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鋼と奇跡のロストレリクス  作者: 小蒲まゆ
7/9

005.0役割

「よかったぁ。たいしたキズも無くて」


 エリンはほっと息を吐く。付き添いのエグサも。


 輸送船は海蛇に襲われはしたものの、船体には大して被害は無かったようだ。


 黒鉄の海賊団はブラックバートを輸送船につけ、被害状況の確認をしている最中だ。

 船員を一旦ブラックバートへ避難させ、エリンが物的、ブラッドが人的被害をそれぞれ視ている。


 船員たちの緊張はいまだに解けていない。

 無理もない。つい先ほどまで、あんな地獄を見たのだ。海賊に殺されかけるだけでなく、その海賊がまたその上の脅威に押し潰されるところを。

 その脅威が、これから何をするのか、自分たちをどうするのか。ただ助けてくれたと楽観的にみる心の余裕を持ち合わせはていない。


「みなさーん、安心していですよー。もう大丈夫ですからー」


 ブラッドのこの台詞はもう何度目だろう。みんな甲板の隅にこびりついたまま、誰一人としてリラックスしてくれない。大体、真っ黒なローブに身を包み、ロッド(鎌っぽい装飾付き)を持ったヤツに安心しろと言われても、初見で信用する人はほとんどいないと思われるのだが……。

 エリンと共に輸送船から戻ってきたエグサは、その様子を目にするとズボンのポケットに手を突っ込んだまま気を落とした。


「ブラッド、次はマソラの身体を診てやってと言いたいんだが、まだ終わってないのか……」


 エグサの声に気付いたブラッドは、顔を見るなり苦い笑顔を浮かべた。


「やっぱり僕にはこの役割向いてないや。 あははは」


「……しゃーねぇ。ここは俺がやっとくから、ブラッドはマソラ診てこい」


「じゃあ船員さんたちを頼んだよ~」


 よほどこの役割が嫌なのか、テンションを上げて早足で船室へ向かうブラッド。エグサはそれを目で追うことしかできなかった。自分の采配ミスを認めながらも、内心ストレスが湧き上がる。


「ったく、他人との関わりが希薄なヤツめ……」


 そう呟きながらブラッドを見送ったのち、隣でそれを傍観していたエリンへ目を移す。


「エリン、今あるものでスープかなんか作ってきてくれないか。豪華じゃなくても、身体が暖まりゃ何でもいいからさ」


 エリンは待ってましたと言わんばかりに頷く。


「任せといて! ゴーレムと一緒にパパッと作ってくるね!」


 そう言ってブラッドの後を追うように船室へ走っていった。エリンは機械こそ得意だが、料理は複雑なモノは作れない。しかし質を落とさずに量を作ることは大得意だ。(大体スキルで呼んだゴーレムにやらせてるんだけどね)




 完全に待っているだけとなったエグサ。こういうとき、彼はいつもこう思い知らされる。


〝自分には特技や特別な力など無い〟 と。


 超人的な戦闘力と強力な[嘘を吐く]スキルを持つマソラ。

 機械を自在に使いこなし、[お客様をお招きする]スキルまで持つエリン。

 多彩な魔法を使うブラッドも、あるスキルを持っている。

 4人のなかでエグサだけが、スキルはおろか特技すらまともに持っていない。その面だけで言えば、エグサが団一番の役立たずであるというワケだ。悪を潰したい。その思いが特別強いだけで、どうして3人がついてきてくれるのか。何かの拍子でパッと離れてしまわないのか。

 時間が経つにつれ、エグサの心の中がどろどろと濁る。そんなのどうでもいいことはずなのに、どうしても深く考え込んでしまう。


 悪い癖だ……


 そうわかっていても、自己嫌悪が始まると終わりが見えない。棒立ちのまま、流れる風だけが身体の隙間を流れて行く。




 「エグサくん!」


 少女の澄んだ声でエグサははっと目を覚ます。


 「ああ、マソラか。身体のほうは大丈夫なのか?」


 「見てわかるでしょ。ケガは全く無いんだから。あのコは乱暴そうで、意外と繊細だからね」


 そう言って彼女は身体を伸ばして証明してみせる。


 「なら良かった。で、早速で悪いんだが、向こうの船員達の誘導を頼む。ブラッドは匙を投げやがった」


 「ああ~それでブラッド君妙にイキイキしてたんだ。まあいっか」


 そう言ってマソラは船員達のもとへ向かう。スキルを使って、悪く言うと騙してケガの状況を診るのだろう。


 (ブラッドが一緒に来ないってことはエリンの方に行ったか。なら食べ物も早めに出来そうだな)


 一息ついて、エグサはマソラの手伝いへ向かった。


 *


 子供達の笑い声が聴こえる。ブラックバートの甲板は子供達の遊び場となり、船室の一画は大人達の談話室となっていた。

 

