表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖怪裁判 ~弁護士サトリの法廷ファイル~  作者: ラボアジA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/22

22話目 サトリと天邪鬼

 真犯人の裁判では、証人に青鬼が立っていたそうな。


『青鬼証人。あなたが傷害を負うことになった顛末をお話しください』

『はい。コイツの新しい女が、とにかくカネの掛かる尻軽で、バカだなあと思ってたんですよ。でも、そんな女に見栄張って、調子いいこと抜かしてたんです。案の定、カネは無くなったみたいでした。そしたらコイツが、開かずの蔵に押し入って、金目の物を盗もうぜって持ち掛けてきたんですよ』

『あなたは、どうされましたか?』

『俺は、適当にバカやって、遊べりゃいいやぐらいに思ってたんですけど、さすがに盗みは良くねえなって。あと……結構コイツって、人のせいにする奴なんですよね。犯罪とかやったら、全部の罪を押しつけられそうな気がして、それで、俺は絶対にやらないっつったんです』

『そうしたら?』

『ボコボコにされました』

『あなたは、以前の公判でこの件に言及しなかったそうですが、理由はありますか?』

『そりゃ……言えるわけねーですって! だって、盗みに入るって言ってた蔵で、先生が死んでんですよ!? 挙げ句に、犯人が違う人間だとか最初は言われてたんですよ!? もう、俺怖くて! 本当のトコ言ったら、もう一切関わりたくなかったですよ!』


 災難だったな。一歩間違えたら、君も犯人役を押し付けられてたわけか。

 まあ、付き合う相手は選ぼうって教訓だな。




 裁判所から外に出ると、雀鈴は細い首をなでていた。


「はあ、ようやくイヤな首飾りが取れたわ」


 彼女は、すっかり快活さを取り戻していた。


「ありがとね、サトリさん」

「どういたしまして」

「ええ、スッキリよー。もうあんな最低クズのこと、考えないで済むもの!」


 ――ん?


 僕は、雀鈴の言葉づかいに、どこか違和感を覚えた。


 そうか……違うんだ。


 彼女はまだ、引きずっているんだ。


 雀鈴は、優しくて賢い。

 とすれば、僕に対しても、未練が吹っ切れたように振る舞ってしまえるのだろう。


「雀鈴」


 僕は呼び止めた。


「彼のことを、引きずらなくていいんだよ」

「え?」


 一瞬キョトンとした雀鈴は、すぐさま突っかかってきた。


「そんなワケないじゃない! あんな男に引っ掛かって、あたしの見る目がなかったダケ! あんなヤツ、縁が切れて清々したわ!」


 ――ふむ、これは本心だ。

 雀鈴は、奴とサヨナラもしたし、きちんと次の恋を見つけられるだろう。

 けれども、心残りもあるハズなのだ。

 とすると……。


 僕は胸に手を置いた。


「心で話そうか」


 雀鈴は、そっぽを向いたものの、観念したのか受け入れた。


“ねえ、サトリさん”

“なんだい”

“彼を改心させることって……出来なかったのかな?”

“ネズミ先生のためだね?”

“ええ……そう”


 雀鈴の無念さが伝わってきた。


“あたしが、もっと頑張れば、彼を少しはいい方向に戻せたんじゃないかなって……。そしたら、先生は死ななくて済んだんじゃないかなって”

“雀鈴が気に病む必要はないよ”


 しっかりと念話を送った。


“むしろ、君はとても頑張った。自分を顧みずにね”

“サトリさん……”

“たしかに人間は、いい方向に変われる生き物だ。彼も改心する機会はあったと思う。だけど、それには多大な労力が要りそうだとも思う”

“ええ”

“だからこれからは、その力で、他の人をいい方向に変えていこう。みんながそういう思いを持てば、彼みたいな人も、おいそれと悪さを出来なくなる。それに、雀鈴がクヨクヨしているよりも、前を向いてるほうが先生も嬉しいと思うよ”


 雀鈴は、咀嚼するかのように、ゆっくりとうなずいた。


「えっと……弁護士さん」

「うん」

「口が上手いわ」


 僕は苦笑した。

 弁護士バッジを外して、雀鈴に渡す。


「これは、僕個人の考えだよ。他の人と一緒に、自分もアップデート。そうやって、成長していけばいいのさ」


 雀鈴はバッジを見つめていたが、そっと握った。


「よし! あたし、前に進むわ!」


 大きく両拳を突き上げた。


「これからも、頑張るぞー!」


 うん。気合いが入ったようで何よりだ。


「それじゃあ、そろそろバッジを返してくれないかな?」

「はーい……あれ?」


 雀鈴はキョロキョロした。


「今、飛ばしちゃったかな?」


 なんだと?

 ――いや、この娘には前科がある!


「探せー!」

「はーい!」


 僕が大慌てで探そうとすると、雀鈴はなぜか棒立ちだった。


 ――ハッ。まさか!


「探したわ」


 雀鈴が開いた手の平には、僕の弁護士バッジが。


「大事なバッジなんだから、ちゃんと付けといてよね」

「こ、の……」


 口をムズムズさせつつ、しっかりと付け直す。


 ――まったく。元気になったこの子は、スゴいトラブルメーカーなんじゃないか?


 そんな天邪鬼は、ちょっと先の道を歩いていた。


「は~ぁ、スーパーのバイト、辞めないとね。それで、どっか別のバイト探そっと」


 救済には未練があったが、恋愛面ではもうバッサリらしい。


「雀鈴。それなら、うちに来るかい?」

「え?」


 くるっと振り向く。


「サトリさんのトコ?」

「うん。最近妙に仕事が入ってね。事務を手伝って欲しいんだけど」

「ええ~、どうしよっかな~」


 手を頭の後ろで組んで、左右に振ってみせる。


「冷麺を食べてから考えるわ」

「猫おばちゃんの?」

「そっ。サトリさんはカレーが好きみたいだけど、あたしは冷麺を待ってたのよ」


 はいはい。


「僕も行くよ。昨日会ったから、報告にも行きたいしね」

「えー、じゃあ2日連続で冷麺? ――ウラヤマシイ」

「寮生用の定食にするよ」


 思い出話が盛り上がる。

 暖かな日差しは、僕たちの進む道を祝福するかのように照らしていた。



 ~終わり~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