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20話目 事件の真相

 木槌を数回鳴らし、しまいには魔王オーラを少し出して傍聴席を静かにさせたゴリ裁判長が、僕のほうを見た。


「それでは、告発をなさった佐鳥弁護人にお聞きします」

「はい」

「あなたは、鬼津証人がネズミ先生を殺害した動機は、何だとお考えですか?」

「そうですね……」


 僕はこめかみをかいた。


「おそらく、窃盗現場を見られたから……ではないでしょうか」


 傍聴席は、魔王様のオーラに怯んだのか、意外なほど静かだった。ありがたい、話に集中できる。


「僕の推測はこうです。まず、『開かずの蔵』には美術品がたくさんありました。ガラクタも多いですが、中には、高価な品もございます。換金すれば、かなり稼げるでしょう」


 もっとも、本当に価値のある物は、魔法でバッチリ対策がなされているから、ソコソコの物を狙っただろうがな。


「雀鈴は、蔵で最近盗難があったことを、ネズミ先生から聞いておりました」

「おいコラ!」


 鬼津が罵倒してきた。


「それって雀鈴が盗んだんだろ!? ネズ公を殺してよぉ!」

「鬼津証人」


 ゴリ裁判長が睨んだ。


「私語は慎むように」

「――ケッ」


 悪態をつく鬼津を無視して、僕は続けた。


「さて、雀鈴が投げたバッジを、先生はすぐに回収しようと、落ちた辺りを探し始めました」

「ふむ。手に持っていた物ですな」

「そうです。そこへ、鬼津さんがスライドドアを開けて入ってきました。彼は、ゴチャついた所を探している先生に気が付きません」


 鬼津が蔵へ入ったとき、先生の姿に気付かなかったというのは、真実だったのだ。


「また、ネズミ先生も声を掛けなかったのでしょう。そのため彼は、誰もいないと早合点し、ドアを閉めて物盗りを開始したのです」


 僕はうつむいた。


「そして……バッジを回収した先生は、まさに窃盗中の鬼津さんを目撃してしまったんです。それを指摘したら、言い争いになって、逆ギレした彼に鉄のモモを食らったのでしょう。――これが、今回の事件の全容と推測します」


 言葉にすると、なんて陳腐な事件だと改めて思う。

 やるせない。だが、これが真相なのだろう。


「ふんむぅ……佐鳥弁護人。おおむね納得できますが、1つ気になることがあります」

「なんでしょう」

「凶器のモモで殺害したさい、先生は絶叫したと思うのですが、ぬりえ証人は聞いていないようです。これは一体、どういうことでしょうか?」


 なるほど、もっともな指摘だ。


「これも憶測ですが……鐘の音にかき消されたのでしょう」


 僕はアゴに手を当てた。


「3時の鐘が、蔵で聞こえてきて、先生の注意がそれました。その瞬間、鬼津さんが襲いかかったのです。絶叫は、その後の鐘の音で聞こえなかったと推察されます」


 まさしく、3時に大惨事だったのだ。


「鉄のモモを凶器に使ったのは、窃盗もなすりつける気だったため、雀鈴に全ての罪を被せようとしたのでしょう」


 ――そう。鬼津は蔵に入る前から、罪をなすりつける気でいたのだ。

 コイツなら、【妖気感知】の仕組みも実体験で知っていただろう。

 鬼族が出入りしたあと、間を置かずに自分も入って、物を盗む。何か言われても、強引に相手のせいにする。


 こうやって、生きてきたのだ。


 ゴリ裁判長が、証言台に立たせた鬼津を見下ろした。


「鬼津証人。何か弁明はありますかな?」

「うっ、くっ……! こ、こんなこと、イキナリ言っても信じられねえかもしんねーけどな! あの教師が、南口のほうで、鉄のモモを腹にブッ刺してメチャクチャ唸ってたんだよ! 俺はスライドドアを開けただけだ!」


