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お読みいただきありがとうございます(*´▽`*)

♪こちらのお話は序章1です(本編は第3部分より)


 雲ひとつない夜の闇は、遠く果てしなく広がる漆黒のキャンバス。

 その夜空に描かれた星はまるで、仲良く歌いながら躍っているかのように光り輝く。


「とても綺麗な空だ。それに今日は本当に、(きら)めく月夜だね」

「はい」


 七月七日、雲ひとつない夜空の星はキラキラと瞬いて。

 それに負けぬくらいこの夜の月は、潤んだ輝きを放つ。


 此処は、ルナガディア王国。その中心に位置する月の(みやこ)の周りは、守り囲むように大きな森が五つ存在する。


 キラッ――――。


「あぁ……」

(産まれた、か)


 この物語はその中のひとつ――光の森キラリに起こった奇跡の話である。



「みなさーん! 赤ちゃん無事、産まれましたぁー!!」


「「「「「おぉ~!!」」」」」


「はぁ、何事もなく良かったですねぇ」

「えぇ、本当に! 早くお目にかかりたいですわぁ」


 元気な赤ん坊の泣き声が部屋の外まで響き渡る。その産声(うぶごえ)を聞いた森の人々は皆、大きな歓声を上げて喜び合っていた。


「おぉ、おい! すまん、通してくれ!!」


 そんな中、聞こえてきたその声はハキハキと、足音はバタバタ大急ぎで走り、部屋の前扉まで駆け寄ってくる。


望月(もちづき)は無事か? 子供は……元気なのか!?」


「来た来た、主役が! やぁライト、おめでとさん!! 赤ん坊は良い声で泣いているぞ」


「そうか! はぁ……」


 “ライト”と呼ばれた人物はたった今、産まれたばかりの赤ん坊の父親――その名を、セレネフォス=雷伊都(ライト)


 ライトはとても背が高く、部屋の前にいる誰よりも抜きん出た大きな体格をしている。そんな彼の見た目はスラリ、常に冷静で変わらぬ表情は威厳と自信に満ち溢れ、光の森キラリで暮らす(みな)を守る、とても頼りになる存在であった。


 しかし今のライトは、いつもと少し様子が違う。


「何だ? どうした、ライト! 具合でも悪いのか?」

「ん? いやッ、元気だ、ほら! ほらな!!」


 そうか~と言いながら話しかけた森の仲間はふと、気付く。

「それなら良いが……ん? な~んだお前、泣いているのかッ」


「んなことはない! 決してない!! これは急ぎ走ってきた、汗だ!!」

「あっはは、ハイハイ。分かったから早く望月様と――」


 見かけによらず、彼は子犬のようなつぶらな瞳をしている。その潤んだ目からは今にも溢れそうな、嬉し涙。そして産まれた我が子の可愛い泣き声がする部屋の前で突然黙り込み、穴が開くほど扉を見つめていた。


 すると、その扉がゆっくりと開き始める。


――ガチャッ、キィー……。



 騒ぐ彼らの大きな声が気になったのか? 母子のいる部屋から、呆れたような表情で一人の女性が出てきた。


 そして、冷たく一言。


「望月様も、赤ん坊も、ご無事ですよ~」

「お、おぅ。そうか、あっはは、良かった良かった! んっはっは」


 その違和感のある笑いと落ち着きのなさに深い溜息をついたその女性は続けて、話し始める。


「しっかし、まぁ~そんなに取り乱して……いいですか、兄様(あにさま)! しっかりして下さいな。この可愛い命が誕生した瞬間から兄様は、父親になったのですよ!!」


 その言葉に周囲からは「なんだなんだ?」という声がライトの背中へと集まる。視線が痛いと感じる彼はおとなしく「あぁ、そうだな。すまぬ」とだけ答え、落ち着いた顔に戻る。


