〜11通知目・武道場裏にて〜
〜11通知目〜
午後の授業も何事もなく終えて、俺は荷物を纏めている。その時にふと思い出す。
「そういや今朝、シンと約束してたっけな…」
確か、武道場の裏手で話がある、みたいな事を言われていたはずだ。
「どんな話かは分からないが、とりあえず向かうか…」
持ち物を詰めた鞄を手に取って、俺はその場所へと向かう事にした。
と、その時。
「おっす、ユウ! 一緒に帰ろーぜ!」
教室の出入り口の方から声が飛んでくる。そちらを見ると見慣れた兎獣人が俺の方を見てニコニコしていた。
「あ…悪りぃ、俺ちょっとシンに武道場の方に呼ばれててさ… 先に帰っててくれるか?」
別に厄介とか面倒とかそういう訳ではない、俺の都合に付き合わすのはさすがに悪いと正直に思ったからだ。
「そっか、そんならまた明日な!」
こういう時は素直に引き下がるところはさすがだと思うんだけどな、他の残念な部分で帳消しになるんだよな。
「ああ、またな」
そのまま俺はカズと別れて武道場へと向かった。
「えーっと…どうやって行けば良いのか…」
武道場なんて普段俺が行く事のない場所のため、校内の地図を確認していた。
その時スマホが震えた。画面を確認するとそこに表示されていたのは、
Kアラート[遠回りをして武道場へ向かってください]
また例の通知だった。
「遠回り…?」
今までの通知のパターンを思い出す。
最初は赤信号の無視で事故、二回目は本来通るはずだった道に車が突っ込んで来るところだった。
三回目に関してはシンの連絡先を手に入れるという少しそれまでとは違った内容だったが、過半数が事故関係の通知だった。
そうなると考えられる可能性としては、階段で何か起きて滑り落ちるくらいしか浮かばないが…
「まあ遠回りして何か損がある訳でもないし…素直に従うか…」
そのまま俺は少し遠回りをして武道場に向かったが、特に何事もなく到着した。
辺りを見回すが表の方にはシンの姿は無かった、なので約束通り裏手に回ると…
「あ…ユウくん、来てくれてありがとう…」
小さい、だが俺に届くくらいの声で礼を言うシン。
その隣には大柄で道着を着た厳つい虎の獣人がこちらを見ていた。
「ユウくん…紹介する」
「…俺は虎岩 海、呼び捨てで構わん…よろしく、ユウ。」
「えっと…よろしく、カイ…?」
二人ともあまり喋らないタイプなんだろうが、俺以外全員そうだとこんなにも話しにくいのか…
「…んで、シン、用ってのは…カイを紹介したかったって事で良いのか?」
「うん…なんか、そうしなきゃいけないみたいで…」
「そうしなきゃいけない…って、どういう事だ?」
「な、何でもない…僕が紹介したかっただけだよ…」
「ユウ…シンから話は聞いている。 俺は1年の頃にシンと同じクラスで、よく面倒を見ていた。 今は違うクラスになったが、俺の代わりにカズという奴に面倒を見られているらしい。」
そうか、確かにあいつがわざわざ届け物をするくらいだもんな…意外と良いとこがあるから俺もずっとあいつとつるんでるワケだが。
まあ、このシンが鬼才というのは些か信じ難い事ではあるんだけどな。
その時、武道場の裏口のドアが少し開いて同じく大柄なライオンの獣人が声を掛けてきた。
「カイく〜ん、そろそろ戻っておいでよー?」
「ああ、今行く… 悪い、ユウ、また会おう」
「おう、えっと…そんじゃまたな、カイ…?」
そして俺らはそのまま解散をした…
まぁ途中まではシンと一緒に帰ったが、その間に特に何を話すわけでも無かったし。
せっかくだし、今度機会があれば演劇部を覗きに行ってみるか…カズの言う鬼才っぷりがどんなもんか見てみたいからな。
〜12通知目に続く〜