表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖怪裁判 ~弁護士サトリの法廷ファイル~  作者: ラボアジA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/22

18話目 行き止まりをまかり通る

 鬼津は刈り込んだ頭をかいていた。


「いやあ……あまりにウソっぽい話だったからな。うっかり要約しちまってたぜ」


 ひとしきり苦笑したのち、手の平に拳をパシッと当ててみせる。


「あのよお……。俺はそのとき、『開かずの蔵』に入ってたんだ」


 赤鬼の爆弾発言に、傍聴席は大騒ぎとなった。


 ――不利になると見るや、すかさず証言を変えてきたか。雀鈴に教わったとおりだよ。


「静粛に! 静粛に願います!」


 ゴリ裁判長が木槌を鳴らす。


 ややあって、傍聴人たちも落ち着きを取り戻してきた。


 裁判長が鬼津を見やる。


「鬼津証人。どういうことなのか、詳しくお話しいただけますかな?」

「ああ。実は俺よお……ネズミ先生の死体に気付かなかったんだよな。ほら、『開かずの蔵』って、スゴく小汚いしゴチャゴチャしてるだろ? だから、いつものように開けて、入って、1度閉めたんだ」

「ふんむぅ……。ならば証人は、ナゼ先ほど入ったことを言わなかったのです?」

「ああ、だってよお、いくらゴチャついてるっつっても、死体に気付かなかったとか、マヌケ過ぎるだろ? それに、見て帰ったダケだから、結局は同じコトだと思って、まとめちまったのさ。悪ィな」


 鬼津は、裁判長に対し手刀を切って謝ったのち、そのジェスチャーを証言台にも向けた。


「そんなワケだからよお、ぬり壁の姉さん。キチッと閉まった蔵は、【防音】が効いてたんだよ。コケて仕事のジャマしたのは悪かったが、言いがかりは良くないと思うぜ?」


 傍聴席は、いまだザワついている。


 ――ココだ!


「裁判長!」


 すかさず手を挙げた。


「弁護側は、鬼津さんを再尋問したいのですが!」

「ふんむぅ……宇佐美検事。ぬりえさんへの反対尋問はよろしいですか?」

「後でまとめて行えるのでしたら、構いません」

「分かりました。では、佐鳥弁護人。再尋問を認めます」


 ぬりえと入れ替わりに、証言台には鬼津が立った。


 ――さて、いくぞ。


「鬼津さん。あなたは、一本道を通って『開かずの蔵』へ行きましたか?」

「ああ」

「それの、具体的な時間はいつでしたか?」

「んー……覚えてねえな」


 ヤバそうな質問は、シラを切る気か。


「では、質問を変えましょう。雀鈴を目撃してから、何分ぐらいで蔵に着きましたか?」

「スグに向かったからな。嫌な予感がして俺も急いでたし、5分もかかってねえハズだ」

「なるほど。僕もそこの高等科に通ってましたから、大体そんなものだと分かります」


 時間でウソをついてもバレるぞ、と牽制を入れておく。


「それでは、到着したらスグに『開かずの蔵』を開けた、というワケですね?」

「ああ、スゴく心配だったからよ」


 本当に心配なら、真っ先に雀鈴のもとへ行くと思うがな。


「ところで、スライドドアの開閉作業は、何分ぐらい掛かるものでしょう? あまり時間が掛かるようなら、開け放したままのほうが自然ですが……」

「いやいや、弁護士さん。俺は鬼だぜ? 【怪力】を使えば、1分掛からずに開け閉め可能さ」


 ふむ。


「鬼津さん。ここは大事なところです。あなたは『開かずの蔵』に入った。間違いありませんね?」

「ああ。そして、スグにしっかり閉めたぜ。音は漏れてねえ」


 ふうん、そうかい。

 ――残念だったな、鬼津。


「鬼津さん」


 机をバンと叩いた。


「あなたは、途中から法廷に入ってきたためご存じなかったようですがね。実は先ほど、『開かずの蔵』の【防音】が効いてなかったと判明したんですよ」

「な、なんだとっ!?」

「雀鈴が、勢い余って窓を割ったんです。そのため、音は漏れていたんですよ」


 鬼津は一瞬、歯を剥き出しにして雀鈴を睨んだ。――おお、昨日さんざん見た悪鬼のツラだな。今日はようやくお披露目か。


「ま、待った、サトリ弁護人!」


 ウサ耳検事が慌てて止めに入った。


「それは、ヒジョーに小さな穴です! 聞こえたどうか、極めてアヤしい! 【防音】の効果は継続していたハズです!」


 往生際が悪いな。


「いいえ、ウサ耳検事。音は漏れていました」


 耳をトントンと叩いてみせる。


「扉が開いているのと同じ原理です。穴が開いていれば【防音】は無効ですよ」

「しょ、証明されておりません! ぬりえ証人は、別の何かを聞いたのです! それとも、弁護側は『聞こえた』と言い張るのですか!?」

「割れた窓を調べてください。その大きさで分かります」

「ぬっふっふ……。そうは問屋が卸しません!」


 突如、ウサ耳検事は余裕を取り戻した。


「検察側としては、被告の割った直後の穴は、とても小さかったのではないかと想定しております」


 なに?


「休廷中、現場の刑事に調べさせたのですよ。その結果、たしかに被告人の言うとおり、窓は割れておりました。――ええ、現在の状態ならば、内と外で会話ができることも認めましょう」


 検事は腕組みとともに耳組みもした。


「もっとも、あれから2日経過しておりますのでね。ガラスの割れた箇所が、『少々大きくなっているかもしれません』」


 ほほお。


「つまりウサ耳検事。あなたは、こうおっしゃりたいのですか? 『割れた当初の穴は小さかった。だから聞こえない』と」

「その通りです、サトリくん。――ぬっふっふ、考えてもみてください。たかだかバッジですよ? 小さな穴だったと考えるのが自然でしょう。音など漏れるハズがありません。それとも、君は証明できるのですかな?」


 2日前のぬりえさんが、聞こえたかどうかの証明だと?

 そんなもの、

 だからこそ、ウサ耳検事はせせら笑っているのだろう。


 ――だが!


「できますよ」


 不敵に笑い返すと、ウサ耳検事はピーンと耳を伸ばした。


「な……なんですとーっ!? そ、そんなハッタリが……!」

「心外ですね。僕はウソが嫌いです」


 優雅にOKサインを見せたのち、人差し指を中指に当て、ビシッとウザ耳を指差した。


「今から証明しますよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