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裏エース佐藤

作者: うまひ餃子

 ただただ、長いですがどうぞ最後までお付き合いお願いします(;´・ω・)




 「さぁ、この甲子園への切符を賭けた激闘もいよいよ大詰めです」


 その日の熱さに釣られたか、将又、目の前で繰り広げられる好ゲームが終わるのかという興奮からか実況者の声は普段よりも大きくなっていた。


 「あちぃ」


 そんな一人の球児の声は誰に届くこともなく、大声援に呑み込まれる。


 「九回裏ツーアウトランナー満塁。点差は僅か一点。一打サヨナラも十分にあり得ます。あとアウト一つの愛谷はこの回の途中よりマウンドに上がっています佐藤に命運が掛かっています。解説の魔和良崎さん、佐藤選手ですが「はい」ノーアウト二、三塁という場面からの登板でしたが、どうでしょう?」


 「え~、良いと思います。とても難しい状況での登板でしたが厄介な一番の九鵜飼くん、二番の細長くんを見事に打ち取りました。先程の三番の梶谷くんへのフォアボールも攻めた結果ですからね。いやぁ、最後のボールは際どかったですねぇ~」


 そのように褒め殺されていた当の本人だが、

 

 「疲れた。マジでざけんな、あのバカ。今度こそぶっ殺す」


 何者かに対する憤りを沸々と漏らしていた。

 しかし、背番号10の憤怒を見抜ける者はいない。


 『バッターは四番、ライト、勅使河原くん』


 そのコールに球場全体が更に熱気を増す。

 応援団の声は九回にもかかわらずこれまでで最もの大きさとまとまりで、外野席でビールを飲む高校野球ファンは手に汗を掻きながら視線を送り、バックネット裏の野球少年たちはドラマチックな幕切れを期待し、目を輝かせる。


 「チッ、俺はどうせ噛ませのモブだよ」


 まるで、負けろと言わんばかりの球場の異様な空気にも球児のボヤキは止まらない。

 それでも、委縮していないのが救いである。


 左打席に入った打者が鋭い視線でマウンドのリリーフピッチャーを睨む。

 「プロ注目」のスラッガー。

 たった四文字が付くだけなのにやたらと大きく見えて来る。


 「あー、アイス食いてぇー」


 背番号10は夏の暑さに屈しかけていた。


 「佐藤しっかりー!」

 「あとワンアウト!」

 「打たせろー!」

 「バッチコーイ!」


 内野の守備につくナインから声が届く。


 「だいちぃぃぃぃ、まけんなぁぁぁぁ!」


 ふと、ベンチから馬鹿でかい声援が飛んで来た。


 (原因作った奴は黙って座ってろ!)


 弛みかけた気持ちが負の感情からとは言え、持ち直したのであった。




 ・・・・・・




 シュミレーションゲーム「嗚呼、野球人生」

 〇〇××年に日本の大波というゲームブランドから発売され、瞬く間に大ヒットした大作である。

 遊べる機能はストーリーモード唯一つ。それなのに発売開始から僅か三日で日本全国の店からその商品は消え去り、発売から三か月以上経っても手に入れることが出来ないゲーマーが続出したという。

 

 何故、こんなにもこのゲームが人気を博したのか。

 それは唯一のストーリーモードがこれでもか、と言うほどに作り込まれていたからである。

 このストーリーモードには二つの「シナリオ」が存在する。


 一つが主人公の小学生時代からプロ入りするまでの「飛翔編」

 もう一つがプロになってから引退するまでを描いた「伝説編」

  

 育成シュミレーションゲームとしてはよくあるもののように思われるが、ところがどっこい、そうは問屋が卸さない。


 投球フォーム、バッティングフォームは動作前から動作後まで細かく設定出来、更には走塁や守備の動きまでもと、かなりの拘りっぷりである。

 そしてそのフォームの僅かな違いがオンリーワンの選手を産むのである。

 実際、スイングの際、上げた足の高さで初期能力値が見事に違ったなどのスレが十も二十も立てられた。


 また、ストーリーの数も百や千所の話でなく、実際発売から半年経ち、幾つもの攻略サイトがネット上に立ち並んだが、それらの情報全てを合わせても、未だ本作の全ストーリーの一割に届くかと言うほどなのだ。

 ある住民曰く「「嗚呼、野球人生」一本あれば死ぬまで他のゲームいらん。つか、やってる暇がない」とのことだった。


 ストーリーが豊富ということはそれに比例して登場するキャラクターも増える訳で、これまた検証スキーな猛者たちによると少なく見積もっても一万人以上の歴としたキャラクターがいるのだそうな。


