07 しとしと雨音
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扉を開けて向き直り、お辞儀をした。
「失礼しました」
「ハーイ、またねぇ♪」
そう言って、ロイズ先生は気さくに手をゆらゆらと振って、見送って下さった。
魔法科最高責任者、ロイズ先生とのお話は、これにて無事に終わった。
「ありがとうございました」と、部屋を出た瞬間! 体から緊張の全てを吐き出すように、深く、重い、溜息がもれる。
「はぁ、緊張したぁ……」
目をつぶって、壁に寄りかかる。
五分程そうしていただろうか。次第に心が落ち着き始めてきた私の耳に、何やら音が聞こえてきた。そして、廊下の窓にそっと目をやると、雨が降り始めているのに気が付く。
「あ、雨音だった」
さっきまで、あまりの緊張で何も見えない聞こえない程、余裕のなかった私は、少しづつ冷静さを取り戻す。
しとしと、しとしと、降る雨の音。静かで悲しい、雨空を見上げた。
それからさらに五分後、完全に気持ちが落ち着いた私は、ようやく周りの雰囲気がいつもと違う事にも気が付いた。
「あれ……精霊さんたちが、いない?」
いつも私の周りには、温かく光る精霊たちが少なくとも一粒・二粒は側にいて、見守ってくれている。
生まれた時から、この能力のおかげで精霊たちとはずっと一緒に過ごしてきた。なので、急にいなくなる時があると、何だかとても不安になる(正確には見えなくなる、なのかもしれない)。
今の私には、静かに降る雨が心に冷たく刺さる感じがして、余計に淋しい気持ちになっていた。どんより気分、しばらく外を眺めた後、次の授業へ向かうために、廊下をゆっくりと歩き始めた。
「あっ、ゆっくりしていられないんだった。早く此処の校舎から出て戻らないと、大変! 授業に間に合わない」
そう呟きながら、自分のクラスがある一般生徒の校舎へと急ぐ。
思った通り同じような扉や廊下が続いていて、特別校舎内を覚えきれていない。来るときに目印していて良かった! 迷わずに出られそうだ、と安堵する。
小走りで出口へ向かっていると、急に知らない声に後ろから呼び止められた。
「ねぇキミ、あまり見かけない子だね、何クラス? お名前は?」
その声に私は振り返り、しまった! と思いながら立ち止まった。
そうだった。此処は、上流階級の方々がたくさんいらっしゃる場所。そしてこの感じ、私が一番嫌いなシチュエーションなのだ。
――どうやって乗り切ろう?
能力を使ってしまうと、後々面倒な事になるだろうし。とりあえず、何か理由を付けてこの場から逃げる? にしても、次また見つかった時が大変だ。
うーん、うーん、どうしようと悩みながら、私は愛想笑いを浮かべながら黙っていた。すると、その方が笑いながら話を始めた。
「おや? キミの記章は……もしかして一般クラスの子?」
(そう! ソウデス! 気付いていただけましたか?! なので私のことはお気になさらず、どうぞお先に行って下さい!)
と、引きつった笑顔になりながら、私は心の中で叫んでいた。
――しかし、その思い届かず。
「へぇー」と、笑いながら物珍しそうな顔で、その方は近寄ってきた。
「なぜかな? この校舎に一般クラスの子がいるのは大変珍しい! しかもキミ、髪色が“ブロンド”じゃないか! 妙だねぇ」
一瞬、驚きからか目を丸くした後に、興味深々の笑顔に戻った。
(あぁ~やっぱりそうですよね。おかしいですよねぇ)
――『上流階級』の子でもないのに。
この台詞が、言われなくても伝わってくる。私だって分かっている。ブロンドの髪色は上流階級の血統でも珍しい。なのに、一般人の私が、この髪色なのは不思議だと、幼い頃から言われてきた。
そのせいで、おかしな疑いをかけられた事もある。
(まさに今みたいな状況、今みたいな視線だ)
「噂では聞いた事あったが、本当にいたとは。しかもその色、とても興味が……」
(エッ、何?!)
私は、いつもと違う状況と展開に、危機を感じた。
これは、考えている暇はない。今を、逃げられたら! そう思うと、なりふり構っていられなかった。
「あの、じゅ、授業に遅れるので失礼し……」
しかし言い終わる前に、その方の手は躊躇う事なく、私の近くまで伸びてきていた。
(避けられないっ!)
そしてその手は、今にも私の髪に触れようとしていたのだった。
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