表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼と奇跡のロストレリクス  作者: 小蒲まゆ
2/9

001.0夜明

「おれはヒーローになる」

何十回も母に言った


「正義のヒーローになりたい」

何十回も友だちに話した


「俺は正義の味方になるんだ」

何十回も自分に誓った


「正義の海賊になんかなれるのか?」

義父にただ一回だけ訊いた


 *


 目が覚める。夢うつつのなか、妙にベッドが固いのと、やけに開放的であることを不思議に思いつつ、腕を伸ばし体を転がす。

 しかし、その先にベッドなんてものは無かった。数段からなる木の階段を、ブレーキもなく転げ落ちる。

ーーーーーーーーーーーッ‼

 鈍く連続した打撃音の後、鋭い目覚まし音が青空と彼の頭に響き渡った。

 衝撃で目が冴えるか再び意識が飛ぶかの二択のうちの前者を選び取った彼は、辺りを見渡し理解した。


「……また甲板で寝ちまった…。あーもう!仕事の後はフカフカのベッドが一番だってのに!」


「あ、起きたねエグサ。おはよう」

 

 エグサが朝一番の独り言を言っている上段から、黒いローブを被った男の朝一番の挨拶が聞こえた。フードの上に付いているアイコンのような目がにこりと微笑んでいる。


「ブラッド……知ってたなら教えてくれよ…」


「だって、昨夜は点検中に寝落ちしちゃってたからさ。あまりにも疲れてたんなら、わざわざ起こすのも忍びなかったし。」


 優しさの方向が違うんだよなーと思いつつ、エグサは転げ落ちた階段をささと上りブラッドと同じ高さまで来ると、大きく息をついた。八方は吸い込まれそうな青が広がる。空は薄い雲が漂い、太陽がさんさんと照り付ける。この様子だと、早朝と言えるような時間ではないようだ。


 数秒の沈黙の後エグサは思い出したように口を開く。


「昨日のアレ、調べた結果ってどうだったっけ?」


「あれ、エグサって調べたその場に居なかったっけ?」


「悪りぃ。あのときは眠たすぎて殆ど何も覚えてねーんだ。もう一回聞かせてくれ」


「わかったよ。えーとね、アレは『ロストレリクス』で間違いなかった。魔郷で作られたもので、かなり古い魔力の質だったね。能力はというと......」


 エグサは息を飲む。その能力によっては、今後の活動指針が変わるかもしれないし、場合によっては、敵を増やす事にも繋がるからだ。

 そして、ブラッドの言葉が続く。


「今で言う天体投影器プラネタリウムだよ。」


......


「......は?」


「だから天体投影器プラネタリウム。地海図や羅針盤なんて無かった頃、星がどれだけ重要な存在だったか、エグサも知っているでしょ。いやぁ、作るには凄い技術力と努力が必要だと思うよ。大昔の人にとっては。」


ぷしゅ~。

 エグサから色々な物が抜け出る。いや、今まで見てきた物もあまりヤバそうなものは無かったけどさぁ。


これは無いでしょ。


 エグサはロストレリクスの幅の広さを思い知った。



 『ロストレリクス』とは、直球で言うと不思議な力を持つ道具。

機界、魔郷を問わず、過去に様々な者たちが作り出した技術と奇跡の結晶。約60年前に起きた大戦争でも、数々のそれが産み出されたという。だがその(当時において)凄まじい力が故に、世界の各地に封印され、いつの間にか人々に忘れ去られていく。まさに忘失遺産ロストレリクスなのだ。

 しかし、近年はその幾つかが秘密裏に発見され、取引の対象になっているという。もし、凄まじい破壊力を持つロストレリクスが犯罪組織の手に渡ったらどうなるか、想像するのは容易いだろう。

 そこでエグサたち黒鉄の海賊団は、犯罪組織を片っぱしから潰すとともに、ロストレリクスを回収して回っているのだ。


「で、どうする?また名前でも付けとく?」


 ロストレリクスは用途が解っても、名前までは残っていないことが多い。エグサによる命名回数は、今回で片手で数えれられなくなった。


「じゃあ、『羽獅子の天空海路キメラのそら』でどうだ。」


「うん、読みはわかったから、書きはまた後で教えてね。いつも通り、ぶっ飛んだ命名してると思うから。」


 6回目となると、もう何も言われない。エグサの一風変わったネーミングセンスは、19歳になった今も変わることはなかった。





「次はどこへ向かおうか」


 ブラッドが話を変え、眼前の大海を見渡しながら訊く。


「一旦、機界側へ戻るか。魔郷こっちじゃあ十分な船のメンテが出来ないからな。テキトーなとこに寄港して一休みしようぜ」


 ブラッドは無言で賛同する。


「まあ、最近はあまり落ち着けないな。ああ…安らぎがほしい」


エグサが大きく伸びをしながらため息混じりの愚痴をこぼす。


「この業界選んどいて無理なこと言わないでよ。こっちも全力でキミに付いていっているんだしさ」


 ブラッドがそれを柔らかく窘める。


「ああ、すまない。でも最近はろくに寄港もできてないし、気苦労がたまる一方で-----」



「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」



 船内から響く少女の悲鳴。普通、男なら慌てて助けに駆けつけるだろう。だがこの船の場合は状況が違う。二人の男は顔を見合わせ、またかといった表情で共にため息をつく。


「どうやら、俺に安らぎなんかこれっぽっちも与える気がないようだな、この船…」


 ブラッドは苦笑して「まあ、頑張りなよ船長キャプテン」と励ました。

エグサは駆け出そうとする脚をコンマ数秒の迷いで止め、(比較的)重い足取りで声のした方へ向かいだす。


 *


 カツンカツンと堅い足音が、細く続く廊下の壁を反響する。船員に対してやたらと多い船室をいくつも素通りし、1つの扉の前へたどり着いた。腰に下げた懐中時計の分針は、ブラッドと別れてから十数度は傾いただろう。

