消えた思い出
「私とね涼ちゃんは龍馬推しだったんだよ」
彼女は突然思い出話をしながら散らかった部屋と【未来を救え】を片付け始めた。
「あれ?まだ続きが沢山残ってるのに片付けちゃうの?」
「うん、あまりに想定外すぎて使い物にならないから作り直すよ」
「えー、それでもせっかく作ったんだから見てみたいな」
「ダメだよー、恥ずかしいよー」
幕末年表のページをめくろうとすると、彼女は慌てて紙を押さえた。
一瞬だったけど『未来人』という文字が見え、数人の名前が記されていた気がする。
未来人は私たちと未だ消息不明のサラリーマン以外にもいるのだろうか。
彼女は未来人がやって来るのを予測していた。
準備をして待ち構えていた。
来ると確信するだけのデータがあるということ。
それを見せることを躊躇った、なぜ?
「ねぇ?私が来るって知ってった?」
「うぅん、涼ちゃんだとは思ってなかったけど、誰かが来るって思ってたよ」
「作り直したら、教えてくれるんだよね?」
「うん、絶対話すから!待ってて」
彼女の話を知らない間に信じ切っていた自分に気づいた。
信じるといっても彼女の話は出鱈目で、理解もできなかったけど訳が分からない状態で聞かされる彼女の話は救いだと感じていた。
彼女がまとめた数枚の紙束に期待していた。
「涼ちゃんは、私が守る」
守るという言葉の意味を深く考えてしまった。
タイムリープしたのが私だったから計画が崩れてしまったのだろうか。
【未来を救え】計画を知らされることなく、池梨乃に守られながら過ごしていくということか。
「あの日は二人で坂本龍馬ゆかりの地を巡ってヘトヘトになりながら高台寺公園に行って、京都市内を見下ろしながら推しメン談議して、次は高知に行こうって約束したんだよね」
なんとなく気まずい空気に黙っていると、彼女は思い出話の続きを始めた。
「ごめん、思い出せない」
「そうなんだよねぇ、あんなに好きだった龍馬を知らないんだもんね」
「そう言えば、歴史を好きになったきっかけも思い出せない」
「海軍操練所は判るけど、塾頭は知らないんだよね」
「坂本龍馬なんだ」
「この頃の龍馬の足取りを追いたいねって話したこともあるくらい忙しく働いてるみたいよ」
「歴史通りに龍馬は動いてるってこと?」
「先生も龍馬もあんまり帰ってこないし、