88 渡したいもの
お読みいただきありがとうございます(*ノωノ)
♪こちらのお話は、読了時間:約5分です♪
(Wordcount2500)
今回のお話で、第100部分目!!
ここまで書いてこられたのは、読んで下さる皆様のおかげです♪
ありがとうございます(*´▽`*)
これからも素敵な物語をお届けできるように頑張りますので、
今後ともよろしくお願いいたします(≧◇≦)☆
――「僕らがしばらくは警護する」
この二日間の文化交流会で、どうしてこうなってしまったのだろう? と、月は心の中で思っていた。平穏に過ごしていくはずだった学園生活。それが心の準備をする間もなく、急速に変化している現在の状況に、正直不安を抱き始めていた。
その困った表情を見た星は、月の気持ちを読み取り、そしてまた、別の話を始めると、すぐに空気の流れを変えていく。この心遣いのおかげで、重くなりかけていた月の心は、次第に明るい雰囲気へと戻っていったのだった。
カチャッ――。
カップをソーサーに置き、重なる瞬間の高い音が、優しく部屋に響く。
月のいれた紅茶、ファーストフラッシュ。
爽やかでみずみずしく、透き通った黄金色のダージリンティは、落ち着きを取り戻すための、助けになっていた。
「本当に月は、紅茶を入れるのが上手だ。とても美味しい……」
「えぇ?! そ、そうかな? えっへへ。あ、ありがとうございます」
(心地良い感じ♪ ……いつもの星様だ)。
こうして、しばらく話した後に、穏やかな沈黙が二人の間に流れていく。
ふわ~っ……。
気持ちの良い、優しい風が吹いてきた。
ふと、窓の外を見た星は、夕日が美しく輝いているのに気付く。
(こんなにゆっくりと、ティータイムを過ごしたのは、いつぶりだろうか?)
そう思いながら、星は、美味しい紅茶を飲み干した。
しかし、そんな幸せを感じる時間も、長くは続かない。
次の瞬間、夢から覚めるような、強めの風が吹いた。
――あぁ、風が変わった、な……。
星は、腰に付けた懐中時計で時間を確認する。時刻は、午後六時前だった。
(そうか。もう、こんな時間に)
心地良い夢の世界から、現実世界に戻るかのように、いつもの星の表情になる。それから優しく微笑みながら、月に話を切り出した。
「月、今日はありがとう。食事やスイーツ、そして紅茶。全てが良く出来ていて、美味しかった。とても楽しい時を過ごせて、気付けばすっかりくつろいでしまっていたよ。まだ話していたいが……もう、こんな時間だから」
ガタン――。
「そろそろ僕は」そう言うと、星は席を立つ。
「あっ、はい……あぁ本当だ、こんな時間! すみません、お話に夢中で気付けなくて。私も、とても楽しかったです」
では最後にと、星は持ってきていた紙袋から何かを取り出した。そして静かに、テーブルの上へそれは置かれた。
――コト……ン。
「あっ、これって!!」
そう言うと、月は満面の笑みを浮かべる。
見覚えのある、アンティーク調の装飾。
昨日、屋上でシュワシュワを一緒に飲んだ時の、素敵な置物だった。
実のところ月は、密かにその置物に一目ぼれ。心の中では欲しいなぁ~と思っていた。それが今! 自分の目の前にあるのだから、頬が緩まない訳がない。しかも、一番お気に入りの飾り。可愛いプリンセスハート枠はそのまま残されている。昨夜と変わった所があるとすれば、シュワシュワソーダ水の入っていた、三日月型の瓶と星型の蓋、金色の紐がついていない事くらいだろうか。
「僕がどうしても今日、渡したかったものはこれだよ」
喜ぶ月の姿を見て、星もまた嬉しそうに笑顔になる。
「すごく……すっごく嬉しいです! でも、なぜこれを私に?」
(エヘッ。私が欲しいって思っていたのが、伝わっちゃってたのかな?)
「あぁ、それはね――」
星は、どうして今日? 早めに、何のために? この置物を、月に渡したかったのかを、説明し始めた。
「月にプレゼントしたブレスレットには、魔法が付与されているのには、気付いているかな?」
「はい、もちろんです。大会の時に気付いたのですが」
月は、そう話しながら右手首に付けたブレスレットを見つめ、愛おしそうに蒼い石を撫でていた。そして、大会での感動を思い出し、少し興奮気味になりながら、続きを話す。
「そう、その瞬間はまるで。私が不安になっているのを助けてくれるような、魔力のコントロールを手伝ってくれているような……そんな感覚でした!!」
「そう、そうか。ふふっ、良かった」
月の無邪気な顔と、自分のプレゼントした“お守り”を。まるで花を愛でるように、大切に優しく触れている姿を見て、星の中に、何か温かく……熱くなる。そんな想いが生まれていた。
長い年月、凍り続けていた“何か”が解け、ゆっくりと流れていく様に――。
この時、初めて感じた胸の高鳴りと熱い気持ち、締め付けられるような感情に、星の心は少し戸惑っていた。経験したことのない、この得体の知れない自分の内の感情を、月に悟られぬようにと、冷静さを保っていた。
「この置物にも、僕の魔法が付与してある。そう、玄関を入ってすぐの、あの棚に置くのがいいかな、と思うよ。外出先から帰ってきてすぐに、そのブレスレットをハート枠に下げてくれると、結界の効果が上がるだろう」
「結界……ですか?」
急ぐように説明をする星に、少しだけ違和感を感じながらも、月は言われる通りに、渡された置物を玄関へ置く。そして、ブレスレットを外すと一度、ハート枠に付けられた、アクセサリーフックに掛けてみる。
((ポゥー……))
――あっ、優しい光が。
「まるで、ランプみたいですね……綺麗」
「これで部屋には、君の心が認めた者以外の侵入を、許す事はまずないだろう」
「すごい……星様、いつも本当にありがとうございます」
「問題ない。僕がしたくてしているだけだから」
そう言うと、星は安堵した様子で笑った。
――少し様子が、おかしい気がする?
「あれ? そういえば……」
(また、メルルとティルがいない?)
そう気付き、月はまた部屋の中を見回した。
「あっ! いたー」
その間メルルとティルはというと……警備? の疲れが出たのか? いつの間にか居間にあるソファで、二人肩を寄せ合い、肌触り最高の大きな猫ちゃんぬいぐるみを両側から抱いて、すやすやと眠っていた。
「……寝てる、みたいだね」
星様が、いつもの落ち着いた口調で話し、笑った。
――あれ? 普通だ。さっきのは気のせいかな?
「メルルとティル、可愛い♡」
起こさないようにと、月たちは自然と小さな声で話す。
メルルとティル、二人のあどけない同じ表情を見て。星と月は、互いの顔を見合わせ、クスクスと笑い合った。
いつもお読みいただきまして
本当にありがとうございます♪