 鋼板の裏から粘着音と多少の喘ぎ声が聴こえる気がするが、聴き間違いだと自分にそう言い聞かせ、大きくため息をつく。数日に一度の頻度で起こるこの作業は、大抵良い方向へ転がっていない。


「おーい。開けるぞエリン。危険は無いよなぁ?」


 彼の目は死にかけている。扉を開かずとも、部屋の惨状はこれまでの経験から十分に推測できていた。

というか既に漏れ出ている。床との隙間から粘性のものがじわじわと広がってきているのだが…。

 ほどなくして、「大丈夫だよ」との沈んだ声がかかったので、そっと開けると同時に一歩を踏み出す。


 ぐちゅり


 靴の裏から伝わる不快感。部屋をしかと見渡すと案の定酷い有様であった。

 得体の知れない薄緑色のヌルヌルともネバネバともとれる粘液が、部屋中の色を塗り替えるかの如く飛び散っていた。

 そして、隅の壁に寄りかかり、ぺたんと座っている少女が一人。全身に粘液を被り、なまめかしい光沢で覆われる。ポニーテールにまとめた長い金髪はそれを含んで重量を増し、露出した腹部や太ももにも粘液がべっとりと付着している。今身に着けているものがスポブラとスパッツのみでなければ、この先の洗濯が思いやられただろう。(部屋掃除も勿論)

 扉を閉めたくなる衝動を抑え、エグサは少女-エリン-に問う。


「ったく、今回は何を呼ぼうとしたんだよ」


 エリンは少し申し訳なさそうに、答える。


「魔郷の山奥に居るらしい水生のゴーレムを呼びたかったんだけど……さすがに見たことないコは無理みたい」


「で、代わりに何がでてきたんだ?」


「……大きくてめちゃくちゃキモいナメクジみたいなの……」


 すでに帰したことは明らかだが、その姿を思い出したくないといったふうだ。


 彼女は“スキル”という力を持っている。

スキルとは、この世界で希に見られる特異体質みたいなもので、スキルによってできることは様々だ。

 エリンは、“[お客様をお招きする]スキル”と彼女自身が名付けたように、生物、非生物、機界・魔郷を問わずあらゆるモノを召喚することができる。

しかし、


「写真ですら見たことがないヤツは無理だってさんざん解ってただろ」


「うん。でもいつかできるようになるかな~って」


「まあ、努力を悪くは言わねえけどさぁ…」


 この通り、想像だけでの召喚は不可だったり、大きさの上限があったりなど、出来ないことも多い。その代わりに代替物が召喚されるのだが、それこそが数日に一度こういった事件を引き起こす原因である。


「スキルを無効化できる力なんて無いんだし、もし帰せなかったときのことも考えろよ。じゃねーと心配で仕方がない」


 その言葉を聞いた瞬間、エリンの目が光る。


「心配してくれてありがとー、えぐちゃん!」


 エグサの忠告を正のベクトルに捉えたエリンは飛び跳ねるように立

ち上がり、エグサの元へ向かおうとする。


が、


ズルッ


「「あ」」


パチュン!


 足を滑らせ、粘液の山に顔面から突っ込んでしまった。幼い身体は、完全に埋もれてしまっている。


「ぷはぁ!ふええ……、もうやだよぉ…」


 直前までのテンションは完全に打ち砕かれた。今ので服の中まで完全に浸かってしまったようだ。

やれやれと言った感じにあきれたエグサは


「何よりも先に、シャワー浴びて着替えてこい」


 とだけ言って、用意しておいたタオルを足元に落とした。


 動く度に、エリンは粘液からの不快感に襲われる。僅かな距離ながらもやっとの思いで扉までたどり着き、タオルを拾い上げる。


「......なんで遠ざかるの」


「いや、だって。汚れたくないし」


 2、3歩後退したエグサははっきりと言った。


「もう!あたしが汚いみたいじゃない!こうしてやる!」


「って、汚いのは事実だろ...って抱きつくな!離れろって!俺を巻き添えにするなァ!」


 戯れる身長差のある男女。これでも年齢は1つしか違わない。


「これで引き分けだね。じゃあ、シャワー行ってくるね」


 一体なにが引き分けなのかわからない。腹部から下に粘液を食らったエグサを残し、エリンはシャワー室へと向かいに、廊下の曲がり角に姿を消す。そしてその角から、彼女が召喚したのであろう小さめのゴーレムが数体、入れ替わりに部屋にやって来る。


「コイツらも毎度呼び出されて大変だな」


 エリンに振り回される者同士として少しゴーレムに同情する。

 ゴーレムたちはなにも言わず、部屋の掃除を始める。どの個体もエグサに気を掛けるような素振りは見せない。


「俺も着替えるか...」


 昨晩、甲板で寝落ちしたエグサは、当然のことながらまだ朝の着替えを済ませていない。時間を気にした瞬間、空腹にも襲われる。


 自室へ向かおうとするエグサ。しかし、彼を青髪の少女が呼び止めた。

こんにちは、小蒲まゆ です。


こちらは、能力バトルとコメディ色の小説となります。エロ要素はありません。(大嘘)


 ためてあったので、かなり早い更新となりました。

 魔法と科学が両方アリという結構ずるい世界観だとは思いますが気にしません。


 誤字・脱字、言葉の間違い等あればご指摘ください。


ではまた次回!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