はじめに
近世あるいは近世に近い世界を舞台にした小説を書きたい、または読みたい。
そう思った時に、貴方はどのような「近世」を思い浮かべるだろうか。
華々しい宮廷を彩る貴族社会だろうか。
原住民を殺戮する残酷な征服者たちだろうか。
奴隷を用いた新大陸での植民地支配だろうか。
世界の海を股にかけた貿易市場と海賊の跋扈だろうか。
教会の腐敗を弾劾する新たな宗派の目覚めだろうか。
新たな発見を喜び、論文を執筆する学者の姿だろうか。
血を血で洗う王族たちの継承戦争だろうか。
新田開発で町民文化が花開いた江戸や大阪の賑わいだろうか。
それらはもちろんすべて正しいものである。
近世は一般的な時代区分としては中世の後、近代の前に位置する。しかし、その時間的な幅は長く、西洋史を基準とすると15世紀中頃から18世紀末までを近世として捉えることになる。
この300年以上に渡る歴史の動向はダイナミックであり、科学、芸術、技術、政治、軍事、交易、宗教、各文明のあらゆる側面について世界規模での変化があった。天動説、バロック、活版印刷、専制君主、マスケット銃、三角貿易、宗教改革……。
中世の暗黒から抜け出し、産業革命前夜までを駆け抜けた近世の日常は、どこを切り取っても激動の繰り返しだった。
このような変化の激しい近世を概観し、小説を書くまたは読む上で役に立つ知識を身につけるにはどのようにしたら良いだろうか。それにはやはり近世を主題とした文献を読むしかないと筆者は考える。
筆者自身は普通高校で習うべき近世を扱う世界史Bの講義を受けていない(工業高専出身のためである)。
これを踏まえた上で、筆者が独学で学んだ近世に関する書籍を少し紹介しておくことにしたい。これを読んだ読者が、これらの参考文献を読んで近世への理解を深め、自身の作品に反映させたり、他の作者の作品をより深く読み込めたりできるようになれば幸いである。