1万5500回転 45馬力(46馬力)の衝撃 ~復活の四気筒250cc~
21世紀も10年を迎えてからというもの、国内を含めた二輪界においては常日頃このようなことが愚痴のごとく夢のごとく語られることがあった。
「あの頃はよかった。バイクブームの頃は2stだけじゃなく、2stに対抗するための4stマルチ(4気筒)も本当に速かった。あの頃のような感動はもはや今の250ccには無い――」
こんなことがまるでおじさんの自慢話のごとく各所で話されていたのである。
ちょっとブログで検索しても、出るわ出るわ、同様の発言がわんさか発掘できるほどに、ライダーの中でバイクブーム時代の頃の2stバイクと並び、4ストロークマルチというのは憧れであり、譽高い過去の栄光のようなものだったらしい。
まさかそれが21世紀を迎え20年。
あの平成どころか昭和に置いてきたなどと呼ばれる250cc4stマルチが、かつての性能と同等以上のものを引っ提げて返り咲くなど誰が予想したであろうか。
7月10日。
かねてより開発が噂され、令和も2年目になった頃から少しずつ情報が開示されていたカワサキの新型250ccバイクの販売とスペックの詳細が公開された。
誰しもが衝撃を受けたのがやはり馬力とトルクであろう。
まさに昭和時代のブームの頃を彷彿とさせるスペックそのまま。
ショートストロークの高回転型エンジンが1万5500回転発揮した時の馬力は、なんと45馬力と排ガス規制なんて一切関係ない時代の2stと対峙したスポーツレプリカ系250ccバイクと同等なのであった。
無論、この時のバイクは実際には45馬力以上出していて表記上スペックとして公開されていたのが45馬力だったといわれるが、本バイクも例外ではない。
インドネシアやフィリピンで販売されるEURO4規制のものは50馬力。(51馬力)
公式の動画では欧州のマフラーメーカーであるアクラポビッチとタイアップしているが、どうもこいつに交換してちょいちょいと弄るだけでEURO5が適用される国産車も50馬力出せるようだ。(パワー曲線をメーカーが公開済)
その上で国外版ではレース用にチューンされたものが55~56馬力発揮したとの事なので、正直言って前身たるZXR250よりも速いのではという一部のライダーからの評価もある。
つまり、本バイクも真の性能は45馬力ではなく、50馬力級であるということである。
ちなみにカワサキが公開しているエンジン本体の限界出力は63馬力。
耐久テストで短時間ながら走行可能と判断された時の数値がこれである。
さすがの2st系バイクには劣るものの、往年の4ストローク系マルチとは完全に肩を並べた性能といって過言ではない。
250cc系のバイクレースではともすると旧車が参戦可能なレギュレーションでなければ出禁にされるかもしれないほどの性能である。(現状では二気筒のCBR250RRのワンメイクレースみたいな状況となっているが、ここに一石を投じるマシンであることは間違いない)
同時にヘタりが目立つ旧車に対して大きなアドバンテージがあるのは間違いないだろう。
この50馬力級というのは当時の4stマシンそのものなのは間違いないが、どうしてこのバイクが世界のライダーから賞賛され、憧憬の眼差しを向けられるのか。
それは今の時代においてコストに見合わないと言われた250cc四気筒エンジンだからというだけではない。
あの頃とは別次元ともいえるほどに厳しくなった排ガス規制を乗り越えて、排ガス規制のまるでなかった時代のマシンと肩を並べるというのがすごいのだ。
では一体、二輪においてどういった規制がこれまで敷かれてきたのか。
本項ではそれを主体にZX-25Rについて語ってみることとしよう。
二輪関係において排気ガス規制が敷かれたのは四輪に施行された後、かなりの期間を経過した1990年代後半のことである。
実はこの規制、主としては騒音規制がメインであり、排ガス規制自体はそこまででもなかった。
最大の要因は国民の生活や意識の変革により、80年代以降続く二輪に向けてのイメージの悪さから、排気ガス関係に本格的に手を入れる前の段階でアイドリングを含めた騒音規制について真剣に検討されたのだ。
よく排気ガス規制の影響で2stが滅んだといわれるが、実際は1998年に施行された規制の影響を受けたのは排ガス数値よりも騒音数値だった。
正確にはこれを突破した上で排ガス規制をクリアすると従来の2stバイクの性能を満たせなくなるため、2stバイクという土台が1998年を境に一気に崩れていったのである。