 そんな馬鹿げた作り込みに世のゲーマーたちは歓喜、感激、涎に涙と大忙し。

 かく言う俺も相当やり込んだ人種である。


 そんな俺が気付くと佐藤大地という野球少年になっていたのだから驚きだ。

 名前からして普通な匂いがぷんぷんするが、案の定俺はクラスメイトCぐらいの立ち位置のモブだった。


 さぁ、何故俺が「嗚呼、野球人生」の世界に生きていると認識したのかと言うと、それはとある人物の存在であった。 

 小学校時代、俺は地域の少年団チームに所属した。そこに奴はいた。


 円城寺えんじょうじ 凪解流なげる


 コイツは「ああせい(略称)」においてプレイヤーたちから悉く嫌われた人物である。

 イベントでは何かとプレイヤーの体力を削り、調子を下げ、挙句の果てにはバッドステータスを付与して来る正に服を着た厄災。

 しかし、本人の能力は高く、大抵のルートで彼はプロ入りする。

 けれども、「飛翔編」特に高校時代における彼の疫病神っ振りは半端でない。

 「嗚呼、野球人生」においてキャラクターの成長度合いが最も大きいと言われるのが高校時代なのだ。

 そんな時に、バッドなイベントを連発されればそりゃあゲーム画面にコントローラー投げたくなるのも頷けると言うものだ。

 さ・ら・に、この円城寺、別名「炎上G」と称される炎上型先発Pで、一試合で四死球五つは当然で、例え調子が良くても突然崩れ、一回で四、五点なんてよくあること、終いにゃランナー出した状態で控えPの主人公にマウンド譲る始末。


 そんな奴にゲーマーたちは「炎上して放り投げるんですね、分かります」や「うぇrちゅいおpsghjkl」などの怒りを露わにしている。

 そして誰かがこう言った。



 アイツは主人公(悪)だ、と

 

 

 確かに奴のプレイヤーに苦難を押し付け、自らが輝くというある種の主人公的要素は本物だ。

 そんな奴のお目付け役である俺には気の休まる時など当然なかった。




 小学生時代


 少年団に入った俺は何の因果か投手のポジにつかされた。

 サウスポーと言うのが要因だったっぽい。

 そして、俺の隣には


 「うおりゃあアアアア!」


 なんとも威勢のいい声をあげながらボールを投げる奴が。

 そして、投げ終わると必ず


 ブン!


 こちらを見て、いや、睨んで来ると言った方が適切な気がする。

 入団の際、監督さんに「左かい?そりゃあいい!」とお褒めの言葉を貰ったのが気に食わなかったのだろう。因みに奴は右投げだ。


 俺は面倒だったので監督さんに野手のポジでの練習もさせて欲しいと頼んだ。

 彼は笑って「そうか」と言い、要望を受け入れてくれた。


 しかし、奴は俺の後をついてきた。

 おい、ストーカーは止めろ!


 小学校卒業時ステータス


 佐藤 大地

 メインポジション 投手

 身体能力 C(脚力、肩力、柔軟性、体幹、疲労回復)

 身体操作 D(バットコントロール、フォーム修正力など) 

 球速MAX 101km/h

 制球力 C-

 スタミナ D

 変化球 なし


 特殊能力 《忍耐》《緩急》 




 中学生時代


 小学生時代、地区でそこそこの結果を残した俺は中学生になっても野球を続けた。

 勿論奴も一緒だ。

 ポジは勿論投手で被った。

 まぁ、小学生上がりにしてはそこそこ球速もあった上に、左投げということで守れるポジションも限られるのだから仕方ない。


 にしてもだ、


 右の円城寺、左の佐藤なんて仰々しい二枚看板名を無責任に流布するのは止めて欲しい。

 余計に奴が絡んで来るだろ。


 「大地!俺はスライダーが投げられるようになったぞ!」


 そうですか良かったですね。


 「大地!俺はもう115も出たぞ!」


 速いですね。凄い凄い。


 「大地!こ「うるせぇぇぇぇぇぇ!」


 ケツにキック入れたら黙った。

 なんだ、最初からこうすれば良かったのか。


 次の日から俺を見る皆の目に何処となく畏れを感じたのは気のせいだと思いたい。

 あと先輩、円城寺のお守を押し付けるのは止めて下さい。

 え?先輩命令?そんなぁ~



 ・・・・・・




 あっという間に中学最後の総体だ。

 俺の背番号は10、勿論エースナンバーを付けているのは皆さんご存知炎上G。

 燃えるゴキとか(笑)


 顧問の藻部谷先生曰く「円城寺に1番をやらないととんでもないことになりそうだから」とのこと。

 イグザクトリー、先生、アンタ鋭いよ。

 みんな大好き円城寺君、彼はいるだけで傍迷惑な存在だが、ゲーム内である条件を達成してしまうと更に進化してとんでもないことになってしまうのだ。


 その条件が“最終学年時に彼から背番号1を奪うこと”である。

 因みにこれをやってしまうと、彼はバッドなイベントを大放出してくる。

 ステータス低下など序の口で、酷い場合は選手生命を絶たれるイベントも存在する。

 後者のイベントなどエースの座を奪われ自暴自棄になって事故に遭い掛け、主人公がそれを庇うというもので、ストーリーは最終的に円城寺が贖罪を胸に抱え、チームを甲子園へと導きその後晴れてプロ入りするというもので、ユーザーからは「我々の命を燃やして投げるんですね、分かります」やら「エース争いで負けた奴を事故に遭わせてプロ入りする奴がいるらしい」などと勿論ながら大いに不評であった。


 「ふふん」


 どや顔で前に立つな、鬱陶しい。

 

