6. 中世実在職業解説本 十三世紀のハローワーク ~ 奴隷以外の職業を探しています
文明の真価を問うのは、国勢調査ではなく、都市の大きさでもなく、作物の収穫量でもない。
その国が世に送り出す人材なのである。
――ラルフ・ワルド・エマーソン
農奴、奴隷、そして異端の追放と、ひとでなしの近世暗黒史が続いてしまったので、そろそろ他の職業について語ることにする。
とは言え、近世に限ってしまうとあまりにも範囲が狭すぎるので、今回は古代から近代まで歴史を遡る。それでは、世界の奇妙な職場を見ていくことにしよう。
「中世実在職業解説本 十三世紀のハローワーク」著:グレゴリウス山田
https://www.ichijinsha.co.jp/special/zerosum/hellowork/
本書は中世を中心に実在した様々な職業をゲーム風に紹介していく。収録されている職業は100以上。剣士や吟遊詩人のようにいかにも中世の世界観を代表するものから、コーヒー嗅ぎや蝋燭番といった近世の奇妙な職業も掲載されている。
漫画家のグレゴリウス山田の著作として、ウィットに富んだ小噺的な解説とかわいらしいイラストが相まって独特の雰囲気を持った本であり、これまで紹介してきた重ための参考文献とは違ってサクサクと読み進められるだろう。
本書は元々同人誌だったのだが、一迅社より書籍として発行されており今ではすぐに手に入る。読みやすさって大事。
ただし、実在した職業がいつごろにどこで発生したのかと言った詳細は分からない場合も多い。あくまで中世を中心として、ありとあらゆる職業が網羅的に解説されている。中にはゲーム風にNPC用ジョブと言った形で、極めて情報が少ない雑用っぽい職業もある。
日本語Wikipediaのページを見ていくと、カストラートのように参考文献として本書が挙げられている職業もある。Wikipediaから調べて本書に戻ってくることもあるかも知れないので、小説で参考にしたい人は手元に置いておいたほうが良い。中世から近代あたりまでの経済を支えた職業の辞典として、有効活用できるだろう。
本書の中でも参考にした文献リストが載っているので、さらに詳しく知りたい職業がある場合にはそれらを利用することも必要になるかも知れない。もしも本当に就職したいのであれば、きちんと目的の職業の情報を自力で調べる程度の努力はするべきである。
一口に職業と言っても、遥か昔から目的も立場も稼ぎも微妙な職業が多くいるということに気付かされる。宗教や軍事に関係する権威を持った職業が名誉を与る一方で、その裏では数多くの賎業が存在した。皮剥ぎや高利貸しなど、彼らは商業に無くてはならない存在ではあったが、嫌われ者として多く知られている。
しかし、中には職人ですらなく、その下にはさらに奴隷同然に使い捨てられる者たちもいるわけである。煙突掃除人や汲み取り人など、清掃に関わる職業は賎業として扱われ、予想通りというべきか長生きすることはできなかった。
ただ、同じ職業であっても貴賤や浮沈は時代や地域によって、また市場の動向にも左右された。ただの花売り娘たちも、オランダでチューリップバブルが起こった際には大金を稼ぐチャンスを得て、それ以後も花の栽培と販売は重要な分野になった。
また、鉱夫は中欧では鉱夫組合を作って自分たちの利益を守ることができたが、その他の時代や地域では危険と隣合わせの鉱山で、使い捨ての奴隷同然の扱いを受けることになってしまった。
特に16世紀のスペインの植民地では地獄が続いた。銀山へと連行された原住民は鉱山奴隷として強制的に働かされた。その平均寿命は3ヶ月とも言われる。もう奴隷がどうとか職業として成立するかとかそういうレベルじゃねーぞ!
何れにせよ主人公級の花形職からモブキャラ的な自由業まで、多くの職業によって世界の経済は成り立っていた。江戸時代には猫の蚤取りですら職業として認められていたのだ。もしかすると、とりあえず名乗って看板を掲げておけば良かったのかも知れない。恐らく後世ではYoutuberも変な職業の一つとして記録されているだろう。
しかし、花形職であっても誰しもが成功できたわけではない。逆に、賎業のような職業でも平均以上の財産を築くことができる場合も少なからずあった。要するに、本当に財を成すことができたのは幸運に恵まれた一握りの人々だけだったのである。
では、成功者たちはどこにいたのだろうか。どのような方法を使ったのだろうか。
それはまた別の機会に紹介することにして、本項では語らないことにする。あくまでもどのような職業が歴史上に実在したのか。まずはそれを知ろうという好奇心が重要である。
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