もし仮に騒音規制が同時に施行されていなければ、もうしばらくの間は安泰であったというのは業界内では比較的有名な話だが、それでもその次の規制は間違いなく乗り切れなかったことは言うまでもない。
ちなみにこの時点での2stバイクと4stバイクの排ガス規制について記しておこう。
2stバイク→1km走行時/8.0g
4stバイク→1km走行時/13.0g
上記は大まかな有害物質を総計した数値だが、この程度だったら正直言って当時でも大した事はない。
エンジン特性をマイルドな性能に調整していた2stバイクが生き残れたのも、本規制を乗り切れないのはまさに同時に施行されたアイドリングも含めた騒音規制によるものだったのである。
特に上記においては4stバイクなんて規制なんてあってないようなもの。
満たせないバイクを探すほうが難しいほどユルく、完全に2stバイクという、事故も多くいわゆる族車と並んで一般市民のイメージも悪い代物だけを狙い撃ちしたものだったのだ。
ちなみに余談だが、ZXR250などはこの手前の1990年代初頭に45馬力の性能から40馬力に落とされているが、これは自主規制と称した国の馬力規制が40馬力に強化されたためである。
性能低下の原因は排気ガス規制ではなく、騒音規制でもないことに留意してほしい。
いわばこういった外からの圧力だけではどうにもならないからこそ、2stバイクを半ば締め出しする規制を作ったというのが実態なのだ。
といっても1998年の排ガス規制と合わせ、こんなものは前座にも過ぎない嵐の前の静けさそのもの。
本当の嵐はこの後にやってくるのであった。
時は2002年。
加藤の乱を勝ち抜き、今やIOCに好き勝手やられている森首相が退いた後に内閣総理大臣となった男、小泉純一郎は聖域なき構造改革とは別に、痛みを伴う大改革を国内の各分野で実行していく。
その中に含まれたのが自動車の排気ガス規制を含めた環境汚染への対応。
各種環境対策だった。
それらの原動力となったのは1997年の京都議定書にさかのぼる。
地球温暖化防止対策のための各国への削減目標等を定めた京都議定書。
当然にして議定書の発効の発端となった環境会議の開催国である日本は、最もその各種環境対策への履行責任を背負っていたわけである。
実はこの時、すでに欧州においてはEURO1~EURO4までの一連の段階的な排ガス規制がすでに計画されていたが、日本国はやや出遅れていた。
そこで日本ではこの出遅れに対する危機感などから、段階的な規制の前に他国を大きく凌駕する非常に厳しい規制を自国に敷いて、環境関連対策技術の強化を行おうとするのである。
この背後にいたのは当然のごとくトヨタである。
すでに世界でも名を馳せた一大企業であるトヨタは、この時点で完成されていたハイブリッドカー関係の技術を手にしていた。
トヨタがハイブリッドカー関係に熱心だったのは、世界でハイブリッドカーがデファクトスタンダードとなればライセンス料の徴収で自社製品が売れずとも収益となるだけでなく、京都議定書で設定されたどころではない環境改善が可能だからと見込んでいたためである。
そもそもハイブリッドカーというのは市民単位で少しずつ購入されたところで大きな効果はない。
むしろ相対的なランニングコストその他を考えるとマイナスであり、しかも少数の人間が利用しただけなのでは環境対策としての役目を果たさないというジレンマを抱えた商品。
いわば国内でまずそのような流れを作り、世界各国がそれに追随していけば、必然的に自社製品によって環境汚染が抑えられると考えていたのだ。
が、当時はさておき現在を生きている者なら知っているだろうが……
実際には現社長が反省の弁を述べたように、ライセンス料徴収にこだわりすぎた結果、他の代用技術の躍進を手助けしてしまい、当初の目的が達成できず、そればかりか欧州では不正が横行していた始末であり、社長本人が無償化しておくべきだったと後に述べるほどである。
トヨタが水素自動車関係のライセンスを無償化した最大の理由もまさにそこで、ハイブリッドカーの二の舞となりかねない水素自動車に関して、前回のような惨状とならないために開放したのである。
といっても、現状ではEVカーの方が優勢。
この試みが成功するかどうかについては正直いって見通しが良いものではない。
だが、少なくても当時の社長を含めたトヨタ関連の幹部たちは、時の首相のブレーン達と協議を行い、このような非常に厳しい排ガス規制を敷くにいたる一連の流れを作り出したのだ。
そして二輪はまさにその様々な思惑入り乱れる四輪業界に完全に巻き込まれる形で、規制が設定されたのである。
それが多くの既存の販売商品を闇に葬り、生産や販売を相次いで終了させた2007年の規制というわけだ。