 (´・ω・`)(´・ω・`)(/ω・\)チラッ


 「・・・・・・」


 (´・ω・`)(´;ω;`)


 「・・・似合ってるぞ、円城寺」


 (●´ω`●)(●´ω`●)


 面倒臭いが慣れると少し面白い奴でもある。


 「ふふん!悪いけど、大地には一球も投げさせないからな!」


 訂正、バリウザい。




 中学生活最後の大会は幸運なのか、勝ち進んだ。

 市の予選から、円城寺が先発し、俺がリリーフで締めるというパティーンで上手くいった。

 そして、本選に進んだ。



 初戦


 「燃えろっ、俺のストレートォォォ!」


 流石に審判から注意されるので〆た。



 二回戦


 「・・・(プイッ)」


 「はよボール渡せ」


 交代の際、嫌がったので後で〆た。



 準々決勝


 円城寺が初回にいきなり四点を取られ外野に下がり急遽、俺が登板することに。

 

 キャッチャーの大錦曰く「ストレートに張られてるみたいなんだなぁ」らしい。

 ゆるキャラのせいで気が緩んだので、俺は遅い変化球主体で攻めることに。


 (カーブ、カーブと来てもいっちょおまけにカーブをどうぞっ!)


 「ストライィーク、バッタァーアウッ!」


 球審さんのコールが地味に合って気分が乗った。

 制球も安定していた。


 すると中盤に味方が打って逆転。

 勿論私は全打席凡退でしたが、なにか?


 終わってみればほぼ一試合を投げて被安打三本、四死球一つの稀に見ないナイスピッチング。

 有給とって観戦してた親父が泣いてた。おかんもキャーキャー言っていた。


 と一人心地でいると向こうからつかつかとイケメンがやって来た。

 見覚えがある顔だ。さっきまで試合やってたんだから当たり前か。

 確か一本ヒット打たれた人だな。確か名前はてし、てし、なんだっけ?


 「佐藤だな」


 「いいえ、後藤です」


 背番号は決して見せないように。


 「そうか、悪かったな」


 そう言ってイケメンは去って行った。

 俺の勘が囁く、あれは天然だと。

 ちょっと罪悪感。

 すると今度は円城寺がやってきた。


 「大地、あれってお前のこと探してたんじゃ」


 「知らぬ」


 「いや、でも」


 「存ぜぬ」


 「・・・大地って時々変だよな」


 貴様に言われとうはなかたいばってん! 




 続いての準決勝はなんと俺が先発だった。

 前の試合を加味しての判断らしい。


 「ということらしいので悪いな」


 「・・・(ムスー)」


 「ま、準備はしとけよ。多分何処かで代わるだろうから」


 「分かってる」


 久々の公式戦での先発、やっば気分上がってキマシタワー。

 


 調子が良かった。

 有り得ないくらいに良かった。

 投げたい所に投げられるし、球のキレも良く、疲れも感じない。

 五回までは相手打線を単打二本に抑えた。打線も二点取ってくれた。

 しかし、


 「あー次の回は無理かも」


 急に疲労感が体を襲って来た。

 腕が重くなり、足は攣りそうな気配を出し始め、駄目押しに視界がぼやけ、倦怠感ががが。

 熱を測ると三十八度を超えていた。てか、気付くの遅いよ、俺。


 「こりゃあ投げさせるわけにゃいかんわな」


 顧問の藻部谷先生は常識的な野球部顧問だった。

 すみません。


 「頼んだぞ炎上G」


 「任せろ!って何故か貶された気が」


 気のせいだ。


 しかし、円城寺の代わりっぱなをしっかりと叩いて来た相手チームに六点を献上することとなった。

 ベンチに帰って来た奴は一言


 「ごめん」


 とかほざいたので〆た。


 「そんな腑抜けて、まだ相手に点やるつもりか?」的な発破を掛けた。

 そんでもって「悪いと思うなら次の回は三者連続で三振とって来いや」と冗談半分に言った。

 そしたら有言実行してきた馬鹿が居たので、手荒い祝福をしてやったらキレられた。


 しかし、試合の方は

 

 「バッターアウッ」


 おっさんの手が上がり最後の打者が三振に打ち取られる。

 負けた。

 それでも健闘しただろう。

 全国大会二歩手前ぐらいまで行ったのだから。


 「うぐっ、えぐぅっ」


 「ほら、行くぞナゲル整列だ」


 「うヴぁああああああああん!」


 スコアは4-6。

 悪い試合じゃない、寧ろ好ゲームの部類だろう。

 よく二点取り返したと思う。


 「お、おでのせいで、みんなぁ、ごめぇぇぇぇん!」


 だから泣くなアホ。

 元はと言えば、降板した俺が一番ふがいなかったんだ。

 三振を取ったお前はこの試合で一番輝いていたさ。だから、胸を張れ。




 中学卒業時ステータス


 メインポジション 投手

 身体能力 C(脚力、肩力、柔軟性、体幹、疲労回復)

 身体操作 C+(バットコントロール、フォーム修正力など) 

