でる三日月の姿が)
――君のその笑顔を見ていると、僕の心はなぜか熱くなってくる。あの気持ち……苦しさにも似ていたんだ。
「そうだ。今日の僕はきっと、どこかおかしい。そう、今日だけ」
考えをまとめる様に、一人呟いた。
(そう僕は。アスカリエス=星守空として、セレネフォス=三日月を護る)
「僕の今の役目はそれだけ……なのだから」
セルクは言い聞かせるように、声に出して言うのであった。
◇
【蒼い石】
誕生日プレゼントにと、三日月がもらった蒼い石の使われたブレスレット。星守空の手作りで、この世に一つしかないもの。これには、彼の魔法が付与されているが、効果についてはあえて彼女に伝えていない。
この石は身に付けるだけでも効果はあり「いつ、いかなる時も、月を護り導くように」という、セルクの願う力が込められている。
――僕は、それ以上望んでいなかった。
(月の事さえ護れたら、それで良いと思っていたから)
夜空の星屑のようにキラキラと輝くあの蒼い石には、ある秘密があった。
その秘密とは、この石を持った者自身の力――そのバランスと、相性。石が認めた主にのみ神秘を開放するという。主はその与えられたパワーを使いこなせるかどうかが鍵である。
護ることが目的だと贈ったセルクの想い。それがブレスレットの効果を、三日月に伝えなかった理由の一つでもある。
しかし彼女は、何も伝えていないにも関わらず、誰から教わることもなく石と通じ合い、自然に、そして無意識にパワーを受け入れ見事、大会で蒼い石の力を使いこなしたのであった。美しいフィンガーレスグローブに形を変えたブレスレットは、あの瞬間。遠くで観戦していたセルクへ、見えずとも伝わっていたのだ。
――ブレスレットが。月の心と同調したのを感じた。
「そうか、石は……月とお互いに受け入れ合ったんだね」
大会の日、セルクは小さく呟いていた。
自分がプレゼントをしたブレスレットが役に立ち嬉しい反面、少し複雑な気持ちになりながらも三日月が大会で成功するのを、誰よりも祈っていた。
「必ず、君の【力】になる」
◇
『月は星を、想う』
いつもの優しい言葉、
落ち着くの。
安心させてくれる言葉、
不安は消える。
心強い“護り”の言葉、
私の【力】を支えてくれる。
みんながいる。
一人じゃない。
そんな大切な心を、
あなたから教えてもらったの。
とても大切な……――。
お読みいただきありがとうございます。
今回は【蒼い石】の秘密に触れてみました♪
うふふっ……(/ω\)
ではでは! 次話もお楽しみにぃ(*´▽`*)