この規制についてはすでに2002年の段階には公になっているが、そのあまりにも厳しい基準に「日本版マスキー法」などと騒がれた。
どれだけ当時の規制が厳しかったかなんて、カワサキの主要人気車種の9割近くが販売終了となったほどである。
その中にはGTOのような不良系漫画が生まれるきっかけとなったネイキッドブームを生み出したカワサキのゼファーも含まれていた。
では一体どれだけ厳しかったのかを下記に記そう。
なんと
1km走行時/2.0gである。
ほぼ10分の1である。
排気ガス規制の有害物質の10分の9を削減しろと、そう定めたのだ。
もしこれがロボットアニメ世界の話だったなならば、ラスボスの誕生理由となるぐらいのものだ。
ちなみにこの時点で欧州ではすでに段階的な排ガス規制によって少しずつだが状況は厳しくなってきていた。
ただし、2007年時点においては上記の2倍以上の排出はゆるされており、2007年に至るまでの日本の排ガス規制よりかは厳しいものの、日本の緩い規制の1/3程度に削減すれば良いものだった。
この数値だけならばまだ達成範囲内で、ゼファーやバリオスなど、カワサキの人気車種の多くのの生き残れる数値。
ホンダにおいてもホーネットやCBRシリーズなどが十分生き残れる数字だった。
しかし国内の規制はそれを許さなかったのだ。
なぜここまで厳しいものにしなければならなかったのかというと、当時の国際発言力がそれなりにあった日本が率先して厳しい規制を導入することで、他国もそれに同調せざるを得ない空気を作りたかったためである。
そのために二輪は完全に犠牲にされたものの、実は輸入車などの基準はユルく設定されていたことで逆輸入車という抜け道と同時に国外のバイク……
例えばハーレーやBMWといった車種はEURO基準に対応する必要性こそあったが、日本の基準に対応する必要性がなく、まるで国内メーカーだけを殺すかのようなふざけた規制になっていたことは当然批判された。
特に世界四大メーカーともいわれる国内メーカーにとってはハーレーを守るための意味不明な課税を米国で課された時などで大ダメージを受けていたりしたにもかかわらず、そのダメージが回復しきってようやくといったところに本規制が提言されたため、当然にして段階的なものに修正してほしいという嘆願されたものの……
日本政府はものの見事にそれをつっぱねたのであった。
その結果、例えばZX-25Rの前身たるZXR250はネイキッドブームの影響でバリオスという形で同系統のエンジンにて生き残ってきたものの、2007年を超えることが出来ず、そのまま消滅する。
バリオスだけではなく、今日では高値で中古車が取引させるホーネットなども例外などではなく、2007年の排ガス規制は、それこそこの時期に少しでもバイクから遠ざかっていると、いざリターンしてみたら新車で購入できる知りえた車種は「CB400などの一部だけ!」――といったような状態となってしまうほどなのであった。
しかし結果的に言うと、この規制はEURO4以降の段階的な排気ガスの設定数値の基準指標となり……
信じられないことにもっと厳しい世界基準の排ガス規制が生まれることとなるのだ。
それが2017年と2020年において段階的に施行されていき、既存の車種でも2022年には対応せねばならないEURO5規制である。
2007年の規制によって多くの車種が環境対応不能となり滅んでいったのち、それまでEURO4まで検討されていた規制はさらに2段階が追加され、EURO6まで定められることになる。
といってもEURO5以降の排気ガスの大気汚染物質の排出量はすでに物理的限界にもさしかかっていることから、EURO6はEURO3のような別方向での規制となることがすでにアナウンスされているわけだが……
このEURO5の数字がこれまたぶっとんでいるわけだ。
2017年。
これまたホンダを筆頭に尋常でないほどの車種が販売終了となった。
例えば2007年を突破するためにインジェクター仕様となった名車VTRですらも、この新しい排ガス規制を突破できなかったほどだ。
平成時代に組まれたエンジンでEURO5を突破できるのは本当に極々限られたものだけといわれ、事実生き残ったのはホンダを見ると売れ筋ばかり。
これらは余裕を持った設計だったがゆえになんとかなったものの、一方でスーパーカブなどを見てみると国産になっただけでなく、同じような形なだけでもはや完全に別物なエンジンになっていたりと、その影響がどれほどであったか容易に推測できるほどである。
この排ガス規制は2段階。