 球速MAX 130km/h

 制球力 C

 スタミナ D

 変化球 スライダー カーブ 


 特殊能力 《忍耐》《緩急》《安定感》《安心感》《不運》《腐れ縁》《畏怖》




 高校入学


 俺は公立の愛谷高校に進学した。

 この高校、ゲームでは野球部の強さは中堅やや下くらいのランク付けの高校である。

 何故俺がそんな学校に進んだかって?それは


 「新入生諸君!勉学も部活も確かに大事だ。それこそが学生の本分だ。けれど、学生の時間なんてあっという間だ。机に向かい続けていたら卒業だった、部活に励んでいたら三年の夏休みだった、なんてあまりにも味気ないじゃないか!青春!そう、青春を共に謳歌しようじゃないか!」


 この通り、堅苦しく勉強しろという訳でもなく、暑苦しく部活に全てを賭けろと御高説賜るでもなく、「青春」に重きを置いた学風、そこに俺は猛烈に惹かれたのだ。


 ゲーム内でもこの学校は真面目に練習するよりも異性とのデートコマンドを選んだ方が成長率が高いとネット掲示板で誰かが呟いていた。

 練習程々、恋愛増し増し、それで倍ドン!

 それなんてユルゲー?


 ウォォォォと熱狂が生まれる。

 勿論俺も隣の知らない奴と肩を組んで叫んでいた。


 「佐藤大地、よろしく」

 「権殿院ごんでんいんたわらだ。よろしく」


 うん、顔は俺と似たような作りなのにな。

 とか、憐れんでいたら愚痴に付き合わされた。


 


 「円城寺凪解流です。高校生活の目標は甲子園に出て優勝することです!よろしく!」


 俺の薔薇色のスクールライフは入学僅か数時間で木端微塵に打ち砕かれた。

 つか、テメーなんでここに居んだよ。


 「え?だって大地が此処にするって聞いたから」


 おい、ナチュラルにストーカーとか止めろ!

 それにお前、天神台(てんじんだい)葉輪布流(ようりんふりゅう)からラブコール貰ってただろ!

 

 天神台とはこの地区において毎年筆頭に置かれる強豪校である。ここ数年はここの独壇場でもある。

 葉輪布流は古豪で云十年前は甲子園の常連でプロを幾人も排出した伝統校である。分かっている限りでは円城寺は大抵のルートでこの学校に進学している。


 (なして、こうなった・・・)


 こうして俺のスクールライフは絶望から始まった。


 


 「へぇ、三中の円城寺と佐藤がウチに来るとはねぇ」


 そう感慨深げに言うのはこの愛谷高校野球部主将茂木さん。

 因みに眼鏡が似合うイケメンでポジションはキャッチャーである。


 「おれた、イテッ!・・・自分たちのこと知っているんですか?」


 ナチュラルにタメ口を聞こうとしたバカに正義の肘打ちを敢行。

 ホントにコイツは無意識に爆弾を投下していくから困る。


 「ハハハ、良く知っているよ。と言うよりこの地区で君らを知らない野球関係者はいないと思うよ?」


 そうだろう、何てったってこのバカは既にMAX140キロを投げ込む逸材。バカみたいに運動神経も抜群でバッティングも非凡さが光るし、グラブ捌きも現時点で完成度が高い、とバカみたいにセンスの塊なのだ。

 俺の名はコイツに引っ張られる形で付いて来たんだろう。

 おい、嬉しいのは分かるが、その緩み切った顔面どうにかしろや。


 「佐藤くん、君は君でもう少し周囲の評価を受け入れるべき、いや、お節介だったね、失礼」


 知っていますとも、陰で「影の皇帝」やら「円城寺の使い手」やら「闘牛士」やら「円城寺の隣にいる人」と不名誉な名で呼ばれていることなど。


 しかし、俺は諦めない!

 この学校で甘ずっぺえスクールライフを送ることを!



 ・・・・・・




 あっという間に高校生になって初めての甲子園予選。

 因みに背番号は貰えました。18番です。

 あのバカと言えば、


 「大地!ふふん!」


 背中を露骨にアピールしてくる。

 その背には1と記されている。

 そう、見事に先輩方を退かしてその座に着いてしまった訳だ。

 勿論、俺はそのフォローに回る羽目に。

 と言っても先輩方は本当に高校生か?と思うほどに寛容で笑って流してくれた。

 これ、葉輪布流ルートでやらかすとチーム内分裂イベントやら多くの部員の退部イベントやらが起きるんだよなぁ。


 だから、少しばかり不安である。

 コイツがこの環境を当たり前(・・・・)と思ってしまうことに。


 そんな小さな胸騒ぎを抱きながら夏の大会が幕を開けた。


 

 「クソッ、クソッ!」


 炎上した主人公(悪)がどうにもならない怒りを堪え、きれてないな。

 あ、ベンチを殴ろうと、利き腕は止めろォォォォォ!


 一、二回戦は危なげなく勝利し、三回戦も接戦を見事に制した愛谷高校野球部だったが、続いての四回戦の雄和理学園は強かった。

 初回、円城寺の立ち上がりの不安定さに見事浸け込み、三点を奪取。

 恋人持ちの余裕からか先輩方は全く揺らがなかった。

 しかし、円城寺は違った。

 次の回にも二点を取られる。

 俺は痛感した。これが恋人持ちとそうでない奴との差なのだと。


 『代わりましてピッチャーは佐藤君』


 ということで消防車が通りますよと。

 其処退けばっきゃろー!