 マソラのスキルで偽りの信用をつくり、暖かい料理で本物信頼を構築する。黒鉄の海賊団が編み出した、手っ取り早く怯えた人々の心を解かす方法だ。


 「本当にありがとう。あなた達は命の恩人だ」


 輸送船の船長である灰色混じりの白髪の老人がエグサに感謝の意を述べる。彼は今こそ力のないただの年寄りだが、若い頃の力強さが太さを保った腕から見て取られた。


 「礼には及びませんよ。こちらも、これが仕事ですから」

 

 とカッコつけて言ったものの、実際は何もしていないエグサ。心が痛い。他の3人が優秀過ぎるのだと無理やり責任転嫁をして、先ほどの重い気持ちが戻ってくるのを抑え込む。


 「ところで、そちらはどちらへ向かっていたのですか? いい港があればこちらも同行したいのですが」


 エグサは話を切り出す。アウトローをも敵に回すアウトローなだけあって、裏の情報網は他所と比べて希薄だ。情報収集も大事な事項である。


 「護衛してくれるなら大いに助かる。あいにく目的地は軍の警備も置いてなくて、ウチの財力じゃあ護衛船も雇えないんだ」


 (これだ!)


 エグサの目が光る。行き先に軍が少ないのは好都合だ。


 「では、是非協力させてください。ただし、こちらも海賊を名乗る身です。タダという訳にはいきませんが」


 「当然、対価は出そう。この貿易の利益の何割かを……それでは少なすぎるか……」


 「いえいえ、そこまでは要りませんよ。せめて、港までの燃料と食料があれば十分です」


 拍子抜けする老人。でも


 「優しいのだな、あなた方は。海軍よりかよっぽどか親切だ」


 感謝に満ちた老人の笑顔が、エグサの目に穏やかに写り込んだ。

 エグサ達は海賊である以上、無償のヒーローなどではない。そもそも資金や資材も余裕があるとは言い難く、調達手段といえば、他の賊から奪うかこうして一般人と取引するかくらいだ。そして今はそのチャンス。資源を手にいれつつ、我が団の謙虚さをアピールできる一石二鳥の機会だ。


 「では、そちらの船を基準にどのくらいで着きそうですか」

 

 ブラックバートだけ速くても意味が無い。もし何日も到着がズレるとしたら、海蛇消滅の知らせを受けて動き出したであろう海軍が、こちらへ到着してしまうだろう。


 「明日の夜には着く予定だった。しかし船の状態がなあ……」


 「それならご心配なく。こちらの団員が確認したところ、特に損傷は無いようですよ」


 「そうなのか! それなら丸一日も遅れることはないだろう。何から何まで、本当に助かった。では、港までよろしく頼む」


 「ええ、こちらこそ」


 2人は握手を交わした。契約成立だ。


 「あ、えぐちゃん、話は終わった? 」


 タイミングを見計らったかのように、エリンが2人の間からエグサの顔を覗き込む。


 「ああ、ちょうど今終わったところだ。……って、相手が居るところでそういうのは止めろって」

 

 「あーだってさ、向こうのコたちに囲まれて逃げ場が無かったし、こっち来るしかなかったかなーって」


 エリンをよくみれば、顔は火照り、汗だくで疲れ切った様子だった。


 「じゃあ、一緒にいたマソラは……」


 「1人で子供達の遊び相手してるけど」 


 「おまえ1人で逃げてきたのかよ! ひどいな! そしてブラッドは!?」


 「ブラッドならスープ手伝ってもらってから、ずっと艦橋に籠ってるよ」


 「アイツーッ!! 他の皆は仕事してるってのになァ!!!」


 艦橋へ向かって走り出すエグサ。エリンはそれを棒立ちで見送ることしか出来なかった。

 

 「本当に変わった海賊さんだ。お嬢ちゃんもまだ小さいのに、すごいねぇ」


 老人は膝を折ってエリンと目を合わせ、にっこりと微笑んだ。


 「あ……あたしこれでも18さ……」


 さっきのように子供達に囲まれていると身長は完全に溶け込んでいた。遠くから見ればなおさらだ。老人が間違えるのも無理はない。


「す……すまなかった。見た目で判断してしまうのは老いぼれの悪いクセでねぇ……」


「ううん、こっちが悪いの……。10歳くらいから身長止まっちゃったあたしが……」


 数秒間の沈黙ののち、エリンは顔を上げる。

 そしていつもの明るさを取り戻し、再び子供達の元へ駆け出す。


「じゃあ、あたしはこれで。おじいさんも、ゆっくりしていってね!」


 老人も笑顔でそれを見送る。

 彼女が、自分で着ている白衣のあり余った裾を踏んづけてひっくり返るまでは。

お久しぶりです!小蒲まゆ です。




  こちらは、能力バトルとコメディ色の小説となります。エロ要素はありますん。


  

  イラストのほうにばかり時間をかけていたため、執筆が滞りました。(言い訳)



  8月中に数話まとめて投げるつもりです。(言質)



 誤字・脱字、単語の誤用等あればご指摘ください。






では、また次回で!!

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