2017年と2020年で強化されるわけだが、1段階目と2段階目の数値をそれぞれ示そう。
1段階目(2017)
1km走行あたり/1.14g
2段階目(2020/既存の販売車両は2022から)
1km走行あたり/1.0g
さらに言うと2段階目は騒音規制なども含まれたものであり、1段階めを突破できるといっても2段階目も完全に突破できる保証というものは全くない。
ただし、騒音規制については長年日本が世界で最も厳しい規制だったため、実は2020年段階でも2007年~2017年までに施行されていた独自の規制さえ突破できれば問題ない程度。
むしろ若干うるさくしても良いぐらいになっている。
これについては騒音規制がゆえに馬力を落とさざるを得ないバイクがあったりしたぐらいだが(FZ1 FAZERなどが有名)、2007年の規制にも当然騒音規制とう条項が含まれていたということだ。
ただし騒音規制についてはややこしいので現首相になった際に2017年の段階からEURO規制に合わせるということになったので、従来の日本独自の規制は撤廃されている。
この影響で2017年~2020年までのモデルは多くのバイクでめちゃんこ喧しくなっている点は見過ごせない。(ついでに言うとこの時に馬力の自主規制も撤廃)
現在の環境対策技術については独自規制を敷かれるとその国々に合わせて仕様を作らねばならず、開発費用が大幅に高騰するということで見直しが提言され、現政府がそれを認めたためにこのようになったのである。
またこれは余談だが、EURO5の騒音規制については別途騒音監視装置みたいなものの導入が必要だったりする。
車載式故障診断装置(OBD2)と呼ばれるものだが、こいつは常に排ガスやその他をモニタリング監視していて、騒音等も含めてEURO5の条件を満たさなくなったならば即座に故障判定を下してエンジンを稼働させなくさせるもの。
つまり新型バイクについては迂闊な改造をするとエンジンがかからなくなるのだが、案外この事について話題にならないのは個人的に気になっていたりする。(故障か? と思ったらOBD2が故障判定していたという話が出てこないのは、派手な改造をするユーザーは新車を購入していないということなのだろうか)
このOBD2については結構前から国産車達は搭載していたのだが、排ガス監視まで義務化されたのは2019年以降に新規発売される車種となる。
また、この際に一部機能はカットされ、モニタリングしていても故障診断しないようなプログラムとされていた。(2019年モデル以降は義務化に伴って全ての機能が稼動していると言われる)
特にこの影響を強く受けるのがマフラーメーカーとの事だったが、今のところどのメーカーも特に影響を受けているといったような発言はしていない。
むしろ最近は二輪製造メーカーと手を組んで純正に組み込んだりすることもあり、日夜厳しくなる騒音や排気ガス規制に共同で立ち向かっている状態にある。
その上でZX-25Rの販売は2020年。
ここまでお読みいただけば理解できるだろう。
つまりこいつは、単純に言えばあの頃のZXR250の1/13も大気汚染物質の排出量が少なく、厳しい規制を通り抜けた真の令和の名に恥じぬニーハンマルチということが出来る。
ちなみにこの1km走行時に1.0gというのがどれだけかというと……マフラーの空気を大量に吸い込んでもちょっとやそっとでは窒息しないレベル。
もう少しかみ砕いで説明すると、実はこの規制は時間単位での数値化もされているが、先進国では1時間に移動する平均距離は40kmと換算されており、1時間において40gも別途規定しているものなのだが……
例えば1時間あたりの火力発電所のCO2を含めた有害物質の排出量は国内の最新のものだと1kw/300g以上となっているわけだが……
ZX-25Rのエンジンは仮に駆動力を発電に使えば、その出力は間違いなく1kw以上で20kw/hも余裕なのだが、それでも排気系統がきちんと作動している限り40gを超す事はない。(詳細な計算方法はあるが割愛する)
いわば火力発電とはもやは桁が変わってくるほどに有害物質の排出量は少ないわけだが、1kwに対するco2やNOXの排出量については原発や水力などが合わさると劇的に減るので家庭内で使う電気が実際にどれほどの排気ガスを生じているかはその国、地域ごとに異なる。
それでもEURO5規制についてはそれなりの知識があるエコノミストが「家庭内の卓上扇風機2台を稼働させるよりも排出量は少なく、もはや物理限界に達している」と言うほどなので、相当な数値というわけだ。