 「君は相変わらずぶれないね~」


 キャプテン、アイツと長年つるんでりゃ嫌でも変わらざるを得ませんって。

 それにこの年の雄和理学園はどうやったって勝てんのですから。


 キャプテンで四番でエースのプロ注目の「怪物」織田を筆頭に「俊足巧打」セカンド豊臣、打者を手玉に取るキャッチャー明智、その他にも強肩強打のサード前田に安定した小技に定評のあるショート丹羽、スイングスピードはチーム一のファースト柴田。他にもゴロゴロと有力選手がいる。あとなんか影薄い人が外野に居た気が・・・

 ちょっとウチにも分けて欲しいくらいですよ。


 「まぁ、今のウチじゃ厳しいね」


 「そうですよね~」


 「今のウチじゃ、ね」


 なんで俺をジッと見る。

 あ、俺にはそんな趣味ないですからね!


 「来年以降に期待だね」


 頑張ります。

 いえ、この試合も当然頑張りますとも。


 不思議と相手に怖さはなかった。

 既にリードされていたからというのもあったのかもしれない。

 スイスイスイ~と投げられました。

 これはリリーフの時は抑えるけど先発になった途端ボコスカ打たれるの巻き、だな。

 調子に乗らないようにしよう。


 結局俺もその後二点を取られ、0-7で残念ながら我々愛谷高校の夏は七回コールド負けに終わった。

 打たれたの、誰だっけ、えーっと二点とも滝なんとかさんだったような、なんとか川さんだったような、わかんね。

 

 「貴様が佐藤か」


 と思ったら、野性的な鋭い眼光のイケメンが話し掛けて来た、この世界イケメン比率高過ぎぃ!


 「イエッサー!」


 ピシッと敬礼してしまう辺りに俺の小者さが改められて辛いです、せんせぇ。

 うむ、と男は満足げに頷いてこう言った。


 「今のままではあの小僧も貴様も埋もれるぞ」


 予想外過ぎる一言に何と返して良いか分からない。


 「切磋琢磨の先に光がある」


 詩人か、と突っ込むこともできない。


 「貴様も男ならその心内に飼う獣を曝け出してみよ!」


 何処から取り出したのか扇子をぴしゃりとこちらに向けると高校野球界の怪物は去って行った。

 ちろちろと何かに火が点くようなそんな微かな音が心に響いていた。



 そんな俺と怪物のやりとりを覗いていた人物がいたとは俺はこの時微塵も考えなかった。 


 「・・・フム、佐藤、と。一応リストに入れておくか」


 

 夏の大会終了時(一年生)ステータス


 メインポジション 投手

 身体能力 E(脚力、肩力、柔軟性、体幹、疲労回復)

 身体操作 D(バットコントロール、フォーム修正力など) 

 球速 MAX133km/h

 制球力 D

 スタミナ E

 変化球 スライダー カーブ 


 特殊能力 《忍耐》《緩急》《安定感》《安心感》《不運》《腐れ縁》《畏怖》《強心臓》《切り札》




 夏の大会が終わってからというもの俺は練習に明け暮れた。

 リア充になるべくして愛谷に来たのに、ひたすら練習しているとはこれ如何に。


 「ま、け、る、かぁぁぁぁぁぁ!」


 隣では五月蠅いバカと


 「影が薄いとは言わせねぇぇぇぇぇ!」


 同じモブ仲間の権殿院が叫んでいた。


 おかしい。

 最初は個人練習だった筈なのに何時の間にか人が増えている。


 「ぼくが、言っちゃったんだぁ~、迷惑だったかなぁ~?」


 無問題だ、大錦。

 辛そうだな、スポドリをやろう。


 「ありがとぉ~」


 中学での相棒大錦もまた愛谷に来ていた。

 因みに彼女もいる。ちょっとぽっちゃりした人だけど、笑顔が柔らかくて、ものごっつ可愛らしい人だ。

 裏山けしからん!

 しかし、大錦の人徳か、不思議と男共のやっかみはない。

 大らかで山みたいにどっしりとした大錦は部のマスコット枠なのかもしれない。


 「よかったぁ~」


 柔和に笑う大錦で癒されて俺は再び練習に戻った。




 それから時は巡り二年の夏になった。


 「大地!」


 あ、もうそれは飽きたので飛ばしまーす。

 因みに俺の背番号は11に上がりました。


 「佐藤だな!」


 お声がかかったので振り向くと、またしてもそこにはイケメンが。

 おい、いい加減ヒロイン出せよ。俺は男だぞ!


 「俺は天神台の勅使河原てしがわら水面みなもだ。中学の総体で対戦したの憶えてるか?」


 う~ん、てしさんね~。

 生憎記憶容量が極小なものですから何とも。


 「ソイツ試合の後、大地を探してた奴だぞ。大地は誤魔化して逃げたけど」


 うん?

 そう言えばそんな事があったようななかったような。


 「なっ、やっぱりか!」


 あれま、オコなの?オコなのかい?