「そうそう!! よろしい」


 強い口調でぷんぷんなこの女性。実は、ライトの妹である。生まれてこれまで一度も森を出たことのない彼女は、いつもは“優しい妹”である。しかし今夜は、珍しく弱気になっている兄の姿を見て「これは気合を入れ直してあげなきゃ!」と、愛する兄を奮い立たせるため、叱咤激励をしたのであった。


「あらまぁ、また怒られちゃって!」

「うっふふ……笑っちゃいけないのだけれど」

「ライト様、タジタジですねぇ」


 いつもはクールで滅多に見られないライトの姿に周りの者たちは笑いを(こら)えきれず、顔を見合わせクスクス。それに気付いたライトは顔を赤くし、抵抗する。


「お、おいっ、こら! 皆、そんな笑わんでくれ」


 彼の慌てる顔にますます盛り上がるばかり。そんな慣れない状況が、さらにライトの顔を真っ赤にさせる。


「いや参った、はっはは」

 そして自分の手を頭の後ろにやると、恥ずかしそうに笑う。


 皆のわいわいとした声を合図に、奥の部屋で今夜の御馳走を作っていた料理人たちが顔を出すと遠慮がちに手を振り、声をかけた。


「あのぉ~もし? 手の空いている方は、良かったら手伝ってくださいませ。そろそろ、お祝いの準備を始めますので」


「お、おぉーそうか、ヨシッ! 俺が行こう。気合い入れて手伝うぞ」


 浮かれた様子のライトは料理人たちの声に自ら手を挙げ、泣き顔を隠すようにそそくさと奥の部屋へと走っていく。


「あっれー? ライトさん。生まれたばかりの可愛い我が子に、一目でも会わなくて良かったんですかね」


「うむ、緊張しておるのだろう」


 皆はライトの不思議行動に再び笑うと、それぞれ祝宴の準備に取り掛かり始めた。



 キィ……カチャ。


「あら、どうだった? お兄さんは」

「はぁ、まったく。兄様には困ったものでして――」


 そうは言いながらもなぜか表情は誇らしげな、ライトの妹。

 普段では想像できない程、軟弱になっていた兄へ「父になったという自覚と気合いを入れてきました」と、部屋の外での出来事をふふふーんっと話す。


「まぁ! お兄さんに? ……んふふ」

「あの兄妹は本当に、仲良しだわねぇ」

「えぇそうね。とても良いことよ? うふふふ」


 それを聞いていた周りからは微かな笑い声が、聞こえてくる。


「何ですか、皆さん。どうして笑うのですかぁ!?」

「「「うっふふふ~♪」」」

 ライトの妹が「もぉー!!」と、頬を膨らませていると――。


「ふにゃぅ~ん♪」

 風に乗るように聴こえてきた、音色(こえ)