このバカげた数値を達成しながらも、45馬力1万5500回転を達成したというのが、ZX-25Rの恐ろしさなのだ。
そしてそのバイクが、いろいろテンコ盛りにしなければ100万円以内で購入できる。
それがこのZX-25Rの恐ろしい所なのである。
コストを度外視すれば作れるという噂はあった。
だが価格は150万だとか180万だとか天文学的な数字ばかりならべられ、実現不可能といわれたバイクが、あの頃のバイクブームの感動をそのままによみがえってきた。
それもがんばれば手が届く100万円未満。
売れないわけがない。
特に筆者が何よりも感動したのが、当初販売前に散々っぱらバイク雑誌で予測された性能を大きく凌駕していたことだ。
バイク雑誌ではしきりに41~43馬力が予想され、レッドゾーンは1万6500回転だのなんだの言われた。
しかし実際に出てきたのは45馬力で、レッドゾーンは1万7000回転。
レブリミットは1万8000~1万8500回転。
この回転数、覚えがある。
バリオス2だ。
あのバリオス2と全く同じだ。
しかもパワー曲線から何から何までバリオス2を上回ってやがる。
開発者はスペック発表前のインタビューにて「ZXR250をそのまま再現しても乗りづらく、トルクの谷もあってピーキーすぎるので、バリオスをベースに乗りやすく今風に仕上げた」――と述べた。
筆者からすると「いや、初代バリオスことバリオス1はZXR250の性格そのままでめっちゃ乗りづらかったのだが、バリオス2のことを述べているのかな?」――などと考えていたが、まさにその予感は的中。
こいつはバリオスと並んで高く評価されるバリオス2の特性を引き継ぎ、ZXR250時代に回帰したスーパースポーツバイクだ。
バリオス1は個体差によっては最大エンジン回転数に到達するまえに息切れしてしまい、1万7500回転で頭打ちなんて個体が平然とあったのに対し、全体的にマイルドに調整しつつ1万8000まで回ったバリオス2の血脈を受け継ぐスポーツバイクと言い切れる。
スポーツレプリカ全盛期の時代にゼファーを投入し、ネイキッドブームが消沈すると次なる手としてNinja250Rを世に送り出したカワサキ。
そのカワサキがまさか、さらに新しい流行の形を目指したバイクが、往年のバイクブームの名車達に匹敵するものだったとは……素直に脱帽ものである。
ちなみに筆者は懇意にしているカワサキプラザの店長とこのエッセイを書く前に話し合ってきたのだが、カワサキがZX-25Rの国内需要を見込んでいるのは2つの層であることを教えてもらった。
1つが若者。
多くの若者がもはや車検対応のバイクなどを新車で維持するのは不可能。
かといって高性能かつパワフルなバイクの需要はあり、ホーネットやバリオス2の中古価格は販売時の新車並という状況。
カワサキはここに着目し、彼らにかつてのバイクブームを呼び起こさせる原動力を期待しつつ、その足となる存在としてZX-25Rを提案したいらしい。
そしてもう1つは当然にして、あの頃2stではなく4stで峠やサーキットを攻め、2stと文字通り鎬を削りあっていた4st乗りやリターンライダー勢である。
「250ccはもう旧車しかいいのがないや」――という意見を完全に押し殺すだけのバイクであるのは間違いなく、大きな声では言えないが本気のパワーが欲しいなら逆車という形で最大51PSの250ccが手に入る道筋を残しているわけだ。(国内正規販売車は45/46馬力です)
「もう二度とあの頃の4stは速かったとは言わせない」――それぐらいの気迫で作りこんでいるという。
それだけではなく、よーくみるとバイクブームの頃のライダーを引き付ける要素満載。
カワサキお得意のラムエアを筆頭に、当時はレーサーぐらいしか使わなかったクイックシフターなどを設定。
一方で安っぽいなどと言われるが、液晶画面に反発しそうなユーザーのためにあえてアナログ計器を配置などと、配慮に抜かりはないだけでなく……
あの頃の一部ユーザーが焦がれていた装備を疑似的に再現していたりもする。
ガルアームである。
ガルアーム。
ホンダが商標登録し、その名前を唯一使うことができるスイングアームの形状だ。
検索などして見てみればわかるとおり、まるでカモメの翼のような形状にスイングアームが整えられている。
こうすることでホイールベースを短くし、回頭性能などを向上させられるのだが……
ZX-25Rは左右非対称のスイングアームで、片方のマフラーがある側だけガルアーム形状となっている。
ZXR250譲りのスイングアームは反対側の形状となっており、1粒で2度おいしい意匠となっている。