 「まぁ、もう二年前のことだから水に流そう」


 上から目線は相手の精神衛生上良くないんだぞ。

 まぁ、俺は寛大だから許してやろう。


 「図太さがそっくりだよな」

 「いや、円城寺、お前が言っても説得力ねーぞ」

 「えっ?」


 炎上野郎と権殿院が下らない漫談やってる。


 「で、俺は宣戦布告しに来た!」


 「選手宣誓したかったのか?」


 残念、あれは大抵その学校のキャプテンが務めるもんなんだよ。二年生じゃほぼ望み薄だろうよ。


 「宣戦布告だ!」


 一々カッカしてたらあきまへんで~

 で、何を?


 「組み合わせ表によるとウチと愛谷は準決勝で当たる。その時は勝負だ!」


 ビシィィィ


 でっていう

 コイツポーズ決めたまま動かねえし。

 何?リアクション待ち?めんどくせー。


 「分かった。でもお互い出番があるか分からんぞ?」


 こんな事言っといてお互いベンチでしたなんてお粗末にも程があるわ。


 「それについては問題ない。僕はレギュラーだ。それに」


 チラリと炎上野郎の方を見る。


 「彼を打ち崩せば、自ずと君が出て来るだろう?」


 その言葉には確かな自信が感じられた。

 と思う。多分、恐らく、きっと。

 大した自信だが、


 「チャック開いてるぞ」


 「えっ!?」


 「嘘ぴょん。許して」


 あ、炎上野郎とモブ野郎が陰で笑ってやがる。

 なんと陰湿な。


 「君は!「悪い悪い。でもよ」


 インターセプトはお家芸です。


 「あんまこのバカ見落としてっとさ、今みたいに足元掬われるかもよ?」


 仲間の方を見る。

 皆良い顔しとるで、ほんまに。


 ドヤァァァ

 決まった・・・


 「奥さん聴きました、今の?」

 「ええ、聞きましたとも、「足元掬われるかもよ?キラッ」ですって。ブフォッ」


 よろしい、ならばお前らヌッコロす!




 こんな締まらない幕開けとなった二度目の夏の大会。

 愛谷高校は順調に勝ち進んだ。

 円城寺が乱れないこともなく、かと言って乱れまくる訳でもなく、それなりにまとまったピッチングだった。お前、ゲームでもそれぐらいやれよ、と思ったが当然口には出さなかった。

 そして火種が燻り始めると俺が出て行って鎮火させる。

 見事な分業制である。


 そして勝ち進むとウチの顔だけはイイ男な炎上野郎にスポットライトが当たる訳でして。

 「イケメンエース」「公立の星」「エースの王子様」等々御大層なあだ名が着く始末。

 そして当然、マスコミも寄って来る訳で、 

 

 「円城寺くん、ちょっと取材いいかな?」

 「プロには行きたいと思ってるんでしょうか!」

 「次の試合の意気込みを!」


 と、あちらの都合に任せた突撃に、うちのリア充チーム(一部除く)は全く動じず、反って本人が内心一番イライラしているという始末。

 俺のとこ?確かになんか来たよ。

 「円城寺君は何処かな?」とか

 「うちのハム好き?」とか

 「円城寺君の幼馴染なんだって?詳しく聞かせてもらえないかな?」とか

 「携帯電話は何処使ってるの?」とか

 しかも寄って来るのはおっさんばっかり。

 炎上マンには美人な記者さんがおっぱいいっぱいなのに・・・


 まぁ、マスコミだけでなくスカウトマンらしき人が炎上男に接触し始めてるんだなぁ。

 なんか、フリーのスカウトやってるって言う怪しいおっさんが来たし。

 その人を見た途端ハムと携帯の営業の人らが逃げてったのは不思議だったなぁ。


 で、そんな今話題の円城寺凪解流率いる我々愛谷高校はベスト4まで進んだのだ。

 そして次の相手が、


 「天神台かぁ、オワタオワタ」


 「何言ってるんだ!絶対勝つぞ、大地!」


 炎上マンが燃えている。これでこの試合は大炎上待ったなし!

 まぁ、冗談はさておき。


 「ベンチメンバーまであのガタイとか、どこのボディービル集団だっつの」


 何と言うか如何にも鍛えてます!(ニッコリ)なガタイをした彼ら天神台に流石のリア充軍団も委縮


 「凄いね~」

 「僕達にはあそこまで出来ないよね~」

 「そうそう、あそこまで行くと彼女に引かれるよ」


 する訳がなかった。

 これが勝者の余裕か。試合始まってないけど。


 「先輩らって大らかと言うか大物と言うか」


 権殿院の呟きに俺は心の中で頷いた。



 それでも試合は既定路線に従って進んだ。

 昨年の夏は決勝で雄和理学園に敗れた天神台だが、レギュラーメンバーが三人も残っている上に試合巧者振りで言えば昨夏直接戦った雄和理学園より断然上であった。

 初回からウチの絶対エースに待球とカットで負荷を掛け続け、堪え切れず甘く入ったボールを見逃さず仕留めるという、ウチの士気を根元から折りに来た。

 奴もボンバーせずに粘ったが、それでも六回を投げ切った所で限界が来た。

 この時点で点差は0-4。

 10番の先輩Pに投げさせるかと思ったが、何故か呼ばれたのは俺。

 曰く、


 「勝った気になっている天神台の奴らがムカつくからちょっとあの天狗っ鼻へし折って来い」という要請だった。確かに何となくだが相手さんからは楽勝ムードが漂っているように見える。流石のリア充たちもあの態度にはカチンとくるものがあったらしい。しかし、実際に仕事をするのは俺と。


 「愛谷高校選手の交代をお知らせします。円城寺君に代わりまして佐藤君。八番ピッチャー佐藤君」


 何故味方側からブーイングが巻き起こるのか。

 本当の敵は身内にあり!