「あぁ、みーんなそろそろいいですかのぉ? ()()()()()()()()ライト様も、落ち着いたようですしなぁ~ん」


 まるで森の中で出会った小鳥のように、透き通った美声。

 そして少し変わった口調で話すその人物は――ひと際目立つ容姿と誰もが一目置くほどの、オーラを放っている。


「はい。え……?」

 部屋にいた皆は顔を見合わせ改めて、考える。そして『お外で騒いでいた』という言葉を思い出すとまた、クスクスと笑い始めた。


「そうそう、ライト様。ふふ、確かに声が大きいですものねぇ」

「ねぇ、嬉しさのあまりに……かしら?」


「はぁい、みんないいのなぁ? さてさて、望月のぉ~ん?」

「ハイ……お恥ずかしい。申し訳ございません」


 扉の向こうから聞こえていた(ライト)の、いつもと違う慌てた様子と皆の笑う声に、恥ずかしさを覚えていた望月。

 しかし自分と産まれた子の心配をしてくれているのだと思うと……その優しくいつまでも変わらない夫の愛に望月の心は、熱くなる。


「もぉ……ライトさんには困ったものです」

 望月はウフッと頬を赤らめ満面の笑みで、幸せいっぱい。


「ハイハ~イ、にゃふん。では仕切り直しってぇ――望月、本当にお疲れ様でしたな。無事に産まれましたのは、元気な女の子ですのぉん」


「女の子!! まぁ……ありがとう、ランス様」



 この異彩なオーラを放つ、不思議な口調の美声人物の正体――それはこの森だけでなくルナガディア王国全体の自然を(つかさど)る妖精、その名はランス。


 特にルナガディア王国の周りを囲む森の中では、誰もが知る! 包容能力の使い手(他にも隠された力があるが、公開していない)。

 加えて治癒能力にも()けており、病気の者がいると聞けばすぐに駆けつけてくれる。今回は出産予定だった望月の事を心配し、数日前からこの森へ来てくれていたのだ。


――妖精ランスはいわゆる“森のお医者様”とも呼ばれる存在である。



 兎にも角にも、無事に産まれた可愛らしい赤ちゃんを見つめ部屋中にはホッとした安堵感が、広がる。その喜びと感動の入り混じる中、ランスだけはいつもの調子で出産直後の望月に言葉をかけ、癒し回復魔法を開始した。


「にゃっふふん~! なっのぉん♪」

 ランスはるるんと、はぃよぉ回復せーい♪ と楽しそうに魔法をかける。


「元気な女の子……はぁ、良かった。本当にありがとう、ランス様」

「なぅ? 頑張ったのは、望月ですのな」


 感謝の気持ちをランスに伝え、まだ体力が戻らない身体を無理に起こそうとする望月であったが、さすがに倒れそうになる。


「ダメだめー! まだまだ終わってないないッ、無理しないないでの!」


 それを必死で止めるランスは、お叱りモード!


「ごめんなさい」と謝る彼女に「分かればよろしーのな」と、ランス。頭をヨシヨシされ望月は再度、ベッドに寝かせられた。


 そこへ部屋の扉を優しく叩く音が、聞こえてきた。


 コンコン、コンコン。


「はぁ~い?」

 扉を開けるとそこには、お祝いを言うため多くの仲間が嬉しそうな表情で、集まってきていた。


「まぁ……皆様」

「いやいや!! 望月様はそのままで」


 出産直後で心身共に疲れたであろう望月の身体を気遣い、数人だけ部屋に入ることが許された。


「わぁ! おめでとうございます、望月様ぁ」


 産まれたばかりの赤ん坊を囲み、静かに見つめる。そのぐっすりと眠る愛らしい姿に皆は、顔を見合わせ目を細めた。


 そして「はぁ♡」と表情は緩み、幸せの時間に浸る。


「なんて可愛いのかしら。お美しい望月様に、とてもよく似ていらっしゃいますわぁ」

「いやぁ本当に、めでたいめでたい!」


 皆からの愛を一心に受け、すやすやと眠るその小さな命。柔らかな絹で作られた白いおくるみに巻かれ望月の腕へと、抱かれた。


「ありがとう、皆さん。なんて可愛いくて、愛おしいのかしら」


 そう言うと無事に産まれた愛娘の柔らかな頬に、優しくキスをする望月。その愛情に応えるかのように赤ん坊はふわりと、笑う。


――『ありがとう……』


 その瞬間、望月の瞳からキラキラと光り輝く一粒の涙。

 母の想いは、赤ん坊の頬へ零れ白く小さな手を伝う。


 涙は小さな手から望月の手のひらへと、流れ落ちたのであった。



「いやぁ~めでたいなぁ」

「今夜は皆で楽しく! ご馳走だな」


 祝の(うたげ)が始まる頃。

 キラリの森で皆が見上げた空に煌めく星と月。賑わう皆の温かな声に誘われるように……そして望月が見つめる窓からは、とても美しい光のリボンを伸ばす。


「今宵の月は……なんて素敵な――煌めく三日月なのかしら」


 そう望月は微笑むと、小さく呟いたのであった。


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