この形状は当然にしてバイクブームの頃のレーサーレプリカの多くがこの手の形状を採用していたからに他ならず、もう1つの意味合いとして当時のガルアームを装備したCBR250RRユーザーなどを引き付けること目的としているらしい。
少なくとも、彼らの所有欲を満足させるに足る構造であることは間違いない。
筆者としてはようやく出てきてくれたかといった感じだ。
最新こそ最良を主義主張としている立場としては、今の技術なら当時の性能だって体現できると公言していたがゆえ、「遅かったじゃないか!」と言いたい気分である。
同時に思うのは「バリオス3」に相当するバイクは販売しないのかということ。
絶対売れると思うんだよね。
SNSを見るとバリオス2所有者自体がものすごく反応しているように、需要がある。
ただ、そうなるとフレーム形状等見直さねばならず敷居は高い。
それでも期待してしまうのは……カワサキだからだろう。
思い出すのはNinja250Rの頃だ。
最初に250Rを出すと言ったとき、周囲の評価は散々だった。
生き残りをかけたカワサキの一手として250Rは当初認められなかった。
安かろう悪かろうみたいな商品付けで、評価されないだろうといわれた。
しかしカワサキは「気に入らないなら国内で販売しないが、国内で売れると見込んで作っている」――と言い切り、ネット上の評価を覆して250Rは250ccの新たなバイクの在り方として認められるばかりか……
今日の純粋にバイクを楽しみたいユーザー向けのハード過ぎない一連のバイク達の原典たる存在にまで昇華している状況にある。
一方でもう1つの最高性能という需要も理解していたカワサキが送り出したZX-25R。
アマチュアレース方面も含めて期待の新生の今後について注目したい。
――さて、こうなってくると気になるのがホンダの動向である。
実はバリオスと並んでめちゃくちゃに中古価格が高騰化している250cc四気筒バイクがある。
ホーネットである。
またの名をCB250F。
このバックボーンフレームで構成されたバイクは、恐ろしいことにCB1300よりもタイヤ代がかかる魔物なのだが……
そのエンジンはZXR250よりも一部のライダーを熱くさせたCBR250RRの血統をもったネイキッド……もといストリートファイター系バイクなのである。
当然にして四気筒の需要が無いわけがなく、現行のCBR250RRが二気筒となった際にはものすごい落胆の声が聞こえてきたほどだ。
SNS上や雑誌上では「ヤマハやスズキは様子見だろうが、ホンダは対抗せざるを得ないだろう」――という評価がなされているが、私も同じ考えである。
ならばホンダに言いたい。
目指すなら2万回転にしてもらえませんか?
やはりホンダ党としては伝説とも呼ばれるCBR250RRの1万9500回転は忘れられない。
筆者はバリオスもバリオス2もホーネットもCBR250RRも乗ったことがあるが、1万9000回転以上というのは本当に言葉にならない感動というものがある。
あの、"音だけ己の前に突き進んでいく"謎の感動はたまらないのである。
まるでF1が自分の目の前を走ってるような感覚だ。
ほとんどのバイクは音を置き去りに前に進んでいくものだが、CBR250RRは音だけが先行していくわけだ。
見えないレースマシンが前を走っているような錯覚を起こすバイクは他にない。
やるからには真のCBR250RRの復活と、ホーネットの復活。
同時にやってほしい。
売れないわけがないんだ。
カブC125とかCT125とか、CRF250Rallyとかでもうわかったでしょう。
需要がある分野で適切な仕様で出せば多少高くとも売れるんだよ。
当然にして手を抜いてはダメ。
やるからには本気。
多くのライダーが間違いなく待っている。
といっても、筆者はZX-25Rを含めたバイクが欲しいかと言われたら実はNOだったりするのだが。
残念ながらまだ年齢が年齢ゆえに大型に乗っても苦じゃないタイプなので、しばらくは大型を乗ることとなろう。
やはりね、250ccのギアチェンジの繰り返しは街乗りがかったるいんですよ。
クイックシフター付けた場合はかなり楽なんだろうけど……交差点の右左折で油断してエンストしたりはやりたくないので、もっとラフに乗れるバイクに乗ります。
そもそも高回転エンジン自体があんまり好きじゃな……これ以上は何も言わないでおこう。
だとしてもレンタルバイクなどで稀に乗りたくなるのは事実。
今後数年様々な所から四気筒について質問攻めされることとなるだろうが……それは期待の証だと理解の上、是非がんばってもらいたい。
NCの時のようにそのフィードバックが他のエンジンにも向かうならば最高。