 「ま、気にしない気にしない。んじゃ、お仕事しますか~」


 七回は八、九、一番を三者連続三振。

 ちょっと頑張った。そして最後は鼻で笑う、と。

 

 「よくやった!」

 「祭りじゃー!」

 「いいぞ、もっとやれ!」


 ベンチがお祭り状態。

 炎上マンはいなかった。どうやらトイレに行ているようだ。


 七回の裏はランナーを出し、四番の大錦がまさかのツーラン。

 これで、大錦の学内での人気が爆上げ間違いなしだ。

 おい、モブ殿院、何三振しとんじゃ。


 八回、二番を三振に打ち取ると、奴が現れた。


 『三番、ライト、勅使河原君』


 黄色い声援が上がる。

 ついでに俺の嫉妬の炎が燃え上がる。

 とりあえずその自信満々な整った顔にボールデッドしてアシンメトリーにしてやんよ。


 「ダメだよぉ~」


 そう言うな大錦。ちょびっとだけ、先っぽだけだからさ。


 「ダメぇ~」


 大錦がそこまで言うなら仕方ない。

 ならば、打ち取って黄色い声援を溜息に変えてやろう。

 あ、顔だけじゃなくてバッティングフォームまで格好良いとか裏山私刑。


 四球連続で変化球。

 カウントは2-2、なんか打者の目が厳しい。え、直球欲しいの?

 しょうがないなぁ。じゃあ、お望み通り。高めのストレートをご馳走しよう。


 ブン!

 ストライーク、バッターアウト!


 え、誰もストライクゾーンに投げるとは言ってないんですが(笑)


 次の四番打者にツーベースを打たれたが、続く五番をフライアウトに抑えこの回もスコアボードに0を献上。

 次の回も0に抑えたが、相手の交代した抑えPを打てず試合は終了。

 2-4、うん大健闘だろう。

 けどなぁ、


 「円城寺、悔しいなぁ」

 「ああ・・・」

 

 なんかなぁ、良いピッチングして抑えた達成感よりもムカムカすんだよなぁ。


 「円城寺」「大地」

 「「戻って練習しよう(や)!」」


 ハァ、俺の夏のアバンチュールは遠いぜ。




 夏の大会終了時(二年生)ステータス


 メインポジション 投手

 身体能力 D+(脚力、肩力、柔軟性、体幹、疲労回復)

 身体操作 C(バットコントロール、フォーム修正力など) 

 球速 MAX140km/h

 制球力 C

 スタミナ D

 変化球 スライダー(縦・横) カーブ チェンジアップ 


 特殊能力 《忍耐》《緩急》《安定感》《安心感》《不運》《腐れ縁》《畏怖》《強心臓》《切り札》《挑発》《憧憬》




 秋の大会は先輩たちの抜けた穴が大きく、地区の準々決勝で敗退となった。

 そいで夏からなのだが、野次馬がホントに増えた。


 「おい、円城寺行って来い、サクリファイスだ」

 「大地、酷いよ!」

 「まぁ、あれの大半が円城寺目当てだもんなぁ。理に適ってはいるな」

 「俵くん、そんなこと言っちゃダメだよぉ~」


 それでも変わらない我々駄メンズスリーとゆるキャラ。


 「円城寺クーン!」

 「キャー!!」

 「俵君、守備の時カッコイーッ!」

 「大錦君、モエー!!」


 うん、チミたち、佐藤君を忘れてないかね?

 終いにゃ泣くぞ!


 「佐藤はあの制球力が良いよなぁ」

 「いや、あのふてぶてしいマウンド度胸だろう」

 「やはり左の技巧派というのが」


 野球玄人なおっさんたちからは大人気。

 ヤッタネ!


