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27. ヨーロッパの傭兵(世界史リブレット 80) ~ 戦争! 放火! 殺人! 破壊! 掠奪!

悪者はすべての人が自分と同じ種類の人間であると信じている。


――ヴァレンシュタイン、スペインの諺より

 まだまだ続くろくでもない近世史。近代に向けてフランス、スウェーデン、プロイセンなどで国民軍が形成されていく中、傭兵たちは三十年戦争で最後の役目を果たす。



「ヨーロッパの傭兵(世界史リブレット 80)」著:鈴木直志

https://www.yamakawa.co.jp/product/34800


 本書では近世、特に三十年戦争前後の期間に絞って、傭兵の姿を解説している。ただし、スイス人傭兵やランツクネヒトのような有名な傭兵の解説は皆無である。あくまでも近世の傭兵が常備軍へ移行する過渡期に関する解説書として用いるべきであろう。



 傭兵自体は古代ギリシャの時代から存在しているものの、その実態は変化してきた。しかし、三十年戦争の間、各国の軍隊の主力は未だ傭兵たちだった。国家が国民を徴募し、常備軍を保持するという政策はスウェーデンを除いて実施されていなかった。多くの傭兵が主を変え、カトリックとプロテスタントの陣営を渡り歩きながら戦ったのである。


 傭兵が戦う目的は、まさしく「金のため」。彼らの行動は中世騎士のような「主君のため」でも、常備軍のような「祖国のため」でもなく、金に左右された。傭兵はあくまでも契約された給与に応じて、雇い主である君主たちに供給されるものであり、金の切れ目が縁の切れ目だった。



 傭兵部隊は複数の中隊からなる連隊から構成される。君主と傭兵隊長の間で契約が結ばれると、隊長は下請けの連隊長たちに連隊編成の特許状を発行した。連隊長は続いて孫請けの中隊長を任命し、彼らが募兵や給養の業務を行った。


 中隊長は自らの判断に従って中隊を「経営」したが、その取り分を増やすために努力を惜しまなかった。例えば徴募した人数を水増しして幽霊隊員を登録し、その水増し分を請求したりした。こうした実態を君主たちが知ることは殆ど無かった。


 以上の傭兵隊長、連隊長、中隊長はいわゆる士官階級で、大半は貴族が担っていた。それより下は平民ばかりとなる。



 募兵は人が集まる祭りや年市の時期に好んで行われた。募兵将校が鼓手や旗手を連れて町を渡り歩いた。この時期、募兵所には募集人数を超える人数が群がったという。それは16世紀における人口増加が原因だった。人口増加で労働市場が飽和し、職にあぶれた下層民たちが傭兵に手を染めることになった。


 こうした新兵が所属部隊をころころと変える一方で、古参兵たちは所属部隊をほとんど変えなかった。彼らは新兵の教練係であり、軍紀の取り締まりを行い、戦闘では秩序だって行動する、戦争の「職人」だった。彼らは傭兵の時代が終わった後も、常備軍の中核を担う人材として重用された。



 傭兵というと酒保商人のような輜重隊が絡むイメージが強い。しかし、一般にイメージされる輜重隊とは異なり、傭兵部隊に付属する非戦闘員には様々な者がいた。彼らは戦利品や物資の輸送隊であり、売春を行う慰安所であり、負傷兵を抱えた救護隊であり、護符売りや占い師までいた。


 こうした非戦闘員は戦争が長引くほど増え、三十年戦争終結時のバイエルン軍のある部隊では、輜重隊は全軍の7割にも及んだという。


 傭兵の兵站は酒保商人が担っていたが、彼らも利益を優先した。酒保商人は勝利した陣営で商売を行うのが普通だった。戦利品を手に入れられそうにない部隊は酒保商人に見放され、まともな補給を受けられず、強盗や略奪に走るはめになった。酒保商人は19世紀初頭まで活躍し続ける。



 傭兵はどのような生活を送っていたのだろうか。制服など存在しないので、彼らは勝手に自分たちの装備を用意した。また、出身地が多様なので、国籍や言語の違いに由来するいさかいが絶えなかった。さらに、傭兵の間には俗信や迷信が多く流布している。歴戦の古参兵はいわば勝利の女神であり、彼らは積極的に魔除けのコインや魔法のパンを兵士たちに売り捌いた。


 また、彼らは常に掠奪者として嫌われていた。傭兵への給与の支払いは遅延するのが普通だったので、その埋め合わせとして強盗が一般化していた。また、フェーデの概念は武力に訴えることが合法的な権利となる根拠となった。


 さらに、戦闘員だけが敵として攻撃される現代とは異なり、近世では非戦闘員や一般人も敵と見做されていた。彼ら市民は君主や領主が所有する財産であり、敵となった君主や領主の財産を破壊したり略奪するのも当然だったのである。


 とはいえ、彼らの行動は兵站の不安定さも理由となっている。中隊長は穀物商などと結託して利益を掠め取っていた。半値で買ったカビの生えた食糧を供給する一方、君主には全額を要求していた。食糧の不足や栄養不足は深刻で、1620~1720年の間のスウェーデン軍の統計では、死者のうち戦死は15%、病死は75%にも及んでいた。



 三十年戦争が終わる頃には国家の中央集権化が進んだ。それに伴って常備軍が発足すると、「フェリペ2世は4万の軍でヨーロッパに君臨したが、ルイ14世は40万人を必要とした」と言われるように、軍の規模はさらに巨大化した。近代までに彼らは祖国に忠誠を誓い、高い士気を持つ軍隊へと変貌していくのである。

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