 ――このクズは、どこまでも悪あがきをするんだな。


「俺が見たのは、もう刺さったあとだったからよお! スゲー絶叫なんか、聞こえるワケねーだろ!?」

「ふんむぅ……とすると、鬼津証人は、被害者に近付いていないのですね?」

「スライドドアの近くにいたダケだぜ! ――ああ、そうさ! お互い離れてたからよお、だから会話もウルさくなっちまったんだぜ! あの先公、『雀鈴にやられた!』とか、恨みがましく叫んでてよお。俺は、『そんなことねえ! フザけんなクソが!』って怒鳴り散らしてやったさ!」


 死人に口なしか。好きなように改変しているな。


 しかし、他人からすれば、僕の主張も鬼津の証言も、「藪の中」ならぬ「蔵の中」だ。推測で判断するしかない。


 鬼津も、意外にいい案だと気付いたのか、唇を醜く歪ませた。


「へっ! せっかく証人として来てみたら、まさか犯人扱いされるとはなあ! ――いいか? 犯人はコイツだよ!」


 鬼津は雀鈴を指差した。その先には、ふてぶてしく笑う雀鈴がいる。


「ふっ、ふふっ……」


 ――いや、違う。

 彼女は、とても傷ついている。


 それでも……逃げることなく、真実と向き合っている。


 鬼津はまくしたてた。


「凶器は、雀鈴が作った鉄のモモ! 証拠はネズ公が握りしめてた雀鈴のバッジ! あとなあ、雀鈴のヤツは、血を洗い流すためシャワーに入ってやがった! ――俺もアヤしい? いいぜ、認めてやるよ! だがなあ! 雀鈴のほうが、もっとアヤしいんだ! ここは裁判所だろ? 認めろよ!」


 このクズは、雀鈴の寮部屋で風呂に入り、雀鈴に替えの服を用意させている。挙げ句、血まみれの服を捨てる手伝いまでさせた。

 そのゴホウビが、殺人の濡れ衣か。


「なるほど」


 僕は鬼津を睨んだ。


「服は……自分で持ち帰って捨てていたな」

「そうさ! 雀鈴がバカだったおかげでなあ! ――おぉっと、誤解すんなよ? 先公の血なんてついてなかったぜ! 服があったら、証拠を提出して、もっとカンタンに俺の無実を主張できたのになあ! あ~あ、バカな女とヒドい弁護士のせいで、スッゲー苦労したって意味だ!」


 もはや仮面を脱ぎ捨てて、昨日までの態度に戻っている。


「そうそう! あのネズ公、雀鈴に腹をブッ刺されてオカしくなってたんだろうぜ! 開けた時点で血がダラダラ流れてたもんよ! やっぱ雀鈴が殺したんだぜ!」


 服は全て処分済みだろう。


 僕はゴリ裁判長を見た。


「裁判長。弁護側は、少し被告人と話し合いをしたいのですが」

「だいぶ審理に時間が掛かっておりますからね。手短に願います」

「分かりました」


 雀鈴に歩み寄る最中、鬼津がヤジを入れてくる。


「おお、敗戦処理か? どうせ今までも、脳内でくっちゃべってたんだろ? 最後ぐらいは、口から謝るってことか!」


 ほざき倒す鬼津をムシして、僕は雀鈴の前まで来た。

 彼女は、まるで憑き物が落ちたかのように、穏やかな顔をしてほほ笑んでくれる。


「サトリ弁護士さん、ありがとう」

「よく頑張ったね、雀鈴」 

「エヘヘ……。あたしね、もしかしたら……って思ったけど、弁護士さんが来てくれたおかげで確信できたわ」

「うん。君の、一途だった想いの勝ちだ」


 雀鈴は、僕にそれを託してくれた。


「ありがとう」


 透明の小袋に入れて、キチンと封をする。


「裁判長」


 ゆっくりと振り返った。


「今から弁護側は、最後の証拠品を提出します」

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