006.0平穏
2回目の朝。2隻は予定していた港へ無事にたどり着いた。
昨晩のうちに到着する予定であったが、ブラックバートの容態が急変。結局、輸送船に牽引される形でなんとかここまで走りきったのだ。
輸送船では子供達の騒ぎ声が一日の始まりを告げ、爽やかな朝を迎えている。
一方、ブラックバートでは、ブラッドの「言わんこっちゃない」といった目線と、エグサの「サボり過ぎだお前」といった目線が衝突し合う、なんとも淀んだ夜明けとなっていた。
「だから言ったじゃないか、船に無理させるなって。結局向こうに迷惑になってるし、メンテが余計大変になっちゃったと思うよ」
「じゃあ、アイツらを取り逃がしてたらどうしてたんだよ。今以上に被害者が増えてたかも知れないんだぞ。それにお前は人見知りをそろそろなんとかしろ。現に役割分担が滞ってるじゃねーか」
「それはホラ、人によって向き不向きがあるだろう。これはもう仕方がないことなんだって」
「そうやって逃げるからいつまで経っても治らないんだろ!」
「はいはい、いつまでもケンカしてないのー。もう港なんだから、カンジ悪そうにしてちゃだめだよ。怖いヒトたちって思われたら終わりなんだからね」
二人の間にマソラが朝食を突き入れることよって口論を止めさせる。夜通し船の状態を診ていて疲れきっている二人はすぐさまパンに手を伸ばし、ケンカはピタリとおさまった。
「入港の手続きは向こうがしてくれるみたい。何回か取引してて信頼もあるから、いきなり来たこの真っ黒い船のことも、なんとか説明して警戒を解いてくれるって。少なくとも海賊だってことは隠せるよ」
「それは助かる。いつもみたいに海中に隠れる必要もないし、今はそれもできないからな」
ブラックバートはその見た目から、基本的には初見の人々に警戒される。そもそも鋼鉄の船は海軍くらいでしか使われていないし、黒い船だってその大半は海賊船だ。ブラックバートは海賊船に変わりはないのだが、そこら辺の悪徳海賊といっしょくたにされては困る。だから何かと理由をつけて信用してもらうしかないのだ。
「エリンはまだ動いてんのか? もう休んだ方が良いと思うが」
「エリンちゃんなら朝方に寝たよ。停泊中のほうが作業が忙しくなるからって」
「そっか。修理はあいつにしかできないから苦労かけるなぁ……」
口論の相手はブラッドだったが、実際負担が増えたのはエリンだ。エグサは申し訳なさと自己弁護を半分ずつ抱えたまま、それ以降は黙々と食事を続けた。
※
輸送船側の好意はこれだけにとどまらず、なんと入渠ドック貸し出し費用まで負担してくれた。なんでも、ドッグの持ち主に事情を話したところ、かなり大幅な割引をしてくれたとのこと。エグサらはとくに断る理由も無いので、ありがたく利用させてもらうことにした。
「じゃあ、船はあたしに任せて、3人は町でゆっくりしてきてねー」
エリン以外の3人は次の航海への資材の買い出しするため、精神の休息も兼ねて町へ繰り出した。ロストレリクスの反応からはまだ距離がある。万が一の場合も考慮して、備蓄は多めに用意しておかなければならない。
ドッグと町には少し距離があり、貿易用の立派な倉庫の裏手にそれは広がっていた。大人の背丈より少し高いくらいのボロボロの小屋が所狭しと並び、ひとたび路地裏に入ればそこは昼でも光が差し込まない。設備に不自由無い港とは大きく違っていたが、唯一人々の活気だけは変わりなかった。
「ここも、まで手が届いていないみたいだねぇ」
ブラッドは畳んだロッドをローブに隠しながらコソコソとエグサに話しかける。
「まぁ、中央集権の弊害だろう。といっても、魔境みたいにてんでバラバラってのもアレだけどな」
(発展していなくても、賊に支配されてるよりかはマシか……)
エグサはかつての自分の生活を、そして恩人のことを思い起こしながら町の内部へと足を進めた。
しばらく歩いて急にマソラが足を止める。
「ん? どうした、マソラ」
「あれ……何だろう?」
マソラが少し遠慮がちに指差した方向にあったものは……
「あぁ。あれは本屋かな。興味あるなら見ていくか?」
「とくに急いでいるわけじゃないし、いいんじゃないかな。というかマソラちゃん、本屋は初めてだったのかい?」
「うん。みんなが持ってたり読んでたりするのは知ってるけど、あんなに沢山本があるのは初めてだから……」
「そうか。じゃあ気になるのがあったら買ってみるか。良いだろブラッド」
「マソラはまだまだ知らないことが多いからね。もちろん賛成さ」
「ありがとう2人とも! じゃあちょっと見てくるね」
そういうとマソラは早足に本屋へ駆けていった。
「そう何回も町に出られてないからな。早いこと世間に慣らしてやらないとな」
「それに、傷だって癒えてないでしょ。あの人格は本来あってはならないものだ。キミだってよくわかってるはずだよ」
「……ああ。その上で俺が利用しちまってるのも事実だ。もっと普通の女の子でいられたハズなんだけどな」
「まあ、マソラちゃんはキミがいる限り止まらないけどね。なんだって、あの時キミが笑顔してあげたんだから」
「言い方がなんかアレだぞ。まぁ事実だけど……」
「ねえ、2人もこっち来て一緒に選んでよ」
2人の会話を遮るように、マソラの楽しげな声が届いてくる。
「じゃ、俺たちも行くか」
「そうだね」
つかの間のゆったりとした時間に、3人は心を休めるのであった。
※
ちょうどその頃、エリンはブラックバートの修理に取り掛かっていた。想定していたより設備が充実しており、これなら予定より早く修理を終えられそうだ。
「ゴーレムさんたち、勝手な行動とかケンカとかしないこと。いいね、わかった?」
「はい!」という返事は無いが、大体は伝わっているようだ。
「じゃあ、気を付けようね!」
急に召喚されたにもかかわらず、ゴーレム達はとくに反抗したりはしない。これもスキルによるものなのだろうか。
ゴーレムに一通り指示を与えたあと、自分の出番がくるまでひとまず休憩することにした。朝は寝ていたとはいえ、溜まっていた疲れがとれたわけではない。ブラックバートを眺めながら、そこにあった長椅子に腰かけた。
ボーっとしていると意識が遠退いてしまう。動いていると疲労に気づかないものだ。
目を軽く閉じていると、何やら足音がこちらへ向かってくる。
「おい。お嬢ちゃんちょっといいか?」
突然、自分の1.5倍はありそうな背丈の大男がエリンに話しかけてきた。白くやつれた頭髪に対して筋肉は全く衰えておらず、もし押さえつけられたらエリンの力ではどうすることもできないだろう。
エリンは声をあげることができなかった。それはただ単純に恐怖したから。
「話がしたいんだ、小さな海賊さん」
ここでは海賊だとは知られていないはずなのに……
お久しぶりです!小蒲まゆ です。
こちらは、能力バトルとコメディ色の小説となります。エロ要素はありますん。
【8月中に数話まとめて投げるつもりです。(言質)】
と言いましたが無理でした。(血小板ちゃんかわいい)
別の場所であげてるエリンのイラストは別時間軸のコと認識してください。二次創作みたいなやつです。(自分でか……)
誤字・脱字、単語の誤用等あればご指摘ください。
では、また次回で!!