 「円城寺ー、ちょっとこっち来い」


 監督さんが炎上男を呼ぶ。


 「またか」


 円城寺がうんざりとした顔を見せる。

 夏の大会が終わってからと言うもの本格的にプロ野球のスカウトマンが動き始めた。

 150台のストレートを投げる高校生イケメンピッチャー。

 喰い付かない筈がないのだ。

 それでも兎に角練習がしたいコイツからしたら迷惑極まりないのだろう。

 

 「まぁまぁ、光栄な事じゃん」

 「だよなぁ。今度は何処だろうな?」

 「分かっていることは権殿院がそれを考える必要がないってことだな」

 「あっ、ヒデー」


 そんな事がありながらも俺たちは練習に打ち込んだ。

 勿論青い春は未だ訪れない。


 



 そして、また時は巡り場面は冒頭へと巻き戻る。


 『バッターは四番、ライト、勅使河原くん』


 名門天神台で二年からレギュラーを張り、昨夏と今春の甲子園では合わせて17本の安打を放ち、その内3本の本塁打を打っている同世代最高と名高いバッター。

 チッ、モブ殿院に勧められて野球雑誌なんか読むんじゃなかった。

 要らん情報のせいで竦んだらピッチングに影響するだろうが。

 一旦落ち着こうか、こういう時は状況を整理すれば良いんだ。

 よし、やろう。

 先ず、この試合は甲子園予選の決勝。

 スコアは2-1でリード。

 場面は九回裏ツーアウトランナー満塁・・・


 って、落ち着けるかぁー!!!

 何処にそんな要素があんだよ!一ミクロンもあったもんじゃねえよ!





 「さてさて、情報が入って参りました。何とこの勅使河原選手と佐藤選手、中学時代からの因縁があるそうで勅使河原選手は佐藤選手のことをライバルだと公言しているそうです。これを聴いて如何でしょう魔和良崎さん」


 「そうですねぇ、何と言いますかそれを聴きますと野球の神様が此処に二人を導いた、そんなことを思えてなりませんね」


 「はい、それでは野球の神様が所望した運命の勝負、確と目に焼き付けて参りましょう」


 と、こんな実況が流れているとは露とも知らず、背番号10は第一球を投じた。


 ブオォォォン!


 バットは空を切る。

 それでも歓声は止まない。

 そして投げたピッチャーも又畏れを感じていた。


 (オイオイオイィ、去年よりもスイングスピード段違いに速いじゃねえか。それに軸がぶれてねぇ。こりゃマジもんにやべぇよ)


 続く二球目は外れてボール。

 佐藤にしては珍しい失投だった。

 すかさず、キャッチャーの大錦がタイムを取ってマウンドに駆け寄る。


 「わりぃ、手が滑った」


 そう言う背番号10の表情は硬い。

 すると女房役はこう言った。


 「佐藤君が打たれたら皆納得すると思うんだぁ~。だから、後悔しないボールを投げてね~」


 ノッシノッシと戻って行くキャッチャーに目を取られていると、後ろから声が聞えてきた。


 「さとーっ、打たせろぉぉ―、取ってやるからよー!」

 「バッチコーイ!」

 「イケメンに負けるなぁー!意地を見せろさとぉぉぉ!」

 「気張って行きましょう!」


 仲間たちの声援だった。

 球場の熱気が、一打逆転サヨナラという魔力が、勅使河原と言う強打者が、背番号10の肩に掛かっていたそれらの重荷をその僅かな声が下ろしてくれる。


 「気負ってちゃあいかんわなぁ」


 大きく息を吸う。

 そして相手を見る。


 「お前も相当重い(・・)よなぁ」


 自分の思いが他人の期待が絡み合って体が重く硬くなっていく感覚が手に取るように分かる。


 セットポジションから投げられた三球目━━━


 「ストラ、ィーク!」


 外角低めいっぱいにボールが決まる。

 プロ注目の四番は手が出なかった。

 それほどのボールだった。


 ドッと愛谷のアルプススタンドからどよめきが起こる。


 あとワンストライク。

 それさえ取れれば。

 そんな雰囲気が滲み出る気配が流れ始める。


 しかし、背番号10はそんな事に気を配っていなかった。

 いや、気付いていなかったのかもしれない。


 投手の右足が上がる。

 打者のバットを握る手に力が入る。

 投手の左腕からボールが放たれ━━━


 後に彼は語っている。



 「はっきりと覚えてないけど、あの瞬間が自分の人生で一番印象的なんですよ。矛盾してますよね」



 

 この年、甲子園を制したのは初出場の公立校であった。

 そのチームには二人の主力級の看板投手がいた。

 一人は高校生離れしたスピードボールと甘いマスクで甲子園を大いに沸かせ、その年のドラフトで三球団競合の一位入団となった背番号1の「エース」。

 もう一人はエースの支えとして、甲子園全ての試合で救援を見事にこなし、また、その独特なキャラクターとリリーフっ振りからこう呼ばれた。



 裏エース、と。




 



 

    

 最後までお付き合いいただきありがとうございました。

 拙は某野球ゲームが大好きで、今回はそんな世界に行けたら、という妄想を書いてみました。

 所々、拙さや粗さが目に付くとは思いますが、それを乗り越えて読んで下さった皆さん、本当にありがとうございました。

 では最後に主人公のステータスをどうぞ


 夏の大会終了時(三年生)ステータス


 メインポジション 投手

 身体能力 C(脚力、肩力、柔軟性、体幹、疲労回復)

 身体操作 B(バットコントロール、フォーム修正力など) 

 球速 MAX144km/h

 制球力 A

 スタミナ C

 変化球 スライダー(縦・横) カーブ チェンジアップ ツーシーム


 特殊能力 《忍耐》《緩急》《安定感》《安心感》《不運》《腐れ縁》《畏怖》《強心臓》《切り札》《挑発》《憧憬》

 

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