000.0 開幕(プロローグ)
「次!次!ツギぃ‼」
薄暗い洞窟に反響する雄叫びと岩石の崩れる音。
青髪の少女の短剣から放たれる斬撃が、道を阻む土人形を、傀儡の糸を切るようになぎ倒していく。奥に進むにつれて迎撃の層は厚くなるも、少女は怯むというものを知らないかのように進攻する。
後に続く2人の男。片方は黒いローブを纏い巨大なロッドを抱え、闇を縫うように駆ける。もう片方は形容する必要が無いほど平凡な装いで、普通に走っている。
「あ~。マソラ、完全にスイッチ入っちゃってるね~」
ローブの男が、見た目に似合わない柔らかい調子で言う。
「ったく。これで気づかれなかったら奇跡を越えた何かだよ。まあ、アレは本人もどうにかできるモンじゃないからなぁ」
平凡な男は呆れ困った様子で後を追う。
この2人もいくらかの交戦装備をしているが、この様子だと彼女1人で事足りそうだ。
単調な警備システムといえど、それに正面から突撃という半ば強引な、人によっては無謀とも言える行為。それに反して3人の進行具合はやけに順調だ。
彼らの目的は1つ。ここの最深部にあるとみられる、不思議な力を秘めた”お宝”だ。
行く先に立ちはだかる、いかにも「ここに大切なものがあります」といった木製の扉。少女はそれを難なく蹴り破り、3人は自然の中に人工的に作られた広間に出る。
もし己の所有地で好き放題暴れられても黙っているような者がいれば、それはかなりの愚か者だろう。どうやらこの洞窟の所有者はそこまで愚か者ではないようだ。
大小様々な武器を手にした十数人の男たちが、侵入者である3人を広間から逃がさないように、蹴り破られた扉の側に群れていた。男たちは、アジトをこれでもかと荒らされた怒りから今にでも襲い掛かってきてもおかしくない圧を放っているが、いとも簡単にゴーレム警備兵がなぎ倒された事実が足枷となって、これ以上前に進めないでいる。
3人の侵入者にとって、障害であることに変わりはない。
「あ~どうするエグサ。少なくとも、このまま退却は無理っぽいよ」
「面倒臭せぇ……仕方ねぇな。ブラッド、こいつらって消して大丈夫だっけ?」
「ドラッグ売買に窃盗......あと人身取引。事前調査とさっき見た感じだと十分に潰しておっけーなクズたちだね」
「じゃ問題無いか。マソラ!殺っちゃっていいぞ!」
こんなことが日常茶飯事であるかのような余裕のある会話から、男たちに事実上死刑宣告がなされる。
マソラが放たれた矢のように男たちへ一直線につっこむ。そして最初の一突きで、まずは1人が胸から血液を吹き出して崩れ落ちる。
いくら危険な犯罪の世界で生きてきたとはいえ、こうも容易く仲間が殺された経験など、男たちには無かった。もう何を失ってもいい。ただ生き延びたい。恐怖で立てなくなる者。逃げ出す者......
しかし
『ホラ、まだ立てるでしょ?アンタたちはアタシらを殺さなきゃららないんだから』
マソラの挑発を“聴いた”男たちはその言葉に全てを委ねるように、立ち上がり、そして3人に武器を向けた。
「なんでここでスキル使うんだよ!手間が増えるじゃねぇか!」
そんなエグサの悲痛な叫びを無視し、マソラは“好戦的にされた”男たちとぶつかりあう。
「まあまあ。どうせザコだし、簡単にモノが手に入っても有り難みが無いから、これくらいいいんじゃないかな」
ブラッドが気楽に言う。
「そういうモンなのかぁ?」
「そういうモンでしょ」
敢えて面倒事を増やすことの意味の理解に苦しむエグサ。
「じゃあ、今のうちにモノを取りに行くか!」
「意味わかってないよねぇ!」
開き直ってブラッドの考えを理解することを止め、広間の奥にある木箱へ向かった。
エグサが扉(があった場所)に戻ってきたころには、マソラ1人によるザコの処理は済んでいた。
「終わったみたいだね。私、また迷惑かけちゃったかなぁ」
彼女に先程のような殺気は微塵も感じられない。むしろ、ただの非力な少女のようにしか見えない。
「お疲れさん。まぁ、そうでもなかったぞ。気にすんな」
エグサは先の挑発を責めない。今の彼女を責めたとしてもそれは意味の無いことだからだ。
「さあ、早く船に戻ろう。エリンも待ってることだしな」
戦利品を片手にこの場を後にするエグサとブラッド、マソラ。肉塊と化した犯罪者には微塵の興味も示さず、溜め込まれた資金を奪い去る。
アジトを抜け、屋外に出たころには夜遅くであった。戦闘はあっけなかったが、アジトである自然洞窟がなかなか複雑で、初見の侵入者にとってはかなり高難易度の迷路であった。「1人くらい生かして道案内させりゃよかったな」と言いかけ、マソラに気に病ませてはいけないと思い、言葉を飲み込む。
「で、今回のはどんなのだったの?」
マソラが、エグサが持つ戦利品であるガラス細工を見て問いかける。
「見た目だけじゃさっぱりわかんねぇな。造形からすると魔郷側のものだと思うが」
翼の生えたライオンのような生物を型どったガラス細工の中心部には、不気味とも神秘的ともとれる光がポッと灯っている。
「船に戻ってからじっくり調べようぜ。っと、もうすぐそこだな。」
3人は帰宅を急ぐよう、無意識に早足になる。
海に浮かぶ漆黒のガレオン船。見た目こそは古くさい骨董品であるが、その性能は現代において最高水準のもの。
船上で金髪の幼...少女が手を振っている。無邪気に飛びはね、大きくまとめたツインテールがよく目立つ。エグサも手を振り替えす。それが合図なのか、3人は今いる海岸から船上へと転送された。
船の名は「ブラックバート」。これまでに幾つもの犯罪集団を潰してきた、アウトロー殺しの海賊団。漆黒の鋼鉄を身に纏ったブラックバートを駆る彼らは、自らをこう名乗った
「黒鉄の海賊団」と。
まず、拙い文章をここまで読んでいただきありがとうございます。
はじめまして、小蒲まゆです。男です。
こちらは、能力バトルとコメディ色の小説となります。エロ要素はありません。
とにかく自分の書きたいモノを書く!という姿勢でやっていきます。誰にも読まれなくても続けるつもりですし、完結までのストーリーは作成済みです。
誤字・脱字、単語の誤用等あればご指摘ください。
では、また次回で!!